婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam

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【シン視点】〆はざまぁでエピローグ:ごさいじからはじめるせかいせいふく【オマケ】

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「閣下!フリーブラッド軍と我が本隊の戦闘結果をお届けに上がりました!」

 無骨な声に微睡みが解かれた。漸く決着が着いたのか……これであの男、今は我が父か。あの者も、この世から移ろい消えゆく者となったか。
 土台、実戦を経験もせず、いきなり国同士の決戦とも言える大戦に出るのが無理な話だ。……まぁ、そうする様に仕向けたのは俺だが……了承したのは本人だ。それなりに優秀な者が陥りやすい、中途半端な自信が仇となったな……
 王子の立場で、学校では優遇されていただろうが……敵国相手には通じないし、むしろお前を倒そうと躍起になる。それが戦争だ。

 感謝するぞ、お前が釣り餌になったお陰で別働隊である俺達は悠々自適に行軍中だ。居眠りする程度にな……ああ、気にするな。お前ら旧派閥を集めた戦力がどれだけ善戦したかは関係ない。キチンとお前等が勝てそうで勝てない程度の軍にぶつかる様に仕向けたんだ。
 だから安心して成仏してくれ先王陛下・・・・
国と母の事は心配するな、父上。既に俺が実質的にバーミンガムを治世していたんだ。お飾りのお前は居ても居なくてもとっくに良かったんだよ。

 アルマダの束縛が薄くなったからって、今更フィアルを手に入れようとしなければな……欲しがるだけで時期を悟れない子供みたいなお前でも、俺が成人する迄の時間、玉座を温めるだけの置物にしてやれたんだがな。つくづく目先の事に囚われるだけの無能だったな。
 まぁ、居なくなったフィアルを追うだけの気概も、アルマダを御するだけの甲斐性も無かったからこそ、今まで生き延びれたとも言えるがな……フィアルが城を出た時、もしお前が彼女を追う命令を出していたら……生まれたばかりの俺がお前を殺していた所だ。
 もっとも、あの当時の色んな意味で『種無し』のお前には、決断出来なかった事だがな……妊娠の為にいいからと、アルマダに薬漬けにされて動けなかったお前は半死人も同然だったもんな……アルマダが怖かったんだろう?毎晩ない物・・・を搾り取られて、奮い立てなく・・・・・・なっていたもんなぁ?そんなお前だったからこそ余分な情報に邪魔されず、俺を完璧に再現した依り代が作製出来たとも言えるんだがな。全くお前に似ていない俺を見るお前の顔は、中々に滑稽だったぞ。
 成長するに従い、お前には無い能力で人望を集めていった息子に、嫉妬する器しか持たないお前の顔もな……そこで奮起しようとした矢先にこれだ。
 残念だ……これで玉座でする事も、従う者もわずかしか居ない、『権力を持たない最高権力者』なんて珍獣を見る事が出来なくなったな。それだけはお前を惜しむよ。

 しかし確かに……逃した華の美しさに心惹かれてしまうのは、同じ男として少しは同情しよう。薬漬けの状態から、漸く動ける様になったお前に残された、唯一の美しい思い出がフィアルだったんだからな。執念でよく頑張ったな……リハビリご苦労さん。
 だが、お前が自力で頑張った結果がそれだ。身にしみて・・・・・自分が何者か分かっただろう?来世で反省しろ。じゃあな、ジェリド。

 ……ああ、そうそう。今だから話すが、嫌がるお前にアルマダが無理矢理飲ませてたその薬な……作ったのは俺だ。




 報告に来た伝令の生き残りは、とても申し訳なさそうに事の顛末を話すが、内容は概ね予想通りだった。ただ意外だったのが……マギュガスの奴は生き残ったらしい。スゲーなあいつ……
 あの激戦区で生き延びる辺り、奴の運は相当だな。まぁ、あいつは面白いから今後の戦闘でも最前線で足掻いて貰うとするか。

 そして、フリーブラッド側の損害も結構なものだった様だ。程よく善戦して全滅した辺り、程よく優秀で、結構な無能だったな旧派閥の連中。あのジェリドの取り巻きらしいっちゃ、らしいが……マギュガス位、ぶっとんだ無能ならあっさり負けて逃げ帰れたろうに。なまじ勝つから引き際を見失い、退けなくなるんだ。それはフリーブラッド側もか。

 敵であるバーミンガム王を討ち取り、ボロボロながらも士気は高いらしい。最早、士気の高さだけでどうにかなる損害では無いのだが、思わぬ戦果に歯止めが効かなくなっている。後は良い場所で陣取り、調子に乗って攻めてくるフリーブラッド軍を迎え撃つだけだ。それでフリーブラッドの抵抗は打ち止めだ。これでこの大陸の半分がバーミンガムに併呑される事になる。



「これから忙しくなりますね、殿下……いえ、陛下」

「なに、戦後処理なんざ造作もない事だ。特に、どっかの聖女様のお蔭でな」

「『紫高の聖女』だっけ?最近、音沙汰が無いと思ってたけど……まさか敵国にいるとは思わなかったよ……」

 物思いに耽っていた俺に、俺の副官である『シリウス・バーミリオン公爵』が話し掛ける。彼に応える俺の言葉に、今回の戦の『本当の本陣』を任せた大将『レイガルド・シェリオン辺境伯爵』がのってきた。
 フィアルは今、攻めてくる側から攻められる側となったフリーブラッド帝国にいる。
戦火で傷付くのは、いつだってその地に暮らす民だ。覚悟を決めた軍人ではない。それをよく知るフィアルは、例え敵であろうと見過ごすことが出来なかったらしい。
 傷付いた民を癒やし、守り、支えとなる紫の髪をした聖女の話は、フリーブラッド内のあちこちから聞こえてくる。かつての敵であった事は承知の上で……だ。そこにどんな苦労があったかは推して知るべしだ。
 だがフィアルのお陰で、『血ではなく、実力こそが尊ばれる国』血は自由であるフリーブラッド帝国において、王権制である我々バーミンガム王国軍は受け入れられている。

 実力こそが尊ばれる。それはつまり、『力こそが正義』だ。
軍国主義であるフリーブラッドの中で、フィアルの高貴なる者の振る舞いは、国の考え方を変えた。変わりたいと願うほどの血が流れすぎたのだから……価値の無い血フリーブラッドなんか無い。人間なら誰だってそう思いたいだろう。特に生き残った者達は……
 ならば戦うのは覚悟のある者となる。それが血ではなく、生き様である事に貴族主義は意味がある。生まれや育ちではなく、行いこそが紳士・淑女足り得る証となる。フィアルは、それを証明してみせた。

 戦いに疲れたフリーブラッド帝国は、これで一度終焉となる。いつの日か再び、貴族ではなく民衆が立ち上がる時が来るだろう。その時がバーミンガム王国の終焉する番だ。為政者である者に出来ることは、その時をどれだけ先延ばしにできるかだけだ。倒されない権力は無い。この世には『永遠』なんて存在しないからな。とは言え……



「全くだ、待っててくれとは言ったが……フリーブラッドに居るとはな……素直に待ってはくれないらしいぞ、義弟よ」

「姉さんだからね……諦めたがいいよ。最も、僕はまだ認めてないけどね。姉さんが欲しければ、僕を倒してからにして貰うからね。小さな義兄よ」

「手厳しいな、レイ。この短い手足で、今のお前に勝てと言うか……」

「それが……オロチとの約束だからね……」

 レイまでハクリュウみたいな事を言い出した。
神殺しの称号である『スサ』のである、今のレイに勝つには現在の幼児の身体では話にならない。全く、先代オロチもとんでもない遺言を残してくれたもんだ。

 



 そう、オロチもまた……この世から旅立って逝った。
神器の助力も無しに、長期間休まず顕現し続けたオロチ。神力が尽きれば、精神が尽きる。精神が尽きれば、待つのは発狂だ。それはヤマタノオロチにとって、その頭の死を意味する。
 オロチは残り少ない神力を、愛弟子であるレイガルドに託して死んでいった。その方法は『親孝行』と呼ばれる……所謂、『師匠越え』だ。
 全力で戦い、敗れることで、オロチは後進に道を託して死んでいった。神の化身たる龍として、その名に恥じない生き様だった。どこまでも己の道を貫いた……ミリアルド・シェリオンの様に。
 正に、彼こそが龍王の名に相応しい。途中で放棄した俺には……眩しすぎて言葉に出来ない。本当に羨ましいぞ、先代。

