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第十二章 月華の乙女
17-3 大団円?
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チラリと自分を睨み見ながら恨めしそうにそう言うジュリナに向かい、レオンハルトは当然と言うように答えた。
「お前に任せておけぬからな」
「紛失したのは私の責じゃないじゃないか」
不満そうにそう言うが、それ以上論ずるつもりのないジュリナは、戸惑うような顔をしているリュセルに目を向ける。
「こちらの浄化任務も無事終了したし、お前達の神殿潜入もうまくいって絵も取り戻せたし、めでたしめでたし。あ~~~~、良かった!」
満足そうにジュリナはそう言うと、目の前にあるマフィンを手づかみで口に入れる。
「ジュリナ」
行儀が悪いと眉をしかめるレオンハルトを無視しつつ、指先に残ったマフィンのかすを舐めとっていたジュリナは茫然としているリュセルに気づく。
「リュセル?」
「先程から何を言っているんだ?」
兄と未来の義姉姫の会話を聞いていたリュセルは、意味が分からず混乱してしまう。
「はあ~~~~ッ!?」
無言のまま紅茶を飲み続けるレオンハルトと違い、ジュリナは盛大に眉根を寄せてリュセルの顔を見た。
「お前、ふざけてるのかい?」
「そっちこそ、きちんと説明しろ」
ジュリナはリュセルの怒ったような声を受け、肩をすくめると、彼の後ろを視線で指した。
「なんなんだ? 一体」
ジュリナに促されるがまま、後ろを振り返ったリュセルの目に飛び込んできたのは
可憐な乙女の頬笑み。
「…………………………はぁ~~~~~~~~ッ!?」
壁にかけられた、見た事もないような美しい絵画。
見事なタッチ、繊細な色遣い。そして、何より、まるでそれ自体に生命(いのち)が宿っているかのように生き生きと描かれている。
儚い月の色を映し出す銀糸の髪に夢見るような銀の瞳。その柔肌はまるで白雪のように白く、シミ一つない。 妖精のような悪戯めいた、そして、天使のような可憐な微笑を浮かべた美しき姫君。それは、見る者を蕩かしてしまうような、魔性の美。十歳にも届かぬような年齢の幼き少女故に、それは更に妖しく美しいものになっていた。
間違えようがない。それは、リュセルが追い求めてきた(大袈裟な)絵画。
”月華の乙女”
そのものだったのだ。
「な、は? え……!? なななな、何故!?」
何故、件の絵が無造作に自室に飾られているのか。
「お前が眠っている間に、すべて完了したのだよ」
淡々とした兄の言葉を受けて、リュセルは軽くヨロける。
どうやってこの絵を取り戻したのか。とか、俺の今までの苦労はなんだったのだ。とか、そもそも神殿に潜入する必要あったのか。とか、色々言いたい事は山のようにあったのだが、リュセルはソファに座りなおすと、嘆くように言った。
「頼むから、こんな場所に飾らんでくれ」
自分の、それも女装絵を自室に飾って楽しむ趣味はリュセルにはない。
「ま~、確かに、こいつの殺風景な部屋にこんな華やかな絵はミスマッチだねぇ」
レオンハルトを眺めながらそう言ったジュリナの言葉を聞いて、ティアラは異を唱える。
「でも、とても素敵な絵ですもの。それも、自分の半身を描いた絵。お傍に置きたいレオンハルト様のお気持ち、わたくし良く分かりますわ」
ほんわかしたティアラの声を聞いたジュリナの頬は、途端に緩みまくる。
「お前も私の絵が欲しいかい?」
姉の問いに、ティアラは小さく目を見開く。
「欲しい、ですけれど、絵よりも本当のお姉様とずっと一緒にいられたら、その方が何倍も嬉しいです」
「あ~~、ティア! なんて可愛いんだい!」
妹の健気な告白を聞いたジュリナは、耐えきれずに、目の前の華奢で豊満な体を掻き抱く。
そして、自分の婚約者とその姉の逢瀬が目の前で繰り広げられていても、今後のこの絵の処遇が気になって仕方ないリュセルは隣の兄に詰め寄っていた。
「この絵はこれからどうなるんだ、レオン!?」
「これ(月華の乙女)は、”リュセル王子”として正式に描かれたものではない。それ故に、王族の自画像が保管されている場所に置いておく事が出来ぬのだよ。だからここに飾っておこうと思っていたのだが……。お前が嫌なのでは仕方ないね」
思案するようなレオンハルトの言葉を聞いたジュリナは、噛みつくような勢いで即座に言った。
「グレンの絵を捨てるなど許さないよ! 捨てる位なら私にお寄こし!」
国の認める人間国宝が描いた絵を捨てるなど、罰当たりな!
ジュリナの苛烈な視線を受けたレオンハルトは、一つため息をついて言った。
「では、信用のおける者に預けるよ。そこには母上の絵も数枚飾られている。絵画が一つ増えたとて、大して気にならぬであろう」
それなら……、まあ、いいか。リュセルとジュリナは同時にそう考え、大人しくなる。
まったく、ここ数日というもの、絵画一枚に見事に振り回されていい迷惑である。自分達の生誕の儀を控えた今、ただでさえ忙しいのに。レオンハルトはそう考えながら、今後の予定に思いを馳せる。
「それで、レオンハルト様。信用の置けるお方とはどなたですの?」
ローウェンやアルティス、ユリエなど、サンジェイラ組が到着してからの事を考えていたレオンハルトは、ティアラのその問いにわずかに目線を上げ、小さく笑った。
「ええ、それは」
「?」
ティアラはその時レオンハルトが浮かべた含み笑いが少し気になったが、リュセルやジュリナがあまり預け相手に関しては気にしていないようだったので、自分も気にするのを止めたのだった。
(お二人共、それだけレオンハルト様を信用なさっているという事ですものね)
確かに、レオンハルトが決めた預け先なら、今後、あの魔性の絵は大丈夫だろう。その、人を魅了する魔力を発揮する事なく、静かに封印されるはず
そして、それは事実であったのだ。
チュンチュンチュン
雀達がさえずる、清々しい朝。
彼はいつものように、初老の侍従の呼びかけで目覚めた。
「陛下、朝でございます」
「ん~~~~? もぅ朝か」
そう言いながら身を起こす彼、ジェイドの横で、侍従は目覚めの紅茶を優雅に淹れている。
「どうぞ」
「ん、ありがとう」
紅茶を受け取りながら朝刊を眺めるジェイドは、ルンルン気分だった。
「神殿に行ってたレオンもリュー君も戻ってきたし、久しぶりに今夜は家族でお夕飯がとれるかな? うわ~~~~楽しみ! ユリエ姫にもうすぐ会えるって事で、カイルも最近機嫌がいいしね」
ふんふん、ふふふん♪
ジェイドが鼻歌を歌っている間にも、侍従は本日の彼の衣装を用意する。クローゼットの中より、たくさんある威厳ある王の公務服や宮廷衣を避け、その横に陣取ったTシャツと柄パンを恭しく取り出した。
「陛下、お着替えを」
本日のTシャツの太文字は、”乙女と私”。……意味分からん。
顔を洗い終えたジェイドは、侍従の手慣れた手によって、着ていたウサ耳付きの着ぐるみ夜着から、いつものTシャツ柄パン姿に着替えさせられていく。
「うん、今日もバッチリ!」
威厳ある父王の姿だ。(しかし、そう思っているのは本人だけである)
「本日も、朝食後にいくつかの手紙にお目を通していただきたいのですが」
「うん、わかった」
寝室の扉を開けて、朝食の準備のされた隣の部屋に移ったジェイドは、部屋の壁いっぱいに飾られた、今は亡き妻にして永遠の王妃、ルリカの肖像画達に挨拶する。
「やあ、おはよう、ルリカ」
そして、そんなルリカ妃の絵の中に混じってたった一つだけある別の絵に目を向けると、その絵の中の少女にも挨拶をした。
「おはよう」
娘がいたら、きっとこんな子だったんだろうな。そう思いつつ、ジェイドは朝食の席に着く。
「なんだか、無性にリュー君に会いたくなってきちゃった。朝食を終えたら顔見に行こ~~~~っと!」
そう言いながら、用意された朝食を頬張る。
「ぷは~~~~、マズイ! もう一杯!」
朝の日課、サンジェイラ産の青汁を一気に飲んでそう叫ぶ。
「…………」
侍従は無言のまま、空になったグラスに独特の色をした飲み物を注ぐ。
「まずいケド、ローウェン殿に勧められたこれのおかげで最近調子いいんだよね。今度、カイルにも勧めてあげようカナ?」
あははははは~!
朝からハイテンション、それもマックス!
こんな調子のままリュセルに会いにいったら、うざがられてしまう事だろう。気づかぬは本人のみ。
そして、そんな元気な様子のこの国の王の姿を、彼を愛した亡き王妃のたくさんの肖像画と、月の姫君の肖像画は、頬笑みを浮かべながら、静かに見守っていたのだった。
それは数十年後、彼が亡くなるまで続いたという……。
「お前に任せておけぬからな」
「紛失したのは私の責じゃないじゃないか」
不満そうにそう言うが、それ以上論ずるつもりのないジュリナは、戸惑うような顔をしているリュセルに目を向ける。
「こちらの浄化任務も無事終了したし、お前達の神殿潜入もうまくいって絵も取り戻せたし、めでたしめでたし。あ~~~~、良かった!」
満足そうにジュリナはそう言うと、目の前にあるマフィンを手づかみで口に入れる。
「ジュリナ」
行儀が悪いと眉をしかめるレオンハルトを無視しつつ、指先に残ったマフィンのかすを舐めとっていたジュリナは茫然としているリュセルに気づく。
「リュセル?」
「先程から何を言っているんだ?」
兄と未来の義姉姫の会話を聞いていたリュセルは、意味が分からず混乱してしまう。
「はあ~~~~ッ!?」
無言のまま紅茶を飲み続けるレオンハルトと違い、ジュリナは盛大に眉根を寄せてリュセルの顔を見た。
「お前、ふざけてるのかい?」
「そっちこそ、きちんと説明しろ」
ジュリナはリュセルの怒ったような声を受け、肩をすくめると、彼の後ろを視線で指した。
「なんなんだ? 一体」
ジュリナに促されるがまま、後ろを振り返ったリュセルの目に飛び込んできたのは
可憐な乙女の頬笑み。
「…………………………はぁ~~~~~~~~ッ!?」
壁にかけられた、見た事もないような美しい絵画。
見事なタッチ、繊細な色遣い。そして、何より、まるでそれ自体に生命(いのち)が宿っているかのように生き生きと描かれている。
儚い月の色を映し出す銀糸の髪に夢見るような銀の瞳。その柔肌はまるで白雪のように白く、シミ一つない。 妖精のような悪戯めいた、そして、天使のような可憐な微笑を浮かべた美しき姫君。それは、見る者を蕩かしてしまうような、魔性の美。十歳にも届かぬような年齢の幼き少女故に、それは更に妖しく美しいものになっていた。
間違えようがない。それは、リュセルが追い求めてきた(大袈裟な)絵画。
”月華の乙女”
そのものだったのだ。
「な、は? え……!? なななな、何故!?」
何故、件の絵が無造作に自室に飾られているのか。
「お前が眠っている間に、すべて完了したのだよ」
淡々とした兄の言葉を受けて、リュセルは軽くヨロける。
どうやってこの絵を取り戻したのか。とか、俺の今までの苦労はなんだったのだ。とか、そもそも神殿に潜入する必要あったのか。とか、色々言いたい事は山のようにあったのだが、リュセルはソファに座りなおすと、嘆くように言った。
「頼むから、こんな場所に飾らんでくれ」
自分の、それも女装絵を自室に飾って楽しむ趣味はリュセルにはない。
「ま~、確かに、こいつの殺風景な部屋にこんな華やかな絵はミスマッチだねぇ」
レオンハルトを眺めながらそう言ったジュリナの言葉を聞いて、ティアラは異を唱える。
「でも、とても素敵な絵ですもの。それも、自分の半身を描いた絵。お傍に置きたいレオンハルト様のお気持ち、わたくし良く分かりますわ」
ほんわかしたティアラの声を聞いたジュリナの頬は、途端に緩みまくる。
「お前も私の絵が欲しいかい?」
姉の問いに、ティアラは小さく目を見開く。
「欲しい、ですけれど、絵よりも本当のお姉様とずっと一緒にいられたら、その方が何倍も嬉しいです」
「あ~~、ティア! なんて可愛いんだい!」
妹の健気な告白を聞いたジュリナは、耐えきれずに、目の前の華奢で豊満な体を掻き抱く。
そして、自分の婚約者とその姉の逢瀬が目の前で繰り広げられていても、今後のこの絵の処遇が気になって仕方ないリュセルは隣の兄に詰め寄っていた。
「この絵はこれからどうなるんだ、レオン!?」
「これ(月華の乙女)は、”リュセル王子”として正式に描かれたものではない。それ故に、王族の自画像が保管されている場所に置いておく事が出来ぬのだよ。だからここに飾っておこうと思っていたのだが……。お前が嫌なのでは仕方ないね」
思案するようなレオンハルトの言葉を聞いたジュリナは、噛みつくような勢いで即座に言った。
「グレンの絵を捨てるなど許さないよ! 捨てる位なら私にお寄こし!」
国の認める人間国宝が描いた絵を捨てるなど、罰当たりな!
ジュリナの苛烈な視線を受けたレオンハルトは、一つため息をついて言った。
「では、信用のおける者に預けるよ。そこには母上の絵も数枚飾られている。絵画が一つ増えたとて、大して気にならぬであろう」
それなら……、まあ、いいか。リュセルとジュリナは同時にそう考え、大人しくなる。
まったく、ここ数日というもの、絵画一枚に見事に振り回されていい迷惑である。自分達の生誕の儀を控えた今、ただでさえ忙しいのに。レオンハルトはそう考えながら、今後の予定に思いを馳せる。
「それで、レオンハルト様。信用の置けるお方とはどなたですの?」
ローウェンやアルティス、ユリエなど、サンジェイラ組が到着してからの事を考えていたレオンハルトは、ティアラのその問いにわずかに目線を上げ、小さく笑った。
「ええ、それは」
「?」
ティアラはその時レオンハルトが浮かべた含み笑いが少し気になったが、リュセルやジュリナがあまり預け相手に関しては気にしていないようだったので、自分も気にするのを止めたのだった。
(お二人共、それだけレオンハルト様を信用なさっているという事ですものね)
確かに、レオンハルトが決めた預け先なら、今後、あの魔性の絵は大丈夫だろう。その、人を魅了する魔力を発揮する事なく、静かに封印されるはず
そして、それは事実であったのだ。
チュンチュンチュン
雀達がさえずる、清々しい朝。
彼はいつものように、初老の侍従の呼びかけで目覚めた。
「陛下、朝でございます」
「ん~~~~? もぅ朝か」
そう言いながら身を起こす彼、ジェイドの横で、侍従は目覚めの紅茶を優雅に淹れている。
「どうぞ」
「ん、ありがとう」
紅茶を受け取りながら朝刊を眺めるジェイドは、ルンルン気分だった。
「神殿に行ってたレオンもリュー君も戻ってきたし、久しぶりに今夜は家族でお夕飯がとれるかな? うわ~~~~楽しみ! ユリエ姫にもうすぐ会えるって事で、カイルも最近機嫌がいいしね」
ふんふん、ふふふん♪
ジェイドが鼻歌を歌っている間にも、侍従は本日の彼の衣装を用意する。クローゼットの中より、たくさんある威厳ある王の公務服や宮廷衣を避け、その横に陣取ったTシャツと柄パンを恭しく取り出した。
「陛下、お着替えを」
本日のTシャツの太文字は、”乙女と私”。……意味分からん。
顔を洗い終えたジェイドは、侍従の手慣れた手によって、着ていたウサ耳付きの着ぐるみ夜着から、いつものTシャツ柄パン姿に着替えさせられていく。
「うん、今日もバッチリ!」
威厳ある父王の姿だ。(しかし、そう思っているのは本人だけである)
「本日も、朝食後にいくつかの手紙にお目を通していただきたいのですが」
「うん、わかった」
寝室の扉を開けて、朝食の準備のされた隣の部屋に移ったジェイドは、部屋の壁いっぱいに飾られた、今は亡き妻にして永遠の王妃、ルリカの肖像画達に挨拶する。
「やあ、おはよう、ルリカ」
そして、そんなルリカ妃の絵の中に混じってたった一つだけある別の絵に目を向けると、その絵の中の少女にも挨拶をした。
「おはよう」
娘がいたら、きっとこんな子だったんだろうな。そう思いつつ、ジェイドは朝食の席に着く。
「なんだか、無性にリュー君に会いたくなってきちゃった。朝食を終えたら顔見に行こ~~~~っと!」
そう言いながら、用意された朝食を頬張る。
「ぷは~~~~、マズイ! もう一杯!」
朝の日課、サンジェイラ産の青汁を一気に飲んでそう叫ぶ。
「…………」
侍従は無言のまま、空になったグラスに独特の色をした飲み物を注ぐ。
「まずいケド、ローウェン殿に勧められたこれのおかげで最近調子いいんだよね。今度、カイルにも勧めてあげようカナ?」
あははははは~!
朝からハイテンション、それもマックス!
こんな調子のままリュセルに会いにいったら、うざがられてしまう事だろう。気づかぬは本人のみ。
そして、そんな元気な様子のこの国の王の姿を、彼を愛した亡き王妃のたくさんの肖像画と、月の姫君の肖像画は、頬笑みを浮かべながら、静かに見守っていたのだった。
それは数十年後、彼が亡くなるまで続いたという……。
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