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episode1*大好きだって伝えたい
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「タルさん、お疲れ様です。」
「おう、要か、お疲れ。」
「樽前アタルファンクラブ、会員ナンバー8番の麝香要です。バレンタインのチョコをお持ちしました、受け取ってください。」
「いやぁ~、もちろんありがたいんですけどね、贈り物をされる際は事務所を通してもらわないと困るんですよ。」
「…なんすかそれ、5年間で一回も言われたことないっすよ。」
「はははっ、人気者気分を味わいたくてつい、な。」
「俺一応会員ナンバー一桁の古参なんで、直接でいいですかね?…はい、これ。」
「おぅ、サンキュ。…ってお前、まぁたこんな高そうなもんよこして。…毎回何返していいか迷うんだよなぁ。」
「………じゃあ、飯でも連れていってください。」
「あぁ~…、まぁ、ホワイトデーならいいけど。」
「えっ。」
「悪いな、3月まではまだ凛太郎が優先なんだわ。」
「いや、…それは全然いいんですけど…、ホントに連れていってもらえるんですか?」
「おう、どっか行きたい店があるなら3月までに考えといてくれよ。」
「え、あ、…はい。」
樽前アタル42歳、子持ち、独身、広告代理店勤務のコピーライター、通称タルさん。
そんなしがない中年オヤジの俺にも、ありがたいことに気にかけてくれる誰かというのは居るもので。
一回り年下の後輩営業マン麝香要は、働き盛り、モテ盛りの遊び放題の年頃であるにもかかわらず、あの日からの5年間、毎年バレンタインには欠かさず俺に高級チョコレートを贈ってくれている。
それでもバレンタイン以外の日常生活で何かをアピールしたり近づいてきたりという事が一切ないので、最近は“ヤツは遅れてきたサンタか何かなのか?”と思っていたりもして。
もちろんクリスマスとは違い、バレンタインにはホワイトデーというアンサーデーがあるので、毎年チョコレートのお返しにはそれなりに値の張るものをお返ししているが、要がそれらのものを使っている場面には一度も出くわしたことがない。
息子の凛太郎から言わせてみれば、趣味じゃなかったんじゃない?という事なのだが、それにしても俺からのお返しを一切使用しないどころか、初めてバレンタインチョコを受け取ったあの日以来、全くというほど感情を表に出さない淡々とした様子で接してくるので、あの日の出来事は、もはや幻だったのではないかとすら思えてくるのだ。
そんな要が今、困惑したようにこちらの様子を窺っているのには訳がある。
それは5年間毎年バレンタインのチョコを受け取っておきながら一度も食事の誘いにすら乗ってやらなかった俺が、今回ばかりはあっさりと承諾したからだ。
もちろん気まぐれで誘いに乗った訳ではなく、はじめから、今年要から食事に誘われるようなことがあれば受けてやるつもりをしていたのだけれど、その返答は俺が想像したよりもずっと、要にとって驚くべきものだったらしい。
5年前のあの日から一度も見ることのなかった要の赤面した表情を見て、誘いに乗ってやってよかったと心底思った。
「おう、要か、お疲れ。」
「樽前アタルファンクラブ、会員ナンバー8番の麝香要です。バレンタインのチョコをお持ちしました、受け取ってください。」
「いやぁ~、もちろんありがたいんですけどね、贈り物をされる際は事務所を通してもらわないと困るんですよ。」
「…なんすかそれ、5年間で一回も言われたことないっすよ。」
「はははっ、人気者気分を味わいたくてつい、な。」
「俺一応会員ナンバー一桁の古参なんで、直接でいいですかね?…はい、これ。」
「おぅ、サンキュ。…ってお前、まぁたこんな高そうなもんよこして。…毎回何返していいか迷うんだよなぁ。」
「………じゃあ、飯でも連れていってください。」
「あぁ~…、まぁ、ホワイトデーならいいけど。」
「えっ。」
「悪いな、3月まではまだ凛太郎が優先なんだわ。」
「いや、…それは全然いいんですけど…、ホントに連れていってもらえるんですか?」
「おう、どっか行きたい店があるなら3月までに考えといてくれよ。」
「え、あ、…はい。」
樽前アタル42歳、子持ち、独身、広告代理店勤務のコピーライター、通称タルさん。
そんなしがない中年オヤジの俺にも、ありがたいことに気にかけてくれる誰かというのは居るもので。
一回り年下の後輩営業マン麝香要は、働き盛り、モテ盛りの遊び放題の年頃であるにもかかわらず、あの日からの5年間、毎年バレンタインには欠かさず俺に高級チョコレートを贈ってくれている。
それでもバレンタイン以外の日常生活で何かをアピールしたり近づいてきたりという事が一切ないので、最近は“ヤツは遅れてきたサンタか何かなのか?”と思っていたりもして。
もちろんクリスマスとは違い、バレンタインにはホワイトデーというアンサーデーがあるので、毎年チョコレートのお返しにはそれなりに値の張るものをお返ししているが、要がそれらのものを使っている場面には一度も出くわしたことがない。
息子の凛太郎から言わせてみれば、趣味じゃなかったんじゃない?という事なのだが、それにしても俺からのお返しを一切使用しないどころか、初めてバレンタインチョコを受け取ったあの日以来、全くというほど感情を表に出さない淡々とした様子で接してくるので、あの日の出来事は、もはや幻だったのではないかとすら思えてくるのだ。
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それは5年間毎年バレンタインのチョコを受け取っておきながら一度も食事の誘いにすら乗ってやらなかった俺が、今回ばかりはあっさりと承諾したからだ。
もちろん気まぐれで誘いに乗った訳ではなく、はじめから、今年要から食事に誘われるようなことがあれば受けてやるつもりをしていたのだけれど、その返答は俺が想像したよりもずっと、要にとって驚くべきものだったらしい。
5年前のあの日から一度も見ることのなかった要の赤面した表情を見て、誘いに乗ってやってよかったと心底思った。
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