毒魔法使いの異世界探訪!

しぼりたて柑橘類

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一章.魔法使いと人工キメラ

三十二話目-変態医師の龍人問答

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 「そ、それじゃあ……悪い話からで」


 恐る恐る僕は言った。

 
 カジマさんはしばらく目をつむり、眉間に片手を当ててかんがえこんだあと、

 「そう言えば俺の魔法の特性を教えないと話にならんな……」

と呟き、

 「よし。 イーヴォよく見てろよ?」
   
 そう言って彼はセシリアが先程まで使っていたのだろうか、汚れたフォークを取り出し、それを指で指した。


 人にばかり気を取られ、注意してみていなかったが、セシリアの先程座っていた席にはおびただしい量の皿、皿、皿……そして乱雑に置かれたスプーンやフォークなどが散乱していた。

 セシリアが座っていた椅子にちょうど隠れ、皿の山が見えなかったのもあるが、それでもなぜ気が付かなかったのか不思議なくらいの食器があった。

 
それはさておき、カジマさんは説明を始めた。


 「俺の魔法にパッとした属性ってもんは無い。その代わりにだ……」

 カジマさんは胸の前あたりにフォークを突き出して続ける。

 「見てろよ? 」

 カジマさんの手のあたりからフォークに沿うように、細い"何か"がゆっくりと上っていく。

 その何かは青白く光り、フォークを侵食していった。
 

 「細く束ねて緻密に動かし、魔力を物体に血管のごとく張りめぐらせる……」

 
 そしてその筋がフォークの先に到達した時……眩い閃光に包まれ、フォークは青白い光の塊へと姿を変えたのだ!

 
 「……は?」


 思わず感嘆の声ではなく疑問の方が口から先に出てきた。

 
  カジマさんは苦笑しつつも、


「まあ、無理もねえ。 これは俗に言う"強化"の魔術だ」
「普通は魔力を物体に直接注入すると、物体はエネルギーに耐えられず、風船のように破裂する」

 カジマさんはそのフォークをおもむろに壁に向かって投げつける。

 フォークは壁で跳ね返ることなく、根元までしっかりと突き刺さり、ピクリとも動かなくなった。


 「こいつが壊れねえのは俺が構造を調べ、脆い所から割れねえように傷を埋め、穴を満たして強化をしてるからだ」
 「要するに強化の術が使えるやつは、魔力を通した物体の内部構造を知ることが出来る」


カジマさんはフォークを壁から引き抜き、振り返って僕に語った。


 「最終的なところから言うぞ? 俺は医者だ。 あいつの体を調べさせてもらった」
 

「龍種と人間の融合体なんて見たこともなかったからな。興味本位だ。許せ」
 と、付け足した。
 


  あぁ……ただの変態だと思っていたが、教養のあるタイプの変態だったか。



 「それであいつの診断結果だがな」

 
 まあ、どうせ『食べ過ぎ』とかだろう。
 僕はとりあえずカジマさんに目を合わせる。


 カジマさんは苦虫を噛み潰したような表情で床を見つめる。
 






 

 そして
 



 


 「持って一年だ」

 渋々そう言ったのだった。








 

 
 

 ――は?


 「そんなはずが無い! あんなに元気にしてるってのに!」


 「普通、キメラってのは混血種のことを指す。 先天性のものであるが故、そいつは頭っから爪先まで混じり物だ」
 「だがな……あいつはどうだ? お前は何か知ってるんだろ?」

 
 確か……手術か何かを受けたと……。


 「セシリアは手術を受けて『それ』になったらしいけど……それが何か関係があるのか?」


 カジマさんはため息をひとつし、続けた。
 
「龍種。 トカゲから化け物になった存在が特異の、生物という枠からはみ出した幻想種」
 「人間。 猿から毛が生えた程度の略奪、暴力……未だに原始的な欲求を見たし続けようとする所詮まだ"獣"だ」
 「この二つを合わせるというものは掘っ建て小屋に金字塔ピラミッドを乗せるようなものだ」
 「いつかハイグレードな方に押し負け、潰れる」

 

だけども……そうだったとしてもだ!



「今からそれを取り除くことは出来ないのか!? 今なら……まだ助かるんじゃないのか!?」

 


 
「医者として告げよう。 無理だ」
「今のあいつの体組織の五十パーセントを取り除いても良いと言うならそうしようか?」
 「あいつは皮膚組織、筋組織だけでは無い。内臓の一部すら龍に置き換わっている」
 「挙句の果てには魔素生成機構のような物すら新しく出来ている。 竜種の炉心レベルのものがな」



 
……嘘だろ、
じ、じゃあまさか……。

耐え難い恐怖と自責の念で体が震える。
 呂律ろれつの回らない口をどうにかして動かし、途切れ途切れに僕は言った。


 「セシリアが……急に火を吹けるようになったり……雷を……出せるようになったのって……」

 
 

 「間違いない。お前の相方は龍になり始めている」


 カジマさんは言いづらそうにしながらもはっきりと告げた。



「あいつの中に入っている龍はベヒーモスと呼ばれる種類の重龍にして、人間以上の知能やはては神性を持ったものまでいる 」
 「恐らく普通は体が維持できなくなり、自壊して終わるところだと思うがな」
「 あの嬢ちゃんは恐らく、取り込んでる龍の生命力が高いのと、賢いのとで、自我が龍に呑まれて支配される」
 「いままで維持出来ていたのは、意識下でこの体を制御するための機構が脳にでき、元の体に支障が来ないようにしていたのだろう」
 「だが、この世に絶対なんてものは無い。 昨日ピンピンしてたやつが今日になってぽっくり逝っちまうなんてこともよくある」
 
 
 
 そんな……そんな……。
 あいつはただ母親に会いたがってただけだってのに……。

 なんで……。
 




 「そこでだイーヴォ」



 カジマさんは床に目を向けたまま、急に話を切り出した。


 「……もっと悪い話を聞きたいか?」


 
 ここまで来て良い話も悪い話もあったもんじゃないだろう。

 

 「はい。 お願いします……」

 
 僕は投げやりにそう言った。



 カジマさんは目線を上げ、僕に目を合わせる。

 
「あいつは龍になる。 それは龍の自我が発露することにより起こるんだ」
 「自我が強まりすぎるとあいつは体も龍に近づくのだろう」
 「俺はこの事をあいつの体の中のベヒモスの細胞が元の個体を復元しようとする再生活動のようなものだと判断した」



  ……うん?
 言っている意味がわからなくなってきた……。


 「あの……つまりどういうことですか?」

 
 とりあえず聞いてみた。



 カジマさんはため息をついたが、先程とは一変し、少し口角が上がっている。
 

「例え話をしようか。少し待っていろ」 

そう言ってカジマさんは厨房へと消え、そしてまた現れた。

 手にはコップと水瓶みずがめ、そして塩入りの袋を持っている。

 「塩が完全に溶け切っている一杯の水がここにある」


 カジマさんは水のようなものが入ったコップを僕の前に突きだした。


 「この水をお前の相方、塩を龍だとしろ」

 「は、はあ……」


 唐突すぎて訳が分からない……。


 カジマさんは話を続ける。


 「今のこの状態、これが嬢ちゃんの自我だ。溶け切って見えない物はまだ現れていないと考えろ」
 「ベヒモスは徐々にだが自我を取り戻し始める日が来る。 嬢ちゃんの中の龍の部分が多く現れ始める」

 
 カジマさんは塩を加えた。 
 塩は溶けることなく、底に溜まり始めた。

「ここまで来ると完全に自我が発露し、影響を与え始める」
「ここで……」


 「お前にこの塩水に飛び込んでもらう」




 
 あ?
 ……うん?

まさか……それってつまり?

と?

 「はあああああああ!?」


 どういうことだ、カジマは乱心か!?
 
 先程までのシリアスはどこに行った!?

 そんな絵本にも書かれないようなメルヘンチックなこと出来るかよ!

 
しかしだ、カジマさんは本気のようで、口元は笑っていても目が笑っていない。

 「心配するな。 ベヒモスは温和な龍だから多分荒事などなく終わるだろうよ」

 
 僕は混乱しきる頭を抑えながら言う。

 「要するに……僕はセシリアを……助けられるんですね?」


カジマさんははっきり告げる。

「はっきりとどうとは言えないな。だが、医者には無理だが出来るのはお前だけだ 」
 


 ニッコリと微笑み、彼は去っていった。

 「その時になったら再び私を尋ねろ。確かな筋を紹介してやろう」

 
 捨て台詞にそんなことを吐いて。



 しばらく僕は色々と混ざりすぎて放心状態のまま、食堂の椅子に腰掛けていた。


 すると突然、


 「イーヴォ! 何ぼーっとしてんのよ!」

 と、聞き慣れた声が飛んできた。


 見上げるとそこには半人半龍の相方の顔があった。

 ドーナツの食べかすを口に付け、

 「これあげる! 美味しいわよ!」

 と、にこやかに笑いかけてきた。


 何があったのか……本当に何があったのか……いつも食い意地を張っている彼女が食べ物を施すだと……!?

 まあ……好意を無下には出来ない。
僕は、
 
「じゃあ貰おうかな」

 と、言ってつられて笑った。

 僕が手を伸ばした時、まん丸だったドーナツは既に半分消えていた。

 
「え……えっと! 私は食べてなんかいないわよ! 最初から……最初からこうだったんだから!」


 うん。知ってた。 

 これぐらいがセシリアらしい。


 半分だけのドーナツを頬張る。
 なるほど。セシリアが進めてきたのもわかる。
 いちごのチョコの香りが主張し過ぎない、本当に美味しいドーナツだった。

 「美味しいよ。 ありがとう 」

 そんなことを口にする。

セシリアは得意げに胸を張った。


 彼女のことを色々と知れたが、それはそれ。

 まずはセシリアの母親に会うためこの街を出ないとならない。


 まだまだこの先は長いが、気を張ってはならない。


 今ぐらいは嬉しそうな彼女との、穏やかな時間を大切に……。


 突然警報が鳴り響く。
 頭が直接揺さぶられるような強く、大きい音だ。

 僕らは思わず耳を抑え、しゃがみ込んだ。


 しばらくして放送が流れてきた。
 音声は割れていて、年季を感じさせた。

 「連絡します! 中通り成都城門前にて、"ツァン"が放たれました! 現在、下町に向かって破壊行動を続けながら南下中! 繰り返し連絡します!……」


 どうやらゆっくりはさせてもらえないようだ。

 
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感想 3

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みんなの感想(3件)

花雨
2021.07.23 花雨

お気に入り登録させてもらいました(^o^)陰ながら応援してます

解除
茜
2018.03.07

twitterの方から読ませていただきました。
とても良かったです。
描写がしっかりと書かれていて、展開が面白かったです。
ですが、会話文と情景の間に空行などが無くて、少し読みづらかったです。
これからも頑張って下さい!

2018.03.07 しぼりたて柑橘類

ありがとうございます。
行間を気を付けながらこれからは書かせていただきます。
貴重なご意見本当にありがとうございます。

解除
日向 ひなの

Twitterで企画をしていた日向というものです!
とにかくキャラや世界観がたっていて面白かったです!!それから……セシリアちゃん可愛すぎです!!世間知らずで天然なところとか、ご飯食べる仕草も可愛い!!イーヴォくんでなくても守りたくなります^^*
宜しければ私の作品もちらっと覗いてもらえれば嬉しいです。
現在公開分は読ませて頂こうかなと思っています!!

2018.03.05 しぼりたて柑橘類

ご感想本当にありがとうございます。
セシリアの仕草やセリフは毎度気にかけていたことだったので、本当にありがたいです。
後で読ませていただきますので、今後ともセシリアとイーヴォの大冒険の物語をよろしくお願いいたします。

解除

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