【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
172 / 424
第十章 盲目の神官

6-3 心地よい束縛

しおりを挟む
 その拍子に水音を聞き、意識を浮上させると、驚きに目を見張った。

「なっ、なんで!?」

 いつの間にか温泉に浸かっていたのだ。

「後処理はしたが、泉に浸かった方がさっぱりすると思ったのでね」

 温泉に浸かってリュセルの体を支えていたレオンハルトは、長い胡桃色の髪を温水につけない為、高く結いあげて髪飾りで止めていた。ちなみに、それは創世祭の折、リュセルが贈った物だ。

 それをぼんやりと見ていたリュセルは、自分が意識を失ったのだと思いだした。

 そして、気を失うに至った要因も……。

「思い出したかい?」

 その言葉と共に、弟の首元にくっきりと残された歯型の痕にレオンハルトは手を伸ばす。

「それにしても、お前は体力がないね」

 お湯をかけられて、かすかに傷になっている歯型の痕がしみたリュセルは、顔をしかめながらその聞き捨てならぬ言葉に答えた。

「なんだと?」

 ユージンの訓練のおかげで、騎士達ほどではないが、一般の成人男性よりは体力があるはずである。

「意識のないお前も無防備でそそられるが」

 実際、気を失い、レオンハルトに揺さぶられるまま夢見るようにわずかに声を上げるリュセルは、庇護欲や支配欲といったものを誘った。

 しかし、意識のない自分の事など知らぬリュセルは、無言になるしかない。

「…………」

 毎回ではないが、レオンハルトに抱かれるたびに意識を飛ばす事が多いリュセルは、兄……、というよりも、宝主の底なしの体力を前にくじけそうになっていた。

(よくよく周りを見回してみれば、もう夜明けじゃないか)

 白々と夜が明けて、だんだんと明るくなってきている周囲に、リュセルはため息をつく。

(あははは~、朝風呂は最高だな)

 もう開き直るしかない。

 首筋には歯型、体のいたる箇所に欝血の痕。今、ここに誰かに来られたら、弁明のしようがなかった。まあ、誰も来ないとは思うが。

「お前の様子が最近変だったのは、シャノン殿を意識していたからなのだね」

 弟の額に貼り付いた銀色の前髪をはらってやりながら、レオンハルトは静かに尋ねる。

「違う」

 まだ強情を張るリュセルの言葉を聞いたレオンハルトは、小さく笑った。

「強情な子だ。最中は、あんなに私と離れたくないと泣き縋っていたくせに」

「………………」

 うろ覚えだが、おそらく事実なだけに反論出来ない。

「聞くまでもないと思うが、私の過去を読んでどうだったんだ?」

「どうって……、す、すごかった」

「ふふふ、そうだろうね。達く程衝撃を受けたようだし」

「…………」

 その通りだが、言葉にしないで欲しい。羞恥のあまりこの温水の中に沈んでしまいたい気分になる。
 だって、あんなにすごいとは思わなかったのだ。そう……初めて感知した兄の感情と記憶は、かなり衝撃的で官能的だった。

 特に、陰の日の彼は、本当にひどい男であった。

 十四歳の時に比べ、十九歳の時に相手をしたのが男娼が多かったのは、相手をまだ見ぬ半身である末弟に見立てて抱いていたからだ。

 仕事であり、役目とはいえ、相手をし、それだけならまだしも、シャノンのように彼に恋心を抱いてしまった者達は本当に浮かばれない。

 だが、シャノン達を哀れだと思いつつも、心の底では嬉しかった。

 何故なら、レオンハルトの過去すら自分のものだったのだ。

 兄の事を言えない位、今回の事で知った自分の独占力と執着の強さに軽い自己嫌悪を覚えるが、この昏い喜びは、消す事が出来ない。

 自分も大概、ひどい男だ。

 つらつらとリュセルがそんな事を考えているのをレオンハルトはじっと見つめていたが、不意に自分がつけた弟の首筋の歯型の痕に再び手を伸ばしてきた。

「っ!?」

 そのまま体を引き寄せて、そこに顔を伏せたレオンハルトは、驚きに息を呑んだ弟の首筋の痕をゆっくりと舐め上げる。

「レオ……」

 敏感になっている体に再び手を伸ばされ、疲れているはずなのに、甘い期待に体が震えるのを止められない。

 それに気づいたレオンハルトは、クスクスと笑いながら、リュセルの耳元でわざと腰にくるような低音でささやいた。

「お前は本当に快楽に弱いな」

 可愛いよ。そんな言葉と共に本格的に泉の中で始まった愛撫の手に目を閉じてすべてを委ねながら、リュセルは兄の背に縋ったのだった。

 この強い束縛から逃れるつもりはない。

 この束縛を、誰にも渡すつもりもない。

「過去も、今も、未来も、すべてをかけて愛している。もう一人の私、私の影、私の光、私の片翼よ」

 その告白を聞きながら、リュセルはそれに答えるように目の前の兄に口づける。

 再び体を重ね始めた子供達に呆れたのか、クスクスクスという女性の小さな笑い声と、「まったく、仕方のない子」という声がリュセルの耳の奥で響いていたのだった。







 その後の旅は、リュセルからしてみれば、本当に居た堪れない困ったものになったのだ。


 人目がある時はさすがに自制しているのだが、少しの間でも二人きりになると、それが当然とでもいうように鷹揚な仕草で伸ばされてくる兄の腕を拒む事が出来なかった。

 任務の途中だというのに、ほんの一瞬でも人目がなくなると唇を合わせてしまう。

 自分はともかく、常に自分を律し、決して公私混同しない厳しいレオンハルトのその行動に、内心驚きを感じずにはいられない。

 それ故に、時たま兄に寄せられるシャノンの熱のこもった視線も、リュセルは気にならなくなってきていたのだった。

 そして、リュセルが件の任務の事を思い出したのは、南の貴族の館に向かうデコレート商会の商団と、南西にあるアイル村に向かうリュセル達との道が分かれる頃になってからの事だった。



「レオンハルト殿下、リュセル殿下。では、どうかお気をつけ下さい」

 リュセル達の為に四頭の馬を用意してくれたコバルトは、そう言うと深深と頭を下げた。

 行商と別れる分岐点でされる別れの挨拶に、レオンハルトは小さく頷く。

「世話になったな」

「もったいないお言葉です。ユージン坊ちゃんも、アイリーン様も、アルターコート神官様も、どうかお気をつけ下さい」

「コバ爺も、目的地までまだ距離があるんだから、気を抜くなよ」

「もう、坊ちゃんったら」

 ユージンとコバルトがほのぼのとした会話をしているのを聞きながら、リュセルは見送りに馬車から降りてきていたシャノンを見つめた。

 その静かな微笑みの中には、何の感情も見受けられない。

「皆様のご無事を微力ながらお祈り申し上げております」

 優雅に頭を下げるその動作は、ため息をつきたくなる程美しい。彼がフェアリーの中で常にトップをキープしている理由が、その動作一つでよく分かる。

 感情のまったく表れぬ無表情のままそれに頷くと、レオンハルトはゆっくりと身を翻して用意された馬に跨った。

「では、失礼する」

 その、あまりにあっさりとした兄の挨拶に、リュセルの方がシャノンを気遣いながら軽く頭を下げて、同じように用意された馬に跨る。

 アイリーンも同じように馬に跨り、ユージンと、馬に乗った経験のないセフィが同じ馬に跨り、出立という運びになった。

 綺麗な微笑を最後に別れたシャノンと陽気なコバルトは、リュセル達の姿が見えなくなるまでずっと頭を下げて見送っていた。

「いよいよ件の吸血村に近づいてきましたね。リュセル王子」

「へっ!?」

 シャノンに対して何か思う事でもないのかと、兄の表情を盗み見ていたリュセルは、ユージンの緊張を孕んだ声にまぬけな返事を返す。

「へって……、忘れてたんですか?」

 呆れたようなユージンの声を聞き、リュセルは慌てて言い返す。

「忘れてなど、いないぞ」

 兄の過去に気をとられるあまり、忘れていました。

 そう……忘れていたが、今回の任務地は

「吸血村」

 声にしただけで、呪われそうな響きのある言葉だった。

 今向かっている場所は隣村のアイル村だが、アイル村に到着した後に向かうスペル村は、きっと、暗く呪われた村なのだろう。

 そういう類のものが苦手なリュセルは、一瞬で血の気が引く思いがした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...