【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十四章 竜の末裔

3-2 神殿からの使者

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 ジュリナだけではない。アルティスもローウェンも、同じようなあり様だったのである。ユリエの施した女神の玉での治癒作用により大きな傷は塞がれたが、あの時も、事情が事情だった為、時間がなく、すべての傷を治癒する事が出来なかったのだ。
 それ故にこの七日間、ジュリナもアルティスもローウェンもアシェイラ王都に残り、治療に専念していた。

「起きあがって大丈夫なのかい?」

 だが、ティアラ自身も、つい先日まで寝台を離れる事も出来ない程衰弱していたのも事実である。ティアラの場合、深刻だったのは、外傷よりも精神に負った傷。イプロスの奏でた死の旋律によって、一番の精神打撃を受けたのがティアラだったのだ。

 リュセルに次ぐ、感知能力の高さ。それが災いし、この数日、ひどい高熱と吐き気に苦しめられていた。

「まだ横になっていた方がいいよ。また夜になったら、具合が悪くなるかもしれないし」

 ジュリナの案ずるような言葉を受け、ティアラは泣きながらも素直に頷く。

「ええ。……ええ、お姉様」

 怪我や病気に強い宝主の肉体を保有するジュリナと違い、宝鍵であるティアラの体はとても脆い。女性である事が、それに拍車をかけているようだった。

「アルティスやローウェンの具合はどうですの?」

 それでも、他の同胞の事が気になり、ティアラは北の少年達の様子を尋ねる。

「アルティスの怪我は私と似たようなもんだったからねぇ。宝鍵な分、あいつの方が重症っぽいが、感知能力もお前やリュセルのように抜きん出て高くはないし、精神打撃の方も思ったよりなかったようだよ」

 アルティスの無事な様子にほっと息をついたティアラは、恐る恐るローウェンの事を尋ねた。

「ローウェンは?」

 聞いた話によると、自分達の中で最も重症だったのが、一番年下の少年、ローウェンだったようなのだ。顔も体も無残に切り刻まれ、血まみれだったと……。

「はは、あいつはピンピンしてるよ。包帯でグルグルにされて、ミイラみたいになってるけどね」

 ユリエ……いや、サンジェイラが治療に最も力を割いたのが、見るからに瀕死状態だったローウェンなのだろう。細かい傷は残っていたが、最も深刻だったであろう左目と胸の傷は綺麗に塞がっていた。顔の傷は、瞳を抉られなかったのが奇跡な程だったと、アルティスが言っていたのを、不意にジュリナは思い出す。

「すごい食欲だって侍女達が噂していたからねぇ。食べて体力を回復しているんだろう、ローウェンは」

 アルティスの呆れ顔を想像しながら、ジュリナは小さく笑った。

「そう。良かった、本当に」

 安堵したように胸元を押さえる妹の髪を撫でると、ジュリナはそのままリュセルとレオンハルトの眠る寝台の方へ目を向けた。

 あの日、この部屋を出た時と変わらぬ姿のまま、彼らはそこに横たわっていた。……いや、変わった所が一つだけあるか。

「この髪も、神化した時の影響によるものだろうが。しかし、美しいねぇ、これは」

 月の輝きを思わせるような、儚い銀糸の流れ。

 短かったリュセルの髪は、足元にまで届くような長さに変化していたのだ。

「こいつの事だ。きっと、起きたら、”何じゃ、こりゃ~~~!”って叫んで、少しの間髪型を弄りまくって長髪を堪能した後、”やっぱり、邪魔”とか言って、元の長さにバッサリと切っちまうだろうからねぇ。もったいない。そしたら、その髪でかつらでも作ってやろうか」

 真剣に考えながらそう言った姉の様子がおかしく、ティアラはつい笑ってしまった。

「ふふっ」

 久しぶりに見る妹の笑顔。それを目にしたジュリナは、内心ほっとする。

 やっと笑ってくれた。

「お前も。こら、レオンハルト! いい加減起きろよな。いい加減にしないと、これからエロンハルトって呼ぶぞ!」

 そう言いながら、リュセルの隣で眠る幼なじみの額を指先で軽く弾く。笑いながら、ジュリナは内心の不安を隠そうとしていた。

 年下の同胞達の為に、自分は折れてはいけない。叱咤し、導かなくてはならない。先に産まれた神子として……。

(早く起きろ、馬鹿が)

 現代の神子達の中の年長者として、いつも自分と同じ目線で世界を見ていた、同胞であるレオンハルトの存在がいかに大きなものであったのかを、初めてジュリナは痛感していたのであった。



 その後、妹を自分達に与えられた客室に送って行き、寝台の上に横になるのを見届けたジュリナの元へ、ジェイド付きの侍従がやってきたのは、ティアラが浅い眠りについたのと同時だった。

「国王陛下がお呼びです」

 そう告げられたジュリナは、自分達の世話役として与えられた侍女達にティアラの事を任せ、部屋を後にした。

 そうして、彼女がまず向かったのは、呼び出された玉座の間ではなく、ローウェンとアルティスに与えられた客室だった。

「ジェイド王が?」

 ジュリナを室内に通した、首や腕に巻かれた包帯が非常に痛々しく見えるアルティスは、彼女のもたらした知らせを聞いて考えこむように俯く。そして、少しの間思案した後、すぐに頷き答えた。

