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第十一章 神への叛逆
1-3 魅惑のサイン会
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レオンハルトが弟のダンスレッスン場となっている部屋に戻ると、当のリュセル本人は無茶苦茶にテンションが上がっている状態だった。
「うおおおおおおおおお~~~~~!」
歓喜の声を上げるリュセルを無言で見つめながら、傍で両腕を組んで、同じようにそれを見ているアルティスに視線を移す。
「……アルティス」
呼びかけると、呆れを含んだ目線をレオンハルトによこしながら、アルティスは組んでいた両腕を広げて軽く肩をすくめた。
一方、そんな兄コンビの様子などおかまいなしに、リュセルは目の前のローウェンの華奢な体を抱きすくめて、喜びを表現する。
「ありがとう、娘(設定)よ~~~~~~!」
「そんなに喜んでもらえて嬉しい、お父さん(設定)!」
ローウェンも悪ノリしたまま、リュセルの背に腕を回して抱き返した。
「一体、何の騒ぎだい?」
抱き合うリュセルとローウェンを黙って見ていたレオンハルトは、ようやく小さくため息をつきながら尋ねる。
「ん? レオン、騎士団の用事はもういいのか?」
「ああ、もう大丈夫だよ。それにしても、レッスンのおさらいをしていなさいと言っておいたのに、何を遊んでいるんだい? まったく、いけない子だね」
そんなレオンハルトの小言も、現在進行形でスーパーハイテンションなリュセルには届いていない。
「見ろ、レオン! こ、こここれをっ」
「?」
目の前に掲げられた、黒色の紙切れ(レオンハルトの目から見るとそう見える)に書かれた文字を読み、レオンハルトは無言になる。
「…………」
「明後日、公演初日の、黒猫ノンちゃんと囚われの王子のチケットだ! それも、最前列四枚!」
「えへへへ。作者の僕にかかれば、これ位たやすいものだよ!」
えっへん。と得意げに胸を張るローウェンを横目に、レオンハルトはリュセルが大事そうに持っているそのチケットを剣聖らしい素早い動きでかすめ取った。
「へ?」
大事なチケットを取り上げられたリュセルは、目を丸くする。
「では、これは褒美にするとしよう」
「ほ、褒美?」
リュセルがチケットを取り返そうと伸ばしてくる手を片手で捕えながら、レオンハルトはその美貌にうっとりとするような艶やかな笑みを浮かべた。
「ああ。今日、ダンスの訓練をきちんと出来たらね」
一瞬、レオンハルトの浮かべた微笑に見惚れかけたリュセルだったが、兄の言った言葉内容を理解すると、眉をしかめて不満そうな顔をする。
「さあ、続きから始めようか。ローウェンでは甘えが出て遊んでしまうようだから、アルティス、相手を変わってやってくれ」
「承知」
レオンハルトのその言葉を合図に、ローウェンとアルティスが入れ替わる。
艶めかしい仕草で身をすり寄せてきたアルティスに、リュセルはドッキリしながらもその背に手を回した。
「ん? なんだお主、緊張しておるのか? もっと力を抜くがよい」
妖笑を浮かべながら、誘惑するかのように自分を見上げる闇色の瞳を見下ろし、リュセルはいたたまれない気持ちになった。
少し前の出来事だが、諸事情でリュセルが子供の姿に若返ってしまっていた時に、またまた諸々の事情でアクシデントが発生し、アルティスに襲われかけたのだ。(番外編”銀色の子供”参照)
あの時直接ぶつけられた十五歳とは到底思えぬ色香は、彼の半身ではないリュセルでさえ、ドキドキしてしまう程のものだった。
ローウェンとアルティス。普段はただの仲良し兄弟のような玉主玉鍵の二人だが、アルティスの妖艶さを直接目の当たりにしたリュセルは、それが表の顔なのだという事を、なんとなく察するようになっていた。
束縛愛全開な鬼畜な半身も厄介だが、妖艶過ぎる半身というのも厄介だ。
(がんばれよ、ローウェン)
リュセルはレオンハルトの弾くピアノの音色に合わせてステップを踏むアルティスについていきながら、ローウェンに励ましのエールのこもった視線を送る。
(……どうしたの、リュセル兄さんは? ノンちゃんのチケットを取り上げられたのが、そんなにショックだった!? でも、今日、ちゃんとレッスンをすれば、一緒に観に行けるんだから頑張って!)
