【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十章 盲目の神官

7-1 アイル村への到着

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 アイル村には、商団と別れて半日程してから辿り着く事が出来た。

 ………………が。

「なあ、レオン。邪鬼が潜んでいるのは、ここから少し離れた隣村のスペル村だよな」

「そうだが?」

 村の入口に着くと同時に、出迎えた村人に乗って来た馬を任せると、リュセルは生唾を飲みこんだ。

 濃くなってきていた霧といい、昼間だというのに日のまったく射さない暗さといい、どこか漂う不気味さも含め、今いるアイル村の方が呪われた村に相応しいような雰囲気だったのだ。

「よ、よよよよよようこそ、お越し下さいました!」

 レオンハルトとリュセルの、人では持ち得ないような美貌に圧倒されていたこの村の村長は、慌ててその場に膝をつくと深く頭を下げた。

「アイル村の村長をしております、ハワードと申します。王子殿下方におかれましては、このような辺境の村まで足をお運び下さいました事……」

「現在の村の状況について、話が聞きたい」

 長々と挨拶をしようとしていたハワードをさえぎってそう告げたレオンハルトを見上げ、彼は急いで立ちあがった。

「は、は、はははい。では、こちらへ」

 そのまま緊張の面持ちで高貴なる客人達を、彼らの滞在先として用意された村長の家へと導く。この村には宿屋がなく、村長の家が村で一番部屋数が多く、いい家だったからだ。

 村の一番奥にある家に案内されている最中、遠巻きに村人達がこちらを見ている事に気づく。こんな村にいる限り一生涯見る事など出来ないであろう高貴なる兄弟を、一目でもいいから見ようと思っているのだろうか?
 特に、村の若い娘達は、顔を真赤に染めながら、美貌の兄弟を陶然とした面持ちで見入っていた。

(可愛いな)

 王都にいる娘達と違い、純朴そうな少女達にリュセルは微笑みかけた。

「「「「「!!??」」」」」

 瞬間、夢見心地のまま一斉に少女達が倒れた。

「ぎゃああああっ! リュセル王子、一体何してるんですか!?」

 ユージンは慌ててリュセルの顔に着ていた自分の上着をかけた。

「……俺は、犯罪者か?」

「ああああああっ~~、何の罪もない純朴な少女達がまた犠牲に……」

 あんまりな兄の騎士の言葉に、リュセルは上着の下で顔を引きつらせる。

「おい」

「可哀そうに、きっと、この凶器のような美貌の甘い頬笑みが、しばらく目の端から離れないでしょうね」

「大丈夫です。私が彼女達の心が安らかなものに戻れますように、祈りを捧げましょう」

 ユージンの言葉に答えるように柔らかい声音でそう言ったセフィに、リュセルは軽くショックを受ける。

「セフィ殿まで」

「ですから、剣鍵様はお気にせずとも大丈夫ですよ。娘達のフォローは私にお任せ下さい。私はその為に同行したのですから」

 いや、彼が同行したのは、邪鬼に怯える村人達の心のケアの為だったのだが……。

「何をしている、早く来なさい」

 アイリーンと共に先を歩いていたレオンハルトが自分を呼ぶのを聞いたリュセルは、慌てて兄の元へと大股で進んだ。

「まったく、何をしているんだい?」

 呆れを含んだような柔らかい声と共に被っていたユージンの上着をどけられたリュセルは、兄の麗しの美貌を見返すと言い返した。

「俺のせいじゃない。これはユージンが」

「はいはい。さあ、行くよ」

 相手にされていない。

 そのまま、また寄り道しないように弟の手を引いてレオンハルトは再び歩き出した。
 今度は別の意味で注目を浴びてしまい、リュセルは顔を伏せたまま、兄に連れられて、村長宅へとようやく辿り着いたのだった。



「事の起こりは、金の月の初旬になったばかりの頃、スペル村近くの森でよそ者の青年の姿が目撃されるようになった事でした」

 他の家々に比べると比較的大きな村長宅の応接室に通されたリュセル達は、事のあらましを彼から聞きだす事にした。

「よそ者の青年?」

 ハワードの娘が差し出した紅茶を受け取りながらレオンハルトがそう尋ね返すと、彼は不安そうな瞳のまま大きく頷く。

「ええ。大変見目の良い青年だったようでして、スペル村の村長の話によりますと、村の娘達は、その青年にすぐに夢中になったとの事でした」

「見目が良いって言っても、殿下達程ではないんでしょう?」

 ユージンのそのつっこみに、リュセルとレオンハルトの顔から目を逸らし、直視しないように努力中だったハワードは目線を泳がした。

「い、いえ、あの……その」

(変装眼鏡を持ってくるべきだったか)

 可哀そうなハワードのそんな様子に、リュセルはそう思った。

「私は、直接その青年を見た事がないので、その特徴についてはよくわからないのですが、長い黒髪の青年だったようです。その頃から、村の娘が一人、また一人と姿を消し始め、静かなスペル村は騒然となったのです。そして六人の娘が姿を消した頃、最初に行方不明になった娘が変わり果てた姿で戻ってきました」

「報告書では、その遺体に目立った外傷はなかったとの事だが。村の医師の話によると、その犠牲者の娘、血液量が異常な程減っていたらしいね」

 淡々としたレオンハルトの声に、ハワードは何度も首を縦に振る。

「神殿に宛てた手紙にも書きましたが、娘の首筋に穴のような傷痕があったとの事でした。あきらかにおかしなこの事態に、この村を訪れたスペル村の村長に神殿に手紙を出した方がいいと私は提案し、彼は熟考してみると言って村に帰って行ったのですが……それが、スペル村の人間を見た最後になりました」

「それからずっと音信不通なのだね。スペル村に行こうとしても霧が深すぎて近づけない上、行けども行けども辿り着かないと……」

「その通りです。この村を包む霧も、おそらくスペル村の影響のせいだと思われるのですが」

 そう言うと、ハワードは重い口調で更に言った。

「それに……、昨日から村娘が一人、帰って来ないのです」

「このアイル村でも、娘が行方不明になったという事か!?」

 リュセルの驚きの言葉を聞いたハワードは、額の汗を拭いながら頷く。

「先程は、殿下方が到着されたという事で娘達が家から出てきていましたが。今、年頃の娘は家から出ないように言っているところなんですよ。年頃の娘を持つ親の一人として、私も毎日が不安で」

「お父さん」

 紅茶を運んでくれたハワードの娘は、十五~十六歳程の年頃だろう。不安に思う気持ちはよく分かる。

「行方不明になったメアリは私の友人なんです。どうか、メアリを早く見つけて下さい。お願いします」

 泣きそうに顔を歪めながら頭を下げた彼女に、リュセルは話しかけた。

「お嬢さん」

「……っララと申します。こ、高貴なるお方」

 リュセルの顔を直視してしまったララは、泣きそうだった顔を一瞬で真っ赤にしながらも、なんとかそう答える。

「では、ララ。そのメアリは行方がわからなくなる前に、何か言っていなかったか?」

「…………実は、素敵な人に出会ったと言っていたんです」

 ララのその言葉に、リュセルは隣に座る兄の琥珀の瞳に目を向けた。

「…………」

 レオンハルトは、そんなリュセルに目線だけで頷き返したのだった。
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