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十歳
王妃というパトロン
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「お呼びに従い、参りました、王妃様」
王妃の私室は比較的王宮の外側に近い。いつもの活動場所であるところからは少し離れている。いくら時間指定されてないからとはいっても、そんなにゆっくりできるわけではない。はしたなくならない、見えない程度に急ぎ足で歩いたので、普段、力仕事をしているとはいえども、使うエネルギーがいつも以上だった。
少し息を整えてから、扉の外から声をかけた。
すると、すぐにアリアだと分かったのか、返答はなかったが、扉が開いた。
「失礼いたします」
キュッと背筋を伸ばして部屋に入った彼女は中ほどまで進むと、軽くお辞儀をした。
今日の王妃の服は王妃の髪色である紺色によく似合う水色のドレスである。どうやら今まで、もしくはこれから外出するのだろうか。かなり動きにくそうな、どちらかといえば儀式や祭典にのぞむような装飾の多さだった。
だからか、ただ奥の方で座っているだけにもかかわらず、非常に疲れているようにみえた。
「このたびはお招きにあずかり、光栄です」
周りにいる侍女たちの視線が刺さる中、無難な挨拶をする。アリア自身は緊張していなく、王宮に上がってからの噂を知っている侍女たちのほうが何を言われるのかハラハラしていたようだ。アリアの言葉の終わりに皆一様にホッとした雰囲気になっていた。
「顔をあげなさい」
王妃の言葉に失礼いたします、と言って顔を上げた。近ごろのあの女の話題は聞いてないが、どうやらある程度の折り合いをつけてやっているようだ。
まるでアリアが転生者として最初の行動をとったときの母親のように、いきいきとしていたのだ。
「二人きりにして頂戴」
王妃はアリアと二人きりになることを望み、侍女たちを下がらせた。下がっていく侍女の中にはアリアを憎々しげに見つめるものもいたが、アリアはすべて無視した。
「なかなかあなたはやりますね」
彼女たちが去っていき、二人きりになったあと、ソファに座って頂戴と言われたので、座ると王妃は話しはじめた。
心当たりは多少あったから、どれのことを指して言っているのかはわからなかった。
「全てについてですよ。特に掃除道具を隠されたときは、よくもあんなアイディアを考え付きましたね」
王妃の顔は微笑んでいたが、目は笑っていなかった。アリアは無表情のまま、どう返答してよいのかわからず、困惑した。そんな彼女に気づいたのか、純粋に誉めていますよと王妃は言う。今度は目もきちんと笑っている。
「ごめんなさいね」
王妃はやれやれとため息をつきながら少し首を動かす。
やはり髪飾りなどが重たくて、肩が凝るようだ。
「私はね、あなたが『困った』侍女たちを体よく追っ払ってくれて、感謝しているの。あの子たちは公爵家の姫はいないわ。でも、成り上がりの侯爵家や伯爵家の娘たちが多くて、今までの侍女長も、そして王宮で働いている女性のトップにいる私さえでもかなり厄介な娘たちが多くて、手に負えなかったのよ。だから、あなたがしてくれたことは好都合だったのよ」
王妃は笑顔のままそう言った。
だけれど、アリアは自分の背中がぞっと凍り付くのが分かった。
この人は『困った』侍女たちと言った。
ということは今までも、下級侍女もしくは、同僚たちをいじめていた?
