【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十一章 神への叛逆

1-1 反女神組織

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 女神の子供。

 それは至高の存在。

 神聖で気高く、女神の意思を受け継ぐ、聖なる神子。

 世間一般的での考え方はこうだ。

 すべては創世の女神、セイントクロスの女神を唯一神として信仰する神殿の教えの通り。この教えに背けば、その者は異端者として見られる事になる。
 だが、創世の女神を敬愛し、信仰し、その子供達を敬うという感情は、人間達の心中に原始より根付いていたものなので、異端者となるものはほとんどいなかった。

 ある者達を除いては……。

 反女神組織”ヒューマン”。

 それが、異端者となった少数の人間の所属する組織である。それがどこにあるのか、規模はどれ位なのか、細かい事は一切知られていない。しかし、年長の女神の子供として下の同胞達を守らねばならぬ立場にあるレオンハルトとジュリナは、世界中に密偵を放ち、世界の情勢の細かい所まで情報を集めている為、組織の存在と大体の素性は把握していた。

 彼らは、最も簡単に表現すれば、世界を創ったのは女神ではなく、自分達人間だと主張する者達の集まりであった。創世神話を否定し、神殿の考えを否定し、そして、女神の子供達を逆に異端視しているのだ。
 
 神子達が邪気の他に女神の子供達が注意しなくてはならないもの、それが、ヒューマンであったのだ。







 通された部屋は、本当なら自分のような身分の者が一生かかっても入れないような豪華な部屋だった。格式のある家具や調度品。敷かれている絨毯は毛足が長く、一目でいいものだという事がわかり、その男の動きを落ち着きのないものにさせた。

「あちらの状況はどうです?」

 そんな中、不意に響いた声。男はそれに驚く事なく、大きく頷く。

「準備は万全に整っている」

 声の主である青年は、四十も半ばになる男よりも断然若い。傭兵として世界中を旅する彼と違い、きちんとした身分がある生粋のお貴族様なのだ。

「こちらも、例のものは完成しましたよ。これがあれば、完全に女神の子供の動きを封じられます」

「ほ、本当か?」

 女神の子供……、不可思議な力を持つという、そんな不気味な奴らの動きを本当に止められるのか? そんな男の考えがわかったのか、青年は小さく笑った。

「信じられませんか? まあ、完成した装置で動きを封じられるのは宝鍵だけですので、完全に封じられる訳ではないのですが」

「ほうじょう……?」

「おやおや、駄目ですねぇ。ワトスン。いくら嫌いだからって、敵の事もきちんと知っておかないと。女神の子供は、宝主と宝鍵という二つのタイプに分かれるんですよ。あなたにもわかるように言うと、宝主は戦闘力に優れ、宝鍵は感知能力に優れている訳です。そして、この感知能力に優れているというのが、今回は狙い目なんですよ」

 ワトスンと呼ばれた男は、意味が分からず眉をひそめる。

「なんでだ?」

「感知能力に優れているという事は、感覚が鋭いという事……。そこを攻めます。だから、前にお話した通り、10日後にディエラ城で開催される予定の、朱金の姫君達の誕生舞踏会を狙うんですよ。狙いは、鏡鍵である第二王女ティアラ姫。くれぐれも、鏡主のジュリナ姫にはお気をつけ下さいね。宝主の戦闘力には、あなたが百人束になってかかっても敵いませんよ」

 青年の説明を黙って聞いていたワトスンは、面白くなさそうに鼻を鳴らす。

「まずは、最も力の弱いであろうティアラ姫を人質にし、そして、行く行くは他の女神の子供達を征服する。同胞愛の強い彼らの絆は絶対です。特に、半身同士のはね。知っていますか? ワトスン。彼らは兄弟姉妹同士でありながら、肉体関係を持つらしいですよ」

「……汚らわしい」

 吐き捨てるようなワトスンの声に、それを聞いた青年は面白そうに笑ったのだった。



*****



 ある、うららかな日の午後。

「きゃっほ~、リュセル兄さんっ!」

 転移装置を作動させてやって来た、玉主玉鍵の少年コンビを出迎えに、封印の間までやってきていたリュセルとレオンハルトは、子ウサギのようにピョンピョン跳ねてリュセルに飛びついて来るローウェンの姿を見て、頬を緩ませていた。

