【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十一章 神への叛逆

10-1 失われた銀の王子と朱金姉妹の再会

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「お前ナンか……お前、なんカ…………」

 そう呻くマーリンの頬にリュセルは手探りで触れた。

「泣いているのか?」

「っ!?」

 指先が濡れる感触にリュセルが眉をひそめるのと、マーリンの顔が屈辱に歪むのは同時だった。

「嫌いダ……嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、大嫌いダ! お前なんカ!」

「ああ、わかった。俺の事は嫌いでもいい。でも、そうやって自分を傷つけるのは、もうやめるんだ」

 そう優しく言って頬の涙を拭ってくれる、その手の温かさ、心地よさ。

「ヤメロ……」

 このままでは、懐柔させられてしまう。この王子の魅力の虜とさせられる。

「ソんなの嫌だ……、ユルされない!」

「おいで、可哀そうな子」

 ゆっくりと、抱きしめる為に伸ばされる両腕。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!


「ワタシは癒されたいなどと、考えていナイッ」

 そう叫ぶと同時に、懐からそれを出していた。クラウンより渡されてから、ずっと大事に持っていた小箱。
宝鍵の動きを止めると同時に破壊する事も出来るであろう、その装置。

「ワタシは、ワタシを拾い、救ってくださったナイトサマの為に生きルと決めたンダ、それを邪魔する奴はユルさない!」

 そう叫ぶと同時にマーリンは、装置のネジを最大限に回した。

「死んデしまえッ!」



 それは

 身も、心も、破壊し尽くすような

 破滅的な音



 悲鳴を上げる事も出来なかった。

 あまりにも近くで、あまりにもひどい状態で、それを聞いたのだ。


(兄さん……)


 最後に脳裏に浮かんだ、微笑を浮かべる半身の幻影に手を伸ばしながら、リュセルはそのまま昏倒する。

 もう……耐えられなかった。



「お……オイ」

 動揺していたとはいえ、やり過ぎた。マーリンは慌ててリュセルの体に縋る。

 声を上げる事もなく、一瞬体をビクリと震わせたと思ったら、その場に倒れたリュセルの瞼は力なく伏せられていて、ぐったりと床に仰向けに転がっていた。

 そして、触れたと同時にそれはすぐに知れる。すぐに分かる。

「あ……あ、あ、あ、」

 その事実にマーリンは目を見開き、ただ首を振るしかない。

 その青年の、月の色をした銀の髪も、白磁のような白い肌も、そのままだ。

 しかし……。



 目の前に倒れた青年は、完全に息をしていなかった。







 そうして、マーリンがリュセルの死を確認した、その時から時間は再び進み、場面はレオンハルトの暴走を目の当たりにしたティアラ、ミルフィン、ハミルが邸内への侵入に成功し、ジュリナを探すところに移行する。

 リュセルの気配が断ち消えた事実にそんな背景があった事などまるで知らないティアラは、消失したリュセルの気配と、狂いかけているレオンハルトの現状に胸を痛め、一刻も早い、姉ジュリナとの合流を願っていた。



「邸内の主だった戦力は、根こそぎすべて、正面入り口の方へと駆り出されているようですわね」

 廊下を走りながら、襲い来る邸内の使用人(実はヒューマンの非戦闘員メンバーだったのだが)をハミルと一緒に叩きのめすと、ミルフィンはそう言って、後ろで自分達に守られているはずのティアラを振り返る。

 しかし

「えええ~~~いッ!」

 そこには、後ろから襲いかかってきていたらしい使用人達を、持っていた小振りのフライパンで勢いをつけて薙ぎ払う姫君の姿があった。

「ティ、ティアラ姫様……????」

 可憐でたおやか。そんなイメージが常に付きまとうティアラだったが、今の彼女は、離れ離れになっていた半身と再会する為に必死に戦う、一人の恋する乙女になっていたのだ。

「そ、そんなフライパン、一体どこから持って来たんです!?」

 唖然としたようなミルフィンの疑問に対し、ハミルがわかった! というように両手を叩く。

「邸内に侵入した時に始めに立ち寄った厨房でじゃないですか!?」

 料理人の姿こそなかったが、確かにたくさんの調理器具があそこにはあった。

「お姉様とわたくしの間に立ちふさがる者は許しませんわ!」

 そう言ってフライパン片手に腰に手を添えるティアラの姿は、惚れ惚れする程凛々しい。ジュリナとの血のつながりを感じさせる凛々しさである。

「さ、さすが、ジュリナ姐さんの妹君」

「ディエラの女性は強いですねぇ」

 納得するようなミルフィンの声とのん気なハミルの声が虚しく響く。

「さあ、行きますわよ。ミルフィン、ハミル!」

 キラリと煌く力強い緑色の瞳を見返すと、ミルフィンとハミルは大きく頷いた。

「「はい、姐さん!」」

 もう、すぐそこまで、慕わしくも恋しい気配が近付いてきているのがティアラにはわかっていたのだ。







 一方のジュリナは、自分の走る速度についてこれなくなっていたワトスンの巨漢を肩に担ぎあげながら、妹の気配のする方向へと走っていた。

(ティア、ティア、ティア、ティア、ティア、ティア!)

