6 / 35
一章.魔法使いと人工キメラ
五話目-水力使いはかく語りき
しおりを挟む
「チッ……痛てぇじゃ……ねえかよ……」
息づかい荒く、ダニエルはそう言った。
ダニエルはフードを取り払い、頭を掻きむしった。
その後頭部はわずかながら出血しており、腕に血が伝う。
彼が傷口に手をあてがうと、流血は止まった。
「生物の体の外にあればなァ、どんな液体だろうと水分と溶媒を分離できる……」
「出血なんざ文字通り、かすり傷だ……」
なるほど。傷口から流れる血の水分を飛ばして、瞬間的にかさぶたにしたのか。
……意外と便利だし、欲しいなその能力。
だがしかし、先程の打撃はよほど応えたのか、頭を押えつつよろめきながら立ち上がった。
そして、こちらを睨みつけて歯ぎしりをした。
その眼光は鋭く、殺意をむき出しにしている。
だが僕の視線は、振り返ったダニエルの口元の方に向けられた。
向かって右側。つまりダニエルの左頬は口元から耳まで裂けていた。
その口には、ワニのような鋭い歯がぴっちりと、隙間なく生え揃っている。
無意識に足が一歩引けた。
ダニエルは人間の目でこちらを睨み、
「ほぅ? テメェは相方のナリがこんなんだってのに、マトモな知り合いがいるとでも思ってたのかァ!?」
歯をギチギチと鳴らした。
「そんな……そんなわけが……!」
……言葉に詰まった。
あった。
そんなことはあった。
無いはずがない。 現に僕は、奴との間に明確な線引きをしている。
そうでなければ驚くはずもなければ、そのグロテスクな外見を目にしても、たじろぐ事などあるはずがない。
自分でさえ、こんな見た目だと言うのに……。
言い返すことも出来ずに目を背けた。
無論、頭の中でそのような事はしてはないとわかっている。
だが潜在意識の中で、『これは異質だ』と認めてしまうのだ。
ジリジリとダニエルはこちらに寄ってくる。
今にも突進してきそうな程の前傾姿勢のせいで、彼のツリ目はさらに強調されて見える。
さながらドラゴンのような凶暴さすら感じさせた。
「下がってイーヴォ! ここは私が!」
セシリアは僕の前に立ち、拳を構え腰を落とす。
対して僕はと言うと、一歩も動けずにいた。
身がすくんだ。というか足が震えて歩けそうもない……。
そんな僕をよそに、ダニエルはセシリアに語りかける。
「セシリア……テメェは『寵愛』受けておきながら……そこまでして、何がしてぇんだ? 」
『寵愛』?
誰からの? なんかまるで……固有名詞のような口ぶりだけど……。
困惑する僕をよそにセシリアは
「私は家に帰るのよ」
と、きっぱりと言い放った。
「あの存在してるかどうかも危ういあの土地にか?」
「それでも行くのよ。 行かなきゃいけないもの」
「……どこまでもおめでたい奴だなぁ? スロームに行ったところで……いやスロームに向かったところで……お前とその青いガキは死ぬ」
「そんなの行かないと分からないじゃないの!」
「ああ、そうかもな。 ……最後だ。戻る気はねぇんだな? 」
「無いわ!」
そう言い放った刹那、セシリアは足元のこぶし大の石を蹴飛ばした。
[ドッ!!]
「グハァッ!?」
ダニエルは咄嗟に水を集めるが、間に合わない。
多少勢いは殺されたものの、ダニエルの腹に鋭い一撃が入った!
吹き飛ばされたダニエルは背中から着地し、ぐったり倒れた。
……息はある。気を失っているだけのようだ。
「イーヴォ! 」
セシリアが寄ってきた。
「怪我は!? 大丈夫なの?」
一度、深呼吸をした。切り替えよう。今考えるべきことはそれでは無い。
「大丈夫……かな? もう血はでてないよ」
「良かった……」
セシリアは大の字になって原っぱに横たわった。
にこやかに微笑み、一息ついた。
先程の慌ただしい状況とは打って変わって、その草原は楽園のようにすら思えた。
暖かな日差しが降り注ぎ、心地よい風が吹いている。
しかしだ、
「セシリア、そろそろ街に行こう」
「え!? もう少し休んでからでもいいでしょ?」
「い、いや……別にいいけど急ぎたいんだよ……ほら! 追っ手とか来るかもしれないし……あと、腕の傷も治したいし、それに!」
[グウゥゥゥゥ……]
腹の虫が鳴った。それはそれは大音量で……。
顔が熱い……。
ニマニマと笑みを浮かべてセシリアが顔を寄せてきた。
「おやぁ? さっきの音って、もしかしてイーヴォ? 」
「う、うるさい! とっとと行くよ!」
「可愛い顔して、はしたないわねぇ? 顔赤くしちゃって!」
「やめて! 本当にやめて!」
セシリアはこの後草原を抜ける辺りまでずっとこの調子で僕をいじり続けた。
草原を抜けた先、ゾノーはビル群立ち並ぶ大都会。
ありとあらゆる民族、種族が共存する稀有な街。
息づかい荒く、ダニエルはそう言った。
ダニエルはフードを取り払い、頭を掻きむしった。
その後頭部はわずかながら出血しており、腕に血が伝う。
彼が傷口に手をあてがうと、流血は止まった。
「生物の体の外にあればなァ、どんな液体だろうと水分と溶媒を分離できる……」
「出血なんざ文字通り、かすり傷だ……」
なるほど。傷口から流れる血の水分を飛ばして、瞬間的にかさぶたにしたのか。
……意外と便利だし、欲しいなその能力。
だがしかし、先程の打撃はよほど応えたのか、頭を押えつつよろめきながら立ち上がった。
そして、こちらを睨みつけて歯ぎしりをした。
その眼光は鋭く、殺意をむき出しにしている。
だが僕の視線は、振り返ったダニエルの口元の方に向けられた。
向かって右側。つまりダニエルの左頬は口元から耳まで裂けていた。
その口には、ワニのような鋭い歯がぴっちりと、隙間なく生え揃っている。
無意識に足が一歩引けた。
ダニエルは人間の目でこちらを睨み、
「ほぅ? テメェは相方のナリがこんなんだってのに、マトモな知り合いがいるとでも思ってたのかァ!?」
歯をギチギチと鳴らした。
「そんな……そんなわけが……!」
……言葉に詰まった。
あった。
そんなことはあった。
無いはずがない。 現に僕は、奴との間に明確な線引きをしている。
そうでなければ驚くはずもなければ、そのグロテスクな外見を目にしても、たじろぐ事などあるはずがない。
自分でさえ、こんな見た目だと言うのに……。
言い返すことも出来ずに目を背けた。
無論、頭の中でそのような事はしてはないとわかっている。
だが潜在意識の中で、『これは異質だ』と認めてしまうのだ。
ジリジリとダニエルはこちらに寄ってくる。
今にも突進してきそうな程の前傾姿勢のせいで、彼のツリ目はさらに強調されて見える。
さながらドラゴンのような凶暴さすら感じさせた。
「下がってイーヴォ! ここは私が!」
セシリアは僕の前に立ち、拳を構え腰を落とす。
対して僕はと言うと、一歩も動けずにいた。
身がすくんだ。というか足が震えて歩けそうもない……。
そんな僕をよそに、ダニエルはセシリアに語りかける。
「セシリア……テメェは『寵愛』受けておきながら……そこまでして、何がしてぇんだ? 」
『寵愛』?
誰からの? なんかまるで……固有名詞のような口ぶりだけど……。
困惑する僕をよそにセシリアは
「私は家に帰るのよ」
と、きっぱりと言い放った。
「あの存在してるかどうかも危ういあの土地にか?」
「それでも行くのよ。 行かなきゃいけないもの」
「……どこまでもおめでたい奴だなぁ? スロームに行ったところで……いやスロームに向かったところで……お前とその青いガキは死ぬ」
「そんなの行かないと分からないじゃないの!」
「ああ、そうかもな。 ……最後だ。戻る気はねぇんだな? 」
「無いわ!」
そう言い放った刹那、セシリアは足元のこぶし大の石を蹴飛ばした。
[ドッ!!]
「グハァッ!?」
ダニエルは咄嗟に水を集めるが、間に合わない。
多少勢いは殺されたものの、ダニエルの腹に鋭い一撃が入った!
吹き飛ばされたダニエルは背中から着地し、ぐったり倒れた。
……息はある。気を失っているだけのようだ。
「イーヴォ! 」
セシリアが寄ってきた。
「怪我は!? 大丈夫なの?」
一度、深呼吸をした。切り替えよう。今考えるべきことはそれでは無い。
「大丈夫……かな? もう血はでてないよ」
「良かった……」
セシリアは大の字になって原っぱに横たわった。
にこやかに微笑み、一息ついた。
先程の慌ただしい状況とは打って変わって、その草原は楽園のようにすら思えた。
暖かな日差しが降り注ぎ、心地よい風が吹いている。
しかしだ、
「セシリア、そろそろ街に行こう」
「え!? もう少し休んでからでもいいでしょ?」
「い、いや……別にいいけど急ぎたいんだよ……ほら! 追っ手とか来るかもしれないし……あと、腕の傷も治したいし、それに!」
[グウゥゥゥゥ……]
腹の虫が鳴った。それはそれは大音量で……。
顔が熱い……。
ニマニマと笑みを浮かべてセシリアが顔を寄せてきた。
「おやぁ? さっきの音って、もしかしてイーヴォ? 」
「う、うるさい! とっとと行くよ!」
「可愛い顔して、はしたないわねぇ? 顔赤くしちゃって!」
「やめて! 本当にやめて!」
セシリアはこの後草原を抜ける辺りまでずっとこの調子で僕をいじり続けた。
草原を抜けた先、ゾノーはビル群立ち並ぶ大都会。
ありとあらゆる民族、種族が共存する稀有な街。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる