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第十一章 神への叛逆
1-2 楽しいダンスレッスン
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朱金の姫君達の為に大々的に開かれる舞踏会のオープニングを飾るのは、主役の一人であるティアラ姫とその婚約者、リュセル王子のダンスだった。
可憐なる美貌のティアラと凛々しく甘やかな美貌のリュセルが踊る様は、とても絵になるであろうと、誰もが簡単に予想がつく。
「すっごい素敵だろうな~。リュセル兄さんとティアラ姉さん」
うっとりとしながら頷くローウェンに視線を送り、リュセルは銀色の瞳をキランっと光らせた。
「ふっ、まあな」
「なんで、僕に向かっていちいちキメてるのさ」
胡乱な目をしてローウェンがリュセルにつっこんでいる横で、その様子を見守っていたアルティスが言った。
「では、我らはそのダンスの訓練とやらを見学させてもらうとしよう」
「あ、そうだよね。どうせ、サイン会は明後日だし……。いいかな? リュセル兄さん、レオンハルト兄さん」
ローウェンの問いかけに、レオンハルトは小さく頷く。
「邪魔をしないと約束出来るのならね」
「うん、約束するよ!」
ローウェンの元気な返事を聞いたレオンハルトは、小さく頷いて見学を許可した。
そして、それから数刻後……。
ダンスレッスンの場となった王族専用のレッスン部屋にて、リュセルが披露したこれまでの特訓成果を見届けると、レオンハルトはまったくの無表情になった。
「………………」
無言なレオンハルトと違い、リュセルの素晴らしい動きを見て目を輝かせたローウェンは大きな歓声を上げる。
「すっご~い! すごく上手だよ、リュセル兄さん! その、剣舞!」
剣舞……。それは、その名の通り、剣を使った一人舞いである。
「足の運び具合、剣のなめらかなる動き、さすがだ。…………だが、舞踏会で普通、剣舞は踊らないのではないか?」
はしゃぐ弟と違い、アルティスは冷静なるつっこみを入れていたのだった。
「アンデュ師は、この踊りしか教えてくれていないぞ」
「お前は舞踏会で、エスコートする姫君をほったらかしにして、一人で剣舞を舞うつもりか」
レオンハルトの淡々とした声音での指摘を聞き、リュセルはたじたじとなる。
「そ……そりゃあ、俺だって変だと思ったが」
「…………」
いくら自分やカイルーズにダンスを教えてくれた王族専任の舞踏の師が、今現在、アシェイラ王都不在だからといって、代役の師をたてたのがそもそもの間違いだった。
あの男(アンデュ師)……、クビだ。
内心そう思いながらも、レオンハルトは小さくため息をついた。
「仕方ないね。残りの期間でなんとか形にするしかあるまい」
そう言うと、気持ちを切り替えて、傍で成り行きを見守っていたアルティスとローウェンに目を向ける。
「二人とも、リュセルの為に見本を見せてやってくれないか」
そう言いながら部屋の中央に置かれたピアノの椅子を引くと、レオンハルトはそこに腰を下ろし、鍵盤の蓋を上げた。
その様子を見て、すぐに目を見合わせたアルティスとローウェンは、同時に互いの前に拳を出してジャンケンをする。
「えええ~~~、僕が女性役ぅ!?」
「ふふふ、ではやるぞ」
二人が手を取り合って互いの体に手を添えたのを見ると、レオンハルトはワルツの音楽を奏で始めた。
兄がピアノを弾ける事を初めて知ったリュセルは、仲良く踊り始めた玉主玉鍵コンビよりも、あまりにも絵になり過ぎるくらい絵になっている、優雅にピアノを弾くレオンハルトを、ボ~~~っとしながら見つめてしまう。
「リュセル。私の顔ではなく、アルティスとローウェンの見本ダンスを見なさい」
「あ、ああ」
こちらを見てもいないのに、弟の熱い視線を感じたのか、リュセルの目が二人に向いていないのに気付いたレオンハルトは冷静に注意を促した。
慌てて踊るローウェンとアルティスに目を移したリュセルは、微笑ましいその光景に頬を緩めそうになる。
