7 / 20
おにぎり
しおりを挟む
しばらくすると、炊飯器からふわりと甘い香りが広がった。この匂いを知っている。シゲさんが土鍋で米を炊いていたときの、あの懐かしい香りだ。
(あっちのほうが、もっといい香りだったけど……でも、これもけっこう好きだな)
「シロウさん、お米が炊ける匂いっていいですね」
「そうですね。俺も好きですよ」
おにぎりの具の準備を終えた僕らは、カウンターに並んで腰掛け、炊き上がりを待った。ほどなくして、炊飯器からピーピーと軽い音が鳴った。
「九さん、お米が炊けましたよ」
「どれどれ……わぁ、キラキラして綺麗です。……ちょっとだけ食べてみてもいいかな?」
「もちろん。食べましょう」
しゃもじで表面を軽くすくい、ふたりで一口つまむ。土鍋とは違うけれど、炊き立ての米は甘くて、もっちりしていた。
「美味しい」
「えぇ、美味しいですね」
炊けた米を、シゲさんがよくやっていたようにおひつに移す。具材を手の届くところに並べ、指先を水で濡らし、塩をつけて……いざ、握る。
「あっ……ち、熱っ、無理かも」
「なら、いい方法がありますよ。お茶碗にご飯を入れて転がすのです。手に触れないので熱くありません」
「おお、そのやり方、採ります」
言われた通り、お茶碗の中でころころ転がす。丸くまとまったら穴を開けて具を入れ、そっと三角の形に整え、海苔を巻く。
「……シロウさん、これ、三角になってる?」
「ふっ、なかなか個性的ですね」
「やっぱり、そう思いますよね。おにぎりをにぎるのって、なかなか難しい……」
「どれ九さん、俺にも貸してください」
シロウさんは手を洗い、お茶碗でお米を転がし、塩をつけ、具を入れ、さらりと三角に仕上げてみせた。
僕のとはあきらかに違う。
彼のは形がきれいで、なんだか美味しそう。
「きれい……。それに美味しそう」
「じゃ食べてみますか? 俺はこっちをもらいます」
「え?」
言うなり、シロウさんが僕の不恰好なおにぎりをぱくっと口に運んだ。
「……ん、美味しいですよ、九さんの」
その何気ないひと言に、胸がじんわり温かくなった。
(あっちのほうが、もっといい香りだったけど……でも、これもけっこう好きだな)
「シロウさん、お米が炊ける匂いっていいですね」
「そうですね。俺も好きですよ」
おにぎりの具の準備を終えた僕らは、カウンターに並んで腰掛け、炊き上がりを待った。ほどなくして、炊飯器からピーピーと軽い音が鳴った。
「九さん、お米が炊けましたよ」
「どれどれ……わぁ、キラキラして綺麗です。……ちょっとだけ食べてみてもいいかな?」
「もちろん。食べましょう」
しゃもじで表面を軽くすくい、ふたりで一口つまむ。土鍋とは違うけれど、炊き立ての米は甘くて、もっちりしていた。
「美味しい」
「えぇ、美味しいですね」
炊けた米を、シゲさんがよくやっていたようにおひつに移す。具材を手の届くところに並べ、指先を水で濡らし、塩をつけて……いざ、握る。
「あっ……ち、熱っ、無理かも」
「なら、いい方法がありますよ。お茶碗にご飯を入れて転がすのです。手に触れないので熱くありません」
「おお、そのやり方、採ります」
言われた通り、お茶碗の中でころころ転がす。丸くまとまったら穴を開けて具を入れ、そっと三角の形に整え、海苔を巻く。
「……シロウさん、これ、三角になってる?」
「ふっ、なかなか個性的ですね」
「やっぱり、そう思いますよね。おにぎりをにぎるのって、なかなか難しい……」
「どれ九さん、俺にも貸してください」
シロウさんは手を洗い、お茶碗でお米を転がし、塩をつけ、具を入れ、さらりと三角に仕上げてみせた。
僕のとはあきらかに違う。
彼のは形がきれいで、なんだか美味しそう。
「きれい……。それに美味しそう」
「じゃ食べてみますか? 俺はこっちをもらいます」
「え?」
言うなり、シロウさんが僕の不恰好なおにぎりをぱくっと口に運んだ。
「……ん、美味しいですよ、九さんの」
その何気ないひと言に、胸がじんわり温かくなった。
31
あなたにおすすめの小説
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる