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第十一章 神への叛逆
11-1 女神降臨
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ティアラの絶叫が響いた、その時。
「わらわの娘に触れないでもらおうか」
「!?」
白銀の光が倒れ伏した青年の体から放たれ、サイレンは咄嗟にそこから離れる。
「何……っ!?」
あまりの眩しさに目を閉じた、一瞬後。
彼は、そこにいた
まるで玉座に腰かける帝王のような傲慢さで、片膝を立て、床に座り込んだ姿勢のまま、片腕にティアラを抱き、唇に不可思議な笑みを浮かべていたのだ。
立てた膝に片腕を乗せて首を傾げたまま、銀色に輝く瞳を、彼は……リュセルはゆっくりと細める。
「姉神様……。己が子の危機に現れたという訳ですか」
「本当なら、具合の悪いこの子の事を思い、わらわが出る事はしたくはなかったのだが、あのままでは壊れてしまうと思った故、一度肉体を仮死状態にしたまでの事。まったく……ひどい事をしよる」
そう言いながらリュセルは、ティアラの柔らかな体を抱いたまま、ゆっくりと立ち上がる。
眩し過ぎる神気を放つ魂。その状態を感じ取ると同時に、余裕のあったサイレンの表情が変化した。
「……な、に? なんですか……、これは!? あなた一体っ!!」
サイレンはリュセルの状態に愕然としながら、目の前の銀の王子の額に不可思議な神の紋がゆっくりと浮かび上がるのを恐怖と共に見守るしかなかった。
「ま……さか、姉神様……あなたは……」
金の髪を振り乱し、恐る恐るサイレンがそう呟くと、リュセルの顔をした創世の女神、レイデュークは微笑を浮かべ、それを肯定の証とする。
「はっ、はははははは、あははははははははははっ!」
あまりにも想定外な事実だ。サイレンは狂ったような笑い声を上げるしかない。
それは、あまりにも……あまりにも、あり得ぬ話。
それは……
「そうですか……。まさか、そんな事が起こるなど想像もしていませんでしたよ、古の女神…………。つまり、あなたは……あなたがその青年の肉体に宿っているのではなく、その青年、魂こそが、あなたの生まれ変わりだったという事ですか!?」
サイレンのその叫びに、レイデュークは微笑を浮かべたまま頷く。
「そう……3000年前、お前がわらわの腕の中から眠るスノーを奪い去った時から準備を進めてきた。この世界に人として産まれ落ちる、その準備をな」
「……マスターが固執するはずです。まさか、本人だったとは」
苦虫を噛み潰したような顔のまま、唸るように告げられた言葉。それを聞いたレイデュークは、自分の……、いや、リュセルの手を見下ろす。
「リュセルは……この子は、わらわであって、そうではない。わらわの息子でありながら、わらわ自身でもある。同じ魂でありながら、異なる心。わらわの希望」
柔らかな優しい声でそう告げると、ゆっくりと顔を上げた。
「去ね」
「…………ッ」
射るような女神の眼差しにどうする事も出来ず、サイレンは姿を消すしかない。どういうつもりかは知らないが、見逃してもらえるとは思いもしなかったというのが本音でもあった。
「……」
そんなサイレンを追うように、翠緑の小鳥も飛び立つ。
その時。
「セフィラン」
「!?」
不意に名を呼ばれ、小鳥は戸惑うような素振りを見せる。
「お前は、本当は優しい子だよ」
温かな言葉と共に向けられる母の眼差し。それを目にした小鳥は一瞬気をとられるが、すぐに我に返って、サイレンの去った時空の彼方へと姿を消す。
「優しい子だ」
最後にもう一度、それは優しく響いた。
「…………」
邪鬼が去った室内。
今までの出来事を、まるで夢の中にいるような心境で見つめていたティアラは、自分を抱いたリュセルがゆっくりと移動するのについて行っていた。
「ティアラ、わらわの鏡を持っているね?」
「はい、お母様」
ぼんやりとしながらも、一片の迷いもなく、ティアラはリュセルを母と呼ぶ。
「いい子だ」
