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十一歳
心を隠して行動しても得はない
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「お前がこんなにもはやく文官になるとは思わなかった」
馬車の中、流れる景色をバックにクリスティアン王子はしみじみと呟いた。
「ええ、私もそう思います。もう少し侍女として長く王宮にいるつもりでしたから」
アリアは苦笑いしてそう答えた。
「ですが、侍女長や王妃殿下の心労を考えると、私が侍女としているのには難しかったのでしょう」
侍女として過ごした一年。自分は『やられたらなんたら』とやられることを楽しんでいた部分もあったが、周りからするとど迷惑だっただろう。
前職は結局、自分の今後の行動の踏み台になったけれど、後悔はしていない。
「そうか」
クリスティアン王子はアリアのその様子に納得したようだった。
「これからよろしくな」
彼はにかっと笑ってアリアに手を差し出した。
「ええ、こちらこそ。まずはどうやってフェティダ公爵の心を開くのか、楽しみにしていますわ」
彼女の挑発ともとれる言葉に、お前なぁとあきれる王子。
今回の行啓は五日間。フェティダ領は王都から見て南西、普通の馬車で片道一日、単騎では休憩なしで数時間の場所であるが、クリスティアン王子とスフォルツァ公爵令嬢の二人がいるため、宿泊をそれぞれ一泊し、片道に一日半かける。また、領地への滞在は一泊となっている。
「なあ」
王都とフェティダ領の中間地点、レヴィディア領で休憩を取ることになった。野外に天幕が作られ、特設の茶会会場で足をのばしている最中、クリスティアン王子に声をかけられた。馬車の中では最初に喋って以来、本に没頭していた彼だったので、何の用だと一瞬、顔をこわばらせた。
「お前の本音はどうなんだ」
クリスティアン王子の質問はとても抽象的なものだった。
「はぁ?」
彼の質問に素でそんな返しをしてしまったが、考えてみても理解できなかったアリアだった。
「お前は俺の行動を止めに入りながらも、セレネ伯爵令嬢の婚約の後押しをしたり、左遷され、リーゼベルツに来たと噂されたクロード王子パートナーになったりとか、わりと汚い役割を買ってでている。お前自身の利益、例えば権力を握ったりとか、王家に取り入ったりとか関係なしにな。それは誰かに押し付けられているのか、それとも誰かに脅迫されているのか。お前はその状態で満足しているのか? 俺だったらお前の立場なんてもうコリゴリだ」
王子の具体的な質問にアリアは少しだけ黙った。
「そうですね。まず、こんな損な役割背負っているのって、押し付けられたり脅迫されたりしているのか、という部分についてですが、少なくとも自発的に行動した結果です。結果的にそう見えるだけで」
彼女の言葉に黙って聞くクリスティアン王子。本当は巻き込まれているのってあなたの両親のせいです、と言いたかったが、自重しておいた。
「あと今のままでよいのか、とおっしゃいましたが、私はこの先、どうなるかは分かりませんが、昔に比べたら良いと思います」
アリアの発言にそうだな、と深く頷くクリスティアン王子。
「昔のお前は酷かったな」
彼は昔を懐かしむように言う。
「そういえば、前にも聞きましたが、昔、本当に殿下と会っていたんでしょうか」
アリアは前々から疑問に思ったことを聞いた。夜会の時に聞いた話で、確かに会ったことがあるとは思うのだけれど、やはり気になる。
「ある」
王子はアリアの髪を触った。アリアはその髪の触り方に少し既視感を覚えたが、いつどこで、というところまでは思い出せていなかった。
「最初は俺らが二歳のときだったな。そのときからお前はかなり傲慢だった。あの女が王宮に顔を見せはじめたときにお前と縁を切った。似たような女を二人も相手にしたくなかったからな」
トラウマになったぞ。苦い顔をしたクリスティアン王子はアリアを見つめながらそう言う。彼女はここでも過去の行いによって、傷つけた人間がいるのだと、改めて後悔していた。
「そんな顔をするな」
アリアはすごいショックを受けている顔をしていたのだろう。王子が頭を撫でた。
「俺もお前と再会したとき、いきなりお前の胸ぐらをつかんだことを反省してる。まだあのときは王族としての自覚が薄かった。でも、そんな自分の未熟さに気付く前に、お前が先輩ぶった行動をとったのが気に食わなかったんだろうな。すまなかった」
そう言う王子の口調は優しかった。
ちょっと、今ここでそれは反則でしょう。
アリアは気のない女にそれやっちゃダメとか、本当に好きな女にそれを見せなさいよとか、いろいろ突っ込みたかったが、それをすると二度と王子と会話できなくなるのではないか、と思うと怖くて突き放すことが出来なかった。が、それは休憩時間の終わりを告げる騎士たちによって唐突に終わった。
馬車の中、流れる景色をバックにクリスティアン王子はしみじみと呟いた。
「ええ、私もそう思います。もう少し侍女として長く王宮にいるつもりでしたから」
アリアは苦笑いしてそう答えた。
「ですが、侍女長や王妃殿下の心労を考えると、私が侍女としているのには難しかったのでしょう」
侍女として過ごした一年。自分は『やられたらなんたら』とやられることを楽しんでいた部分もあったが、周りからするとど迷惑だっただろう。
前職は結局、自分の今後の行動の踏み台になったけれど、後悔はしていない。
「そうか」
クリスティアン王子はアリアのその様子に納得したようだった。
「これからよろしくな」
彼はにかっと笑ってアリアに手を差し出した。
「ええ、こちらこそ。まずはどうやってフェティダ公爵の心を開くのか、楽しみにしていますわ」
彼女の挑発ともとれる言葉に、お前なぁとあきれる王子。
今回の行啓は五日間。フェティダ領は王都から見て南西、普通の馬車で片道一日、単騎では休憩なしで数時間の場所であるが、クリスティアン王子とスフォルツァ公爵令嬢の二人がいるため、宿泊をそれぞれ一泊し、片道に一日半かける。また、領地への滞在は一泊となっている。
「なあ」
王都とフェティダ領の中間地点、レヴィディア領で休憩を取ることになった。野外に天幕が作られ、特設の茶会会場で足をのばしている最中、クリスティアン王子に声をかけられた。馬車の中では最初に喋って以来、本に没頭していた彼だったので、何の用だと一瞬、顔をこわばらせた。
「お前の本音はどうなんだ」
クリスティアン王子の質問はとても抽象的なものだった。
「はぁ?」
彼の質問に素でそんな返しをしてしまったが、考えてみても理解できなかったアリアだった。
「お前は俺の行動を止めに入りながらも、セレネ伯爵令嬢の婚約の後押しをしたり、左遷され、リーゼベルツに来たと噂されたクロード王子パートナーになったりとか、わりと汚い役割を買ってでている。お前自身の利益、例えば権力を握ったりとか、王家に取り入ったりとか関係なしにな。それは誰かに押し付けられているのか、それとも誰かに脅迫されているのか。お前はその状態で満足しているのか? 俺だったらお前の立場なんてもうコリゴリだ」
王子の具体的な質問にアリアは少しだけ黙った。
「そうですね。まず、こんな損な役割背負っているのって、押し付けられたり脅迫されたりしているのか、という部分についてですが、少なくとも自発的に行動した結果です。結果的にそう見えるだけで」
彼女の言葉に黙って聞くクリスティアン王子。本当は巻き込まれているのってあなたの両親のせいです、と言いたかったが、自重しておいた。
「あと今のままでよいのか、とおっしゃいましたが、私はこの先、どうなるかは分かりませんが、昔に比べたら良いと思います」
アリアの発言にそうだな、と深く頷くクリスティアン王子。
「昔のお前は酷かったな」
彼は昔を懐かしむように言う。
「そういえば、前にも聞きましたが、昔、本当に殿下と会っていたんでしょうか」
アリアは前々から疑問に思ったことを聞いた。夜会の時に聞いた話で、確かに会ったことがあるとは思うのだけれど、やはり気になる。
「ある」
王子はアリアの髪を触った。アリアはその髪の触り方に少し既視感を覚えたが、いつどこで、というところまでは思い出せていなかった。
「最初は俺らが二歳のときだったな。そのときからお前はかなり傲慢だった。あの女が王宮に顔を見せはじめたときにお前と縁を切った。似たような女を二人も相手にしたくなかったからな」
トラウマになったぞ。苦い顔をしたクリスティアン王子はアリアを見つめながらそう言う。彼女はここでも過去の行いによって、傷つけた人間がいるのだと、改めて後悔していた。
「そんな顔をするな」
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「俺もお前と再会したとき、いきなりお前の胸ぐらをつかんだことを反省してる。まだあのときは王族としての自覚が薄かった。でも、そんな自分の未熟さに気付く前に、お前が先輩ぶった行動をとったのが気に食わなかったんだろうな。すまなかった」
そう言う王子の口調は優しかった。
ちょっと、今ここでそれは反則でしょう。
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