「わかった、我も行こう」

 それを隣で聞いていたローウェンも、慌てて声を上げる。

「ぼ、僕も! 僕も行く!」

 はいはいはい! と両手を上げてアピールする弟に視線を向けると、アルティスは大きなため息をついた。

「そのような姿でか?」

 腕も脚も首も包帯でグルグルに巻かれ、ほとんど肌色が見えなくなっている状態のローウェンの姿は、他人にショックと衝撃を与えるには充分過ぎたのだ。

 天使のような美しい顔にも手当ての跡があり、左目付近には包帯が巻かれている。左目を覆う包帯は、忌色を隠す意味もあるが、傷口を保護する役割も持っていた。致命傷となるような傷は玉の力で塞がれていたが、それも本当に塞がれていただけで、無理をすると傷口が開く怖れがあったのである。
 その為、ローウェンの左目付近に負った傷痕と胸元の傷痕には、止血と塞傷の作用のある薬が大量に塗られ、その上から更に抑布と包帯で保護されていた。

 その他、脚や腕にも傷を負っていたローウェンは、現在、絶対安静を医師から言い渡されており、こんな風にソファでくつろぐ事も、本来なら止めた方がいい状態なのだ。

 ただ、回復力が異様に早く、医師の見たてよりも早く完治するだろうと思われていた。運が良ければ、傷痕も残らないかもしれない。

「いくら打たれ強い肉体を保持する宝主といえど、お主は死んでもおかしくないような傷を負ったのだぞ。少しは大人しくしておれ」

「……はい」

 アルティスの怒ったような声を聞き、しゅんっと落ち込んでしまったローウェンを見たジュリナは、笑いながら金色の頭を撫でた。

「大丈夫。お前の分まできちんと話を聞いてくるよ。折角、そのままでいれば、傷痕もなくなるって言われてるんだろ? 安静にしてなきゃ駄目だろうが。たくさん食べてたくさん寝るのが、今のお前に出来る事だよ、ローウェン」

 優しく諭すようなその言葉に、ローウェンは素直に頷く。

「はい、ジュリナ姉さん」

「じゃ、行くか」

 ポンポンと、軽くローウェンの頭を叩いて立ち上がったジュリナに続いて、アルティスも腰を上げる。

「では、ローウェン。大人しくしておるのだぞ」

 そう言って唇を寄せてくる兄を見上げたまま、ローウェンは目を閉じて口づけを受け入れる。

「うん。ついでに何かもらってきてね!」

「……まだ何か食べるつもりか?」

 つい、そうつっこんでしまう程、本日のローウェンの食欲も実に旺盛過ぎだった。

「今日は、もう何食目だ……」

 そう言ったアルティスの肩を叩きながら、ジュリナはうんうんと何度も頷く。

「食欲旺盛なのはいい事だよ。ただ、あんなに食べて、どうしてこの子は太らないのだろうと、大きな疑問は残るケドな」

「…………」

 それは普段から感じている疑問だったが故に、アルティスは無言になるしかなかった。



*****



「ジュリナ姫様、アルティス王弟殿下、見えられました。」

 玉座の間。

 扉前に控えていた従者の呼び声と共に、天井にまで届きそうな大きさの扉は開かれ、二人を招き入れた。七日前に襲撃された時の無残な様がまるで嘘のような状態の広間。それを目にしたジュリナは、内心感心していた。

(さすがは、アシェイラ。修復が早いねぇ)

 そうして奥まで進みながら、玉座の前にいる人物に目を向けた。

(これは……。やはり神殿が動いたかい)

 厳しい表情のまま現状を把握するジュリナとアルティスに向かい、玉座に座るこの国の王は声をかける。

「お呼びだてして申し訳ない、ジュリナ姫。それに、アルティス殿まで……」

 ジェイドの言葉に、ジュリナは緩く首を振った。

「いえ、そろそろ私も、陛下と今後の事について話をしたいと思っておりました」

 そう言いながら、ジェイドと向かい合う形でいる小柄な老人に目を向ける。

「お久しぶりです、リュカ老師」

 真白でふわふわな毛と鬚に覆われた、小妖精属性の大神官、リュカ・セリクス。人格者としても有名な老師である。

 リュカ老師はジュリナの顔を見上げると、眉毛の中に隠された小さな目を嬉しそうに和ませた。

「大きく成長なされましたな、鏡主様」

「アルティス、お前は初めてだろう? この可愛いお爺ちゃんは、リュカ・セリクス大神官だ」

 可愛いお爺ちゃん? 確かに……。うん、可愛いが。

 アルティスの目は丸くなる。

「ふぉふぉふぉふぉ、相変わらずお茶目ですなあ、ジュリナ姫は」

「リュカ老師も、お元気そうでなによりです」

 和やかな雰囲気で語り合う二人の様子に一瞬唖然とした後、アルティスは生真面目に礼をした。

「アルティス・セイントクロス・サンジェイラと申す。出会えた事、とても光栄に思う。リュカ老師」

 アルティスの言葉に対し、にこにこと笑いながら、リュカ老師は何度も頷く。

「わしも、貴方様にお目にかかれて光栄に思いますぞ、玉鍵様」

 和やかなリュカ老師とアルティスの様子をじっと眺めた後、ジュリナは本題を切り出した。

「それで、リュカ老師がこうしてはるばる神殿本部より来られたという事は、今回の件について、神殿サイドも動き出したという事なのですか?」

「はい。我々は、あなた方、神子様達をお迎えに参ったのです」

「迎えに?」

 リュカ老師は大きく頷くと、先程ジェイドに確認した事実を口にした。
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