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十一歳
共同戦線
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「ふむ。これがお前たちが一日でまとめたものか」
書きあげたころにはすっかり日が暮れ、いくら王妃自身から許可をもらってるものとはいえども、ベアトリーチェを先に奥へ帰した。しかしアリアはまだ、絶賛仕事中。その足でバルティア公爵の元へ向かうと、遅いにもかかわらずまだ帰っていなかった書類を見てもらえた。
アリアはウィンクしながらもう一枚の書類を渡す。
「もう一つの案です」
「なんだこりゃ」
「ふふふ」
二番目に渡したのはアリアが考えたもの。ベアトリーチェの考えついたものよりも粗削りで、つたない。
「どちらかというと二枚目は大胆で使いやすいし、儀礼的な行事だけならばこれでいいだろうが、今回はあくまでも実務的な行事。それを考えると二枚目よりも一枚目の方が使いやすい」
「でしょうね」
アリアはしてやったりと笑う。
「もしかしてお前は……――」
彼女が笑うだけでなにも言わなかったので、バルティア公爵は少し顔色を悪くした。
「お前、文官登用試験で二位だと聞いていたが、まさかここまで性格が酷いものとはな」
「そうでしょう?」
アリアはわざと彼から疑いの目を向けるようにさせる。
「すべてセレネ伯爵令嬢が考えついたものです」
彼女の言った答えにまさかと驚く公爵。アリアは種明かしをする。
「一枚目と二枚目。それぞれ筆跡を入れかえましたし、あなたに彼女を認めてもらいたくこの演技をするために私が一人で持ってきましたが。もちろん、陛下に提出するときには彼女に書かせますし、彼女が提案したことはすべての関係者に告知するつもりです」
「お前になんのメリットがある」
「これがメリットなのかどうかは自分にしかわからないと思いますけれど、クリスティアン殿下の妃候補から『正式』に外れること。これが最大のメリットです」
公爵の疑問は至極真っ当だ。
たとえディートリヒ王自身から『クリスティアン王子の嫁にはしない』という発言をもらっていたとしても、あくまでも口約束程度の扱い。もちろん、発言者が国王自身だからあまりないがしろにできる人はいないだろうが、それでも万が一、アリアを利用しようと思えばできないわけではない。
しかし、新たにアリアと同程度かつ、政治的争いに実家が加担しないであろう貴族の未婚女性が出てきた場合はどうなるか。
答え。
『王太子妃、のちのちは王妃として適任と判断される。そして、アリアという人間の利用価値は薄くなる』。
だからこそ、ディートリヒ王やクレメンス、そして彼女が好きなクリスティアン王子はこれを利用することにした。
あそこにいた人の中でおそらく本当の目的を知らなかったのは目の前の人とベアトリーチェ自身だけだろう。
「……――お前さんは前々から頭が切れる人間だとは思っていたが、ここまでやってくれるとは。では、この鹿狩りが成功し、ほかに対抗馬がいなければ、彼女を殿下の妃に推すということでいいかな?」
呆れたようにバルティア公爵は笑うが、決して悪いようではないようだ。
「ええ、そうしていただけると嬉しいです。私には殿下の妃なんていう柄じゃありませんから、名門のスフォルツァ家と今ノリにノっているバルティア家の推薦があればほかの貴族も黙るでしょう。ああ、もちろん、ユリウスへの説得はお任せください」
彼女の頭のよさはたしかですよ? 実際に一枚目の方法を考えたのは彼女ですし。
自分への利益を優先して考えた結果のことだが、ベアトリーチェを王太子妃に推薦してもらうことを忘れない。もちろんクリスティアン王子の気持ちはここでも言わないことにした。
「わかったわかった。殿下の妃候補の件もその提案も積極的に推薦させてもらおう」
「ありがとうございます」
アリアはその言葉に安堵した。
あとは成功を祈るだけだ。
「そうだ」
部屋を出ていこうとするアリアにバルティア公爵は呼びとめる。なんでしょうかと振りむくとバルティア公爵が立っている。アランと同じように体つきが良いのが服の上からでもわかる。この人もかつては騎士だったのだろうか。
「おとといまでフェティダ公爵領に行っていたそうだな」
「ええ」
「どうだったか?」
バルティア公爵は質問なのかそうでないのかよくわからない問いかけをしてきた。
「あそこは治安が少し悪いとはいえ、酪農地帯だ。年に二度献上される加工品の質も悪くないのは知っておる。バルティア公爵領と比較してみたくはないか?」
彼は聞いたことがあるのか、実際に見たことがあるのかわからないが、フェティダ領のことをよく知っていた。文官、もしくは公爵であるのならば当然なのだろうか。
「はい」
バルティア公爵の質問にためらいもなく頷くアリア。見聞を広めておくのにはちょうどいい。
「そうか。このシーズンは難しいかもしれないが、次のシーズンにでも連れていってやろう」
彼は柔らかく微笑む。
元からスフォルツァ家がバルティア家を見下し、そのせいでアランから嫌われたこともあるが、どうやら個人的には気にいってもらえたようだ。その手を握るか振りはらうか。
アリアは握ることを決意した。
書きあげたころにはすっかり日が暮れ、いくら王妃自身から許可をもらってるものとはいえども、ベアトリーチェを先に奥へ帰した。しかしアリアはまだ、絶賛仕事中。その足でバルティア公爵の元へ向かうと、遅いにもかかわらずまだ帰っていなかった書類を見てもらえた。
アリアはウィンクしながらもう一枚の書類を渡す。
「もう一つの案です」
「なんだこりゃ」
「ふふふ」
二番目に渡したのはアリアが考えたもの。ベアトリーチェの考えついたものよりも粗削りで、つたない。
「どちらかというと二枚目は大胆で使いやすいし、儀礼的な行事だけならばこれでいいだろうが、今回はあくまでも実務的な行事。それを考えると二枚目よりも一枚目の方が使いやすい」
「でしょうね」
アリアはしてやったりと笑う。
「もしかしてお前は……――」
彼女が笑うだけでなにも言わなかったので、バルティア公爵は少し顔色を悪くした。
「お前、文官登用試験で二位だと聞いていたが、まさかここまで性格が酷いものとはな」
「そうでしょう?」
アリアはわざと彼から疑いの目を向けるようにさせる。
「すべてセレネ伯爵令嬢が考えついたものです」
彼女の言った答えにまさかと驚く公爵。アリアは種明かしをする。
「一枚目と二枚目。それぞれ筆跡を入れかえましたし、あなたに彼女を認めてもらいたくこの演技をするために私が一人で持ってきましたが。もちろん、陛下に提出するときには彼女に書かせますし、彼女が提案したことはすべての関係者に告知するつもりです」
「お前になんのメリットがある」
「これがメリットなのかどうかは自分にしかわからないと思いますけれど、クリスティアン殿下の妃候補から『正式』に外れること。これが最大のメリットです」
公爵の疑問は至極真っ当だ。
たとえディートリヒ王自身から『クリスティアン王子の嫁にはしない』という発言をもらっていたとしても、あくまでも口約束程度の扱い。もちろん、発言者が国王自身だからあまりないがしろにできる人はいないだろうが、それでも万が一、アリアを利用しようと思えばできないわけではない。
しかし、新たにアリアと同程度かつ、政治的争いに実家が加担しないであろう貴族の未婚女性が出てきた場合はどうなるか。
答え。
『王太子妃、のちのちは王妃として適任と判断される。そして、アリアという人間の利用価値は薄くなる』。
だからこそ、ディートリヒ王やクレメンス、そして彼女が好きなクリスティアン王子はこれを利用することにした。
あそこにいた人の中でおそらく本当の目的を知らなかったのは目の前の人とベアトリーチェ自身だけだろう。
「……――お前さんは前々から頭が切れる人間だとは思っていたが、ここまでやってくれるとは。では、この鹿狩りが成功し、ほかに対抗馬がいなければ、彼女を殿下の妃に推すということでいいかな?」
呆れたようにバルティア公爵は笑うが、決して悪いようではないようだ。
「ええ、そうしていただけると嬉しいです。私には殿下の妃なんていう柄じゃありませんから、名門のスフォルツァ家と今ノリにノっているバルティア家の推薦があればほかの貴族も黙るでしょう。ああ、もちろん、ユリウスへの説得はお任せください」
彼女の頭のよさはたしかですよ? 実際に一枚目の方法を考えたのは彼女ですし。
自分への利益を優先して考えた結果のことだが、ベアトリーチェを王太子妃に推薦してもらうことを忘れない。もちろんクリスティアン王子の気持ちはここでも言わないことにした。
「わかったわかった。殿下の妃候補の件もその提案も積極的に推薦させてもらおう」
「ありがとうございます」
アリアはその言葉に安堵した。
あとは成功を祈るだけだ。
「そうだ」
部屋を出ていこうとするアリアにバルティア公爵は呼びとめる。なんでしょうかと振りむくとバルティア公爵が立っている。アランと同じように体つきが良いのが服の上からでもわかる。この人もかつては騎士だったのだろうか。
「おとといまでフェティダ公爵領に行っていたそうだな」
「ええ」
「どうだったか?」
バルティア公爵は質問なのかそうでないのかよくわからない問いかけをしてきた。
「あそこは治安が少し悪いとはいえ、酪農地帯だ。年に二度献上される加工品の質も悪くないのは知っておる。バルティア公爵領と比較してみたくはないか?」
彼は聞いたことがあるのか、実際に見たことがあるのかわからないが、フェティダ領のことをよく知っていた。文官、もしくは公爵であるのならば当然なのだろうか。
「はい」
バルティア公爵の質問にためらいもなく頷くアリア。見聞を広めておくのにはちょうどいい。
「そうか。このシーズンは難しいかもしれないが、次のシーズンにでも連れていってやろう」
彼は柔らかく微笑む。
元からスフォルツァ家がバルティア家を見下し、そのせいでアランから嫌われたこともあるが、どうやら個人的には気にいってもらえたようだ。その手を握るか振りはらうか。
アリアは握ることを決意した。
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