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十一歳
この親にして…
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それから鹿狩りまでの間、アリアはベアトリーチェ、クレメンスたちと調整をした。ベアトリーチェを表側に呼びだすにはまだ、仕込みが足りない。だから、彼女を呼びだすのではなく、アリアは裏側へ行ったのだが、運よく懐かしい人にも出会うことができた。
「あら、久しぶりね、アリアちゃん」
笑顔でそう抱きついてきたのはアランの姉、マーガレットだった。いいものを食べて、優雅な生活をしているおかげか、少しふっくらとしたのではないか。自分も上級侍女としてぐーたらな生活をしていたらこんな感じになってしまっていたのだろうかと、少しだけ安堵してしまった。
しかし、マーガレットはその安堵のため息を自分と再会できたことに関するものだと勘違いしてくれた。
「ええ、お久しぶりです。お変わりはないようで」
彼女とはいつ以来だろうか。たしか初めて会ったときもこうしてハグしてきたよなぁ。いや、悪い人ではないんだけど、ノリがね。少し皮肉を込めて言ったアリアだったが、マーガレットには通じなかったみたいで、そう? それはよかったわと嬉しそうにはしゃぐマーガレット。いや、体形は……言わないでおこう。
昔は人と接することが少なかった『涼音』で、体面というものを気にしたことは少なかったものの、こちらの世界に来てから黙っていることを覚えたアリアは口をつぐんだ。
「そういえば、今回の鹿狩りの準備でセレネ嬢が活躍するって聞いて、さすがねと皆さんで話していたところだったのよ」
アリアが少し口をつぐんだ瞬間を、マーガレットはなにごともなかったかのようにそうそうと話しだす。こういうところは彼女のある意味でいい部分だ。
「へぇ、それは」
そのマーガレットの言葉を彼女は素直に信じることはできなかった。なぜなら、前のベアトリーチェの姿を知っていたから。
「あなただってそう思わない? あの子、男に媚び売ってんのよ、絶対。ねぇ、もしかしてあなた知ってる? あの子がたいした家の出でもないくせに表との橋渡し役を担ってるの?」
やっぱりついさっきの言葉を真に受けなくて良かったと心底思ってしまったアリア。いいお友達にならなくてとも。もっともアリアとベアトリーチェの関係を知っていれば、そして、アリアがなぜここにいるのかを知っていればこんな愚問をしないはず。どうやら彼女は気づいていなかったようだ。
昔の自分ならどうしただろうかと考えたが、やはり徹底的にやり返すことにした。
「さぁ、なんででしょう。私にも見当つきませんわ」
基本的にはこちらからは手だしをしない。もちろん、やられたらナントカはするつもりだけども、無駄な労力を使いたくない。だから、わからない振りをする。
案の定、マーガレットはあらアリアさんでもと残念そうな笑みを浮かべる。ただし、目は明らかにアリアのことを嘲笑っているのがみえたので、どう調理しようか悩んでいたアリアは一番、取りたくなかった方法をとることにしたのだが、先手をとられてしまった
「そういえば、近々、殿下の婚約者選びがあるそうですわね。あなたと違って私はまだ候補の一人。そのことを忘れないさいませんように」
「……――!!」
忘れてはいなかったものの、同じ公爵家の人間と喋るのは久しぶりすぎて、彼女が公爵家だということを一瞬、忘れていた。
まあ、だからといって彼女にこの王宮を束ねていけるだけの質があるのかどうかは別だ。今のベアトリーチェならば、目の前の人物にも負けない。
「そうでしたわね。私は自分のやるべきことが残っていますので、そういった話とは無縁でして」
もちろん自分に言われているのはわかっているからこそ、今の立場である文官、そして王族とそれ以外との折衝役として動いていることを強調すると、明らかに勝ち誇ったような笑みを浮かべられる。
どこからその自信は生まれてくるのだろうか。
まあいいや。
そろそろ面倒だなと思いはじめたころ、ちょうどマーガレットの向こう側から、一人歩いてくるのが見えた。
そろそろ頃合いか。
「バルティア公爵令嬢、あなたはまだ就業時間のはず。どうしてここで油売ってるんです?」
侍女長は公爵令嬢でも容赦しない。というか、ここって就業時間なんてあったんだとかどうでもいいことを考えていたが、侍女長はアリアにも檄を飛ばす。
「スフォルツァ公爵令嬢、あなたもぼさっとせずにさっさと殿下のところへお行きなさい」
しかし、マーガレットとは反対に厳しい言葉をかけながらも、侍女長の目は優しい。はいっと大きく返事をして、ではまたと簡単な挨拶だけ残して殿下の部屋へ向かった。
「あら、久しぶりね、アリアちゃん」
笑顔でそう抱きついてきたのはアランの姉、マーガレットだった。いいものを食べて、優雅な生活をしているおかげか、少しふっくらとしたのではないか。自分も上級侍女としてぐーたらな生活をしていたらこんな感じになってしまっていたのだろうかと、少しだけ安堵してしまった。
しかし、マーガレットはその安堵のため息を自分と再会できたことに関するものだと勘違いしてくれた。
「ええ、お久しぶりです。お変わりはないようで」
彼女とはいつ以来だろうか。たしか初めて会ったときもこうしてハグしてきたよなぁ。いや、悪い人ではないんだけど、ノリがね。少し皮肉を込めて言ったアリアだったが、マーガレットには通じなかったみたいで、そう? それはよかったわと嬉しそうにはしゃぐマーガレット。いや、体形は……言わないでおこう。
昔は人と接することが少なかった『涼音』で、体面というものを気にしたことは少なかったものの、こちらの世界に来てから黙っていることを覚えたアリアは口をつぐんだ。
「そういえば、今回の鹿狩りの準備でセレネ嬢が活躍するって聞いて、さすがねと皆さんで話していたところだったのよ」
アリアが少し口をつぐんだ瞬間を、マーガレットはなにごともなかったかのようにそうそうと話しだす。こういうところは彼女のある意味でいい部分だ。
「へぇ、それは」
そのマーガレットの言葉を彼女は素直に信じることはできなかった。なぜなら、前のベアトリーチェの姿を知っていたから。
「あなただってそう思わない? あの子、男に媚び売ってんのよ、絶対。ねぇ、もしかしてあなた知ってる? あの子がたいした家の出でもないくせに表との橋渡し役を担ってるの?」
やっぱりついさっきの言葉を真に受けなくて良かったと心底思ってしまったアリア。いいお友達にならなくてとも。もっともアリアとベアトリーチェの関係を知っていれば、そして、アリアがなぜここにいるのかを知っていればこんな愚問をしないはず。どうやら彼女は気づいていなかったようだ。
昔の自分ならどうしただろうかと考えたが、やはり徹底的にやり返すことにした。
「さぁ、なんででしょう。私にも見当つきませんわ」
基本的にはこちらからは手だしをしない。もちろん、やられたらナントカはするつもりだけども、無駄な労力を使いたくない。だから、わからない振りをする。
案の定、マーガレットはあらアリアさんでもと残念そうな笑みを浮かべる。ただし、目は明らかにアリアのことを嘲笑っているのがみえたので、どう調理しようか悩んでいたアリアは一番、取りたくなかった方法をとることにしたのだが、先手をとられてしまった
「そういえば、近々、殿下の婚約者選びがあるそうですわね。あなたと違って私はまだ候補の一人。そのことを忘れないさいませんように」
「……――!!」
忘れてはいなかったものの、同じ公爵家の人間と喋るのは久しぶりすぎて、彼女が公爵家だということを一瞬、忘れていた。
まあ、だからといって彼女にこの王宮を束ねていけるだけの質があるのかどうかは別だ。今のベアトリーチェならば、目の前の人物にも負けない。
「そうでしたわね。私は自分のやるべきことが残っていますので、そういった話とは無縁でして」
もちろん自分に言われているのはわかっているからこそ、今の立場である文官、そして王族とそれ以外との折衝役として動いていることを強調すると、明らかに勝ち誇ったような笑みを浮かべられる。
どこからその自信は生まれてくるのだろうか。
まあいいや。
そろそろ面倒だなと思いはじめたころ、ちょうどマーガレットの向こう側から、一人歩いてくるのが見えた。
そろそろ頃合いか。
「バルティア公爵令嬢、あなたはまだ就業時間のはず。どうしてここで油売ってるんです?」
侍女長は公爵令嬢でも容赦しない。というか、ここって就業時間なんてあったんだとかどうでもいいことを考えていたが、侍女長はアリアにも檄を飛ばす。
「スフォルツァ公爵令嬢、あなたもぼさっとせずにさっさと殿下のところへお行きなさい」
しかし、マーガレットとは反対に厳しい言葉をかけながらも、侍女長の目は優しい。はいっと大きく返事をして、ではまたと簡単な挨拶だけ残して殿下の部屋へ向かった。
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