神様のあったかご飯。

にのまえ

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神ライン

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 「またどこかへ」と笑う老夫婦に手を振り、僕は根城にしている神社へ戻るため、静かな石段を登った。先ほどまで隣にあった温もりが離れていくようで、胸の奥にぽつりと寂しさがつのる。

 ――僕も、あんなふうに誰かに寄り添えたら。

 そんな淡い願いがよぎり、すぐさま首を振った。望んでも仕方ない。僕はずっとひとりで、ただ長い時を過ごしていただけ。これからも、変わらない日々を過ごしていくだけだ。

 そう自分に言い聞かせながら鳥居をくぐろうとした瞬間、眩い光が全身を包み込み、思わず目をひらく。

 次の瞬間、境内が息を吹き返していく。

 ひび割れていた狛狐は白磁のように美しく艶を取り戻し、雨漏りのしていたお社の屋根は見違えるほど整っていく。周囲の枯れた木々は光を受け、新緑が次々と芽を吹き出した。

 気付けば、僕の着物までもがほつれひとつない姿へと変わっていた。

 「……何が、起きている?」

 胸の奥がざわついた瞬間、堰を切ったように記憶が流れ込んできた。

 祭礼の灯り。子供たちの笑い声。誰かの願いに耳を傾け。この小さな神社を守ってきた、はるか昔の自分の姿――。

 「僕は……ここのキツネの神様、だった……」

 喉が震え、言葉がこぼれた。
 なぜ忘れてしまったのか。どうしてこんなにも大切なことを。

 気づけば、琥珀色の目から大粒の涙が静かに落ちていた。

 ⭐︎

 あの日出会った、温かい老夫婦のおかげか。
 僕はさびれた神社の、キツネの神だということ思い出した。なぜ忘れたのかというと、人間の信仰が薄れ、敬う心が消えてしまい。僕は廃れ神になる一歩手前まできていた。

 でも、なぜ忘れてしまったのか。

 理由はひとつ。人間の信仰が薄れ、敬う心が消えていったからだ。神は人の想いに寄り添って存在する。けれどその想いが断たれれば、神はただの影となり、やがて“廃れ神”へ堕ちてしまう。

 僕もまさに、その一歩手前だった。
 あの老夫婦に出会わなければ、きっと、人を恨み、災いを振りまく神になっていた。

「おーい」

 そんな時、記憶を取り戻したばかりの僕の耳に、どこからともなく声が響いた。

「……誰だ? 誰かが僕を呼んでいる?」

 ⭐︎

 自分が神であることを思い出した次の日。
 キツネの神だけが集まる、神ラインに呼ばれ、参加した僕に大神様が教えてくれた。

 この神ラインとは神力を使い、どこぞのキツネの神と、画面を通して会話ができる優れたもの。

キュウよ。よく廃れ神になれず、戻ってきてくれた」
「大神様、人間の温かい心に触れたからだと思います」
「九ちゃん、よかったね。廃れ神になっちゃったら、こちらは手が出せないから」
しずく様、ありがとうございます」
「ほんとそう。声も届かないし、見てるだけ……とても悲しかったよ」
かなで様もありがとうございます」

 このラインに集まったキツネの神々が次々、よかったとラインを送ってくれる。僕にはこんなに仲間がいたのだと、嬉しくなった。

「九。それで、あの店を継ぎたくなったのか? ところで、おまえ、料理はできるのか?」

「料理? いいえ、全くのど素人です。時間をかけてでも店を開きたい。あの老夫婦の様な、温かい料理を作りたい。僕のような神様に届けたい。それが僕が受けた幸せの恩返しになると、僕は思っています」
 
「いい話しだけど。あたしたちに料理なんて難しい」

「うんうん、うちも料理なんてやったことがないよ。でもさ、九ちゃんの気持ちわかる」

「そうだね、わかる」

 みんなは店を継ぎたいと言った僕に文句なく、いいと言ってくれ、案を出してくれた。
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