ローウェンはリュセルの視線を、思い切り勘違いして受け取っていたのだった。
そうして迎えた、ノンちゃんフェア初日、サイン会当日の朝。
「じゃ、行って来るね。リュセル兄さん、レオンハルト兄さん」
ティアラがこの日の為に作ってくれた、フリルをあしらったセーラー調の上衣にチェック柄のハーフパンツ型の下衣、黒い革のブーツ姿になったローウェンは、天使のような容貌も相まって、そんじょそこらの美少女では敵わぬ程の愛らしさだ。
「ああ、頑張れよ」
「うん!」
リュセルの応援の声に大きく頷きながら変装眼鏡をかけると、ローウェンはアシェイラ風の衣装に身を包んだアルティスと手を繋ぐ。そしてそのまま、サイン会の会場たるデコレート商会アシェイラ本店の会場に向かう為、城を後にしたのだった。
「ふう。ではレオン、こちらも出陣するか」
ローウェンが城を出ると同時に、リュセルは準備の為に立ち上がる。
「リュセル、私達がサイン会に行く事を、ローウェン達に内緒にする必要はあるのかい?」
食後の紅茶を飲んでいた手を止めて、ティーカップをソーサーの上に戻しながら、レオンハルトは秀麗な胡桃色の眉をひそめてそう尋ねた。
「ないっ!」
キランっと銀色の瞳を光らせて断言した弟の自信満々な顔を見返し、レオンハルトはため息をつく。
相変わらず意味不明な事を言い、意味不明な事をするリュセルに、普通の神経の半身ならついて行くことなど不可能だろう。しかし、幸か不幸か、レオンハルトの神経は普通ではなかった。
強靭なる神経の持ち主である(無神経ともいう)彼は、二人分の上着を片手に持ち、部屋を飛び出す弟の後を追う事にする。
「では、行って来る」
「行ってらっしゃいませ」
ゆっくりと頭を下げたティルとクマ吉に頷くと、レオンハルトは黒い外套を羽織ながら自室を後にしたのだった。
黒猫ノンちゃんシリーズ短編集の発売に合わせて行われる、作者”ロン・ブラック”のサイン会と、その次の日に公演初日を迎える、シリーズ第四作目”黒猫ノンちゃんと囚われの王子”。
まさに、ここ、アシェイラ国王都は、今、黒猫ノンちゃんフェアの真っただ中であった。街中、右を見ても黒猫、左を見ても黒猫、どこを見ても黒猫……黒猫だらけ。街のいたる所に貼られたポスターや、広場などの人の集まる場所に作られた大きな黒猫ノンちゃん像。そこはまさしく、黒猫パラダイス!
「す、すごいなっ、レオン!」
先程レオンハルトに買ってもらった黒猫キャンディをなめながら、リュセルはいつも以上に活気あふれる街の様子に興奮気味だ。
「ああ。……ある意味、すごいね」
それに答えるレオンハルトは、いつものように冷静だ。
まさに、カーニバル! 黒猫カーニバルが催されている状態のアシェイラ王都は、本当に平和そのものである。現在、王都にいる人の数も、いつもの倍以上だ。皆、この黒猫ノンちゃんフェアを楽しむ為に、世界中から集まったノンちゃんファンの者達だった。
(ふむ。街の警備の数を、いつもの倍に増やしたのは正解だったようだな)
レオンハルトが昨日、リュセルの元を離れ、騎士団へと出向いたのは、実は、現アシェイラ騎士団総帥フェイランに対し、街の警備の騎士の数を倍以上に増やすように指示を出す為だったのだ。
そして今、その成果が現れ、一気にたくさんの人々が王都に流れ込んで来たにもかかわらず、大した問題も起こらず、皆一様にフェアを楽しんでいる。すべては、出来る第一王子の采配のおかげである。
「レオン、あっちも見てみないか?」
「はいはい」
しかし、当の第一王子は、昨日、フェイランに騎士達の警備配置について厳しい顔で指示を出していた者と同一人物とは思えぬような甘い顔で、グイグイと弟に腕を引っ張られながら苦笑を洩らしていた。
そんなこんなで、街の至る所に設置されていたノンちゃんにちなんだ食べ物を買い食いしていた為、リュセル達がサイン会場に到着したのは、サイン会が開かれてから少し時間が経過した、午後の事だったのだ。
「うおおおおおおおおお~~~~~!」
歓喜の声を上げるリュセルを無言で見つめながら、傍で両腕を組んで、同じようにそれを見ているアルティスに視線を移す。
「……アルティス」
呼びかけると、呆れを含んだ目線をレオンハルトによこしながら、アルティスは組んでいた両腕を広げて軽く肩をすくめた。
一方、そんな兄コンビの様子などおかまいなしに、リュセルは目の前のローウェンの華奢な体を抱きすくめて、喜びを表現する。
「ありがとう、娘(設定)よ~~~~~~!」
「そんなに喜んでもらえて嬉しい、お父さん(設定)!」
ローウェンも悪ノリしたまま、リュセルの背に腕を回して抱き返した。
「一体、何の騒ぎだい?」
抱き合うリュセルとローウェンを黙って見ていたレオンハルトは、ようやく小さくため息をつきながら尋ねる。
「ん? レオン、騎士団の用事はもういいのか?」
「ああ、もう大丈夫だよ。それにしても、レッスンのおさらいをしていなさいと言っておいたのに、何を遊んでいるんだい? まったく、いけない子だね」
そんなレオンハルトの小言も、現在進行形でスーパーハイテンションなリュセルには届いていない。
「見ろ、レオン! こ、こここれをっ」
「?」
目の前に掲げられた、黒色の紙切れ(レオンハルトの目から見るとそう見える)に書かれた文字を読み、レオンハルトは無言になる。
「…………」
「明後日、公演初日の、黒猫ノンちゃんと囚われの王子のチケットだ! それも、最前列四枚!」
「えへへへ。作者の僕にかかれば、これ位たやすいものだよ!」
えっへん。と得意げに胸を張るローウェンを横目に、レオンハルトはリュセルが大事そうに持っているそのチケットを剣聖らしい素早い動きでかすめ取った。
「へ?」
大事なチケットを取り上げられたリュセルは、目を丸くする。
「では、これは褒美にするとしよう」
「ほ、褒美?」
リュセルがチケットを取り返そうと伸ばしてくる手を片手で捕えながら、レオンハルトはその美貌にうっとりとするような艶やかな笑みを浮かべた。
「ああ。今日、ダンスの訓練をきちんと出来たらね」
一瞬、レオンハルトの浮かべた微笑に見惚れかけたリュセルだったが、兄の言った言葉内容を理解すると、眉をしかめて不満そうな顔をする。
「さあ、続きから始めようか。ローウェンでは甘えが出て遊んでしまうようだから、アルティス、相手を変わってやってくれ」
「承知」
レオンハルトのその言葉を合図に、ローウェンとアルティスが入れ替わる。
艶めかしい仕草で身をすり寄せてきたアルティスに、リュセルはドッキリしながらもその背に手を回した。
「ん? なんだお主、緊張しておるのか? もっと力を抜くがよい」
妖笑を浮かべながら、誘惑するかのように自分を見上げる闇色の瞳を見下ろし、リュセルはいたたまれない気持ちになった。
少し前の出来事だが、諸事情でリュセルが子供の姿に若返ってしまっていた時に、またまた諸々の事情でアクシデントが発生し、アルティスに襲われかけたのだ。(番外編”銀色の子供”参照)
あの時直接ぶつけられた十五歳とは到底思えぬ色香は、彼の半身ではないリュセルでさえ、ドキドキしてしまう程のものだった。
ローウェンとアルティス。普段はただの仲良し兄弟のような玉主玉鍵の二人だが、アルティスの妖艶さを直接目の当たりにしたリュセルは、それが表の顔なのだという事を、なんとなく察するようになっていた。
束縛愛全開な鬼畜な半身も厄介だが、妖艶過ぎる半身というのも厄介だ。
(がんばれよ、ローウェン)
リュセルはレオンハルトの弾くピアノの音色に合わせてステップを踏むアルティスについていきながら、ローウェンに励ましのエールのこもった視線を送る。
(……どうしたの、リュセル兄さんは? ノンちゃんのチケットを取り上げられたのが、そんなにショックだった!? でも、今日、ちゃんとレッスンをすれば、一緒に観に行けるんだから頑張って!)