「ローウェン。しばらくまた一緒だな」

「うわ~~い、リュセル兄さ~~~~ん!」

 ローウェンの体を抱えてグルグル回る弟を横目に、レオンハルトは彼らがここに来る直前まで、浄化任務についていた事を知っている為、ねぎらいの言葉をかけた。

「任務ごくろうだったね。あちらの方は、もう大丈夫なのかい?」

「ああ。村を覆っていた邪気の浄化は完了した故、もう心配はいらぬ」

 よどみないアルティスの答えに、レオンハルトは小さく頷く。

「それは良かった」

「でも、もう間に合わないと思ったよ! 最近の僕らのスケジュールって、かなりハードだったんだよ」

 浄化任務が二件重なった上、トラキアの学塔では、恒例の試験があり、その上、ローウェンは小説の〆切が重なったのだ。

「それで、明後日のサイン会か。本当にハードだな」

 ローウェンの報告を聞きながら、封印の間を出て地上へ続く階段を昇っていたリュセルは、感心したようにそう呟いた。

「うん。でも、明後日の”ロン・ブラック”のアシェイラ王都でのサイン会は、もう、ずっと前から決まっていた事だしね」

 そう。ローウェンのこの言葉通り、明後日、デコレート商会アシェイラ本店の会場にて、黒猫ノンちゃんシリーズの作者ロン・ブラックのサイン会が行われる予定になっているのだ。そして、サイン会が終了次第、四人でディエラ国に向かう予定になっている。

「ジュリナ殿とティアラ姫の誕生舞踏会か。まさか、レオンより先にジュリナ殿の方が産まれていたなんてな」

 リュセルのそんな言葉に、レオンハルトはふふっと小さく笑いながら答えた。

「たった二ヶ月早いというだけだよ。二ヶ月後には、私達の誕生日がある訳だからね」

「そこなんだよな~。なんで、半身同士は誕生日が一緒なんだ?」

 女神の子供の不思議の一つだ。

「それだけ結びつきが強いって事だよ、リュセル兄さん。過去には双子の宝主宝鍵もいたらしいし」

「一緒に祝えて良いではないか。なあ、ロー」

 今まで、誕生日を同胞たるレオンハルト、ジュリナ、ティアラ以外から祝ってもらった事のないローウェンは、アルティスのこの言葉に嬉しそうに頬を赤らめた。

「うふふ。来年の僕の誕生日、楽しみだな」

 今年はもう終わってしまったから、次は来年だ。
 今年の寂しい誕生日と違って(レオンハルト達が贈り物を送ってくれはしたが)、来年はきっと、賑やかで楽しいものになるだろう。

 とにもかくにも、茶の月中旬12節目。

 ディエラ国の至宝、朱金の姫君たる姫君達。ジュリナは二十五回目の、ティアラは十六回目の誕生日を迎える事になるのだ。
 そして、その2ヶ月後、白の月の初旬には、リュセル達の誕生日が待っている。

 リュセルの誕生日。本人はまだ気づいてはいないが、それは、彼がこの世界に帰還したその日の事を示している。つまり、リュセルがこの世界に戻ってから、実に一年の月日が過ぎようとしていたのである。



「リュセル兄さん、今日はこのまま一緒にいられるの?」

 その後、レオンハルトとリュセルの自室に移動し、四人でまったりと、ティルとクマ吉が用意してくれた紅茶とケーキでティータイムを楽しんでいる最中、ケーキをもりもり食べていたローウェンが、ワクワクしながらそう尋ねてきた。

「ああ、ずっと一緒にいるぞ! 娘よっ」

「お父さん、大好き~~~~!」

 自分にウインクを投げかけるリュセルに対し、向かいのソファに座るローウェンは、投げキッスを返す。

 しかし……。

「駄目だよ、リュセル。お前はダンスのレッスンがあるだろう?」

 言い含めるような兄の言葉が響き、それを聞いたリュセルは不服そうな顔になる。

「しかし今日、アンデュ師は腰痛が原因で休みだって連絡があったぞ」

 リュセルに社交ダンスを教えていたダンスの教師は、本日急病により来れないはずだった。

「私が見てやる。本番まで日がないのだから、きちんと踊れるようになっておかないとならないだろう? 婚約者としてティアラ姫をエスコートしないとならないのだからね」

 レオンハルトの言葉に、リュセルは反論出来ずに渋々頷く。ご尤もである。

「そっか。ジュリナ姉さんとティアラ姉さんの誕生舞踏会で、リュセル兄さんはティアラ姉さんと最初に踊るんだもんね」

 ローウェンはそう言うと、目を瞬かせた。
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