【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
259 / 424
第十二章 月華の乙女

17-2 神官生活の終わり

しおりを挟む
 

「アルターコート神官」

 遠ざかる馬車を見送りながら、ライサンは戸惑うように立つ傍らのセフィに呼びかけた。

「本日付けで神子様方との繋ぎ役の任を解きます」

「今回の事が原因ですか?」

 仕えるべき相手とはいえ、勝手に剣主剣鍵という二人の神子達を神官として神殿に入れたから。

「いえいえ、違います。あなたはこれからは私の付き人になっていただきます。ルークの神官長補佐の役目を軽減し、繋ぎ目の任を任せる為にね。ふふ、出世ですよ~」

 いつもの穏やかな声音の中に、別の含みを感じる。

「何故、ですか?」

「あなたを監視したいからです」

 疑問の声に、すぐさま答えは返される。

「理由は分かっていますね?」

 真っすぐに自分を見つめる強い視線を感じ、しばらくセフィは無言のままでいた。



*****



 ーすまぬ、リュセル。ずいぶんと負担をかけてしまっておるようだなー

 それは構わない。でも、もう、記憶を操作するのは止めてくれ。

 ーしかし、吾子。これ以上スノーの干渉をお前に許すのは、わらわは嫌じゃー

 忘れて、それで束の間の安息を手にしても仕方ないだろう? 母上。

 ーリュセルー

 スノーデューク復活まで時間はない。違うか?

 ーそう。もう余裕は露程も残されておらぬ。奴に必要なものは、後は、”聖女の血”のみー

 ”聖女の血”?

 ーその獲得の為、既にサイレンは動き出しておるはずだろう。リュセル、強うなりたいと願っておるな? わらわの力を借りずともー

 ああ、守りたいものがあるからな。

 ーそう……。強うおなり、わらわの愛しい子。わらわの映し鏡。もう一人のわらわ。お前なら、お前達なら、きっと、スノーを倒す事が出来ようー







「倒したいと願っているのなら、そんな顔をするなッ!」


 そんな叫び声と共に目を覚ましたリュセルは、自分を覗きこんでいた女神の腕を乱暴に掴み、彼女の美貌を睨み見た。

「リュセル、様?」

 しかし、途端に響いた可憐な声を聞いて、リュセルは我に返る。目の前にあるのは、哀しげな微笑を浮かべていた女神自身ではない。彼女の美貌を受け継いだ、娘。呆然と目を見開くリュセルの腕に、彼女の朱金色をした髪が柔らかく絡んだ。

「ティアラ姫」

 リュセルが声を発した事に気づいた彼女は、自分の婚約者を安心させるように、にっこりと優しく微笑む。

「お目覚めですか? リュセル様」

 そこでようやく、ティアラの細い眉がわずかによっているのに気づいた。

「あ、す、すみません、ティアラ姫」

 思い切り力を入れて掴んでいたティアラの手首をリュセルは慌てて放す。

「大丈夫ですか!?」

 痕など残したら、ジュリナに殺される!

 焦りつつ、婚約者の姫君の白く細い、たおやかな手首を確認する。少々赤くなってしまっていた。

「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですわ、リュセル様」

 柔らかな優しい声と共に、花の香りのするハンカチで額の汗を拭われた。眠っている間にかなり汗をかいてしまっていたようだ。

「ティアラ姫」

 久方ぶりの婚約者との逢瀬にリュセルの心は和む。……が。


 ん…………?


「何故、ここにティアラ姫が!?」

 目を覚ましたらいきなり目の前にいたティアラに向かい、リュセルは驚愕の声を上げる。アシェイラ神殿に潜入中の自分の前に現れるはずがない。

「リュセル様がお帰りになられたと聞きましたので、お姉様と参りましたの。わたくし達も昨日、任務より帰ってきましたのよ」

 リュセルの汗を拭い終えると、ティアラは再び寝台の横に設置されていた椅子に腰を下した。

「ここは、まさか、俺の(レオンの)部屋か!?」

 正確には、アシェイラ城、後宮最奥にある、第一、第三王子私室内の寝室。見覚えのあり過ぎる部屋の風景と、自分が横たわる天蓋付きの大きな寝台は、最近寝起きをしていたアシェイラ神殿寄宿舎内にある神官の部屋ではない。

「いつの間に戻って来たんだ」

 城に戻ってきた記憶が、まるでない。最後の記憶は、徹夜でリチャード相手に尋問していたというものだ。そこで視界が暗転して、今に至っていた。

 目を覚ましたばかりのリュセルが現状把握をしようと頭を無理矢理働かせていると、寝室の扉がいきなり開く。

「起きたか」

 神官服からいつもの宮廷衣姿に姿を変えた兄が、背を流れる胡桃色の髪を揺らしながら、リュセル達のいる寝室奥の寝台へと歩み寄って来た。

「ふふ、よく眠っていたね」

 そんな言葉と共に、伸ばされる掌に頬を預ける。麗しの美貌がゆっくりと近づくのを見つめながら、唇が重なる前に目を閉じた。触れるだけだった唇はそのまま頬に移動し、瞼の上にも口づけを受ける。

「レオン。俺はいつの間に帰ってきたんだ?」

 こんな、甘やかすような優しい口づけに誤魔化されるものかと、リュセルは気持ちよさに力の抜けかけた体に再び力を入れて、間近にある兄の美貌を睨み見る。

「昨日の朝方だ。丸一日眠っていたよ。まったく、慣れぬ徹夜など続けるからだ」

 呆れたようなレオンハルトの言葉を受け、リュセルは衝撃を受けた。

「な、ななな何故、どうやって戻ってきた。俺に記憶はまるでないぞ」

「気絶させて連れ帰ったからね。スケジュール的にそろそろ城に戻らないといけなかったのだよ」

 淡々としたその声音に、リュセルは怒りのあまりブルブルと震える。

「それならそうと言え!」

「言ったら、素直に帰城したのか?」

 それは…………、なかったかも。

 目線を泳がせた弟から、その心情をたやすく読み取ったレオンハルトはため息をつく。

「だから言わなかったのだよ」

 レオンハルトのとった行動は、リュセルの気性を知る者として当然のものであろう。当の本人としては、納得がいかないものであるが。



「よ~、リュセル。ようやくお目覚めかい?」

 納得がいかないものを感じつつも、着替えを覚ませて寝室を出たリュセルは、ティアラを片腕に抱いたジュリナがソファにて優雅にくつろいでいるのを、うつろな目で見つめた。

「何、しけた顔してんだい。もうすぐ十八になろうって男が情けない顔するんじゃないよ」

 テーブルを挟んだ向かいの席に着いた妹の婚約者に駄目出ししながら、ジュリナはクマ吉が差し出した紅茶を飲む。

「お前達が神殿内に潜入している間に、ユリエ姫を連れたローウェンやアルティスもサンジェイラを出立したらしいからねぇ。お前達の誕生祭の準備も着々と進んでいる訳だし、もっとシャキッとおし!」

 ジュリナに叱咤されながら、リュセルはその言葉の中にあった名前に目を見開く。

「ローウェンとアルティス? 出立したのか?」

 自分達の誕生祭。といっても、ジュリナやティアラのように舞踏会などを開く予定はないのだが、それに参加予定の年下の玉主と玉鍵の少年達は、同じく誕生祭に招かれたユリエと共に、馬車にて地道に街道を通ってサンジェイラ城よりこのアシェイラ城へとやって来る予定だ。

 転移装置を使用すれば一瞬の移動なのだが、普通に旅をしてやってくる為、かなり早めに、余裕を持って出立したのだろう。

 二人は、リュセルのもう一人の兄であり、この国の王位継承者であるカイルーズの婚約者、ユリエ姫の護衛も兼ねているらしい。前回のようにあの変態が護衛で来国しないという事実に、リュセルは心底ほっとする。

「私達の誕生祭の時は、やっかいな事件やら問題が重なってしまったからねぇ。今回こそ六人揃う事が出来るんじゃないか?」

 初めて、女神の子供達が六人揃う。それも自分達の生誕の日に。喜ばしい、嬉しい事だ。

 なのに……。

(嫌な予感がする)

 言葉に表わせないような不安が、暗く胸中を覆う。

「リュセル?」

 難しい顔をして黙りこくってしまったリュセルに対し、ジュリナは怪訝そうに声をかける。そしてそのまま、リュセルの隣りに座る幼なじみに視線を移した。

「…………」

 無言のまま、様子のおかしい弟の様子を見つめていたレオンハルトは、ジュリナの問うような視線に気づくと、目線で小さく頷く。瞬間、ジュリナはその深紅の瞳を険しくする。しかし、それは一瞬で、すぐにいつものふざけたような表情に戻ったジュリナは、両手を広げて言った。

「それにしても、感謝するよ。これでようやくグレンの様子も落ち着くよ。絵を見つけたと知った時の奴の喜びようは言葉では言い尽くせないような感じだったからね」

 安心するあまり気を失いかけた、人間国宝に指定された青年画家の様子を思い出しながら、ジュリナは頷く。

「本当によかったですわ」

 ティアラも安心したように、ほっと胸をなで下ろしている。

「欲を言えば、ディエラ国で保持したかったんだがねぇ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...