【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十二章 月華の乙女

15-1 探索

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「今の内に探しましょう」

 そんなセフィの言葉に従い、当番表探しに専念した為、ルークが何故ここに来たのかも、その後彼がどうなったのかもリュセルには知る由もなかった。



 そして、忍び込んだ神官長補佐室にて……。

「すごい几帳面だな、ウインター神官長補佐って」

 整然とした神官長補佐机と付き人用の机、そして、部屋に配置された棚を見回しながらリュセルは呟く。
 
 棚に並べられた書類はきちんと項目ごとに仕分けされ、整然と並べられていた。その中から懺悔室当番表のファイルを選んだレオンハルトは、それを抜き取ると机の上に置き、ゆっくりと開いた。

「うわ、本当に、昨日今日、ずっとライチェル神官査が当番やってんだな」

 兄の横から当番表を覗き見たリュセルは、食事や休憩以外の時間、すべてリチャードの名前で埋め尽くされているのを見て顔を引きつらせる。

「デイズ神官の話によると、懺悔に訪れたのは一昨日の昼頃。午前の間は、ウオッカ神官とジャクソン神官が交代で当番にあたっていたようだが」

 肝心の昼食時、12刻の時刻の欄が空白だった。

「なんじゃ、こりゃ~~!」

 肝心の場所に何も書かれていないというありえない事実に、リュセルは悲鳴を上げる。

「空欄だね」

 ショックのあまり固まったリュセルと違い、レオンハルトは冷静に、何かおかしなところはないか、丹念に隅々まで目を通していた。

「だが、いつまでもここにいられないだろう。何か書けるものはないか? これを書き移そう」

 レオンハルトの要望を聞いたリュセルは、慌ててラテーヌの机の上にあった紙とペンを用意する。

「手元をもっと照らしてくれないか?」

 その要望には、小さなランプを片手に持っていたセフィが応じる。

「ああ、その辺でいいよ」

 盲目であるにも関わらず、器用にレオンハルトの手元を照らすセフィを見つめ、状況を忘れてリュセルは感心してしまう。

(いつも思うんだが、セフィ殿は目が見えていないという事実を忘れてしまう程、普通に生活してるよな)

 目を固く閉じている為周りが見えていないという事実は違いないだろうが、本当に盲目なのか疑ってしまう時がある。

「セフィ殿。失礼ですが、その目は生まれつきですか?」

 リュセルの問いを聞き、セフィは驚いたようにリュセルのいる方に顔を向けた。

「やめなさい、リュセル」

 本当に失礼な弟の言葉を聞き咎め、レオンハルトが叱責する。

「いいのです、剣主様。剣鍵様、この目が見えなくなったのは子供の頃の大病が元なので、生まれつきではないのですよ。急にいかがしましたか?」

「いえ、すみません。突然失礼な事を言いました。」

 困惑の表情を浮かべるセフィの顔を見返しながら、リュセルはぼんやりと思う。この人の瞳の色は何色なのだろうか?

(髪が緑だからな。瞳も緑系か? それとも、青……、茶、黒?)

 まさか、目を開けて見せてくれなどと、更に非礼に当たる事を言い出せるはずもない。まあ、何色であろうとも、優しいこの人の事だ。瞳もきっと優しい色をしているに違いないだろう。

「終わったよ」

 ((早っ))

 リュセルとセフィは、レオンハルトの終了の言葉を聞いて、同時にそう思った。

「では、ここを出よう」

 リュセルはそう言うと、神官長補佐室を出て、来た時同様忍び足で廊下を歩く。

「それにしても、神官長補佐は何しにここに来たんだ? ま、ままままさか、昨夜の俺達のように黒猫朗読会を開いているんじゃ」

 ルークの昇って行った階段を見上げながら小声でセフィにそう言うと、彼は微妙な顔をした。

「そんな事、絶対ないと思いますよ。ウインター神官長補佐は、セリクス神官長が仕事をさぼって小説を読んでいるのを何度も怒っていましたし、むしろ、黒猫ノンちゃんシリーズの事を良く思っていないのではないでしょうか?」