素直に差し出されたのは、額に不可思議な紋様が刻まれた見事な鏡。リュセルはそれを受けとると、床に倒れたマーリンの動かぬ心臓の上に乗せる。
「おいで、愛しい我が娘。手伝っておくれ、邪気を浄化したいのだ」
そんな言葉と共に手を取られ、鏡に手を掲げさせられる。
リュセルの意志に従い、ティアラが意識を鏡に集中させると、その体が段々と透け始めた。宝主がいない為、完全に同化出来ずに半同化している状態になっているのである。
だが、それでも充分だった。マーリンの中にある、邪気を浄化するには……。
銀色の神の光が室内を満たし、それが霧散したと同時に、止まったはずの心臓は再び動き始める。
ドクンッ
「あ……」
半同化を解いたティアラが驚きの声を上げる目前で、マーリンの瞳はゆっくりと瞬いた。
「かはっ」
自発呼吸を始めた子供をじっと見守っていたリュセルは、安堵のため息をついて真実を口にする。
「邪気の部分を浄化した故、この子はもうただの人間に生まれ変わった。もう邪混鬼ではない。人としての一生を全うする事になるだろう。止められていた時もこれで動き出すはず。すぐに大きく成長する事だろうよ」
そう言うと、大きく目を見開いて自分を凝視するワトスンに目を向ける。
「この子を頼んだぞ」
「……っ」
声を詰まらせている様子のワトスンに慈悲深い微笑みを向けた後、女神は不意に目を閉じた。
「詩っておくれ、リュセル。レオンがこのままでは狂ってしまう。止められるのはお前だけだ。わらわには出来ぬ」
その言葉と共に開かれた瞳は、先程と変わらぬ薄い銀色。しかし、彼の顔に浮かぶ表情から、女神が去った事をティアラは悟る。
「ああ、分かっている。母上」
リュセルは目を瞬くと、緊張した面持ちで自分を見守るティアラにゆっくりと顔を向け、甘い微笑みを浮かべた。
「ティアラ姫」
「ッ!」
間違えようもない、リュセルの声、言葉、微笑、気配に、ティアラは涙が溢れるのを止める事が出来なかった。
「リュセル……、リュセル、様!」
しゃっくりを上げて自分に縋るティアラの体を抱きしめると、リュセルは優しく告げる。
「お願いがあります、ティアラ姫」
「……?」
「実は熱が結構高くて、立ってるのがやっとなんですよ」
「!!」
確かに、ティアラが触れた目の前の体は熱かった。
「一人じゃ心もとないんです。だから……」
「リュセル様?」
不思議そうに傾げられたティアラの可憐な容貌を覗きこみながら、リュセルは彼女の額に自分の額を合わせる。
(っ!?)
瞬間、全身に電流が走り、ティアラは突然の事に目を見開く事しか出来ない。
「一緒に詩ってくれませんか?」
リュセルが見下した、ティアラの額。そこには、現在自分自身の額にも浮かぶ神紋がくっきりと浮かび上がっていた。
「詩(うた)?」
「祈りの詩。レイデューク……いえ、母上の希望の祈りです。分かるでしょう? あなたなら」
ティアラはリュセルの声を聞くと目を閉じ、小さく頷く。
「ええ、リュセル様。分かりますわ。一緒に行きましょう」
リュセルはその返事ににっこりと微笑むと、ティアラの手の甲に口づけた。
「ありがとうございます。久遠の姫君」
そう言うと、レイデュークが残した力を使って、ティアラを抱いたまま空間移動する事にする。
(レオン)
半身の魂の叫びが、ずっと耳の奥で鳴り響いていた。
ガッ
ガッ
ダンッ
ザシュッ
「はっ、はぁはぁ……っ」
剣の激しい打ち合いの音に交じってジュリナの息切れの声が聞こえ始めたのに気づくと、宝主同士の戦いを息を呑んで見守っていたミルフィンは目を見張る。
無言のまま剣を交える、レオンハルトとジュリナの動きは速過ぎて、目で追う事が敵わない。そんな不安と焦りの中、聞こえ始めた不規則な息切れの声に、ミルフィンは嫌な予感がした。
「おされてるわ、ジュリナ様」
「え!? 見えるんですか!?」
レオンハルトに倒された怪我人の手当をしながら、ハミルは主の言葉に驚く。
「見えないわよ、あんな動き。ただ……息切れの音が」
高い戦闘能力を持つジュリナだが、その上を行くレオンハルトの動きについていくのがやっとなのだろう。
同じ宝主といえども、能力の差に開きがあるのだ。いつもの喧嘩では、おそらく、レオンハルトの方が一応女性であるジュリナを気遣って加減していた。互角に渡り合えていたのはその為である。
「わらわの娘に触れないでもらおうか」
「!?」
白銀の光が倒れ伏した青年の体から放たれ、サイレンは咄嗟にそこから離れる。
「何……っ!?」
あまりの眩しさに目を閉じた、一瞬後。
彼は、そこにいた
まるで玉座に腰かける帝王のような傲慢さで、片膝を立て、床に座り込んだ姿勢のまま、片腕にティアラを抱き、唇に不可思議な笑みを浮かべていたのだ。
立てた膝に片腕を乗せて首を傾げたまま、銀色に輝く瞳を、彼は……リュセルはゆっくりと細める。
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そう言いながらリュセルは、ティアラの柔らかな体を抱いたまま、ゆっくりと立ち上がる。
眩し過ぎる神気を放つ魂。その状態を感じ取ると同時に、余裕のあったサイレンの表情が変化した。
「……な、に? なんですか……、これは!? あなた一体っ!!」
サイレンはリュセルの状態に愕然としながら、目の前の銀の王子の額に不可思議な神の紋がゆっくりと浮かび上がるのを恐怖と共に見守るしかなかった。
「ま……さか、姉神様……あなたは……」
金の髪を振り乱し、恐る恐るサイレンがそう呟くと、リュセルの顔をした創世の女神、レイデュークは微笑を浮かべ、それを肯定の証とする。
「はっ、はははははは、あははははははははははっ!」
あまりにも想定外な事実だ。サイレンは狂ったような笑い声を上げるしかない。
それは、あまりにも……あまりにも、あり得ぬ話。
それは……
「そうですか……。まさか、そんな事が起こるなど想像もしていませんでしたよ、古の女神…………。つまり、あなたは……あなたがその青年の肉体に宿っているのではなく、その青年、魂こそが、あなたの生まれ変わりだったという事ですか!?」
サイレンのその叫びに、レイデュークは微笑を浮かべたまま頷く。
「そう……3000年前、お前がわらわの腕の中から眠るスノーを奪い去った時から準備を進めてきた。この世界に人として産まれ落ちる、その準備をな」
「……マスターが固執するはずです。まさか、本人だったとは」
苦虫を噛み潰したような顔のまま、唸るように告げられた言葉。それを聞いたレイデュークは、自分の……、いや、リュセルの手を見下ろす。
「リュセルは……この子は、わらわであって、そうではない。わらわの息子でありながら、わらわ自身でもある。同じ魂でありながら、異なる心。わらわの希望」
柔らかな優しい声でそう告げると、ゆっくりと顔を上げた。
「去ね」
「…………ッ」
射るような女神の眼差しにどうする事も出来ず、サイレンは姿を消すしかない。どういうつもりかは知らないが、見逃してもらえるとは思いもしなかったというのが本音でもあった。
「……」
そんなサイレンを追うように、翠緑の小鳥も飛び立つ。
その時。
「セフィラン」
「!?」
不意に名を呼ばれ、小鳥は戸惑うような素振りを見せる。
「お前は、本当は優しい子だよ」
温かな言葉と共に向けられる母の眼差し。それを目にした小鳥は一瞬気をとられるが、すぐに我に返って、サイレンの去った時空の彼方へと姿を消す。
「優しい子だ」
最後にもう一度、それは優しく響いた。
「…………」
邪鬼が去った室内。
今までの出来事を、まるで夢の中にいるような心境で見つめていたティアラは、自分を抱いたリュセルがゆっくりと移動するのについて行っていた。
「ティアラ、わらわの鏡を持っているね?」
「はい、お母様」
ぼんやりとしながらも、一片の迷いもなく、ティアラはリュセルを母と呼ぶ。
「いい子だ」
素直に差し出されたのは、額に不可思議な紋様が刻まれた見事な鏡。リュセルはそれを受けとると、床に倒れたマーリンの動かぬ心臓の上に乗せる。
「おいで、愛しい我が娘。手伝っておくれ、邪気を浄化したいのだ」
そんな言葉と共に手を取られ、鏡に手を掲げさせられる。
リュセルの意志に従い、ティアラが意識を鏡に集中させると、その体が段々と透け始めた。宝主がいない為、完全に同化出来ずに半同化している状態になっているのである。
だが、それでも充分だった。マーリンの中にある、邪気を浄化するには……。
銀色の神の光が室内を満たし、それが霧散したと同時に、止まったはずの心臓は再び動き始める。
ドクンッ
「あ……」
半同化を解いたティアラが驚きの声を上げる目前で、マーリンの瞳はゆっくりと瞬いた。
「かはっ」
自発呼吸を始めた子供をじっと見守っていたリュセルは、安堵のため息をついて真実を口にする。
「邪気の部分を浄化した故、この子はもうただの人間に生まれ変わった。もう邪混鬼ではない。人としての一生を全うする事になるだろう。止められていた時もこれで動き出すはず。すぐに大きく成長する事だろうよ」
そう言うと、大きく目を見開いて自分を凝視するワトスンに目を向ける。
「この子を頼んだぞ」
「……っ」
声を詰まらせている様子のワトスンに慈悲深い微笑みを向けた後、女神は不意に目を閉じた。
「詩っておくれ、リュセル。レオンがこのままでは狂ってしまう。止められるのはお前だけだ。わらわには出来ぬ」
その言葉と共に開かれた瞳は、先程と変わらぬ薄い銀色。しかし、彼の顔に浮かぶ表情から、女神が去った事をティアラは悟る。
「ああ、分かっている。母上」
リュセルは目を瞬くと、緊張した面持ちで自分を見守るティアラにゆっくりと顔を向け、甘い微笑みを浮かべた。
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「ッ!」
間違えようもない、リュセルの声、言葉、微笑、気配に、ティアラは涙が溢れるのを止める事が出来なかった。
「リュセル……、リュセル、様!」
しゃっくりを上げて自分に縋るティアラの体を抱きしめると、リュセルは優しく告げる。
「お願いがあります、ティアラ姫」
「……?」
「実は熱が結構高くて、立ってるのがやっとなんですよ」
「!!」
確かに、ティアラが触れた目の前の体は熱かった。
「一人じゃ心もとないんです。だから……」
「リュセル様?」
不思議そうに傾げられたティアラの可憐な容貌を覗きこみながら、リュセルは彼女の額に自分の額を合わせる。
(っ!?)
瞬間、全身に電流が走り、ティアラは突然の事に目を見開く事しか出来ない。
「一緒に詩ってくれませんか?」
リュセルが見下した、ティアラの額。そこには、現在自分自身の額にも浮かぶ神紋がくっきりと浮かび上がっていた。
「詩(うた)?」
「祈りの詩。レイデューク……いえ、母上の希望の祈りです。分かるでしょう? あなたなら」
ティアラはリュセルの声を聞くと目を閉じ、小さく頷く。
「ええ、リュセル様。分かりますわ。一緒に行きましょう」
リュセルはその返事ににっこりと微笑むと、ティアラの手の甲に口づけた。
「ありがとうございます。久遠の姫君」
そう言うと、レイデュークが残した力を使って、ティアラを抱いたまま空間移動する事にする。
(レオン)
半身の魂の叫びが、ずっと耳の奥で鳴り響いていた。
ガッ
ガッ
ダンッ
ザシュッ
「はっ、はぁはぁ……っ」
剣の激しい打ち合いの音に交じってジュリナの息切れの声が聞こえ始めたのに気づくと、宝主同士の戦いを息を呑んで見守っていたミルフィンは目を見張る。
無言のまま剣を交える、レオンハルトとジュリナの動きは速過ぎて、目で追う事が敵わない。そんな不安と焦りの中、聞こえ始めた不規則な息切れの声に、ミルフィンは嫌な予感がした。
「おされてるわ、ジュリナ様」
「え!? 見えるんですか!?」
レオンハルトに倒された怪我人の手当をしながら、ハミルは主の言葉に驚く。
「見えないわよ、あんな動き。ただ……息切れの音が」
高い戦闘能力を持つジュリナだが、その上を行くレオンハルトの動きについていくのがやっとなのだろう。
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