 だが、俺とフィアルの仲は邪魔させない。後10年もすれば力が大分、取り戻せる。やはりそれまでは、フィアルを待たせてしまう事になりそうだ……『五歳児』の俺では、『凄之男』たるレイガルドが相手となると……まだどうしようも出来ないからな。
 特に現在、レイガルドは23歳。精神も肉体も、全盛期を更新の真っ最中だ。おまけに子供も産まれて……あらゆる意味で最強かもしれない。
 片や俺は、名目上はシリウス率いる別働隊に、シェリオン辺境伯軍を加えた連合軍。そこに俺がオマケで居る形だ……実質的にこの軍を動かしているのは俺だが。
 五歳児が軍に紛れていても違和感が無い程度には、周囲に神童として認めさせてはいるしな。



 これから父であるジェリド国王が亡くなった俺は、シェリオン辺境伯爵であるレイガルドを後見人に、あの女……アルマダ・バーミンガムを代理人にして、バーミンガムの未来の国王となる。それ迄の代理人には別に、公爵となったシリウスでもいいんだが……今後、「アルマダには俺の許可を通した書類にだけサインをする仕事を与える」と言ったら「是非やらせよう」と二つ返事で返ってきた。
 良かったな、アルマダ。国王代理の地位になり、お前が女王だ。名ばかりのな……
能力に見合わない地位を渇望したお前だ。悔いはないだろう?登ったはいいがハシゴを外され、降りられないまま一生を終えろ。華やかな権利を夢みて、果たさねばならない義務に押し潰されながらな……
 『西国一の薔薇』、『真紅の聖女』として名高いマリエル・シェリオンでさえ、5年間の辺境伯爵代理はその身を削らざるを得なかった。果たしてお前はどこまで保つかな……ボロ雑巾の如く使い潰してやる。
「正妃になりたい、この国の一番になりたい」と言った、お前の願い通りだ。約束は果たしたぞ……



「あ、またなんか悪いこと考えてますね……『シンリュート・バーミンガム』陛下」

「いや、別に。大した感慨も湧かない些末な事だ。そんな事より、折角だ!バーミンガムなんて気に食わない名前変えるか。そうだな……『凄之男』に対抗して『櫛名田』なんてどうだ?」

「僕に対抗する意味が分からないけど、相変わらずヤマタノオロチの国の発音は難しいね……クュ……クリシュナーダ?」

「クシナダなんだが、この国の発音だとそうなるのか……ま、好きに呼んでくれ。ついでに後見人よ……代理人アルマダの監視に飽きたら、そのまま王位を簒奪さんだつしてくれても構わんぞ?」

「御免被るよ。レイガルド王国とか悪役みたいで嫌だし……」

「そうですか?自分は悪くないと思いますよ?なんてたって御子息のリーンガルドはオロチししょうの生まれ変わり!最高の王の器ですから!」

 人のことは言えないが、のんびりと敵地で喋るレイガルドとシリウス。オロチの愛弟子である二人の男達率いるこの軍なら、ボロボロのフリーブラッド軍では相手にすらならない。例え全盛期の大軍団が相手であっても、結果は変わらないだろう。
 これから少しは忙しくなるが……それもフィアルに会うまでの我慢だ。迎えにいくのはもう少し先だが……会うだけならレイも邪魔しないはずだ。

 会えたらまずはどうしようか……神々の盟約があった制限下では、悲しみに暮れる君を救う事も、奪い去る事も出来なかった。出来るけど、出来ない日々の苦い思い出だ……でも今は、出来ない事は出来ないが、出来る事は出来るからな!

 そうだな……どうせまたお前の事だから……頑張って、頑張りすぎて意地張って、傷付いて泣いているかもしれない……カガチやフウが付いているから大丈夫だとは思うが……そうだな、まずはベッタベタに甘やかそう、そうしよう!
 五歳児に出来る事を甘く見るなよ、フィアル……

 ひょっとしたら君の事だから、また別の場所で困っている人達を助けているのかもしれないが……その時は、その時だ。




「成りたい奴がいるなら喜んで代わるさ。俺が欲しいものは……王の座じゃないからな!」

 例え……この世の果てに居ようとも、必ず君を見つけて迎えに行くさ。


 
 例え……世界征服してでもな!




         
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