 神官長がさぼりの道具にする所為で。

 セフィの言葉を聞いたリュセルは、更に不思議に思う。

「では、何の用なんだ? 夕食の時間だろ、今は」

「仕事の事ではないでしょうか? 真面目な方ですから。ウインター神官長補佐は」

 病欠をした日位休めばいいのに、仕事が気になって仕方ないという事か。

「損な気質の持ち主だな」

 少し位気を抜いたって、罰は当たらないだろうに。

「まったくです」

 「ぷっ」

 セフィのため息交じりの言葉にリュセルが小さく吹き出すと、それに同調するようにセフィ自身も楽しそうに笑った。







 そうして、神官長館を後にし、寄宿舎に戻った後。


 空欄…………。


 上から見ても、下から見ても、横から見ても、何も書かれていない。

「ううううううう~」

 リュセルは兄が書き写してきた懺悔室の当番表を睨み見ながら唸り声を上げる。そして、気づいた。よくよく見ると、空欄時刻は他の日にも結構あったのだ。

「これって、この時刻、懺悔室は閉じていたという事じゃないのか?」

 つまり、休業時間。そうとしか考えられない。しかし、弟のその考えに、レオンハルトは異を唱える。

「懺悔室の休みの時刻があった事は違いないだろうが、それは空欄の時刻ではない。おそらく、この、”休”と書かれた欄の時間が懺悔室が閉じられていた時刻だろう」

 本当だ。当番表のあちこちに、”休”の文字がある。

「それも、”休”の欄が朝と夜が多いのに比べ、空欄の時刻は様々だ」

 意味分からん。リュセルは頭が痛くなってきた。

「とにかく、色々な予測をたてて考えてみるしかないね」

 長期戦を覚悟したのか、レオンハルトはカップに紅茶を注ぎ、それをリュセルとセフィの前に置く。紅茶の色は見るからに濃い。答えが出るまで寝るなという事だろう。

(明日も祈りの儀があるというのに……)

 リュセルは泣きたくなりながら、そろそろ神官生活から抜け出したい気持ちになったのだった。



 そして…………。



 チュンチュン

 チチチチチ


 清々しい鳥の鳴き声。

 後少しで夜明けという時刻。



 リュセルは眠い目をこすりつつ、部屋のカーテンを開けた。

(結局、徹夜かよ)

 それも、収穫ゼロ!

「そろそろ大聖堂に向かわなくては……。顔を洗って参ります」

 徹夜慣れをしているのか、案外平然としているセフィは、そう言って立ち上がる。

「リュセルもそうしなさい」

 例の当番表を見つめたままそう言う兄に、リュセルは頷く。祈りの儀の後、今日はこのまま、さぼり決定だ。徹夜などした事がないリュセルは、眠過ぎて死にそうである。

「この空欄の配置の仕方、神官査の面々の抜けた穴を補っているような気もするのだが」

 時刻的に、昼食時、休憩時、夕食時に空欄が多い。

「そういえば、デイズ神官が懺悔を受けた時刻も昼食時ですよね」

 一昨日……。いや、もう先一昨日か。その昼食時。

 顔を洗い終えたセフィが戻って来て口にした言葉を聞いて、リュセルは先一昨日の自分を振り返る。

(その頃、俺はセリクス神官長手製の弁当を食べてたなぁ。あれはうまかった)

 フラフラとしながら、顔を洗いに浴室の隣りにある小さな洗面台に向かう。

「本日は、神官査の方々を片っ端から調べますか?」

「デイズ神官の例を見る限り、絵を目にした人間は、その魅力に負け、おかしな言動をとるようになってしまっている可能性が高い」

「でも、昨日、神官査の皆様方は、全員普通であったように感じられましたが」

 背後でセフィとレオンハルトが話す内容を聞きながら、リュセルは心の中で頷いた。

 確かに。

 昨日見た限り、神官査の面々に、絵の魅力(魔力)に捕らわれているような者はいなかった。

(言動がおかしかったのは、神官長補佐だけだったよな)

 …………ん?

 そこまで考えたリュセルは、何か大切な事を忘れている事に気づく。

 先一昨日の昼。

 神官長補佐。

「いかがしました? 剣鍵様」

 なかなか戻らないリュセルを心配して、優しくそう尋ねる。

「ちょ、ちょっと、待ってくれ! 今、今……、重要な記憶の扉が開きそうなんだッ」

 鏡に映る自分の顔を凝視したまま、リュセルはここ最近の記憶を探る。

(う~、う~~、う~~~~ん、先一昨日の昼食時、セリクス神官長にお昼に誘われて、手作り弁当を……、いや、その前だ)

 その前……。神官長補佐室にて、真面目にラテーヌ神官の手伝いをして。

(違う、その後)



 ーお昼、ご一緒しませんか?ー


 ライサンの朗らかな微笑が、頭の中に浮かぶ。


 ーよっこらせー


 何故か変な壺の中から出てきて……。


 ールークがしつこくて、ずっとここに隠れていたのですよー


 確か、彼は、相変わらず自分の補佐役から逃げ回っていた。


 ールークは今、懺悔室の聞き手役をしていますので、しばらくは私を探す余裕はないでしょうー


 そうそう、だから鬼の居ぬ間に俺をお昼に誘って…………。



「あーーーーーーーーーーーーッ!」



 ようやく思い出したリュセルは、大声で叫んだ。

「……?」

「け、剣鍵様!?」

 顔を拭く事も忘れ、ポタポタと水滴を顔から落としながら洗面室を出たリュセルは、怪訝そうな顔をした兄と驚いた様子のセフィに向かって言った。

「お、お、お……ッ」

「お?」

 興奮するあまり、声が出せずにいるリュセルに向かい、セフィは首を傾げる。



「思い出したああああああーーーーーーーーーーーーッ!!」



 その絶叫に驚いたセフィは椅子から滑り落ち、レオンハルトは洗面室から洗顔用の厚手の布を持って来ると、それで弟の顔を拭いた。

「レオ……、おい、ちょ、レオンっ、それどころじゃない、思い出したんだぞ!」

「わかったわかった、少し黙っていなさい」
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