【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十章 盲目の神官

7-3 朝目覚めて……

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 リュセルはしばらく逡巡した後、自分の寝台を抜け出し、冷たい床に降り立った。

(俺は別に怖くなどない。ただ、寝息をまったくたてないレオンが息をしているのか心配になっただけだ)

 微妙過ぎる言い訳を内心自分にしながら、レオンハルトの眠っている寝台に近づいた途端、ささやくような声が響いた。

「まったく、いつまで一人で震えてるんだ。お前は」

「お前、起きて!?」

 瞬間上がったリュセルの驚きの声に、レオンハルトはゆっくりと上体を起き上がらせると、人差し指を自分の唇の前で立てた。

 暗くても、それ位の事なら分かる。

「ほら、おいで」

 掛け布をめくって弟を招き寄せるレオンハルトは、こうなる事を予測していたようだった。

「…………」

 ギシッ

 無言のまま寝台の上に乗り上がると、城の自室のもののように上等ではないそれは、軋むような音を上げた。狭い為、いつも以上に密着した状態で横になる。

「眠れないのなら、いつものように慰めてやろうか?」

 間近で聞こえた面白がるようなその声と共に、背に回されていた兄の手がゆっくりと下に下りていくのを感じたリュセルは、慌てて首を横に振る。

「いや、いい」

 ユージンとセフィが同じ部屋で休んでいるというのに、そんな事出来るはずがない。

「そうか」

 クスクスと笑いながらそう小声で答えたレオンハルトは、穏やかな表情のまま弟の唇を撫でた。そのまま髪を撫でられて、リュセルはうっとりと目を細める。

「レオン」

 そのたくましい肩に甘えるように額をすり寄せると、髪を撫でてくれていたレオンハルトの手が背に回され、更に体を密着してきた。

「大丈夫だから、もう眠りなさい」

 兄の慣れた匂いと体温に安心して、リュセルの意識はようやく沈んでいく。うとうとと眠りゆく前に、レオンハルトの低い声が耳元で聞こえた。

「そう……いい子だ、リュセル。」

 それは、幼子に話しかける父親のような優しい声だった。







「では殿下、私はセフィ殿に同行して、娘が行方不明になった家に行って参ります」

「ああ」

 ……………………?

 凛としたアイリーンの声が、どこからか響いた。

「行って参ります」

 続いて、セフィの穏やかで柔らかな響きのある声も響く。

「殿下、朝食はどうしますか? その状態では食べられませんよ」

 ユージンの揶揄を含んだような声がすると同時に、気配が近づいた。

「それにしても、よく眠ってますね~」

「昨夜はなかなか寝付けなかったようだからね」

 レオンハルトの言葉を耳にし、一瞬ユージンが息を呑んだのがわかる。

「殿下、まさか俺達が眠っている横で……」

「私にそんな趣味はない」

「そ、そそそそうですよね~。いくら殿下でも、まさかですよね! あはははははっ」

 ユージンの乾いたような笑い声がすると思ったら、次には大きなため息が聞こえる。

「しかし、殿下~」

「なんだ?」

 本か何かを読んでいるのか、紙をめくるような、かすかな音が間近でする。

「いつもこんな感じなんですか?」

「どういう意味だ?」

「え~っと、いつもご一緒に眠っていらっしゃるんですか?」

 戸惑うようなユージンの声に、レオンハルトの平然とした声が答えた。

「たまに別な時もあるが、大体一緒だね」

 それがどうした? とでも言うような答え。ユージンの乾いた笑いが再び響いた。

「そ、そうですか。あははははは~」

 その時になってようやく、半分眠っている状態だったリュセルの意識が覚醒する。

(?)

 愛おしい体温が、近過ぎる程近くにあった。

 寝台の上に上体を起こし、報告書に目を通していた兄の腰にしがみついて眠っていたリュセルは、覚醒すると同時に固まる。

「起きたか?」

 右手で報告書を持ち、左手で弟の髪を梳いていたレオンハルトは、リュセルが目を覚ましたのに気付くと、視線をそちらに移してそう声をかけてきた。

「ああ」

 恐る恐る起き上がると、微苦笑を浮かべたレオンハルトの美貌がゆっくりと近づいてくる。避ける間もなく重なってくる唇を受け止めながら、リュセルはぼんやりとしていた。

「さあ、今日はスペル村に出立するからね。早く起きなさい」

 軽い口づけの後、あっさりとそう告げられてリュセルは小さく頷く。

「ああ」

 寝台から降りると、今までの経緯をずっと見ていたらしいユージンは微妙な顔をしていたが、すぐににっこりと笑って言った。

「お着替えをされるのですね? では、俺は退室しますよ」

「ちょっと待てい!」

 サーッっと早歩きで部屋を出て行くユージンを追いかけて、その上着の裾を掴んだリュセルは、木の扉に兄の騎士の体を押し付ける。

「な、ななな何ですか!? リュセル王子っ、俺は何にも見てませんよ! リュセル王子が殿下と抱き合って眠っていた事なんて、知りませんっ」

「ばっちり見てるじゃないか!」

「はっ!」

「はっ! じゃないっ」

 余計な事をしゃべった口を両手で押さえたユージンの首をギリギリと絞め上げながら、リュセルは低い声ですごんだ。

「誰にも言うなよ。もし、誰かにしゃべったら……」

「しゃべったら……?」

 ゴックリと唾を飲みこんだユージンの怯えたような優男顔に自分の顔を近づけると、リュセルは最高の脅し文句を口にする。

「お前の唇を奪ってやる」

「え?」

 もっとすごい事を想像していたユージンは、目の前の月の美貌を見返しながら、その唇に視線を移す。男に口づける趣味など持ち合わせてないが、この王子相手なら出来そうだ。

 そう考えた瞬間、頬が熱くなった。

 真赤になったユージンを見据えると、リュセルは意地悪く笑う。

「ちなみに、俺達女神の子供は、自分の半身が誰か別の相手と口づけた場合、すぐに分かるんだよ」

「へ?」

「つまり俺がお前に口づけたら、次にレオンと口づけた時にすぐにばれるのさ!」

(いやあああああああああっ!)

 絶対に、この唇に触れてはならない!

 ユージンは恐怖に目を見開くと同時にそう思った。
 あの、末弟に関してのみ心が狭く、嫉妬深い、最強鬼畜主の逆鱗に触れたらどうなる事か。

 想像したくない。

(まだ死にたくない!)

「分かったら、今見た事は忘れる事だな」

 リュセルの念押しするような言葉に恐怖に震えながらもコクコクと何度も頷いたユージンは、ふとある事を思い出した。

「でもリュセル王子、俺の他に、アイリーンもばっちり見てましたよ。セフィ殿は見えないので、気配で悟っていたようですが……あの、眠っていたリュセル王子が殿下にしがみついて離れない様を」

「何だと!?」

 そういえば、あの二人の声も遠くでしていたような気がする。

「ご愁傷様です」

 ショックのあまり床に両手両膝をついて項垂れてしまったリュセルを見下ろしながら、ユージンは何を言ったらいいのかわからない。

「でででも、リュセル王子、きょ、兄弟なんだから、お兄様と同衾位全然変じゃないですよ! ……たぶん」

 リュセルを励まそうとユージンはそう言うが、その励ましの内容もかなり微妙だ。

「ならお前は、年の離れた兄と抱き合って眠ろうと思うか?」

「思いませんね」

 暗く沈んだ声につい正直に答えてしまい(しかも即座に)、ユージンはしまったという顔になる。

「俺もおかしい事だと……、止めよう止めようといつも思っているんだ。でも、無理なんだよ」

「リュセル王子……」

「どうしたらいいんだ」

「…………」

 まずい、笑いそうだ。落ち込み方が面白過ぎる。

「……笑いたければ、笑え」

「えっ!?」

「口端がヒクついているぞ」

 恨めしそうなリュセルの視線を受け、彼を慰めるためにその場に跪いていたユージンは、笑いそうになっていた顔の筋肉をなんとか元に戻そうとする。

「仕方ない。あの二人にも口止めするしかないか」

「え? 口止め?」

 自分のように口づけするぞと脅すつもりか?

「セフィ殿は盲目だから、実際に見てなかっただろうからいいとして、問題はアイリーンか……」

「な、何するおつもりですか!?」

 自分の想い人に何をするつもりなのかと、ユージンは慌てる。

「ふっ。すべてを忘れてしまう位に、悩殺してしまおうか」

 リュセルの残酷に微笑んだその表情は、身震いする程美しかった。
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