51 / 69
十一歳
道中
しおりを挟む
アリアは少し精神的なダメージによってめまいを感じたが、もう出発する時間だからと気をとりなおし、馬車に入った。休憩後の馬車の中では一人、アリアは悩んでいた。
いやまあ、私もあそこで突き放すことができたならばよかったんだけれどねぇ。
さすがに一国の王太子を突き飛ばすなんていう芸当なんてできやしない。悪役令嬢、いや悪女だったころの自分ならばできたんだろうが。考えても生産性のないことを堂々めぐりしていたが、この旅の間ずっと続くと思うと疲れてしまう。次に止まるのはフェティダ領に入る直前の宿場町。
そこに着くまで秘書課の人についてでも考えようと思った。ほんと十数日しかあってない人たち。ジョルジュ・オルニア伯爵とパウル・マッキントン男爵、ともに悪い噂を聞いたことはない。だからといってすぐに信用できるかどうかでいえば信用できない。なにせ二家ともスフォルツァ家と(一方的な)対立関係にあるバルティア家の血縁者。こちらが歯牙にかけてないだけで、あちらがなんと思っているかわからない。
早く王太子が国王についてほしいわね。
現王に対してたいへん不敬であることを承知しつつもそう感じる。もっとも、今感じたことをディートリヒ王に直接言ったところで、お前ならばそう考えるだろうなとか言われそうだが。
彼、クリスティアン王子が何事もなく王位に就いた場合、問題になるとすれば王妃のことだろうが、アリアには彼の妻になるつもりはさらさらないし、何より『ベアトリーチェ・セレネ』という切り札がある。彼女の意思も重要だけど、そこは目の前の本人になんとかしてもらうしかない。彼女さえ王妃になれば自分の役目は終わる。あとは好き勝手に生きさせてもらおう。できれば、縁の下の力持ちとして、ね。
宿場町に着いた時にはすでにあたりは暗くなっていた。先に護衛たちが荷物を運び入れている間に王子とアリアは先に食事をとることにした。
「美味いな。王宮にもこの食事を出してもらいたいくらいだ」
この地方の特産である畜産物をふんだんに使われた食事は、王都の食事内容に劣らないものだった。
「ええ」
アリアもそれに同意する。前世でもソーセージやチーズなどの食事は当たり前だったが、前と比べてさまざまなものが乏しいこの世界、いやアリア・スフォルツァという人生で畜産加工品を食べる機会は少なかった。だから、ソーセージに似た肉加工品やクリームチーズに似た乳加工品が並べられているこの環境は前世の記憶を持つ彼女にとってかなり嬉しいものだった。
本来ならば毒見が必要だが、この宿の主人に悪いということであえて毒見を作らなかった。そのかわり主人も同席してもらい、主人にも同じ料理を味わってもらうということで一種の保障にすることにした。同席している主人や料理人は二人の言葉に恐縮しつつも、喜んでいるかのように感じられた。
「で、明日についてだが」
食事が終わり、主人と料理人が席を外したのを見計らって、クリスティアン王子が切りだした。
「このままフェティダ領に入り、そのままフェティダ公爵の屋敷に行く。よほど何事もなければ二回の休憩を入れても、夕方までには着くだろう」
「そうだわね」
アリアは予定通りねと頷く。前世でもそうだが、この旅行でも早いときは前倒しせず定刻になるまで待つ、反対に遅いときには休憩時間を減らす、出発を早めるなどをすると事前に言われていた。
「そのまま公爵との懇談に臨む。そのときお前にも同席してほしい」
彼のその願いにアリアはなぜかと思ったが、その答えはすぐに彼から告げられた。
「彼は確かお前と同じ年にデビュタントしていたから、面識はあるだろ?」
が、その理由にはアリアには否定せざろうえなかった。
「残念なことに、私は彼と全然喋ったことがないから、それにはお応えできないわ」
彼女が首を少し振りながらそう言うと、クリスティアン王子はまさかと驚く。
「あら、そんなに驚くようなことではないと思うけど。だって、そもそもスフォルツァ家が古参の家柄に対して、フェティダ家は併合する際に土地の住民をなだめるために公爵家となった、いわば新興公爵家のひとつ。それにあの件に対して、私はある意味で成功しているけど、彼は失敗している」
クリスティアン王子はなるほどなとすぐに納得してくれた。彼にも分かっているだろう、あのときの食事会のことを。彼自身は参加してなかったものの、ある程度は聞いているはずだ。
「だから、私と彼が同じ席についた場合、王家からのプレッシャー、王家からのとして認識してしまう可能性があるわね」
もちろん、それでいいならば喜んで席につくわよ?
アリアはすっと目を細めてそう忠告する。すると、なにかに思い当たったようで、即答せずに考えるクリスティアン王子。
「そうだな。こちらとしては友好関係を結びたいのが第一義だ。お前という存在がどのように捉えられるか分からない以上、同席させるというのはあまり得策ではないな」
彼は自分の意思を折り曲げることにしたようだった。それを見たアリアは残念そうに眉を下げながら、私も殿下の力になりたかったのだけれどと呟く。
「ええ、そうしてもらえるといいわね。もちろん、彼が望めばまた別の話だけれど」
いやまあ、私もあそこで突き放すことができたならばよかったんだけれどねぇ。
さすがに一国の王太子を突き飛ばすなんていう芸当なんてできやしない。悪役令嬢、いや悪女だったころの自分ならばできたんだろうが。考えても生産性のないことを堂々めぐりしていたが、この旅の間ずっと続くと思うと疲れてしまう。次に止まるのはフェティダ領に入る直前の宿場町。
そこに着くまで秘書課の人についてでも考えようと思った。ほんと十数日しかあってない人たち。ジョルジュ・オルニア伯爵とパウル・マッキントン男爵、ともに悪い噂を聞いたことはない。だからといってすぐに信用できるかどうかでいえば信用できない。なにせ二家ともスフォルツァ家と(一方的な)対立関係にあるバルティア家の血縁者。こちらが歯牙にかけてないだけで、あちらがなんと思っているかわからない。
早く王太子が国王についてほしいわね。
現王に対してたいへん不敬であることを承知しつつもそう感じる。もっとも、今感じたことをディートリヒ王に直接言ったところで、お前ならばそう考えるだろうなとか言われそうだが。
彼、クリスティアン王子が何事もなく王位に就いた場合、問題になるとすれば王妃のことだろうが、アリアには彼の妻になるつもりはさらさらないし、何より『ベアトリーチェ・セレネ』という切り札がある。彼女の意思も重要だけど、そこは目の前の本人になんとかしてもらうしかない。彼女さえ王妃になれば自分の役目は終わる。あとは好き勝手に生きさせてもらおう。できれば、縁の下の力持ちとして、ね。
宿場町に着いた時にはすでにあたりは暗くなっていた。先に護衛たちが荷物を運び入れている間に王子とアリアは先に食事をとることにした。
「美味いな。王宮にもこの食事を出してもらいたいくらいだ」
この地方の特産である畜産物をふんだんに使われた食事は、王都の食事内容に劣らないものだった。
「ええ」
アリアもそれに同意する。前世でもソーセージやチーズなどの食事は当たり前だったが、前と比べてさまざまなものが乏しいこの世界、いやアリア・スフォルツァという人生で畜産加工品を食べる機会は少なかった。だから、ソーセージに似た肉加工品やクリームチーズに似た乳加工品が並べられているこの環境は前世の記憶を持つ彼女にとってかなり嬉しいものだった。
本来ならば毒見が必要だが、この宿の主人に悪いということであえて毒見を作らなかった。そのかわり主人も同席してもらい、主人にも同じ料理を味わってもらうということで一種の保障にすることにした。同席している主人や料理人は二人の言葉に恐縮しつつも、喜んでいるかのように感じられた。
「で、明日についてだが」
食事が終わり、主人と料理人が席を外したのを見計らって、クリスティアン王子が切りだした。
「このままフェティダ領に入り、そのままフェティダ公爵の屋敷に行く。よほど何事もなければ二回の休憩を入れても、夕方までには着くだろう」
「そうだわね」
アリアは予定通りねと頷く。前世でもそうだが、この旅行でも早いときは前倒しせず定刻になるまで待つ、反対に遅いときには休憩時間を減らす、出発を早めるなどをすると事前に言われていた。
「そのまま公爵との懇談に臨む。そのときお前にも同席してほしい」
彼のその願いにアリアはなぜかと思ったが、その答えはすぐに彼から告げられた。
「彼は確かお前と同じ年にデビュタントしていたから、面識はあるだろ?」
が、その理由にはアリアには否定せざろうえなかった。
「残念なことに、私は彼と全然喋ったことがないから、それにはお応えできないわ」
彼女が首を少し振りながらそう言うと、クリスティアン王子はまさかと驚く。
「あら、そんなに驚くようなことではないと思うけど。だって、そもそもスフォルツァ家が古参の家柄に対して、フェティダ家は併合する際に土地の住民をなだめるために公爵家となった、いわば新興公爵家のひとつ。それにあの件に対して、私はある意味で成功しているけど、彼は失敗している」
クリスティアン王子はなるほどなとすぐに納得してくれた。彼にも分かっているだろう、あのときの食事会のことを。彼自身は参加してなかったものの、ある程度は聞いているはずだ。
「だから、私と彼が同じ席についた場合、王家からのプレッシャー、王家からのとして認識してしまう可能性があるわね」
もちろん、それでいいならば喜んで席につくわよ?
アリアはすっと目を細めてそう忠告する。すると、なにかに思い当たったようで、即答せずに考えるクリスティアン王子。
「そうだな。こちらとしては友好関係を結びたいのが第一義だ。お前という存在がどのように捉えられるか分からない以上、同席させるというのはあまり得策ではないな」
彼は自分の意思を折り曲げることにしたようだった。それを見たアリアは残念そうに眉を下げながら、私も殿下の力になりたかったのだけれどと呟く。
「ええ、そうしてもらえるといいわね。もちろん、彼が望めばまた別の話だけれど」
1
あなたにおすすめの小説
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。
甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。
ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。
──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。
ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。
しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。
そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり……
独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに?
※完全に作者の趣味です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる