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第十章 盲目の神官
7-2 眠れぬ夜
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「共通点は、その、見目の良い素敵な青年ってところか」
話を終えた村長とその娘は退室して行った。
その後、リュセルは、どこにでもあるような素朴な木で出来たテーブルの上に片肘をついて呟いたのだった。
「リュセル」
しかし、行儀が悪いと眉をひそめるレオンハルトの注意を促す声を聞いて、慌てて居住まいを正す。
「その青年が邪鬼である事は間違いないだろうね」
冷静なレオンハルトの言葉を聞いたユージンもアイリーンも頷くが、ここより先は、彼ら女神の子供達の専門分野だ。いくら有能な騎士といえども、そこから先に踏み込む事は出来はしない。
「早速、明日、スペル村に向かう事にする。ユージンとアイリーンには、この村の守りを命じる」
「はい」
「了解しました」
主の言葉に即座に返事を返した二人の騎士に引き続き、セフィも言った。
「では、私は、今からでも、村人達の心を落ち着かせる為に家々を訪ね歩きましょう」
「お伴します」
男であるから護衛はいらないと思うが、念の為、アイリーンがセフィについて行く事にする。
「ありがとうございます」
穏やかに礼を述べたセフィと彼に同行することになったアイリーンが家を出て行くと、ユージンは窓から見える外の光景にため息をついた。
「まだ昼間だというのに、本当に暗くて不気味な村ですね。いるだけで憂鬱になります。これじゃあ、吸血鬼の一人や二人出現してもおかしくないですね。ねぇ、リュセル王子?」
ユージンが話をふった途端、リュセルは持っていたティーカップを取り落としそうになった。
「そ、そそそそそうだな」
あきらかに動揺している。
「大丈夫ですか?」
そんなんで。とは、さすがに言わなかったが、そんな状態で元凶のスペル村に行けるのか?
「何がだ?」
(そんな、顔色悪くしながら強がられても、不安になるんですけど……)
ユージンは意外と怖がりなリュセルの事を知っているから心配になるが、そんな弟王子の横で平然と紅茶を飲み続けているレオンハルトの麗しの美貌に視線を移し、変に納得する。
(でもまあ、殿下がついているから大丈夫か)
最強の戦闘力を持つ兄王子が一緒なら、大抵の凶事は避けて通れるはず。一部例外はあるが……。
一方、リュセルの心中は、それはもう穏やかではなかった。むしろ、荒れ狂う大海原のように荒れていた。
(明日……、明日向かうのか。吸血村に)
はっきり言って、行きたくない。しかし任務である以上、行かずにはいられないのだ。
それに。
(あの娘(こ)、すごく不安そうだったしな)
友人がいなくなったという村長の娘、ララの怯えたような瞳を思い出して、リュセルは勇気を振り絞った。
(必ず、いなくなった少女を見つけ出し、音信不通になったスペル村を救い出そう)
しかし、その勇気を振り絞った誓いも、夜になり、余計に不気味さを増した村の様子を前に、たやすく崩れた。
「夜になったら、不気味さが倍増しましたねぇ」
(いちいち口に出すな!)
