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8章 魅了少女が不安すぎる!『後期』109~122話

その19 ヒウタとスタンプラリー

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「これで残り二つかな」
 冊子に押されたスタンプを見てシフユは嬉しそうだ。
 大学祭実行委員会の部員にスタンプを押してもらう。その度にカワクロは楽しそうに話す。そういえばカワクロは大学祭実行委員会の幹部だった。
「スタンプの場所、カワクロさんは知っているんですか?」
「大体しか知らないなの。だからここにいたんだ、みたいに面白いなの」
「そうなの! ねえねえ、抽選ってどんなの?」
「抽選箱から一個取ってめくるやつなの。旅行券とか当たるの」
「彼氏と行こうかな」
 コウミが言うとカワクロから真っ黒なオーラが漏れてくる。
 コウミは気づかないのか冊子を見て顔を赤くしていた。
 シフユはカワクロの背中を撫でる。
「妹になるとすごいことになるな、カワクロは。幸せそうだから問題ないかな」
「どこぞの馬の骨が、私のコウミたんを!」
 カワクロは荒れる。シフユがカワクロを慰めていた。
「コウミさん、少し聞いていいですか。彼氏さんのこと」
「もちろん、どんどん聞いて」
 カワクロの目が怖い。
 ヒウタは見なかったことにした。
「どんな方ですか?」
「優しいよ。それに毎日かわいいと好きを言ってくれる。一緒にいて楽しい、私幸せなの!」
「そうですか」
 やはり、ヒウタは思う。
 コウミの話となればカワクロは聞こうとするだろう。しかしながら、シフユも真面目な表情で聞いている。友人の妹の話にしては必死だ。
 つまりシフユさんは。
「恋バナだから聞いてるのか」
 シフユの考えが少しずつ見える気がした。
 これ以上はカワクロが暴れそうなため話題を変えることにした。
「コウミさんってシフユさんと仲良いですよね。何度か会ってます?」
「ねえねえ経由で何度か。シフユさん、しっかりした人でずっと生徒会役員やってて。ねえねえは生徒会室に話しに行っててそれで仲良くなったらしいですけど。始めは部費をねだるねえねえと何度も断るシフユさん。犬猿の仲だったこともあったみたいで。でも私がシフユさんに会ったときは既に仲良しで。シフユさんが家に遊びに来たことがきっかけです! お菓子作る、だった気が」
「シフユが好きな人にお菓子を渡したいって言うから。部費増やすって約束してくれたの、シフユ職権乱用なの」
「使えるものはすべて使うから、ボクはお菓子作れるのがいいなと思っただけだよ」
 シフユは次のスタンプに向けて早歩きをする。
 ヒウタはコウミとカワクロに付いていく。
 使えるものはすべて使う、そんなことを言うシフユが大学祭に行きたいと言った。ヒウタはシフユへ『この世界にチャンスをください』とお願いした。シフユがこの大学祭に求めているものは、自分への正しさだ。間違いない。
 スタンプの受付に着く。
 残りひとつ。
 カワクロが大体の場所を知っている分すぐに終わりそうだ。
「等間隔を意識しているならここじゃないかな?」
「おそらくその辺りなの」
「当たってたらすごい!」
 シフユもカワクロもコウミも楽しそうだ。
 実際、最後のスタンプも予想通りだった。
 ほとんど迷うこともなくスタンプを集め終わった。
「抽選なの」
 外の広いステージに有名人が来る。
 その付近にテントを張って抽選を行っていた。
 外れはお菓子で一等が温泉旅行らしい。
「ボクは温泉行かないだろうからもらってもかな」
「シフユさん弱気?」
 コウミが言うと、シフユは抽選箱に手を入れた。
 そしてシフユは笑う。
「ボクには必要ないこと、よく分かっているはずだ」
「あ、カップ麺セットです!」
 大学祭実行委員会の部員が袋をシフユへ渡す。
 中にはそばやうどん、ラーメンや焼きそばなどのカップ麺が入っていた。
「モブあげるかな」
「もらいますけど」
 ヒウタはシフユから袋を受け取る。
 それから抽選を引いた。
 駄菓子だった。
「私は当てるなの!」
 カワクロも駄菓子だった。
「当たりないのかな」
 コウミが弱気になってくじ引きをする。
 部員は当たり鐘を鳴らした。
「おめでとうございます、一等の温泉旅行です!」
「ええ」
 コウミはあまりの驚きに固まった。
 ヒウタも目の前で一等が出るとは思っておらず言葉を失う。
 ちなみにカワクロは膝から崩れた。
 温泉旅行に行くとしたらおそらく。
「うわああああああんっ」
 目の前でヒウタにとっての先輩が泣き出した。
 その辛さを分からないわけではないが。
「どうしたの、コウミちゃん」
「あ、早いね。もう来たんだ」
 丁度ヒウタの代わりに大学祭を回るというコウミの友人が到着したらしい。
 瞬間カワクロは涙を拭いて立ち上がった。
「私がコウミの姉のカワクロなの。よろしくなの」
 カワクロは切り換えが早かった。
 大事な妹の友人の前で泣き続けるわけにはいかなかったのだ。
「なら僕はこれで」
 ヒウタはシフユとアメユキ、ハクと合流するために離れようとしたときだった。
 コウミは耳元に近づく。
「ねえねえに察しては絶対無理だよ。言うべき」
 コウミが呟くように言うものだから、こそばゆくて全身震えてしまった。
 震えたことでコウミを少し驚かしたようだった。
 ヒウタは恥ずかしくて僅かに顔を赤くする。
 ヒウタは走って集合場所へ行く。
 察しては無理、か。
 そんなんじゃないって思ってたけど、たぶん間違いないよな。
「気になっているというか、これが恋だよな」
 ヒウタは息を切らして歩く。
 まだ集合場所まで遠い。
 それに時間は余裕がある。
 飲み物のために自動販売機を探すことにした。

「俺、カワクロさんが好きだ」

 ヒウタは息を吐く。
 自動販売機を見つけて麦茶を購入した。
 渇いた喉を潤す。
 ヒウタは頭を掻き毟るように拳を作った。
「くそ、くそ。あの人は、恋は馬鹿がすることだって思ってる。なんで好きになってるんだよ、なんで俺が好きな人はカワクロさんなんだ!」
 もう一度お茶を飲む。
 風が強くなった。
 冷たい風を感じて集合場所へ進むことにした。
 大学に詳しいハクはともかく、全く分からないシュイロやアメユキを待たせるわけにはいかない。









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