187 / 424
第十一章 神への叛逆
1-1 反女神組織
しおりを挟む女神の子供。
それは至高の存在。
神聖で気高く、女神の意思を受け継ぐ、聖なる神子。
世間一般的での考え方はこうだ。
すべては創世の女神、セイントクロスの女神を唯一神として信仰する神殿の教えの通り。この教えに背けば、その者は異端者として見られる事になる。
だが、創世の女神を敬愛し、信仰し、その子供達を敬うという感情は、人間達の心中に原始より根付いていたものなので、異端者となるものはほとんどいなかった。
ある者達を除いては……。
反女神組織”ヒューマン”。
それが、異端者となった少数の人間の所属する組織である。それがどこにあるのか、規模はどれ位なのか、細かい事は一切知られていない。しかし、年長の女神の子供として下の同胞達を守らねばならぬ立場にあるレオンハルトとジュリナは、世界中に密偵を放ち、世界の情勢の細かい所まで情報を集めている為、組織の存在と大体の素性は把握していた。
彼らは、最も簡単に表現すれば、世界を創ったのは女神ではなく、自分達人間だと主張する者達の集まりであった。創世神話を否定し、神殿の考えを否定し、そして、女神の子供達を逆に異端視しているのだ。
神子達が邪気の他に女神の子供達が注意しなくてはならないもの、それが、ヒューマンであったのだ。
通された部屋は、本当なら自分のような身分の者が一生かかっても入れないような豪華な部屋だった。格式のある家具や調度品。敷かれている絨毯は毛足が長く、一目でいいものだという事がわかり、その男の動きを落ち着きのないものにさせた。
「あちらの状況はどうです?」
そんな中、不意に響いた声。男はそれに驚く事なく、大きく頷く。
「準備は万全に整っている」
声の主である青年は、四十も半ばになる男よりも断然若い。傭兵として世界中を旅する彼と違い、きちんとした身分がある生粋のお貴族様なのだ。
「こちらも、例のものは完成しましたよ。これがあれば、完全に女神の子供の動きを封じられます」
「ほ、本当か?」
女神の子供……、不可思議な力を持つという、そんな不気味な奴らの動きを本当に止められるのか? そんな男の考えがわかったのか、青年は小さく笑った。
「信じられませんか? まあ、完成した装置で動きを封じられるのは宝鍵だけですので、完全に封じられる訳ではないのですが」
「ほうじょう……?」
「おやおや、駄目ですねぇ。ワトスン。いくら嫌いだからって、敵の事もきちんと知っておかないと。女神の子供は、宝主と宝鍵という二つのタイプに分かれるんですよ。あなたにもわかるように言うと、宝主は戦闘力に優れ、宝鍵は感知能力に優れている訳です。そして、この感知能力に優れているというのが、今回は狙い目なんですよ」
ワトスンと呼ばれた男は、意味が分からず眉をひそめる。
「なんでだ?」
「感知能力に優れているという事は、感覚が鋭いという事……。そこを攻めます。だから、前にお話した通り、10日後にディエラ城で開催される予定の、朱金の姫君達の誕生舞踏会を狙うんですよ。狙いは、鏡鍵である第二王女ティアラ姫。くれぐれも、鏡主のジュリナ姫にはお気をつけ下さいね。宝主の戦闘力には、あなたが百人束になってかかっても敵いませんよ」
青年の説明を黙って聞いていたワトスンは、面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「まずは、最も力の弱いであろうティアラ姫を人質にし、そして、行く行くは他の女神の子供達を征服する。同胞愛の強い彼らの絆は絶対です。特に、半身同士のはね。知っていますか? ワトスン。彼らは兄弟姉妹同士でありながら、肉体関係を持つらしいですよ」
「……汚らわしい」
吐き捨てるようなワトスンの声に、それを聞いた青年は面白そうに笑ったのだった。
*****
ある、うららかな日の午後。
「きゃっほ~、リュセル兄さんっ!」
転移装置を作動させてやって来た、玉主玉鍵の少年コンビを出迎えに、封印の間までやってきていたリュセルとレオンハルトは、子ウサギのようにピョンピョン跳ねてリュセルに飛びついて来るローウェンの姿を見て、頬を緩ませていた。
「ローウェン。しばらくまた一緒だな」
「うわ~~い、リュセル兄さ~~~~ん!」
ローウェンの体を抱えてグルグル回る弟を横目に、レオンハルトは彼らがここに来る直前まで、浄化任務についていた事を知っている為、ねぎらいの言葉をかけた。
「任務ごくろうだったね。あちらの方は、もう大丈夫なのかい?」
「ああ。村を覆っていた邪気の浄化は完了した故、もう心配はいらぬ」
よどみないアルティスの答えに、レオンハルトは小さく頷く。
「それは良かった」
「でも、もう間に合わないと思ったよ! 最近の僕らのスケジュールって、かなりハードだったんだよ」