楽しそうに音楽に合わせて、ワルツのステップを踏む二人は、見る者を幸せな気持ちにさせた。そして、微笑ましい光景とは裏腹に、その踊りは完璧だ。幼い頃より王族のたしなみとして、二人ともレッスンを受けていたのだから当然だろう。
厳しい教育を受けてきたアルティスと違い、子供の頃、周りの者達から冷遇されてきたローウェンは、実を言うとユリエから習ったのではあるが。
「よく見ておきなさい、リュセル。ワルツの基本は三拍子だ。なめらかな回転をできるだけ継続して、緩やかに体を上下させる」
ピアノを弾きながら説明するレオンハルトの声を聞きながら、リュセルは内心唸る。相手がいる分、剣舞よりも難しいかもしれない。
剣を使用した激しい動きを要求される剣舞は、舞いのプロでさえ覚えるのに苦労するのだが、そんな事を知らないリュセルはそう思う。
「では、見本はもういいだろう。最初は音楽なしでやってみようか」
しばらくの後、そう言って立ち上がったレオンハルトはリュセルの手をとった。
「私が女性パートで踊るからついてきなさい。お前は左足から踏み出すのだよ」
「ああ」
レオンハルトの背に右手を添えて、真剣な表情で頷いたリュセルは、ぎこちない動きでワルツのステップを踏み始める。
ありがたい事に色々な方面に長けたレオンハルトは、教師としての才にも長けてくれていたので、初心者のリュセルを導くように器用に動いていた。
「はい、1、2、3、1、2、3~~」
リズムをとる元気なローウェンの声に合わせて踊るリュセルのダンスレッスンは、その日の夜まで続けられたのだった。
「すまないな。ローウェン、アルティス」
そして、次の日も、リュセルはレオンハルトのスパルタダンス訓練を一日のスケジュールにびっしりと入れられてしまっていた。結果的に、友人であり客人である玉主玉鍵の少年コンビをそれにつき合わせる形になってしまい、申し訳なく思った彼はそう謝罪した。
現在、レオンハルトが騎士団の用事でいない為、アルティスがリズムをとり、ローウェンを女性パートの相手役として、リュセルはダンス訓練を実施中だったのだ。
「全然平気だよ~! っていうか、楽しいよ。ね、アル」
そう言いながらにっこりと笑ったローウェンに答えるように、アルティスも手拍子をしながら頷く。
「ああ。リュセル殿は筋が良いようだからな。上達も早かろう」
「そ、そうか?」
アルティスの言葉にリュセルは嬉しそうに頬を緩めかけるが、すぐに触れ合った手から妙な気の揺らぎを感じとり、眉をひそめた。
「ローウェン?」
「何? リュセル兄さん」
きょとんと自分を見上げる澄んだ蒼色の右目を見つめ返し、リュセルは「いや」っと首を振る。
(気の所為か?)
元気そうなローウェンの様子を見て、リュセルは彼の中に感じた違和感を自分の気の所為なのだと判断した。
「ねえねえ、リュセル兄さん。明日のサイン会が終わったら、一緒に黒猫ノンちゃんのお芝居見に行こうよ! 四作目の”黒猫ノンちゃんと囚われの王子”が公演初日を迎えるんだよ」
「おおおおおおおっ、もちろんその事は知っているぞ! でも、チケットが手に入らなかったんだよなぁ」
一作目、二作目、三作目と、公演される度に人気を増す、世界中に愛される名作(既にこんな域に達してしまっているだろう)、黒猫ノンちゃんシリーズの芝居。
短編集の発売と同時にデコレート商会アシェイラ本店で開催される、作者、ロン・ブラックのサイン会と合わせて、その次の日に、ソードキングダム劇場にて第四作目、黒猫ノンちゃんと囚われの王子が公演初日を迎えるのだ。
「サイン会の抽選券に気をとられるあまり、そっちに出遅れてしまったんだよな」
リュセルのボソリとした、口の中での呟きを耳にしたローウェンは首を傾げた。
「ん、何か言った?」
「いやいや、何でもないぞ。娘(設定)よ」
そんな、リュセルのふざけたような台詞を合図に、ローウェンも、わざとモジモジとしながらそれにのる。
「お父さん(設定)。……いつもありがとう」
「はっはっはっ、どうしたんだ? 急に」
ありもしない口髭をなでる動作をする父親設定のリュセルに対し、娘設定のローウェンは、着ていたトラキアの学塔の制服の内ポケットに入れていたそれを出した。