万が一、それが本当だった場合、ゲーム内のアリアの役割が彼女たちになったということなのだろうか。
そうであれば嬉しいと思うと同時に申し訳なさも出てくる。
「スフォルツァ家もいいネタになったのではないの?」
王妃は彼女自身のわざと出した髪を指に巻き付けてあそびながらそう言う。
「筆頭公爵であるスフォルツァ家令嬢をいじめた、というのは高くつくのを彼女たちは知らないのかしらね?」
王妃の言葉は絶大だ。場合によっては国さえも動かす。
アリアは間違えるわけにはいかなかった。
今ここで頷けば、スフォルツァ家は王宮の元侍女たちの実家の弱みを握ることができ、絶対的な力を持つこともできる。
アリアが何も言わないでいると、王妃は重たそうなドレスの裾を持ち上げながら、アリアのそばにやってきて、隣に座る。
「もちろん、あなたがその力を使うとは思えないし、思わない。でも、この調子ならば、あの女だって片付けられるような気がするわ。私たちもできるだけのことをするけど、多分、私たちじゃあ、あの女を完全につぶすことはできない。だから、どうしてもあなたの力を借りたい」
王妃の真剣な眼差しにアリアは先ほどとは違う意味で背筋を伸ばした。
「アリア・スフォルツァ公爵令嬢。この前はあなたを試して申し訳なかったわ。あなたを疑っていたわけじゃないけど、なんというのか。あなたがどう動くか見てみたかったの」
この国でもっとも位が高い女性はアリアに頭を下げる。
その言葉にアリアはやはりそうだったのかと思うと同時に、認められて嬉しい思いがあった。
「厚かましい願いなんだけど、あなたに『お願い』です。あの女のまいた火種を消すために私たちに力を貸してほしい」
王妃はさらに深く頭を下げる。ディートリヒ王からはすでに聞いているが、彼女から直接聞くのは初めてだ。
おやめくださいと言って、王妃の下になるようにソファから降り、地べたに座る。
「私はすでにあの人を消すつもりです。たとえどんなふうに言われたとしても、私はそのつもりです。だから、殿下のお言葉がなくても私は動きます」
アリアの返事にそうなの、と痛みをこらえた笑顔を見せる王妃。
たかだか十歳の子どもがまさかそんな覚悟をしているとは思わなかったのだろう。
「そのかわりにあなたの望みは可能な限りすべてかなえてあげる。いつでも言ってごらんなさい」
王妃は微笑みながらそう言う。アリアはその言葉に、ゲーム内の彼女なら「上級侍女にしろ」などと宣いそうだなと思いつつも、今まで考えてきた『あること』をお願いしてみることにした。
「では今、一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
王妃の私室は比較的王宮の外側に近い。いつもの活動場所であるところからは少し離れている。いくら時間指定されてないからとはいっても、そんなにゆっくりできるわけではない。はしたなくならない、見えない程度に急ぎ足で歩いたので、普段、力仕事をしているとはいえども、使うエネルギーがいつも以上だった。
少し息を整えてから、扉の外から声をかけた。
すると、すぐにアリアだと分かったのか、返答はなかったが、扉が開いた。
「失礼いたします」
キュッと背筋を伸ばして部屋に入った彼女は中ほどまで進むと、軽くお辞儀をした。
今日の王妃の服は王妃の髪色である紺色によく似合う水色のドレスである。どうやら今まで、もしくはこれから外出するのだろうか。かなり動きにくそうな、どちらかといえば儀式や祭典にのぞむような装飾の多さだった。
だからか、ただ奥の方で座っているだけにもかかわらず、非常に疲れているようにみえた。
「このたびはお招きにあずかり、光栄です」
周りにいる侍女たちの視線が刺さる中、無難な挨拶をする。アリア自身は緊張していなく、王宮に上がってからの噂を知っている侍女たちのほうが何を言われるのかハラハラしていたようだ。アリアの言葉の終わりに皆一様にホッとした雰囲気になっていた。
「顔をあげなさい」
王妃の言葉に失礼いたします、と言って顔を上げた。近ごろのあの女の話題は聞いてないが、どうやらある程度の折り合いをつけてやっているようだ。
まるでアリアが転生者として最初の行動をとったときの母親のように、いきいきとしていたのだ。
