【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十四章 竜の末裔

3-3 月狼(フェンリル)の呼び出し

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「剣主様と剣鍵様の意識は、今だ戻られないそうですな」

「……ああ」

 リュカ老師から僅かに目を逸らしたジュリナの返答を聞き、リュカ老師はため息をつく。

「本当はすぐにでもお連れしたかったのですが、鏡鍵様も玉主様も、今だ安静が必要との事。……仕方ありますまい」

「何故、私達を神殿本部に連れて行きたいんだい?」

「それは……」

 ジュリナの疑問にリュカ老師が答えようとした時。

「月狼(フェンリル)ですよ」

 柔らかな声が響き、ジュリナとアルティスは、咄嗟に声のした方に目を向けた。

 扉をくぐり抜け、入室して来たのは、一組の男女。

 一人は神官服姿の白髪の青年。もう一人は、茜色の着物を着たおさげ髪の女性。

 彼らは並びながら、ゆっくりとジュリナ達の元へと歩み寄った。

「月狼(フェンリル)、アシェイラ。彼の指示でここまでいらしたのでしょう? 大神官様」

 そう言って小首を傾げたユリエを見つめた後、リュカ老師はしっかりと頷き答える。

「はい。その通りです、サンジェイラ様。並びに……、ディエラ様」

 祖父に当たる人のその言葉に、ライサンは一瞬、寂しげに微笑んだのだった。



 勇者アシェイラ。

 古の昔、邪神を封印した勇者の最後の一人。



 場所を玉座の間から応接室に移し、ジュリナ、アルティス、リュカ老師は、向かいのソファに並び座るライサンとユリエの話を真剣な表情で聞いていた。これから話す事は、神殿内部でも重要秘密事項な内容な為、ジェイドは玉座の間に残った形になる。

「月狼(フェンリル)の事は、カルティア姫に聞いて知ってはいたが、まさか、三匹が一匹になっていたとはな。まあ、サンジェイラの生まれ変わりであるユリエ姫が発見された時、確かにおかしいとは思ったんだよ、私も」

 神殿本部に存在する、唯一の月狼(フェンリル)がアシェイラ自身である事を聞いたジュリナは、そう言って何度も頷いた。

「前にレオンハルト殿が、一度神殿本部に赴き、月狼(フェンリル)に対面する必要があると申しておったのは、古の勇者達の転生が、普通ならありえない事だったからなのだな」

 アルティスも、過去にレオンハルトに聞いて知った月狼(フェンリル)の真実に驚きを隠せない。

 そう、ユリエがサンジェイラの生まれ変わりであると知れた時、それに一番に疑問を抱いたのがレオンハルトだった。ユリエの魂を最後まで見守る事を誓うと同時に、他の勇者達の転生も考えていたようなのだ。

「実際、こうして、再び人としての生を受けたのは、ディエラとサンジェイラ。私とユリエ姫だけなのですがね」

 柔らかな口調でそう告げたライサンの優しい頬笑みを、何故か隣に座るユリエは、気味の悪いものを見るような顔で見上げていた。

「あなた方が転生したのは、女神の転生が関係しているのか?」

 ジュリナの問いに、今度はユリエが答える。

「はい。すべては、三千年前。邪神スノーデュークの魂が、サイレンに奪われた事が発端になっています」

「サイレン……か」

 苦々しげに因縁のある邪鬼の名を呼ぶジュリナを見つめながら、ユリエは話を続けた。

「邪神の復活が防げぬものと考えた、レイ……いえ、創世の女神は、自分の魂を二つに分け、神子として転生しました。この辺の事情は、聞いておりますよね?」

 その確認の言葉に、ジュリナもアルティスも大きく頷く。

「転生を果たした女神を導き、手助けする為、私とサンジェイラも輪廻の輪に戻ったのです。ただ、アシェイラは、魂の管理人として、月狼(フェンリル)のまま神殿本部に残りました。月狼(フェンリル)が全員いなくなる事は出来なかった故にですね」

 ユリエの説明を引き継ぎ、そう告げたライサンは、今、アシェイラ国民すべての者が心配している事柄についての話に切り替えた。

「今だ深い眠りについているご様子の剣主様と剣鍵様ですが、近々目を覚まされると思いますよ」

 予言めいたその言葉を聞いたジュリナとアルティスは驚きに目を見張り、リュカ老師は安堵のため息をつく。

「あの眠りは神化の影響によるものですので、そう深刻なものではありません。体と精神が安定しさえすれば、目覚めは可能でしょう」

 リュセルとレオンハルトの状態の改善に希望がもてたのが知れると、ジュリナは表情が緩みそうになるのを必死に耐えながら尋ねた。

「それで? 二人の目が覚めて、ティアとローウェンの傷が治ったら神殿本部に行く事になるんだろう? 月狼(フェンリル)……アシェイラが私達を呼んでいるって、どうしてだ?」

 根本的な話題に戻った事を悟ったライサンは、アシェイラが考えているであろう事柄を口にする。

「あなた方には、神殿本部の最深部に存在する”試練の迷宮”に挑んでもらいます」

 聞いた事のないような名称に、ジュリナとアルティスは声を揃えてそれを口にする。

「「試練の迷宮?」」

「そんなものが本部にあるとは、わしも知らんぞ」

 リュカ老師も、驚きのあまり、目を丸くしていた。

「大神官でも知らないと思います。あれの扉を開けるのは、月狼(フェンリル)のみ。月狼(フェンリル)と神子でしか行けぬ場所にあるのです」

「で? その試練の迷宮ってのは、一体なんなんだい?」

 ジュリナの問いに続き、アルティスも頷く。

「名前からすると、我々の力量を試す場所のような感じなのだが……」

 ライサンは二人の言葉に頷くと、小さく首を傾げた。

「そうですね。まあ、そのようなもので間違いはありませんが……、簡単に言えば、力を手に入れる為のダンジョンですよ。あなた方が使っている浄化の力。実は本来の力の半分も出せていないのです」

「はあ? なんだって!?」

 衝撃の事実を聞いたジュリナはあんぐりと口を開け、アルティスは、エルヴィスという邪鬼に襲撃され、意識の朦朧としていた時に垣間見た、サンジェイラと化したユリエの力のすごさを思い出していた。

「本来なら、私達などよりも、神子であるあなた方の方が、女神の宝との同化率は高いはず。浄化の力も比べ程にならぬ程に強いのです。でも、それを使えぬのは、あなた方が半分、人だから……。試練の迷宮の奥深くには、女神の宝の力の全解放を可能にするものが眠っていると伝えられてます。それは、試練をくぐり抜けた神子しか手に出来ないらしく、選ばれた神子だけが手にする事が出来るのです」

 アルティスの考えている事を察したユリエが説明し、それを補足するようにライサンも言った。

「試練の迷宮は、神々の遺産だと思われております。創世期前に存在した神々が残した遺物」

 この世界の柱となっている二神。レイデュークとスノーデューク以外の神が遺したもの。

「また、神々の遺産の登場かい」

 疲れたような表情でそう言ったジュリナが、神々の遺産絡みで過去に巻き込まれた事件を知らないアルティスは、不思議そうに目を瞬かせた。(番外編:逆さ鏡の伝説参照)

「試練に挑むには、あなた達はまだ弱い。試練の迷宮に挑戦する前に、神殿本部で自身を鍛えるといいでしょう。その時は、私達がお手伝い致しますよ」

「ッ……」

「…………」

 弱い。

 自分の力に絶対的な自信を持っていた彼らは、ライサンのその言葉がぐさりと胸に突き刺さっていた。

「準備は万端にしていった方がいいでしょうね。過去に試練の迷宮に挑んだ神子で力を手に出来たのは、三千年前の神子達だけなのだから」

 三千年前。

 すべての始まりとなった時代。

 鏡主という同胞を邪鬼に奪われ、邪神と化した彼を討った世代。その悲しい末路も、リュセルに聞いて知っていた。

「当時、鏡主を除いた全員が挑んだのか?」

 アルティスの問いに、ライサンは首を横に振る。

「いえ、三千年前は、剣主様と剣鍵様、それと、玉主様と玉鍵様が挑まれ、力を手にしました」

「そうか。半身がおらなければ、試練にも挑戦出来ぬのだな」

 納得したように頷くアルティスを見つめた後、ユリエが堪らずに真実を告げた。

「違うの、アルティス。彼は……、イプロスは…………、壊れてしまったのよ。半身を失って、何も感じない、まるで人形のようになってしまったの」

 試練に挑戦する事など、彼は到底出来る状態ではなかった。

 イプロス。

 聞いた事のある名前に、ジュリナは首を傾げる。

「ん? どっかで聞いた名前だよな」

 どこでだっけ?

 過ぎ去った嫌な出来事は、綺麗に忘れ去ってしまう質であるジュリナは、ディエラ国宝物庫から発見されたイプロスの遺産の事を思い出せずにいた。

「ジュリナ殿。我らがリュセル殿に贈った誕生日プレゼント、聖銃を遺した三千年前のディエラの王子の名であろう?」

「あ~、そうそう。”逆さ鏡”を遺した奴だな」

「逆さ鏡?」

 ジュリナの言っている事が理解出来ずに首を傾げるアルティスの向かい側で、両手をきつく握りしめるユリエに気づいたライサンは、彼女の手に触れて緩く首を振る。

「……ディエラ」

 かの王子の事は、まだ告げる時ではない。真摯なその眼差しを受け、ユリエは無言のまま頷いた。
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