「じゃ~~~ん、これなんだ?」
「…………ッ!!??」
そ、そそそそそれは……、現在となっては、入手困難と言われている。
「黒猫ノンちゃんシリーズ第四作目、黒猫ノンちゃんと囚われの王子の初日公演のチケットじゃないかっ!」
リュセルのそんな驚きの叫びが部屋中に響くのと、レオンハルトが部屋の扉を開けて戻ってきたのは同時だった。
「…………」
可憐なる美貌のティアラと凛々しく甘やかな美貌のリュセルが踊る様は、とても絵になるであろうと、誰もが簡単に予想がつく。
「すっごい素敵だろうな~。リュセル兄さんとティアラ姉さん」
うっとりとしながら頷くローウェンに視線を送り、リュセルは銀色の瞳をキランっと光らせた。
「ふっ、まあな」
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ローウェンの元気な返事を聞いたレオンハルトは、小さく頷いて見学を許可した。
そして、それから数刻後……。
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「………………」
無言なレオンハルトと違い、リュセルの素晴らしい動きを見て目を輝かせたローウェンは大きな歓声を上げる。
「すっご~い! すごく上手だよ、リュセル兄さん! その、剣舞!」
剣舞……。それは、その名の通り、剣を使った一人舞いである。
「足の運び具合、剣のなめらかなる動き、さすがだ。…………だが、舞踏会で普通、剣舞は踊らないのではないか?」
はしゃぐ弟と違い、アルティスは冷静なるつっこみを入れていたのだった。
「アンデュ師は、この踊りしか教えてくれていないぞ」
「お前は舞踏会で、エスコートする姫君をほったらかしにして、一人で剣舞を舞うつもりか」
レオンハルトの淡々とした声音での指摘を聞き、リュセルはたじたじとなる。
「そ……そりゃあ、俺だって変だと思ったが」
「…………」
いくら自分やカイルーズにダンスを教えてくれた王族専任の舞踏の師が、今現在、アシェイラ王都不在だからといって、代役の師をたてたのがそもそもの間違いだった。
あの男(アンデュ師)……、クビだ。
内心そう思いながらも、レオンハルトは小さくため息をついた。
「仕方ないね。残りの期間でなんとか形にするしかあるまい」
そう言うと、気持ちを切り替えて、傍で成り行きを見守っていたアルティスとローウェンに目を向ける。
「二人とも、リュセルの為に見本を見せてやってくれないか」
そう言いながら部屋の中央に置かれたピアノの椅子を引くと、レオンハルトはそこに腰を下ろし、鍵盤の蓋を上げた。
その様子を見て、すぐに目を見合わせたアルティスとローウェンは、同時に互いの前に拳を出してジャンケンをする。
「えええ~~~、僕が女性役ぅ!?」
「ふふふ、ではやるぞ」
二人が手を取り合って互いの体に手を添えたのを見ると、レオンハルトはワルツの音楽を奏で始めた。
兄がピアノを弾ける事を初めて知ったリュセルは、仲良く踊り始めた玉主玉鍵コンビよりも、あまりにも絵になり過ぎるくらい絵になっている、優雅にピアノを弾くレオンハルトを、ボ~~~っとしながら見つめてしまう。
「リュセル。私の顔ではなく、アルティスとローウェンの見本ダンスを見なさい」
「あ、ああ」
こちらを見てもいないのに、弟の熱い視線を感じたのか、リュセルの目が二人に向いていないのに気付いたレオンハルトは冷静に注意を促した。
慌てて踊るローウェンとアルティスに目を移したリュセルは、微笑ましいその光景に頬を緩めそうになる。
楽しそうに音楽に合わせて、ワルツのステップを踏む二人は、見る者を幸せな気持ちにさせた。そして、微笑ましい光景とは裏腹に、その踊りは完璧だ。幼い頃より王族のたしなみとして、二人ともレッスンを受けていたのだから当然だろう。
厳しい教育を受けてきたアルティスと違い、子供の頃、周りの者達から冷遇されてきたローウェンは、実を言うとユリエから習ったのではあるが。
「よく見ておきなさい、リュセル。ワルツの基本は三拍子だ。なめらかな回転をできるだけ継続して、緩やかに体を上下させる」
ピアノを弾きながら説明するレオンハルトの声を聞きながら、リュセルは内心唸る。相手がいる分、剣舞よりも難しいかもしれない。
剣を使用した激しい動きを要求される剣舞は、舞いのプロでさえ覚えるのに苦労するのだが、そんな事を知らないリュセルはそう思う。
「では、見本はもういいだろう。最初は音楽なしでやってみようか」
しばらくの後、そう言って立ち上がったレオンハルトはリュセルの手をとった。
「私が女性パートで踊るからついてきなさい。お前は左足から踏み出すのだよ」
「ああ」
レオンハルトの背に右手を添えて、真剣な表情で頷いたリュセルは、ぎこちない動きでワルツのステップを踏み始める。
ありがたい事に色々な方面に長けたレオンハルトは、教師としての才にも長けてくれていたので、初心者のリュセルを導くように器用に動いていた。
「はい、1、2、3、1、2、3~~」
リズムをとる元気なローウェンの声に合わせて踊るリュセルのダンスレッスンは、その日の夜まで続けられたのだった。
「すまないな。ローウェン、アルティス」
そして、次の日も、リュセルはレオンハルトのスパルタダンス訓練を一日のスケジュールにびっしりと入れられてしまっていた。結果的に、友人であり客人である玉主玉鍵の少年コンビをそれにつき合わせる形になってしまい、申し訳なく思った彼はそう謝罪した。
現在、レオンハルトが騎士団の用事でいない為、アルティスがリズムをとり、ローウェンを女性パートの相手役として、リュセルはダンス訓練を実施中だったのだ。
「全然平気だよ~! っていうか、楽しいよ。ね、アル」
そう言いながらにっこりと笑ったローウェンに答えるように、アルティスも手拍子をしながら頷く。
「ああ。リュセル殿は筋が良いようだからな。上達も早かろう」
「そ、そうか?」
アルティスの言葉にリュセルは嬉しそうに頬を緩めかけるが、すぐに触れ合った手から妙な気の揺らぎを感じとり、眉をひそめた。
「ローウェン?」
「何? リュセル兄さん」
きょとんと自分を見上げる澄んだ蒼色の右目を見つめ返し、リュセルは「いや」っと首を振る。
(気の所為か?)
元気そうなローウェンの様子を見て、リュセルは彼の中に感じた違和感を自分の気の所為なのだと判断した。
「ねえねえ、リュセル兄さん。明日のサイン会が終わったら、一緒に黒猫ノンちゃんのお芝居見に行こうよ! 四作目の”黒猫ノンちゃんと囚われの王子”が公演初日を迎えるんだよ」
「おおおおおおおっ、もちろんその事は知っているぞ! でも、チケットが手に入らなかったんだよなぁ」
一作目、二作目、三作目と、公演される度に人気を増す、世界中に愛される名作(既にこんな域に達してしまっているだろう)、黒猫ノンちゃんシリーズの芝居。
短編集の発売と同時にデコレート商会アシェイラ本店で開催される、作者、ロン・ブラックのサイン会と合わせて、その次の日に、ソードキングダム劇場にて第四作目、黒猫ノンちゃんと囚われの王子が公演初日を迎えるのだ。
「サイン会の抽選券に気をとられるあまり、そっちに出遅れてしまったんだよな」
リュセルのボソリとした、口の中での呟きを耳にしたローウェンは首を傾げた。
「ん、何か言った?」
「いやいや、何でもないぞ。娘(設定)よ」
そんな、リュセルのふざけたような台詞を合図に、ローウェンも、わざとモジモジとしながらそれにのる。
「お父さん(設定)。……いつもありがとう」
「はっはっはっ、どうしたんだ? 急に」
ありもしない口髭をなでる動作をする父親設定のリュセルに対し、娘設定のローウェンは、着ていたトラキアの学塔の制服の内ポケットに入れていたそれを出した。
「じゃ~~~ん、これなんだ?」
「…………ッ!!??」
そ、そそそそそれは……、現在となっては、入手困難と言われている。
「黒猫ノンちゃんシリーズ第四作目、黒猫ノンちゃんと囚われの王子の初日公演のチケットじゃないかっ!」
リュセルのそんな驚きの叫びが部屋中に響くのと、レオンハルトが部屋の扉を開けて戻ってきたのは同時だった。
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