ララが作った夕食を食べ終えて、明日の事を相談していた時にユージンが不意に洩らした言葉。それに対し、リュセルは内心つっこみを入れる。
平然としているレオンハルトとセフィ。嫌そうな顔をしているが、割と平気そうなユージンとアイリーン。そして、あきらかに挙動不審で顔色の悪いリュセル。このメンバーで一番怖いもの知らずのような顔をしているのに、悲しい事に一番リュセルが現状にビビっていた。
「私は、明日の朝にでも娘さんがいなくなったという方の家に行こうと思っています。ご家族のご心痛はきっと大きなものでしょう。少しでも力になれたら」
「ああ。今日、娘がいなくなった時の状況を知る為に話をしたが、ひどく落ち込んでいるようだった。あの様子では夜も眠れていないだろう」
レオンハルトの言葉を聞き、セフィは痛みを堪えるような仕草で胸を押さえた。
「そうですか。お気の毒に」
「明日も私が同行致しますが、いつ頃向かわれますか?」
アイリーンの言葉にセフィは頷く。
「剣主様のお話を聞きます限り、なるべく早い方がいいでしょう。失礼にあたらない程度の、朝早くに向かいたいと思います」
「わかりました」
アイリーンが頷くと同時にその場は解散となり、就寝する事になった。
いくら村の中で一番裕福な家とはいえ、王都の街程裕福ではない村長の家では、部屋数もそんなに多くはない。
村に宿屋がない為、客人があった時は村長の家に泊めるのが習わしだが、用意された客室は応接室も兼ねたこの一室だけだ。
女性であるアイリーンはララの部屋に泊めてもらう事になり、ユージンとセフィは、恐れ多くも二人の王子と一緒の部屋で休む事になったのだった。
二つある寝台は、もちろん、主君であるリュセルとレオンハルトが使う事になり、ユージンとセフィは、簡素なカウチの上に横たわり休む事になる。
村長の特別な計らいで用意された湯を浴びると、それぞれ眠りの体勢に入った。長旅の疲れから、ユージンもセフィもすぐに寝入ったらしく、やすらかな寝息をたてはじめる……が。
(眠れん)
ユージンとセフィが同室な事から、珍しく(?)兄とは別の寝台で休む事になったリュセルは、その暗闇のあまりの不気味さに恐怖のあまり眠れなくなってしまっていたのだ。
窓を叩きつける風の音にすらビビってしまう。情けない限りである。
それに、夜でもそれなりに明るい城と違い、村の夜は本当に真っ暗なのだ。燭台の火を消してしまったら、本当の暗闇が一瞬で訪れた。
(レ、レオン)
隣の寝台で眠る兄を頼りたくなってしまうが、リュセルにも男のプライドというものがある。暗闇が怖いからと、年の離れた兄の寝台に忍び込めるものか。
……しかし。
ガタガタガタッ
「っ!?」
今までで一番大きな風が窓を叩く音に、リュセルはビクッとして起き上がり、窓を見つめる。窓の外に広がるのは、やはり不気味な暗闇だけ。いかにも何か出てきそうだ。
話を終えた村長とその娘は退室して行った。
その後、リュセルは、どこにでもあるような素朴な木で出来たテーブルの上に片肘をついて呟いたのだった。
「リュセル」
しかし、行儀が悪いと眉をひそめるレオンハルトの注意を促す声を聞いて、慌てて居住まいを正す。
「その青年が邪鬼である事は間違いないだろうね」
冷静なレオンハルトの言葉を聞いたユージンもアイリーンも頷くが、ここより先は、彼ら女神の子供達の専門分野だ。いくら有能な騎士といえども、そこから先に踏み込む事は出来はしない。
「早速、明日、スペル村に向かう事にする。ユージンとアイリーンには、この村の守りを命じる」
「はい」
「了解しました」
主の言葉に即座に返事を返した二人の騎士に引き続き、セフィも言った。
「では、私は、今からでも、村人達の心を落ち着かせる為に家々を訪ね歩きましょう」
「お伴します」
男であるから護衛はいらないと思うが、念の為、アイリーンがセフィについて行く事にする。
「ありがとうございます」
穏やかに礼を述べたセフィと彼に同行することになったアイリーンが家を出て行くと、ユージンは窓から見える外の光景にため息をついた。
「まだ昼間だというのに、本当に暗くて不気味な村ですね。いるだけで憂鬱になります。これじゃあ、吸血鬼の一人や二人出現してもおかしくないですね。ねぇ、リュセル王子?」
ユージンが話をふった途端、リュセルは持っていたティーカップを取り落としそうになった。
「そ、そそそそそうだな」
あきらかに動揺している。
「大丈夫ですか?」
そんなんで。とは、さすがに言わなかったが、そんな状態で元凶のスペル村に行けるのか?
「何がだ?」
(そんな、顔色悪くしながら強がられても、不安になるんですけど……)
ユージンは意外と怖がりなリュセルの事を知っているから心配になるが、そんな弟王子の横で平然と紅茶を飲み続けているレオンハルトの麗しの美貌に視線を移し、変に納得する。
(でもまあ、殿下がついているから大丈夫か)
最強の戦闘力を持つ兄王子が一緒なら、大抵の凶事は避けて通れるはず。一部例外はあるが……。
一方、リュセルの心中は、それはもう穏やかではなかった。むしろ、荒れ狂う大海原のように荒れていた。
(明日……、明日向かうのか。吸血村に)
はっきり言って、行きたくない。しかし任務である以上、行かずにはいられないのだ。
それに。
(あの娘(こ)、すごく不安そうだったしな)
友人がいなくなったという村長の娘、ララの怯えたような瞳を思い出して、リュセルは勇気を振り絞った。
(必ず、いなくなった少女を見つけ出し、音信不通になったスペル村を救い出そう)
しかし、その勇気を振り絞った誓いも、夜になり、余計に不気味さを増した村の様子を前に、たやすく崩れた。
「夜になったら、不気味さが倍増しましたねぇ」
(いちいち口に出すな!)
ララが作った夕食を食べ終えて、明日の事を相談していた時にユージンが不意に洩らした言葉。それに対し、リュセルは内心つっこみを入れる。
平然としているレオンハルトとセフィ。嫌そうな顔をしているが、割と平気そうなユージンとアイリーン。そして、あきらかに挙動不審で顔色の悪いリュセル。このメンバーで一番怖いもの知らずのような顔をしているのに、悲しい事に一番リュセルが現状にビビっていた。
「私は、明日の朝にでも娘さんがいなくなったという方の家に行こうと思っています。ご家族のご心痛はきっと大きなものでしょう。少しでも力になれたら」
「ああ。今日、娘がいなくなった時の状況を知る為に話をしたが、ひどく落ち込んでいるようだった。あの様子では夜も眠れていないだろう」
レオンハルトの言葉を聞き、セフィは痛みを堪えるような仕草で胸を押さえた。
「そうですか。お気の毒に」
「明日も私が同行致しますが、いつ頃向かわれますか?」
アイリーンの言葉にセフィは頷く。
「剣主様のお話を聞きます限り、なるべく早い方がいいでしょう。失礼にあたらない程度の、朝早くに向かいたいと思います」
「わかりました」
アイリーンが頷くと同時にその場は解散となり、就寝する事になった。
いくら村の中で一番裕福な家とはいえ、王都の街程裕福ではない村長の家では、部屋数もそんなに多くはない。
村に宿屋がない為、客人があった時は村長の家に泊めるのが習わしだが、用意された客室は応接室も兼ねたこの一室だけだ。
女性であるアイリーンはララの部屋に泊めてもらう事になり、ユージンとセフィは、恐れ多くも二人の王子と一緒の部屋で休む事になったのだった。
二つある寝台は、もちろん、主君であるリュセルとレオンハルトが使う事になり、ユージンとセフィは、簡素なカウチの上に横たわり休む事になる。
村長の特別な計らいで用意された湯を浴びると、それぞれ眠りの体勢に入った。長旅の疲れから、ユージンもセフィもすぐに寝入ったらしく、やすらかな寝息をたてはじめる……が。
(眠れん)
ユージンとセフィが同室な事から、珍しく(?)兄とは別の寝台で休む事になったリュセルは、その暗闇のあまりの不気味さに恐怖のあまり眠れなくなってしまっていたのだ。
窓を叩きつける風の音にすらビビってしまう。情けない限りである。
それに、夜でもそれなりに明るい城と違い、村の夜は本当に真っ暗なのだ。燭台の火を消してしまったら、本当の暗闇が一瞬で訪れた。
(レ、レオン)
隣の寝台で眠る兄を頼りたくなってしまうが、リュセルにも男のプライドというものがある。暗闇が怖いからと、年の離れた兄の寝台に忍び込めるものか。
……しかし。
ガタガタガタッ
「っ!?」
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