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sideウィリテ
6話
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獏の獣人………。その言葉に、僕はそっと眉を顰めた。
この国の宰相は聖獣『獏』の獣人だったはずだ。
ならば彼は………………。
『君の名前を聞いても?』
ゆるりと首を傾げて、彼は嬉しそうに微笑む。何故、僕にそんな愛おしそうな瞳を向けるんだろう。
ーーーーウィリテ。
『ウィリテ………。古い言葉だね。確か「緑」という意味だったか……。美しい名前だ。君によく似合っている』
その言葉に、僕は動揺を隠しきれず肩を揺らした。
まさか僕が森の民だと知ってる?
しかし彼は僕の動揺に気付かない様子で、美しい顔を喜びで破顔させて何度も口の中で僕の名前を繰り返し呟いていた。
僕はそっと視線を逸らし、唇を噛みしめた。
イリアスは獏の獣人だと言った。ならば、彼が宰相閣下なんだろう。つまりは貴族………。
その貴族が、平民の僕にこうも気安く接するということは、おそらく彼が探している「番」は僕の可能性が高い。
権力者はダメだ。彼らは力を欲して、僕らから幸せを奪った。
本来なら一族の血を残すべきなんだけど、でも僕の子供や子孫が僕と同じように理不尽な暴力に晒される事を考えたら、子供は要らない。いつ森の民とバレるのかと不安を抱えるくらいなら、結婚なんてしたくない。
なら、この状況は非常に不味い。
イリアスから離れないと……。
そう覚悟を決めた時、イリアスが僕の頬に手を当ててうっとりと囁いた。
『私の愛しい君。今日、森で私を助けてくれたのは君だね?少し記憶が曖昧だけど、気配は良く覚えている。私は一度覚えた気配を辿って夢を渡ることができる。だからこうして夢を訪れる事が出来たんだ』
ふぅと小さく息を吐き、イリアスはじっと僕の目を見つめた。
『ウィリテ。現実の世界で君に告げたいことがあるんだ。私が訪れている街に君がいることは分かっている。明日の朝一番で君を迎えに行きたい』
明日の朝?そんなに早く?
時間が……。時間がない………っ。
ぞわぞわと襲ってくる恐怖を抑え込みながら、僕はイリアスに何と答えるべきか悩み言葉を詰まらせた。
『ウィリテ?』
怪訝な表情になったイリアスが、指で頤を持ち上げて顔を覗き込んでくる。
ど……、どうしよう………っ!
身体を強張らせていた僕の耳に、キャラキャラと楽しそうに囀る精霊の声が飛び込んできた。
『可愛いウィー』『私たちのウィリテ』『助けてあげる』『守ってあげる』
はっとして横を見ると、森の精霊たちが直ぐ近くまで来ていた。
『ウィリテの番が今日森に来た』『でもウィーは嬉しくない』『ウィリテは結婚を望まない』『ウィリテは子供を望まない』
『私たちのウィーが番を怖がってる』『だから助けてあげる』
『これは……、精霊?』
彼らの声が聞こえないイリアスが、不思議そうに精霊を見ている。僕は彼らに向かって小さく頷いた。
ーーーーお願い。
瞬間、パリンとガラスが砕けるような甲高い音がして、僕は思わす自分の腕で顔を覆った。
ひんやりとした空気が流れ、静寂が夢を支配する。
ゆっくりと腕を下ろして辺りを見渡すと、そこはいつもの夢の森の中のままだった。
でもイリアスの姿は無く、後ろを振り返ってみると真黒な獣も姿を消してた。残されたのは無残な姿になったヤツの残骸だけ。
ーーーーありがとう。
僕は辺りに漂う精霊にお礼を告げると、彼らは嬉しそうにキャラキャラ笑った。
『今日森でウィーに祝福を与えた』『私たちが夢に行けるように祝福した』『でも人間に干渉するのは怒られる』『精霊王に怒られる』『でもウィリテのため』『可愛いウィーのため』『好きなように生きて、ウィー』
ーーーーそうか。人間に関わり過ぎると怒られるのか………。ごめんね。でもありがとう。本当に助かった。
ジワリと周りの景色が滲みだす。
ああ、夢から醒める時間だ。
僕は、自分自身の目醒めを待ちながら、今後の算段を考えるのだった。
この国の宰相は聖獣『獏』の獣人だったはずだ。
ならば彼は………………。
『君の名前を聞いても?』
ゆるりと首を傾げて、彼は嬉しそうに微笑む。何故、僕にそんな愛おしそうな瞳を向けるんだろう。
ーーーーウィリテ。
『ウィリテ………。古い言葉だね。確か「緑」という意味だったか……。美しい名前だ。君によく似合っている』
その言葉に、僕は動揺を隠しきれず肩を揺らした。
まさか僕が森の民だと知ってる?
しかし彼は僕の動揺に気付かない様子で、美しい顔を喜びで破顔させて何度も口の中で僕の名前を繰り返し呟いていた。
僕はそっと視線を逸らし、唇を噛みしめた。
イリアスは獏の獣人だと言った。ならば、彼が宰相閣下なんだろう。つまりは貴族………。
その貴族が、平民の僕にこうも気安く接するということは、おそらく彼が探している「番」は僕の可能性が高い。
権力者はダメだ。彼らは力を欲して、僕らから幸せを奪った。
本来なら一族の血を残すべきなんだけど、でも僕の子供や子孫が僕と同じように理不尽な暴力に晒される事を考えたら、子供は要らない。いつ森の民とバレるのかと不安を抱えるくらいなら、結婚なんてしたくない。
なら、この状況は非常に不味い。
イリアスから離れないと……。
そう覚悟を決めた時、イリアスが僕の頬に手を当ててうっとりと囁いた。
『私の愛しい君。今日、森で私を助けてくれたのは君だね?少し記憶が曖昧だけど、気配は良く覚えている。私は一度覚えた気配を辿って夢を渡ることができる。だからこうして夢を訪れる事が出来たんだ』
ふぅと小さく息を吐き、イリアスはじっと僕の目を見つめた。
『ウィリテ。現実の世界で君に告げたいことがあるんだ。私が訪れている街に君がいることは分かっている。明日の朝一番で君を迎えに行きたい』
明日の朝?そんなに早く?
時間が……。時間がない………っ。
ぞわぞわと襲ってくる恐怖を抑え込みながら、僕はイリアスに何と答えるべきか悩み言葉を詰まらせた。
『ウィリテ?』
怪訝な表情になったイリアスが、指で頤を持ち上げて顔を覗き込んでくる。
ど……、どうしよう………っ!
身体を強張らせていた僕の耳に、キャラキャラと楽しそうに囀る精霊の声が飛び込んできた。
『可愛いウィー』『私たちのウィリテ』『助けてあげる』『守ってあげる』
はっとして横を見ると、森の精霊たちが直ぐ近くまで来ていた。
『ウィリテの番が今日森に来た』『でもウィーは嬉しくない』『ウィリテは結婚を望まない』『ウィリテは子供を望まない』
『私たちのウィーが番を怖がってる』『だから助けてあげる』
『これは……、精霊?』
彼らの声が聞こえないイリアスが、不思議そうに精霊を見ている。僕は彼らに向かって小さく頷いた。
ーーーーお願い。
瞬間、パリンとガラスが砕けるような甲高い音がして、僕は思わす自分の腕で顔を覆った。
ひんやりとした空気が流れ、静寂が夢を支配する。
ゆっくりと腕を下ろして辺りを見渡すと、そこはいつもの夢の森の中のままだった。
でもイリアスの姿は無く、後ろを振り返ってみると真黒な獣も姿を消してた。残されたのは無残な姿になったヤツの残骸だけ。
ーーーーありがとう。
僕は辺りに漂う精霊にお礼を告げると、彼らは嬉しそうにキャラキャラ笑った。
『今日森でウィーに祝福を与えた』『私たちが夢に行けるように祝福した』『でも人間に干渉するのは怒られる』『精霊王に怒られる』『でもウィリテのため』『可愛いウィーのため』『好きなように生きて、ウィー』
ーーーーそうか。人間に関わり過ぎると怒られるのか………。ごめんね。でもありがとう。本当に助かった。
ジワリと周りの景色が滲みだす。
ああ、夢から醒める時間だ。
僕は、自分自身の目醒めを待ちながら、今後の算段を考えるのだった。
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