ローウェンはリュセルの視線を、思い切り勘違いして受け取っていたのだった。
そうして迎えた、ノンちゃんフェア初日、サイン会当日の朝。
「じゃ、行って来るね。リュセル兄さん、レオンハルト兄さん」
ティアラがこの日の為に作ってくれた、フリルをあしらったセーラー調の上衣にチェック柄のハーフパンツ型の下衣、黒い革のブーツ姿になったローウェンは、天使のような容貌も相まって、そんじょそこらの美少女では敵わぬ程の愛らしさだ。
「ああ、頑張れよ」
「うん!」
リュセルの応援の声に大きく頷きながら変装眼鏡をかけると、ローウェンはアシェイラ風の衣装に身を包んだアルティスと手を繋ぐ。そしてそのまま、サイン会の会場たるデコレート商会アシェイラ本店の会場に向かう為、城を後にしたのだった。
「ふう。ではレオン、こちらも出陣するか」
ローウェンが城を出ると同時に、リュセルは準備の為に立ち上がる。
「リュセル、私達がサイン会に行く事を、ローウェン達に内緒にする必要はあるのかい?」
食後の紅茶を飲んでいた手を止めて、ティーカップをソーサーの上に戻しながら、レオンハルトは秀麗な胡桃色の眉をひそめてそう尋ねた。
「ないっ!」
キランっと銀色の瞳を光らせて断言した弟の自信満々な顔を見返し、レオンハルトはため息をつく。
相変わらず意味不明な事を言い、意味不明な事をするリュセルに、普通の神経の半身ならついて行くことなど不可能だろう。しかし、幸か不幸か、レオンハルトの神経は普通ではなかった。
強靭なる神経の持ち主である(無神経ともいう)彼は、二人分の上着を片手に持ち、部屋を飛び出す弟の後を追う事にする。
「では、行って来る」
「行ってらっしゃいませ」
ゆっくりと頭を下げたティルとクマ吉に頷くと、レオンハルトは黒い外套を羽織ながら自室を後にしたのだった。
黒猫ノンちゃんシリーズ短編集の発売に合わせて行われる、作者”ロン・ブラック”のサイン会と、その次の日に公演初日を迎える、シリーズ第四作目”黒猫ノンちゃんと囚われの王子”。
まさに、ここ、アシェイラ国王都は、今、黒猫ノンちゃんフェアの真っただ中であった。街中、右を見ても黒猫、左を見ても黒猫、どこを見ても黒猫……黒猫だらけ。街のいたる所に貼られたポスターや、広場などの人の集まる場所に作られた大きな黒猫ノンちゃん像。そこはまさしく、黒猫パラダイス!
「す、すごいなっ、レオン!」
先程レオンハルトに買ってもらった黒猫キャンディをなめながら、リュセルはいつも以上に活気あふれる街の様子に興奮気味だ。
「ああ。……ある意味、すごいね」
それに答えるレオンハルトは、いつものように冷静だ。
まさに、カーニバル! 黒猫カーニバルが催されている状態のアシェイラ王都は、本当に平和そのものである。現在、王都にいる人の数も、いつもの倍以上だ。皆、この黒猫ノンちゃんフェアを楽しむ為に、世界中から集まったノンちゃんファンの者達だった。
(ふむ。街の警備の数を、いつもの倍に増やしたのは正解だったようだな)
レオンハルトが昨日、リュセルの元を離れ、騎士団へと出向いたのは、実は、現アシェイラ騎士団総帥フェイランに対し、街の警備の騎士の数を倍以上に増やすように指示を出す為だったのだ。
そして今、その成果が現れ、一気にたくさんの人々が王都に流れ込んで来たにもかかわらず、大した問題も起こらず、皆一様にフェアを楽しんでいる。すべては、出来る第一王子の采配のおかげである。
「レオン、あっちも見てみないか?」
「はいはい」
しかし、当の第一王子は、昨日、フェイランに騎士達の警備配置について厳しい顔で指示を出していた者と同一人物とは思えぬような甘い顔で、グイグイと弟に腕を引っ張られながら苦笑を洩らしていた。
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