【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十四章 竜の末裔

1-1 失われた時代

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 かつて、信じられない程に美しい世界を、僕らは生きていた……。


 空を駆ける、数多のドラゴン。 彼らが守るのは、巨大な飛空船。

 美しく舗装された石道の上で不意に立ち止まり、青空に映えるそれらを目に映していた彼は、感嘆の声を上げる。

「うわ、壮麗な光景だなぁ。そうか、今日が国儀会の儀員の方々が視察より戻られる日なんだ」

 肩にかかる程の長さの黒髪に、くるくると表情の変わる黒瞳。人懐こそうな、十代後半位の年齢の青年だ。身にまとうのは、頭をすっぽりと覆ってしまうような深緑色のベレー帽、ゆったりとしたタイプの同色のローブ。これは、彼が所属する科学省の制服である。

「……という事は、アシェイラも戻って来ているって事だよね」

 そう言いながら、親友のいる場所へと急いだ。


 都の端、誰も来ないような疎外地にある、首都全体を見渡せるような小高い丘。人に努力しているところを見られるのが嫌いな彼は、いつもそこで楽器の練習をしていた。

 生い茂る草木を掻き分けて進む内に、美しい楽の音と歌声が聞こえ始める。

「ディエラ!」

 そう呼びかけると、大きな岩の上に腰かけて、手にした楽器、麗雪(ウラセツ)の弦を指先で弾き、美しい音色を奏でていた彼は、一旦歌うのを止めた。ちなみに麗雪(ウラセツ)とは、この国でもっともポピュラーな弦楽器の一つだ。

「やあ、サンジェイラ。ご機嫌いかがかな?」

 にっこりと見る者を見惚れさせるような華やかな笑みを浮かべ、視線を向けてくる青年の機嫌が悪い事を、つき合いの長いサンジェイラはすぐさま悟った。

 理由は簡単。演奏を邪魔されたからだ。生粋の詩歌いであるサンジェイラの親友の一人にして幼なじみでもある彼は、己の腹黒さを隠す事がない。そう、自分達だけには……。

 ウエーブを描く金髪は豪奢で、その顔も美しく整っている。いつもたくさんの女性達に囲まれているディエラの存在は、平凡な容姿のサンジェイラからしてみれば眩しい程だった。

 もう一人の親友、アシェイラは、剣術馬鹿で剣にしか興味がない故に、ディエラの華やかさの事など気にも留めていないようだったが。

「それで、そんなにも息を弾ませてどうしたんだ? こんな真昼間からこんな場所に来て……。ずいぶん暇なんだな、科学省の学者様も。ははっ」(キラッ)

 華やかな笑みと煌く白い歯。

「そんな、虫も殺さないような眩い笑顔で毒を吐かないでよ。君こそ、今度は西の方に詩歌いの旅に出るって言ってなかったっけ? なんで、まだいるの」

 ディエラの失礼過ぎる物言いにカチンときたサンジェイラは、そう言い返す。

「うん、まあ、今日旅立つ予定だったんだが、明日に伸ばしたのさ」

「なんで?」

 頬を子供っぽく膨らませるサンジェイラを流し見ながら、ディエラは麗雪(ウラセツ)の弦を慣れた手で弾く。

 ポロン

「お前と同じ、帰って来たアシェイラに会いたいからだ」

 歌うように告げられた言葉を聞き、サンジェイラは表情を和ませる。

「そっか。そうだよね、竜騎士(ドラグーン)になってから、アシェイラはすっごく忙しくて、全然僕らと会えてないし」

 そう言いながら、サンジェイラはディエラに手を差し伸べる。

「竜騎士団(ドラゴン騎士団)に新星現る……か」

 親友の差し出した手を当然のようにとったディエラは、つい先日、地方の新聞で見た見出しをそのまま口にする。

「今日は久しぶりに三人揃うって事か。楽しみだね!」



 あの時。

 確かに、みんな生きていた。

 瞬きのような短い人の生を、精一杯に生きていた。


 あの閃光を見るまでは……。



「? 何……?」

 空で何か光ったような気がして、サンジェイラは立ち上がったディエラの肩越しにそれを見た。



 閃光



 たった一筋の閃光が、空と大地を焼き尽くした。



 一瞬の出来事だった。

 何が起きたかもわからない。



「ぅ……」

 鼻を突くような焦げ臭い匂いと、生々しい血臭。

 両方を感じたサンジェイラは、意識を取り戻し、自分に覆いかぶさる血まみれの親友の姿を目の当たりにする。

「ディエラッ!」

「うぅ」

 出血はひどいが、命はかろうじてある。しかし、早く手当てをしなくては間に合わないだろう。早く、街に戻らなくては……。

 そうして、都の景色に目を向けた彼は気づいた。


 そこには、何もなかった。


 大きく抉れた大地。

 燃ゆる炎。

 紅い空。


「は……、え? ど、ど……ぅして……」

 衝撃のあまり、か細い声しか出なかった。

 最強の竜騎士団(ドラゴン騎士団)と巨大な飛空挺を抱えた共和国家。世界に点在する、他の国々の中でも美しいと評判だった国。

 それが、一瞬でなくなってしまった。

 瓦礫の一つも残す事無く、地獄の業火に焼かれた。



 嫉妬に狂った、神の雷(いかずち)に討たれて……。

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