浄化任務が二件重なった上、トラキアの学塔では、恒例の試験があり、その上、ローウェンは小説の〆切が重なったのだ。
「それで、明後日のサイン会か。本当にハードだな」
ローウェンの報告を聞きながら、封印の間を出て地上へ続く階段を昇っていたリュセルは、感心したようにそう呟いた。
「うん。でも、明後日の”ロン・ブラック”のアシェイラ王都でのサイン会は、もう、ずっと前から決まっていた事だしね」
そう。ローウェンのこの言葉通り、明後日、デコレート商会アシェイラ本店の会場にて、黒猫ノンちゃんシリーズの作者ロン・ブラックのサイン会が行われる予定になっているのだ。そして、サイン会が終了次第、四人でディエラ国に向かう予定になっている。
「ジュリナ殿とティアラ姫の誕生舞踏会か。まさか、レオンより先にジュリナ殿の方が産まれていたなんてな」
リュセルのそんな言葉に、レオンハルトはふふっと小さく笑いながら答えた。
「たった二ヶ月早いというだけだよ。二ヶ月後には、私達の誕生日がある訳だからね」
「そこなんだよな~。なんで、半身同士は誕生日が一緒なんだ?」
女神の子供の不思議の一つだ。
「それだけ結びつきが強いって事だよ、リュセル兄さん。過去には双子の宝主宝鍵もいたらしいし」
「一緒に祝えて良いではないか。なあ、ロー」
今まで、誕生日を同胞たるレオンハルト、ジュリナ、ティアラ以外から祝ってもらった事のないローウェンは、アルティスのこの言葉に嬉しそうに頬を赤らめた。
「うふふ。来年の僕の誕生日、楽しみだな」
今年はもう終わってしまったから、次は来年だ。
今年の寂しい誕生日と違って(レオンハルト達が贈り物を送ってくれはしたが)、来年はきっと、賑やかで楽しいものになるだろう。
とにもかくにも、茶の月中旬12節目。
ディエラ国の至宝、朱金の姫君たる姫君達。ジュリナは二十五回目の、ティアラは十六回目の誕生日を迎える事になるのだ。
そして、その2ヶ月後、白の月の初旬には、リュセル達の誕生日が待っている。
リュセルの誕生日。本人はまだ気づいてはいないが、それは、彼がこの世界に帰還したその日の事を示している。つまり、リュセルがこの世界に戻ってから、実に一年の月日が過ぎようとしていたのである。
「リュセル兄さん、今日はこのまま一緒にいられるの?」
その後、レオンハルトとリュセルの自室に移動し、四人でまったりと、ティルとクマ吉が用意してくれた紅茶とケーキでティータイムを楽しんでいる最中、ケーキをもりもり食べていたローウェンが、ワクワクしながらそう尋ねてきた。
「ああ、ずっと一緒にいるぞ! 娘よっ」
「お父さん、大好き~~~~!」
自分にウインクを投げかけるリュセルに対し、向かいのソファに座るローウェンは、投げキッスを返す。
しかし……。
「駄目だよ、リュセル。お前はダンスのレッスンがあるだろう?」
言い含めるような兄の言葉が響き、それを聞いたリュセルは不服そうな顔になる。
「しかし今日、アンデュ師は腰痛が原因で休みだって連絡があったぞ」
リュセルに社交ダンスを教えていたダンスの教師は、本日急病により来れないはずだった。
「私が見てやる。本番まで日がないのだから、きちんと踊れるようになっておかないとならないだろう? 婚約者としてティアラ姫をエスコートしないとならないのだからね」
レオンハルトの言葉に、リュセルは反論出来ずに渋々頷く。ご尤もである。
「そっか。ジュリナ姉さんとティアラ姉さんの誕生舞踏会で、リュセル兄さんはティアラ姉さんと最初に踊るんだもんね」
ローウェンはそう言うと、目を瞬かせた。
0
あなたにおすすめの小説
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。
天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】
さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。
英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。
この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。
「さあ気に入ったsubを娶れ」
「パートナーはいいぞ」
とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。
待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。
平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる