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一章.魔法使いと人工キメラ

二十一話目-大団円と大変革

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 僕がドアを叩き、

 「あのー……どなたかいらっしゃいますかー?」

 と、問いかけると……凄まじい勢いでドアが開く……!?

 [ドーン!]
 

  轟音とともに、禁書庫に飛び込んで来たのは……武装した騎士団だった……!


 「おい! セシリアとイーヴォというのはお前らか!?」


 僕は驚きながら答える……。

 「……まぁ……そうですけど?」
 「そうよ?」
 「ならばついて来い! 領主様がお呼びだっ!」

 
 騎士団は僕らを担ぎ上げ、ガチャガチャと鎧を掻き鳴らしながら凄まじい勢いで進んだ。

残されたパズズは独り言、

 「……あのー……妾たちは……? 妾からのファントムに関するありがたーい……お話は?」


 その時、重厚な扉からナメクジ一匹が逃げ出す事など、誰も気にも止めなかった……。


 
 図書館を出て、大通りを抜け……大きなゴシック建築の建物の中、玉座の前までやってきた……。


 ……大怪我してる人がいるんだけど?


 
 すると騎士の一人が声を荒らげる。


 「! 例の者共を連れて参りましたぞ!」
 「ご苦労……ところで怪我はありそうか?」
 「魔法使いの方が左腕の欠損、竜人の方は全身に感電による火傷を少し負っています」
 「そうであったか……下がって良いぞ」
 「はっ!」

 そう言うと、騎士団は足早に蜘蛛の子を散らすように去っていった……。

 ソコロフと呼ばれた羊男はゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げた。


 「さて……まず、ここまでの無礼を詫びたい……本当に申し訳ない……!」
 「待ってください! あなたは誰なんですか? なぜ僕達を呼んだんですか? 」

 
 取り敢えず僕はソコロフさんに聞く……。

 それよりも何よりも、腕が痛すぎて話についていけそうもないんだが……。

 「ああ……済まない……それよりも君らの具合を一切考慮していなかったな……待っていなさい……」

 
するとソコロフさんは僕らに向かって両手を広げながら、腕を伸ばす。

 「《マアトの祝福》……!」

 ソコロフさんがそう唱えると、僕の左腕はすぐさま傷口から復元する。

 セシリアもあちこちの火傷やかすり傷が消え失せた……。

 「すまんね……色々と話したくて……ついつい出しゃばり過ぎてしまったよ……どうだい? 体は?」

 試しに左手を握って……開いて……。

 完全に治ってる……!?


 「自己紹介が済んでいなかったね……私の名は[ソコロフ]……ここら一帯の土地の所有者にして、街の管理者だ」

 「私が使えるのは回復魔法だけでねこれしか出来ないが……さて……これから君らをここに連れてきたわけを教えたい……」

 
 ソコロフさんは指……もとい、蹄を絡めつつ喋る……。


 「まず……この街をピュアオーガから、禁書庫を本荒らしから救ってくれたことに感謝する」
 「本荒らし?」

 セシリアが聞き返す。

 それに対し、ソコロフさんは気まずそうに答えた。

 
「君らが禁書庫で戦った魔法使いだよ……何やら消したい本が有ったらしくてね……ここの街以外には数冊しかないんだが……」
「何て本なんですか?」
「済まないね……そこまでは記録されていないんだ……まぁ禁書庫に入れられてるってことはロクな本ではないだろうけど……」

 
 ソコロフさんは続ける、

 
「さて、我々が今行いたいのは君たちへの感謝と謝罪だ……」
 「古き街の雰囲気とは言え、もう時代も時代……我等は歩み寄る事を忘れていたようだ……」
 「その上、我等がそのような辛辣な態度をしていながら我等の街を守る……君たちは街を救った英雄だ……それも二度も……」 

 そして彼は両手をつき、頭を下げる……。

 「住民を代表して言わせていただく……本当に済まなかった……」
 「顔上げて! 結果的にそうなっただけで、ほとんど偶然よ!」
 「そうですよ……過ぎたことですし、忘れてください……僕達も治して貰いましたし……」


 結果オーライなのだ……。
 差別は無くなったし……。

 
 「あ、あともう一つなのだが……君たちのお陰で、私にも決心がついたことがあってね」
 「……? 」

 「イゴロノスの城壁を全て取り払う事にしたよ」
 「えぇぇぇ!?」


 伝統と誇りは何処行った!?
 いくら何でも、丸くなり過ぎだろ!


 「城壁はすっかり色褪せている上、もう老朽化が著しくてね……今、壁番のネネに解体を任せている真っ最中なんだ……」
 「はぁ……」


 なんだろ……何かたった二人で革命を起こしたみたいになってる……。


 「君らを見ていると、この街に来たばかりの私を思い出すよ……」
 「異邦の異人種は差別の対象でしかなかったからね……」

 
 この人も大変だったんだな……。
 まぁこの人の他に異人種を、街に入ってから見てないからな……。

 そんな境遇でここまで上り詰めるとは……。
 物凄い才覚……いや、血の滲む様な努力の賜物だろう……。


 「では……ここまで付き合わせて悪かったね……それじゃあ、イゴロノスの街をもう少し楽しんで貰えると嬉しいな……」


 そうソコロフさんが言うと、後ろの重厚な扉が開く……。


 彼は表情の読みずらくはあるが、何処か愛嬌のある羊の顔を「ニイッ」と笑わせ、手を……もとい蹄を振った。

 
「じゃーね! ばいばーい!」

 
 セシリアはにこやかに笑いながら手を振り返した。


 ひとまず館から出て、僕はセシリアに話しかけた。

 「セシリア、これからどうする? まだ、パズズさんから話聞いてる途中でさ……」
 「……おなかすいた……パフェかなんか食べたい」
 
 やっぱそうだよなぁ……。


 「でも……いいわよ! パズズさんのとこに行っても! その代わりにその後二箇所私が行きたいところがあるから……」
 「うん。 分かったよ 。 合わせてくれてありがとう」

 するとセシリアは照れくさそうに言う、

 「あの……さ、イーヴォ……」
 「どうしたの?」
 「ええっと……ゾーノの街の時みたく、さ……手……繋いでいこ……!」
 「うん。セシリアがいいなら、僕は喜んで」

 
 僕は左手で、セシリアの右手を握る。

 
 ふと思ったのだが、もしも左腕が治らなかったら、セシリアとこうして手を繋ぐ事も出来なかったのだろうか……と。

 
もう、僕だけの身体じゃないのか……もう一人じゃないのか……。


 「イーヴォ? なんで泣いてるの? もしかして嫌だった?」
 「いやいや! ……ちょっと考え事してただけだよ……」
 「もう! 悩み事ならセシリアお姉ちゃんに聞かせなさい! 無くし物から恋の病まで万事解決よ!」

 
 また始まった……でもセシリアの強がる所も結構愛嬌がある……。

 何か……セシリアと居ると一日が過ぎるのが早い気がしてきたな……それは厄介事に巻き込まれてるからか……。


 「フフッ!」

 僕は少し吹き出した。

 「もう! 人が親身になってあげてるってのにぃ……フフッ……」


 僕らは互いに笑いながら大通りを抜け、図書館を目指した……。


 すると、玄関先で誰かが揉めているのが見えた……。


 「ですからね……まだ、ルインが親離れするには相当早いと思うんですよ……」
 「そこをなんとか……わらわが……この魔王パズズが稽古を付けながら、養いますのじゃ……どうか……」


 よく見ると、比較的小柄な女性に件の男の子がしがみついている……その向かいにいるのは、かつて人々を恐怖の淵に追いやった魔王……。


 その偉大なる魔王……は地面に頭がめり込み、レンガの道が割れんとばかりにガツガツと頭を打ち付けていた……。

  
 「お願いしますなのじゃ……妾に……妾に相棒をくれ……安心出来る相棒が欲しんじゃ……」


 ……は? 

 
 
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