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2人目
戦闘開始
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「危ない!」
「っ……」
咄嗟の俺の声でグランツは、間一髪のところで溶岩に崩落する地面から飛び移ることが出来た。魔物に気をつけていても、3層はコレがあるから怖い。
3層の探索を始めた俺たちだったが、予想以上にそれは困難を極めた。
まず階層の特徴が最悪だ。表ダンジョンと同じ溶岩地帯である3層『溶火の湖畔』はその名の通り、溶岩湖が階層の三分の一を占める。俺たちはその間や周りの崩れやすい地面を縫うように歩いていかなければならないのだ。
そして何より問題なのが
「あつい……」
声に出して嘆いてしまうほどの暑さだ。
暑さは思考力と体力を同時に削ってくる。水分補給も困難を極める。俺もグランツも生活魔法の水生成は使えるが、魔法を使って水を補給しても、今度は魔力が尽きるから慎重にならざるを得ない。
── あ、<探知>に何かかかった。
俺がスキルで気付いた溶岩の中に潜む魔物、その存在を伝えるまでもなくグランツは既に戦闘の構えを取っていて、彼の勘の鋭さに俺は少し驚く。
グランツは武器を魔兎に取られたらしく代わりに魔兎の牙を使っていたが、リーチが足りないので代わりに俺が予備として持ってきていた毒属性付与のナイフを装備している。
「来るぞ!!」
俺の声とほぼ同時、バシャアと勢いよく傍の溶岩から姿を現したのは大きな蛇だった。見えている部分だけでも3メートルほどの高さ、全身が地上に出ればその2倍はあるだろう。
ちょっと近付いて隙を見せるだけで、一気に溶岩に引き込まれる可能性がある。それに気付いて、奴に近かったグランツは距離をとるようにバックステップをし、更に「<疾走>」と唱え、スピード重視の戦い方に移る。
「シャァァ……シャアァ……」
「<鑑定>……フレイムサーペント、か」
フレイムサーペント、その大きな体躯を利用した物理攻撃と火のブレスが主な攻撃方法で、硬い表皮と普段は溶岩の中に潜んでいることも相まって低ランク冒険者にとっては厄介な相手だ。普通のフレイムサーペントならば、俺は簡単に倒せる。が裏迷宮では、魔兎でさえあの強さだったことを考えれば警戒せざるを得ない。
「グランツ、俺が隙を伺う。時間を稼いでくれ! <隠密>っ!」
「ああ!」
転生者特典『忍びの術』の効果が組み合わさった最強の認識阻害スキル、フレイムサーペントは目の前に立っている俺がいつの間にか消えたように見えただろう。驚いた様子で周りを窺う。
が、俺にばかり気を使うのは隙だ。
「はぁっ!」
<軽量化><疾走>の組み合わせによって、速度が上昇したグランツが一気に奴の喉元まで迫る。
「シャアッ」
が、そこは裏迷宮の魔物。下に潜り込んだ完全に死角からのグランツの攻撃を最低限首を横に逸らして躱す。グランツは初撃そのままの勢いで、フレイムサーペントの横を高速ですり抜け、天井を蹴って反転、重力をも利用した2撃目に移行。
「<クナイ>っ!」
俺もサポートとして、完全に意識外からの遠距離攻撃を仕掛ける。フレイムサーペントにとっては虚空から突如出現したように感じるだろう。
どちらも避けることは不可能、瞬時に判断したであろうフレイムサーペントはクナイに背を向け、グランツの方を向く。だが、それは悪手だ。このクナイはゴーレムですら易々と貫く上に、特別性の毒が塗ってある。
その三本のクナイは奴の、人で言う項に一直線に向かい
── カカカっ。
全て表皮に弾かれた。
「えっ」
俺が驚くのとほぼ同時、「ぼうっ」と鈍い音がしたと思えば、今度は奴の吐いたブレスが空中に居るグランツに一直線に向かう。
「っうおおおお!!」
全身が火に呑み込まれるすんでのところで、グランツは身体を全力でよじりその横スレスレをすれ違う。火に焼かれずには済んだが、無理に体勢を崩したせいで溶岩湖に真っ逆さまだ。
「マズい!!」
「<加速>! <瞬歩>! <空中歩行>っ!!!!」
思考を介さないスキルの発動、無駄を全て省いた高速の判断で俺はグランツの元まで一気に駆け付け、溶岩スレスレでキャッチする。
「っぶねぇ……助かった。ありがとう」
三つのスキル同時使用しても、溶岩まであと数センチのところでグランツを抱え上げることが精一杯だった。
お互い顔を合わせて、ひとまず生きていることに安堵した。
それが命取りだった。
「来るっ!!!」
グランツの叫びとその瞳に反射する背後の風景に俺は戦慄する。いつの間にか地上に上がっていたフレイムサーペントが、その長い尾を横に払っていたのだ。ほぼ反射的に俺はグランツをフレイムサーペントから遠ざかるように弾き飛ばす。
直ぐに振り返って俺も瞬歩で出来るだけ尾の先まで移動をするが
── な が い っ !!
「かはっ」
横腹に襲う凄まじい薙ぎ払いの衝撃。みしみしと肋骨が軋む音の中、高速の尾が生む遠心力によって身体はくの字に曲げられ、一瞬だけ尾と身体がくっ付いたかのように錯覚し、あまりの痛みに俺は思わず目を瞑ってしまう。
その暗闇の中、1秒ほど胃が浮いたような感覚を経て、次に俺を襲ったのは背中への衝撃と内臓と骨がガシャガシャにぶつかり合うこの世のものとは思えない激痛。ぼやけた視界の遠くではグランツが今にも殺されそうになっていたのが見えた。
「っ……」
咄嗟の俺の声でグランツは、間一髪のところで溶岩に崩落する地面から飛び移ることが出来た。魔物に気をつけていても、3層はコレがあるから怖い。
3層の探索を始めた俺たちだったが、予想以上にそれは困難を極めた。
まず階層の特徴が最悪だ。表ダンジョンと同じ溶岩地帯である3層『溶火の湖畔』はその名の通り、溶岩湖が階層の三分の一を占める。俺たちはその間や周りの崩れやすい地面を縫うように歩いていかなければならないのだ。
そして何より問題なのが
「あつい……」
声に出して嘆いてしまうほどの暑さだ。
暑さは思考力と体力を同時に削ってくる。水分補給も困難を極める。俺もグランツも生活魔法の水生成は使えるが、魔法を使って水を補給しても、今度は魔力が尽きるから慎重にならざるを得ない。
── あ、<探知>に何かかかった。
俺がスキルで気付いた溶岩の中に潜む魔物、その存在を伝えるまでもなくグランツは既に戦闘の構えを取っていて、彼の勘の鋭さに俺は少し驚く。
グランツは武器を魔兎に取られたらしく代わりに魔兎の牙を使っていたが、リーチが足りないので代わりに俺が予備として持ってきていた毒属性付与のナイフを装備している。
「来るぞ!!」
俺の声とほぼ同時、バシャアと勢いよく傍の溶岩から姿を現したのは大きな蛇だった。見えている部分だけでも3メートルほどの高さ、全身が地上に出ればその2倍はあるだろう。
ちょっと近付いて隙を見せるだけで、一気に溶岩に引き込まれる可能性がある。それに気付いて、奴に近かったグランツは距離をとるようにバックステップをし、更に「<疾走>」と唱え、スピード重視の戦い方に移る。
「シャァァ……シャアァ……」
「<鑑定>……フレイムサーペント、か」
フレイムサーペント、その大きな体躯を利用した物理攻撃と火のブレスが主な攻撃方法で、硬い表皮と普段は溶岩の中に潜んでいることも相まって低ランク冒険者にとっては厄介な相手だ。普通のフレイムサーペントならば、俺は簡単に倒せる。が裏迷宮では、魔兎でさえあの強さだったことを考えれば警戒せざるを得ない。
「グランツ、俺が隙を伺う。時間を稼いでくれ! <隠密>っ!」
「ああ!」
転生者特典『忍びの術』の効果が組み合わさった最強の認識阻害スキル、フレイムサーペントは目の前に立っている俺がいつの間にか消えたように見えただろう。驚いた様子で周りを窺う。
が、俺にばかり気を使うのは隙だ。
「はぁっ!」
<軽量化><疾走>の組み合わせによって、速度が上昇したグランツが一気に奴の喉元まで迫る。
「シャアッ」
が、そこは裏迷宮の魔物。下に潜り込んだ完全に死角からのグランツの攻撃を最低限首を横に逸らして躱す。グランツは初撃そのままの勢いで、フレイムサーペントの横を高速ですり抜け、天井を蹴って反転、重力をも利用した2撃目に移行。
「<クナイ>っ!」
俺もサポートとして、完全に意識外からの遠距離攻撃を仕掛ける。フレイムサーペントにとっては虚空から突如出現したように感じるだろう。
どちらも避けることは不可能、瞬時に判断したであろうフレイムサーペントはクナイに背を向け、グランツの方を向く。だが、それは悪手だ。このクナイはゴーレムですら易々と貫く上に、特別性の毒が塗ってある。
その三本のクナイは奴の、人で言う項に一直線に向かい
── カカカっ。
全て表皮に弾かれた。
「えっ」
俺が驚くのとほぼ同時、「ぼうっ」と鈍い音がしたと思えば、今度は奴の吐いたブレスが空中に居るグランツに一直線に向かう。
「っうおおおお!!」
全身が火に呑み込まれるすんでのところで、グランツは身体を全力でよじりその横スレスレをすれ違う。火に焼かれずには済んだが、無理に体勢を崩したせいで溶岩湖に真っ逆さまだ。
「マズい!!」
「<加速>! <瞬歩>! <空中歩行>っ!!!!」
思考を介さないスキルの発動、無駄を全て省いた高速の判断で俺はグランツの元まで一気に駆け付け、溶岩スレスレでキャッチする。
「っぶねぇ……助かった。ありがとう」
三つのスキル同時使用しても、溶岩まであと数センチのところでグランツを抱え上げることが精一杯だった。
お互い顔を合わせて、ひとまず生きていることに安堵した。
それが命取りだった。
「来るっ!!!」
グランツの叫びとその瞳に反射する背後の風景に俺は戦慄する。いつの間にか地上に上がっていたフレイムサーペントが、その長い尾を横に払っていたのだ。ほぼ反射的に俺はグランツをフレイムサーペントから遠ざかるように弾き飛ばす。
直ぐに振り返って俺も瞬歩で出来るだけ尾の先まで移動をするが
── な が い っ !!
「かはっ」
横腹に襲う凄まじい薙ぎ払いの衝撃。みしみしと肋骨が軋む音の中、高速の尾が生む遠心力によって身体はくの字に曲げられ、一瞬だけ尾と身体がくっ付いたかのように錯覚し、あまりの痛みに俺は思わず目を瞑ってしまう。
その暗闇の中、1秒ほど胃が浮いたような感覚を経て、次に俺を襲ったのは背中への衝撃と内臓と骨がガシャガシャにぶつかり合うこの世のものとは思えない激痛。ぼやけた視界の遠くではグランツが今にも殺されそうになっていたのが見えた。
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