「二人きりにして頂戴」
王妃はアリアと二人きりになることを望み、侍女たちを下がらせた。下がっていく侍女の中にはアリアを憎々しげに見つめるものもいたが、アリアはすべて無視した。
「なかなかあなたはやりますね」
彼女たちが去っていき、二人きりになったあと、ソファに座って頂戴と言われたので、座ると王妃は話しはじめた。
心当たりは多少あったから、どれのことを指して言っているのかはわからなかった。
「全てについてですよ。特に掃除道具を隠されたときは、よくもあんなアイディアを考え付きましたね」
王妃の顔は微笑んでいたが、目は笑っていなかった。アリアは無表情のまま、どう返答してよいのかわからず、困惑した。そんな彼女に気づいたのか、純粋に誉めていますよと王妃は言う。今度は目もきちんと笑っている。
「ごめんなさいね」
王妃はやれやれとため息をつきながら少し首を動かす。
やはり髪飾りなどが重たくて、肩が凝るようだ。
「私はね、あなたが『困った』侍女たちを体よく追っ払ってくれて、感謝しているの。あの子たちは公爵家の姫はいないわ。でも、成り上がりの侯爵家や伯爵家の娘たちが多くて、今までの侍女長も、そして王宮で働いている女性のトップにいる私さえでもかなり厄介な娘たちが多くて、手に負えなかったのよ。だから、あなたがしてくれたことは好都合だったのよ」
王妃は笑顔のままそう言った。
だけれど、アリアは自分の背中がぞっと凍り付くのが分かった。
この人は『困った』侍女たちと言った。
ということは今までも、下級侍女もしくは、同僚たちをいじめていた?
万が一、それが本当だった場合、ゲーム内のアリアの役割が彼女たちになったということなのだろうか。
そうであれば嬉しいと思うと同時に申し訳なさも出てくる。
「スフォルツァ家もいいネタになったのではないの?」
王妃は彼女自身のわざと出した髪を指に巻き付けてあそびながらそう言う。
「筆頭公爵であるスフォルツァ家令嬢をいじめた、というのは高くつくのを彼女たちは知らないのかしらね?」
王妃の言葉は絶大だ。場合によっては国さえも動かす。
アリアは間違えるわけにはいかなかった。
今ここで頷けば、スフォルツァ家は王宮の元侍女たちの実家の弱みを握ることができ、絶対的な力を持つこともできる。
アリアが何も言わないでいると、王妃は重たそうなドレスの裾を持ち上げながら、アリアのそばにやってきて、隣に座る。
「もちろん、あなたがその力を使うとは思えないし、思わない。でも、この調子ならば、あの女だって片付けられるような気がするわ。私たちもできるだけのことをするけど、多分、私たちじゃあ、あの女を完全につぶすことはできない。だから、どうしてもあなたの力を借りたい」
王妃の真剣な眼差しにアリアは先ほどとは違う意味で背筋を伸ばした。
「アリア・スフォルツァ公爵令嬢。この前はあなたを試して申し訳なかったわ。あなたを疑っていたわけじゃないけど、なんというのか。あなたがどう動くか見てみたかったの」
この国でもっとも位が高い女性はアリアに頭を下げる。
その言葉にアリアはやはりそうだったのかと思うと同時に、認められて嬉しい思いがあった。
「厚かましい願いなんだけど、あなたに『お願い』です。あの女のまいた火種を消すために私たちに力を貸してほしい」
王妃はさらに深く頭を下げる。ディートリヒ王からはすでに聞いているが、彼女から直接聞くのは初めてだ。
おやめくださいと言って、王妃の下になるようにソファから降り、地べたに座る。
「私はすでにあの人を消すつもりです。たとえどんなふうに言われたとしても、私はそのつもりです。だから、殿下のお言葉がなくても私は動きます」
アリアの返事にそうなの、と痛みをこらえた笑顔を見せる王妃。
たかだか十歳の子どもがまさかそんな覚悟をしているとは思わなかったのだろう。
「そのかわりにあなたの望みは可能な限りすべてかなえてあげる。いつでも言ってごらんなさい」
王妃は微笑みながらそう言う。アリアはその言葉に、ゲーム内の彼女なら「上級侍女にしろ」などと宣いそうだなと思いつつも、今まで考えてきた『あること』をお願いしてみることにした。
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