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7章 のんびり少女が悠長すぎる!67~89話

その12 ヒウタと機械仕掛け

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 機械仕掛けの館の入り口で、支配人とサスケは戻っていった。
 ヒウタ、運ちゃん、トアオ、そして巨大な蝶のように飛ぶ機械『ふぉーている』で進むことになった。
機械仕掛けの館は、ダンジョンといえば分かりやすい。
 迷路のように入り組んでいて、壁はレンガの形の金属でできている。迷路を照らす光が金属の光沢となって目に入る。
「はい、サングラス。本当にイケイケって感じ。ワルが三人お通りです。ってヒウタくん警戒しすぎだよ」
「うん、警戒しなくていい。『ふぉーている』がある限り人工知能で動くものはすべて無力化できる。指示さえ出せばヒウタさんのスマホを壊すことも検索履歴を復元しながら閲覧することもできる」
 トアオは微笑む。
 守ってあげたくなるようなかわいさなのが腹立つ。
「そんな僕のスマホを人質に取ってどうするんですか!」
「逃げられないようにしたい。オーパーツを集めるか死ぬか、もう覚悟して」
「それはしてますよ。約束したので。……、え?」
 壁が燃えた。
 急に燃えた。
 炎が広がっていく。
「熱いねえ、トアオちゃん」
「一酸化炭素中毒、焼死。この辺りが死因、だね」
「冷静に分析されても?」
「炎に追い付かれないように逃げるぞ、ヒウタくん」
 運ちゃんは全力疾走。
 流石の速さで、その背中は既に小さい。
「ん」
 ヒウタの前で両腕を広げるトアオ。
「熱いの怖い。さあ私を抱えて走って」
「ええ、……」
「『ふぉーている』は運ちゃんのとこで飛んでいる。私とヒウタさんが死なないように走ってくれたらいい」
「他力な」
 ヒウタは走る。
 トアオを抱えているためすぐに息が切れる。
 小柄であるがそれでも大学生、抱えて走るのは厳しい。
 炎が迫る。
「ここまで来たら助かる。運ちゃん」
「はいはーい。トアオちゃん兵器登場、ただの壁!」
 ヒウタは運ちゃんを抜かす。
 轟音と共に炎が迫った。
 運ちゃんはボールのようなものを投げる。
 すると一瞬で広がって炎の進路を塞いだ。
「耐えるねえ、トアオちゃんの自由自在なただの壁は。あははは」
「みんな止まって。アナログな仕掛けは壊すしかない」
 トアオはマジックペンを取り出すとキャップを回して高電圧を発生させる。
 次々と壁に当てて使い終わったペンをバッグにしまう。
「トアオさんどこで罠の位置を?」
「網膜ディスプレイで見ている。センサーはバッグそのもの」
「流石天才だねえ、順調順調」
 運ちゃんは高電圧発生器であるマジックペンでペン回しをする。
 危険すぎる、……。
「いや、そろそろ。運ちゃん、ヒウタさん覚悟をして」
「覚悟? ついに死ぬかもってこと?」
「ヒウタくん一度聞いたことは忘れると死ぬから気を付けないとだよ! あははは、記憶を覗かれて他の人に見せちゃうやつ」
「けど死ぬわけじゃ」
 ヒウタは立ち止まる。
「覚悟しろってことはそういうこと。見られたくないことを見られてしまうんだろうね。あたしはヒウタくんか、ぐへへへ、弱みを握るぞー」
 運ちゃんはヒウタの肩を叩いた。
 仲間割れをしないように気を付けろと言われたが。
 運ちゃんの発言はむしろ仲間割れする方向では?
 ヒウタが運ちゃんを注意しようとしたそのときだった。
 黒い霧に覆われる。
 白い光が差すとようやく霧が晴れた。

 
「なんだこれ? 記憶か」
 目の前に二人の少女が現れる。
 幼稚園か保育園か見分けがつかないが、砂場で遊ぶ少女。そこに駆け寄る少女。
 次に舞台が変わって小学校。
 一人の少女がランドセルを開けると、マジックハンドのようなものが出てくる。自在に動く無数の手。それを見て集まる児童たち。それから少女の周りに人が集まるようになる。
 しかし少女が持ってきたドローンが暴走して加速しながら一人の児童に衝突してしまう。それから危険人物と考えられて周りから人が減った。学校に開発品を持ってくることが問題視され先生から説教される。親にも一発殴られる。
 誰もいない中、一人の少女が手を差し出した。
 これがトアオの記憶であるなら。
「トアオさんと運ちゃんさん?」
 明るい運ちゃんと大人しいトアオ。
 あがり症が悪化するのも問題を起こして孤立してからだった。
 トアオとずっといる運ちゃん。
 中学、高校と同じ学校に進む。
 運ちゃんは人から好かれるタイプだった。それでもトアオを大切にし続けた。
 男の人に告白されても断る運ちゃん。
 トアオは開発品を売り捌いて一軒家を購入した。
 そこに最初は入り浸る運ちゃんだったが次第に一緒に住み始める。
 家で笑顔の二人。
「こんなに仲が良かったのも分かるかもな」
 ヒウタが羨ましくも温かい光景を見て幸せな気分になっていたそのときだった。


「運ちゃん、絶対許さない」
「はあ? あたしがいないと生きていけないくせに。こんな命懸けの趣味に付き合わされて嫌に決まってるでしょ?」
 口喧嘩を聞いて、ヒウタは意識を覚ました。
 ヒウタは地面で仰向けになっていた。
 急いで立ち上がる。
「どうした? ……、運ちゃんさんの記憶がトアオさんに流れたってことだよな?」
「その通り。こいつ私のことを憐れんで! 初恋の人を振った? それは運ちゃんが決めたことでしょ? どうして私のせいにするの!」
 ヒウタには全然分からない。
 しかしヒウタは間に入る。
「どうした? 覚悟はどこ行ったんだよ。喧嘩して仲間割れにならないための覚悟だろ?」
 ヒウタは訴える。
 運ちゃんは冷たい眼差しを向けた。
「本当にモテない、シスコン、というかシスコン、モテる努力もせずに行動もせずに部活と勉強のせいにして。彼女出来ないのは魅力がないからでしょ?」
 ヒウタの心に衝撃を与えた。
 が、むしろヒウタは笑っていた。
 その違和感から運ちゃんは一歩後ろに下がる。
「気持ち悪いよ、どうして笑っている?」
「大当たりだなって。シスコンだろうな、ここまで本気で恋活しようと思ったのは妹に言われたからだ。モテる努力も彼女を作るための行動もしてこなかった。僕は間違ってた」
 ヒウタはトアオと運ちゃんに近づいて二人の頭を掻き乱す。
 トアオと運ちゃんはヒウタを睨んだ。
「髪を触る、女性の敵」「気持ち悪い、ただの変態じゃん」
 思い切り引かれた。
 そして二人は再び喧嘩をしている。
 なんとかしないと。
 ヒウタは唾を飲み込む。
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