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sideウィリテ
5話
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一瞬固まった僕だけど、追われている状況を思い出して、その知らない人の腕の中でジタバタと暴れた。
ーーーーちょっ……、嫌、離して……っ!
『私の大事な君。大丈夫だよ……』
ーーーー大丈夫なんかじゃない……っ!逃げなきゃ!嫌だ、離して!!
『しーーー……』
その人は腕を掴んでいた手を離し、僕の髪をあやす様に撫でて、そのまま自分の胸に優しく押し当てた。
『もう何者も君を害することはできない。だって私が君を見付けたのだから……』
どくん、と僕の胸が大きな音を鳴らす。
ーーーー貴方は………、だれ?
グルグルと思考が頭を回る。
この人は何を知っているんだろう?
どこまで知っているんだろう?
混乱したままの僕の頭のてっぺんに、『ちゅっ』とリップ音を立てて唇が落とされた。
『え?』と顔を上げようとした、その時。
背後で茂みを掻き分ける音が響いた。
ーーーーっっつつ!!
ビクンと身体を震わせて、反射的に振り返る。
そこには、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべたヤツが姿を現していた。
ーーーー……………。
絶望が僕を支配する。
また今回も、僕は逃げる事ができなかったのか………。
諦めの気持ちが、ゆっくりと心に広がる。僕はどうしようもなくて、唇を噛み締めて視線を地面へと落とした。
ーーーーこれは夢だもの。どうせ助けは来ない。それに絶対に目は醒める。それまでの我慢……。
ジャリジャリと土を踏み締めてヤツが近付いてくる。僕はもう視線を動かすことなく、その場に立ち尽くしていた。
『……私がいる。君のためだけに存在している私が君を守るよ』
夢に現れるはずのない男性が、そっと耳元で囁いた。
ーーーーどうして、そんな事を言うの……?
『君を害するなど、そんな許し難い事案を私が放置できる訳ないじゃないか』
そう呟く男性を、改めて見上げる。彼は凍てつくように冷たい視線をヤツに向けたままーーーーー。
『私の大事な君を、選りに選って夢でも襲うなど………』
吐き捨てるように呟いた。
『万死に値する行為だ………』
その言葉と同時にゴウっと強風が吹き抜けるような音がして、ナニかが僕たちの横を通り過ぎる。そして次の瞬間には、鼻を覆いたくなるほどの強い臭いが辺りに漂い始めてきた。
恐る恐る背後を振り返った僕は、その目にした惨状に大きく目を見開いた。
馬車ほどの大きさのある黒い狼みたいな獣が、ヤツに伸し掛かり身体のあちこちを喰いちぎっているところだったのだ。
ヤツは苦悶に顔を歪め手足をバタつかせながら、大きく口を開けて何かを叫ぶ。
ーーーー!!!!!!
でも、何を言っているのか全く聞こえない。そうしている内にも獣は奴の腕に噛み付き、首を激しく左右に振って引きちぎる勢いで貪り喰っている。
その阿鼻叫喚な状況に、僕は口元を押さえてよろめいてしまった。
『夢で感じる痛みは、現実でも感じるんだよ』
バランスを崩した僕の肩を優しく支えた彼は、うっとりとした表情で僕を覗き込んだ。
『アイツの身体は王宮内の監獄に押し込めてある。今日のこの夢で感じた地獄の苦しみにアイツが堪えることができるか・・・。さて明日の朝、アイツがどうなっているか楽しみだな』
ーーーーた、堪えきれなかったら、どうなる、の?
『ん、気になる?』
ーーーーえ、っと………。
頷いて良いものか躊躇する。そんな僕を見て、彼は肩を支えていた手をずらし背後から抱きしめる形で包み込んできた。
『アイツの末路はニ択。生きるか死ぬか。まぁ生きていたとしても発狂しているだろうけどね。死ぬ場合は恐怖での心臓麻痺が一般的だけど………』
するりとキレイな指が僕の頬を撫で辿る。
『そんな優しい死に方じゃ、私が許せない…………』
ふっと含み笑いと共に、彼の息が僕の耳を掠めた。
『さあ、見て』
すっと彼の片方の腕が伸びて、獣に生きながら貪り喰われ続けているヤツを指さした。
その指を辿りヤツに視線を向ける。もう人の形すら留めていないのに、なおピクピクと残された足先が悍ましく蠢いている。
『君を苦しめた元凶は、今日限りで姿を消す』
ーーーー『消す……?』
『そうだよ。アイツは異様な程に君に執着していた。その執念が夢の形となって君を襲っていたんだよ。でもそれも今日で終わり。現実世界でアイツが生き残っていたとしても、もうここには来ることはできないのだからね』
僕はゴクリと喉を鳴らすと、彼の腕をそっと自分の身体から離した。改めて正体不明の彼と向かい合う。そしてその時に漸く彼の瞳が不思議な虹色をしていることに気が付いた。
この色の瞳………。森で怪我をしていた人だ。
ーーーー…貴方は誰?
