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第十三章 聖女の血
13-3 誕生舞踏会③
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ルークはこの世の終わりのような断末魔の声を上げると同時に、その場に突っ伏した。
間違いない。
自分はライサンとカップルだと勘違いされたのだ。
だから、周囲にいたほとんどの客は軽く引いていて、一部の女性客と店員(腐女子)は、ニマニマしていたのである。
(よりによって、ライサン(男)と…………)
ルークの繊細な男心は砕け散っていた。
ゴーーーーーーーーンッ
あまりのショックに固まってしまったルークを軽く放置したまま、リュセルはそっとセフィの手を取った。
「!? な、何ですか? 剣鍵様」
いきなり手を握られたセフィは、驚きに身をすくませる。
「踊ろうか、セフィ殿」
「は!?」
爆弾発言と共に立ち上がったリュセルは、そのままセフィも立ち上がらせる。
「無理です、駄目です! 私は踊れません!」
「大丈夫だ、俺がリードする。それに、舞踏会といっても、貴族連中達のご機嫌伺いの為にいつも王族が主催するものと違って、今回のは格式ばったものじゃないからな。少し位、変な動きをしていてもOKらしいぞ」
そんなリュセルがチラリと横目で視線を送った先では、ローウェンがアルティス相手にクルクルと高速回転している。
「おおおお~、さすがは北の神童様! 動きが速過ぎて、もはや目で追えない!」
「しかし、音楽にまったく動きが合っていないぞ!」
広間の中央のダンスホールにて踊る(?)サンジェイラの王弟達を遠巻きに見ていた招待客(ゲスト)達は、そのアクロバティック過ぎる彼らの動きから目が離せなくなっていた。
(あれは……、まぁ、やり過ぎだが)
心の中でそう思いながら、リュセルはセフィの腰を抱いた。
「ひょえっ! ちょ、どこ触ってるんですか!」
「さあ、行くぞ」
セフィの抗議をまったく聞いていないリュセルは、無理矢理に彼の体を引きずっていく。
「いってらっしゃ~い、アルターコート。私達はここで見ていますからね」
テーブルの上に突っ伏して顔を上げないルークの赤い髪の毛先を弄びながら、ライサンはそう言って能天気に手を振った。
「し、神官長……。そんな、私は神官です~~~~!」
ズルズルズル
悲鳴を上げながら遠ざかっていくセフィを見送りながら、ライサンはルークの髪の中を漁る。
「あ、若白髪。えい、抜いてしまいましょう!」
ブチッ
「痛ってえええええええッ~~~~」
あまりの痛さに、ルークは飛び起きたのだった。
おかしな事になった。
セフィはリュセルに手を引かれるまま、左手を彼の肩に添えた。神官服姿の神官と舞踏会の主役たる王子。どう考えても目立たぬはずがない。顔を真赤にしながらも、突き刺さる視線を覚悟していたセフィだったが、予想に反して少しも視線を感じなかった。
(? 思った程、悪目立ちしていないという事でしょうか)
リュセルの美貌の事を考えると、目立たずにいる方が難しい気もするのだが……。
盲目のセフィにはわからなかったが、今現在、この広間内にいる招待客(ゲスト)の視線は、ほとんどすべて、アクロバティックダンスを披露中の玉主玉鍵少年コンビに向けられ、他の事など目に入らぬ状態だったのだ。それ故に、リュセルとセフィは静かに二人きりで踊る事が出来たのだ。
「セフィ殿が繋ぎ目の任から外れてから、とても寂しかったのですよ」
まるで口説くような甘い声音で、耳元でささやかれたセフィのハートは、ドッキリとはねる。
「一介の神官にしか過ぎない、私のような者を気にかけて頂けるなんて、とても光栄です」
ドキマギしながらセフィが答えると、リュセルはふふふっと喉の奥で笑った。
「先程、同じようにジュリナ殿相手に女性パートで踊らされたんですが、俺なんかよりも断然うまいですよ、セフィ殿は。散々ジュリナ殿に馬鹿にされましたからね、俺は」
「そ、そんな、恐れ入ります」
ドキドキドキ
そんな、一見見ると、魅力的な王子相手に、まるで恋する乙女のように胸を高鳴らせている神官に見える。
しかし……。
(本当にのん気な奴らだな。今日という日がどんな日なのかも知らずに)
そんな、セフィ・アルターコートの仮面の下で、セフィランは皮肉めいた嘲笑を浮かべる。
(この国に明日は来ないというのに、舞踏会とはな)
サイレンとの打ち合わせ通りだと、この国は、夜には紅蓮の炎と国民の血で染められる。そして、アシェイラ王族の首が城門にさらされるはずだ。楽しそうに笑うこの国の王と王位継承者。まずは、この二人が最初に殺される。
女神の子供達の動きを封じている間に、すべての決着をつけるのだろう。そして、目の前の剣鍵。自分の監視対象者の身柄は、邪神へと捧げられるのだ。
その時、果たして自分はこの世界に存在しているのだろうか。
人間の乙女を母に持ち、邪神を父とする、セフィランという邪混鬼は…………。
今日、すべてが決する。
セフィランが生き残るか、邪神が復活するか、すべてが決まる。
そして
この、優しい青年の運命も……。
彼の身が邪神の手に堕ちるなど、想像したくもない。
嫌、……だった。
「セフィ殿?」
急に動きを止めたセフィを不可思議に思い、リュセルは彼の顔を見上げる。固く瞳を閉ざした盲目の神官の顔色は、蒼白だった。
「どうしたんだ? 具合でも悪いのか」
心配そうに銀の瞳を曇らせるリュセルの気配を感じながら、セフィは彼の首元に手を伸ばす。
(邪神の慰み者にされ、弄り殺される位なら、いっそこの場で殺してやろうか)
その方が、この青年の為にもいいような気がしてならない。
「…………」
ライサンはその光景を目にすると同時に、腰を浮かせかけた。
一見すると、ダンスを止め、具合の悪くなったようなセフィをリュセルが心配しているように見えるのだが、ライサンが警戒したのは、自分達が守るべき神子の首にセフィが手をかけようとしていたからである。
「セリクス?」
厳しい眼差しをダンスホールに向けるライサンを見て、ルークはいぶかしげに眉をひそめた。
首……。
白い、男の首。
邪混鬼であるセフィランの手にかかれば、一瞬だ。
一瞬で絞殺せる。
苦しませる事など、決してしない。
「セフィ殿?」
その首元に触れた瞬間、名を呼ばれ、セフィランは我に返った。かすめる様にして触れたリュセルの肌は温かかった。それこそが、生きている証。
子供の頃に腕に抱いた、躯と化した三人の師の冷たさを思い出し、体が震える。
「……!? 寒いのか?」
僅かにカタカタと震えているセフィの体に気づき、リュセルは彼の手をとる。
(!?)
先程は確かに温かかったのに、今触れたセフィの手は氷のように冷たかった。
「少し休んだ方がいい。今、部屋を用意させるから」
相手の体の冷たさに慌てたリュセルが対処しようとすると、セフィは離れようとするその手を引きとめた。
そして……。
「リュセル」
名を呼ばれた。
珍しい事じゃない。
尊称抜きで名前を呼ばれる事など……。父や兄達も自分をそう呼ぶじゃないか。
でも、目の前の盲目の青年に呼ばれたのは初めてだった。
ずっと、友人のように思っていたから、そう呼んで欲しいと内心思っていたが、相手は自分を神子として敬う立場に在る神官だし、生真面目な性格の持ち主だし、いくら剣鍵様と呼ぶなと言っても駄目だったから諦めていたのだ。
それが、いきなり名前で呼ばれた。まるで普通の友人を呼ぶかのように。
しかし、リュセルが手放しで喜べなかったのは、切羽詰ったような表情をセフィが浮かべていたからである。とても苦しそうな顔。泣きそうな……。
反射的にセフィの頬に触れようと手を伸ばした瞬間、呻くようなくぐもった声が聞こえた。
「……俺は、自分という存在が呪わしくて仕方がない」
吐き出すような声を聞くと共に、ズシンっとした重みが左肩の上に加わったのを感じた。柔らかな翠緑の髪が頬をくすぐる。
(……?)
何故だか、その感触に既視感を覚える。
神への叛逆者達。ヒューマンに捕らわれたあの邸で、盲目となった自分を慰めてくれた小鳥。その感触と同じである事にリュセルが気づくのは、もっと後になってからだ。
何故、あの時すぐ気付かなかったのかと、後日、後悔と自責の念に駆られる事になるのだが、今のリュセルには、あの時の小鳥と目の前の盲目の神官は、まったく結びついていなかった。
「……………………」
戸惑うリュセルの心の機微を察しながらも、額をリュセルの肩に押し付けたセフィは、僅かの間、その姿勢のまま身動きする事はなかった。
間違いない。
自分はライサンとカップルだと勘違いされたのだ。
だから、周囲にいたほとんどの客は軽く引いていて、一部の女性客と店員(腐女子)は、ニマニマしていたのである。
(よりによって、ライサン(男)と…………)
ルークの繊細な男心は砕け散っていた。
ゴーーーーーーーーンッ
あまりのショックに固まってしまったルークを軽く放置したまま、リュセルはそっとセフィの手を取った。
「!? な、何ですか? 剣鍵様」
いきなり手を握られたセフィは、驚きに身をすくませる。
「踊ろうか、セフィ殿」
「は!?」
爆弾発言と共に立ち上がったリュセルは、そのままセフィも立ち上がらせる。
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「おおおお~、さすがは北の神童様! 動きが速過ぎて、もはや目で追えない!」
「しかし、音楽にまったく動きが合っていないぞ!」
広間の中央のダンスホールにて踊る(?)サンジェイラの王弟達を遠巻きに見ていた招待客(ゲスト)達は、そのアクロバティック過ぎる彼らの動きから目が離せなくなっていた。
(あれは……、まぁ、やり過ぎだが)
心の中でそう思いながら、リュセルはセフィの腰を抱いた。
「ひょえっ! ちょ、どこ触ってるんですか!」
「さあ、行くぞ」
セフィの抗議をまったく聞いていないリュセルは、無理矢理に彼の体を引きずっていく。
「いってらっしゃ~い、アルターコート。私達はここで見ていますからね」
テーブルの上に突っ伏して顔を上げないルークの赤い髪の毛先を弄びながら、ライサンはそう言って能天気に手を振った。
「し、神官長……。そんな、私は神官です~~~~!」
ズルズルズル
悲鳴を上げながら遠ざかっていくセフィを見送りながら、ライサンはルークの髪の中を漁る。
「あ、若白髪。えい、抜いてしまいましょう!」
ブチッ
「痛ってえええええええッ~~~~」
あまりの痛さに、ルークは飛び起きたのだった。
おかしな事になった。
セフィはリュセルに手を引かれるまま、左手を彼の肩に添えた。神官服姿の神官と舞踏会の主役たる王子。どう考えても目立たぬはずがない。顔を真赤にしながらも、突き刺さる視線を覚悟していたセフィだったが、予想に反して少しも視線を感じなかった。
(? 思った程、悪目立ちしていないという事でしょうか)
リュセルの美貌の事を考えると、目立たずにいる方が難しい気もするのだが……。
盲目のセフィにはわからなかったが、今現在、この広間内にいる招待客(ゲスト)の視線は、ほとんどすべて、アクロバティックダンスを披露中の玉主玉鍵少年コンビに向けられ、他の事など目に入らぬ状態だったのだ。それ故に、リュセルとセフィは静かに二人きりで踊る事が出来たのだ。
「セフィ殿が繋ぎ目の任から外れてから、とても寂しかったのですよ」
まるで口説くような甘い声音で、耳元でささやかれたセフィのハートは、ドッキリとはねる。
「一介の神官にしか過ぎない、私のような者を気にかけて頂けるなんて、とても光栄です」
ドキマギしながらセフィが答えると、リュセルはふふふっと喉の奥で笑った。
「先程、同じようにジュリナ殿相手に女性パートで踊らされたんですが、俺なんかよりも断然うまいですよ、セフィ殿は。散々ジュリナ殿に馬鹿にされましたからね、俺は」
「そ、そんな、恐れ入ります」
ドキドキドキ
そんな、一見見ると、魅力的な王子相手に、まるで恋する乙女のように胸を高鳴らせている神官に見える。
しかし……。
(本当にのん気な奴らだな。今日という日がどんな日なのかも知らずに)
そんな、セフィ・アルターコートの仮面の下で、セフィランは皮肉めいた嘲笑を浮かべる。
(この国に明日は来ないというのに、舞踏会とはな)
サイレンとの打ち合わせ通りだと、この国は、夜には紅蓮の炎と国民の血で染められる。そして、アシェイラ王族の首が城門にさらされるはずだ。楽しそうに笑うこの国の王と王位継承者。まずは、この二人が最初に殺される。
女神の子供達の動きを封じている間に、すべての決着をつけるのだろう。そして、目の前の剣鍵。自分の監視対象者の身柄は、邪神へと捧げられるのだ。
その時、果たして自分はこの世界に存在しているのだろうか。
人間の乙女を母に持ち、邪神を父とする、セフィランという邪混鬼は…………。
今日、すべてが決する。
セフィランが生き残るか、邪神が復活するか、すべてが決まる。
そして
この、優しい青年の運命も……。
彼の身が邪神の手に堕ちるなど、想像したくもない。
嫌、……だった。
「セフィ殿?」
急に動きを止めたセフィを不可思議に思い、リュセルは彼の顔を見上げる。固く瞳を閉ざした盲目の神官の顔色は、蒼白だった。
「どうしたんだ? 具合でも悪いのか」
心配そうに銀の瞳を曇らせるリュセルの気配を感じながら、セフィは彼の首元に手を伸ばす。
(邪神の慰み者にされ、弄り殺される位なら、いっそこの場で殺してやろうか)
その方が、この青年の為にもいいような気がしてならない。
「…………」
ライサンはその光景を目にすると同時に、腰を浮かせかけた。
一見すると、ダンスを止め、具合の悪くなったようなセフィをリュセルが心配しているように見えるのだが、ライサンが警戒したのは、自分達が守るべき神子の首にセフィが手をかけようとしていたからである。
「セリクス?」
厳しい眼差しをダンスホールに向けるライサンを見て、ルークはいぶかしげに眉をひそめた。
首……。
白い、男の首。
邪混鬼であるセフィランの手にかかれば、一瞬だ。
一瞬で絞殺せる。
苦しませる事など、決してしない。
「セフィ殿?」
その首元に触れた瞬間、名を呼ばれ、セフィランは我に返った。かすめる様にして触れたリュセルの肌は温かかった。それこそが、生きている証。
子供の頃に腕に抱いた、躯と化した三人の師の冷たさを思い出し、体が震える。
「……!? 寒いのか?」
僅かにカタカタと震えているセフィの体に気づき、リュセルは彼の手をとる。
(!?)
先程は確かに温かかったのに、今触れたセフィの手は氷のように冷たかった。
「少し休んだ方がいい。今、部屋を用意させるから」
相手の体の冷たさに慌てたリュセルが対処しようとすると、セフィは離れようとするその手を引きとめた。
そして……。
「リュセル」
名を呼ばれた。
珍しい事じゃない。
尊称抜きで名前を呼ばれる事など……。父や兄達も自分をそう呼ぶじゃないか。
でも、目の前の盲目の青年に呼ばれたのは初めてだった。
ずっと、友人のように思っていたから、そう呼んで欲しいと内心思っていたが、相手は自分を神子として敬う立場に在る神官だし、生真面目な性格の持ち主だし、いくら剣鍵様と呼ぶなと言っても駄目だったから諦めていたのだ。
それが、いきなり名前で呼ばれた。まるで普通の友人を呼ぶかのように。
しかし、リュセルが手放しで喜べなかったのは、切羽詰ったような表情をセフィが浮かべていたからである。とても苦しそうな顔。泣きそうな……。
反射的にセフィの頬に触れようと手を伸ばした瞬間、呻くようなくぐもった声が聞こえた。
「……俺は、自分という存在が呪わしくて仕方がない」
吐き出すような声を聞くと共に、ズシンっとした重みが左肩の上に加わったのを感じた。柔らかな翠緑の髪が頬をくすぐる。
(……?)
何故だか、その感触に既視感を覚える。
神への叛逆者達。ヒューマンに捕らわれたあの邸で、盲目となった自分を慰めてくれた小鳥。その感触と同じである事にリュセルが気づくのは、もっと後になってからだ。
何故、あの時すぐ気付かなかったのかと、後日、後悔と自責の念に駆られる事になるのだが、今のリュセルには、あの時の小鳥と目の前の盲目の神官は、まったく結びついていなかった。
「……………………」
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