 頭の中は妹の事でいっぱいである。他の事を考える余裕がない。

「うわあああああああーー、降ろせええええーーーー!!」

 それ故に、自分の肩上で情けない悲鳴を上げるワトスンの事など、完全無視状態になっていた。

(な、なんて……情けない)

 冷酷無比の凄腕の傭兵と名の知れた自分が、女の腕に軽々と持ち上げられて悲鳴を上げているなんて。ワトスンのプライドはズタズタである。

(ティア、ティア、ティア、ティア、ティア、ティア! ああ、私のティアラ!)

 そんなワトスンの心の内など、本気でどうでもいいジュリナは、何度も胸の内で妹に呼びかけながら、必死にひたすら走る。

 そして、何度目かの廊下の角を曲がった時。そこに愛おしくも可憐な姿を、ようやくその目にする事が叶った。

「ティアーーーーーーーーッ!」

 廊下の先にいる妹に大音量で呼びかけると、担いでいた荷物|(ワトスン)を放り投げる。

「ぐはっ」

 粗雑な扱いにワトスンは呻くが、そんな呻き声など、今のジュリナにはまったく聞こえていなかった。

「お姉様ーーーー!」

 姉の声を聞いたティアラの動きは素早かった。走って走って、そして、自分の為に大きく広げられた腕の中へと、一目散に飛び込む。他のものは何も見えない。姉のたおやかだがたくましい腕に抱かれた瞬間、ティアラは安堵と歓喜のあまり、涙で前が見えなくなってしまう程だった。

「お姉様。良かった……ご無事で」

「心配かけてすまなかったね、ティア」

 すまなさそうに伏せられる深紅の瞳を涙を拭いながら見上げると、ティアラはにっこりと微笑む。

「いえ、わたくしはお姉様の事を信じておりましたもの」

「ティア」

 健気な妹の言葉を聞き、ジュリナの瞳も潤みかける。

「ずっと、お前の元に戻りたかったよ」

「お姉様……」

 もう二度と離れまいとでもいうように、再び固い抱擁を交わす朱金の姉妹。その様子を見守っていたミルフィンもハミルも、ほっと胸を撫で下ろした。

「本当に、良かったですぅぅぅぅ!」

「もう、泣くんじゃないわよ! 男の子でしょ!?」

「ミ、ミルフィン様だって~~」

 ミルフィン達がもらい泣きをしていた時だった。



 ドーーーーーーーーーンッッ



 遠くから爆発音が響いたのは。

「っ!?」

「きゃあっ!」

 爆発の影響で床が揺れ、咄嗟にジュリナは妹を庇った。

「な、何なの!?」

 そう叫び、ミルフィンが廊下の窓を開けて、爆発のあった方角を確かめようとする。

「あそこは正面の入口付近だ」

 同じように窓から外を確かめていたワトスンが、ミルフィンの隣りで呆然と呟いた。

「え? どなた?」

 ワトスンの事を知らないミルフィンもハミルも大きく首を傾げるが、状況は切迫しており、それを説明している暇がなかった。

「レオンハルト」

 唇を噛みしめながらそう呟く姉の美貌を見上げながら、ティアラは言った。

「お姉様。レオンハルト様はリュセル様の気配の消失の影響で混乱しております。精神の均衡を欠いている状態ですわ。このままでは、このルーンメッセの街を壊滅させてしまうかもしれません」

「リュセル。あの子は、本当に…………死んだのか?」

 弱々しく項垂れるジュリナの顔を見上げ、ティアラは胸元を抑え込み、その不安を打ち消そうとした。

「わたくしにも……リュセル様の気配は、消失したようにしか感じられません。実際に目にした訳ではないですが……、半身の死を、間違えるはずがありませんもの。レオンハルト様のあの様子では、否定…………出来ませんわ」

 そう口にした瞬間、大声で泣きたい気持ちに襲われる。誰にも分からなくても、半身にはわかるのだ。気配の消失の、その原因さえも。それは、本能で悟るもの。

 間違いであって欲しい。

 しかし、リュセルの気配の消失とその後のレオンハルトの混乱が、それが間違えようのない事実である事を示している。

「ふ……っ」
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