『私はイリアス。イリアス・ダンカン。獏の獣人だよ』
ーーーーちょっ……、嫌、離して……っ!
『私の大事な君。大丈夫だよ……』
ーーーー大丈夫なんかじゃない……っ!逃げなきゃ!嫌だ、離して!!
『しーーー……』
その人は腕を掴んでいた手を離し、僕の髪をあやす様に撫でて、そのまま自分の胸に優しく押し当てた。
『もう何者も君を害することはできない。だって私が君を見付けたのだから……』
どくん、と僕の胸が大きな音を鳴らす。
ーーーー貴方は………、だれ?
グルグルと思考が頭を回る。
この人は何を知っているんだろう?
どこまで知っているんだろう?
混乱したままの僕の頭のてっぺんに、『ちゅっ』とリップ音を立てて唇が落とされた。
『え?』と顔を上げようとした、その時。
背後で茂みを掻き分ける音が響いた。
ーーーーっっつつ!!
ビクンと身体を震わせて、反射的に振り返る。
そこには、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべたヤツが姿を現していた。
ーーーー……………。
絶望が僕を支配する。
また今回も、僕は逃げる事ができなかったのか………。
諦めの気持ちが、ゆっくりと心に広がる。僕はどうしようもなくて、唇を噛み締めて視線を地面へと落とした。
ーーーーこれは夢だもの。どうせ助けは来ない。それに絶対に目は醒める。それまでの我慢……。
ジャリジャリと土を踏み締めてヤツが近付いてくる。僕はもう視線を動かすことなく、その場に立ち尽くしていた。
『……私がいる。君のためだけに存在している私が君を守るよ』
夢に現れるはずのない男性が、そっと耳元で囁いた。
ーーーーどうして、そんな事を言うの……?
『君を害するなど、そんな許し難い事案を私が放置できる訳ないじゃないか』
そう呟く男性を、改めて見上げる。彼は凍てつくように冷たい視線をヤツに向けたままーーーーー。
『私の大事な君を、選りに選って夢でも襲うなど………』
吐き捨てるように呟いた。
『万死に値する行為だ………』
その言葉と同時にゴウっと強風が吹き抜けるような音がして、ナニかが僕たちの横を通り過ぎる。そして次の瞬間には、鼻を覆いたくなるほどの強い臭いが辺りに漂い始めてきた。
恐る恐る背後を振り返った僕は、その目にした惨状に大きく目を見開いた。
馬車ほどの大きさのある黒い狼みたいな獣が、ヤツに伸し掛かり身体のあちこちを喰いちぎっているところだったのだ。
ヤツは苦悶に顔を歪め手足をバタつかせながら、大きく口を開けて何かを叫ぶ。
ーーーー!!!!!!
でも、何を言っているのか全く聞こえない。そうしている内にも獣は奴の腕に噛み付き、首を激しく左右に振って引きちぎる勢いで貪り喰っている。
その阿鼻叫喚な状況に、僕は口元を押さえてよろめいてしまった。
『夢で感じる痛みは、現実でも感じるんだよ』
バランスを崩した僕の肩を優しく支えた彼は、うっとりとした表情で僕を覗き込んだ。
『アイツの身体は王宮内の監獄に押し込めてある。今日のこの夢で感じた地獄の苦しみにアイツが堪えることができるか・・・。さて明日の朝、アイツがどうなっているか楽しみだな』
ーーーーた、堪えきれなかったら、どうなる、の?
『ん、気になる?』
ーーーーえ、っと………。
頷いて良いものか躊躇する。そんな僕を見て、彼は肩を支えていた手をずらし背後から抱きしめる形で包み込んできた。
『アイツの末路はニ択。生きるか死ぬか。まぁ生きていたとしても発狂しているだろうけどね。死ぬ場合は恐怖での心臓麻痺が一般的だけど………』
するりとキレイな指が僕の頬を撫で辿る。
『そんな優しい死に方じゃ、私が許せない…………』
ふっと含み笑いと共に、彼の息が僕の耳を掠めた。
『さあ、見て』
すっと彼の片方の腕が伸びて、獣に生きながら貪り喰われ続けているヤツを指さした。
その指を辿りヤツに視線を向ける。もう人の形すら留めていないのに、なおピクピクと残された足先が悍ましく蠢いている。
『君を苦しめた元凶は、今日限りで姿を消す』
ーーーー『消す……?』
『そうだよ。アイツは異様な程に君に執着していた。その執念が夢の形となって君を襲っていたんだよ。でもそれも今日で終わり。現実世界でアイツが生き残っていたとしても、もうここには来ることはできないのだからね』
僕はゴクリと喉を鳴らすと、彼の腕をそっと自分の身体から離した。改めて正体不明の彼と向かい合う。そしてその時に漸く彼の瞳が不思議な虹色をしていることに気が付いた。
この色の瞳………。森で怪我をしていた人だ。
ーーーー…貴方は誰?
『私はイリアス。イリアス・ダンカン。獏の獣人だよ』
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