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幕間
ひとり
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再び1人になった俺は3層を歩き続ける。自分の足音か傍の溶岩が沸き立つ音しか聞こえない。後ろに孤独がついてきているのを振り切るように足早に歩く。
この層ぐらいの魔物なら<隠密>さえ発動していれば俺のことを認識できないようだ。スキルのクールタイムだけ気にかけていれば死ぬことは無いだろう。フレイムサーペントやヒートウルフの傍を横切りながらでも、この先のことを考える余裕がある。
── どうしてこうなった。
作業のようにスキル<クナイ>で無防備な魔物の急所をついて殺していると、過去の自分とかけ離れた自分に気づく。
ダンジョンの中で自らに課す命の価値は外のソレとは違う。力に応じた価値はもちろんそうだが、それだけでなく命にかかった命の数だけ価値は高くなる。だから俺は死ねない。
***
── 俺は本当に迷宮から出るべきなのだろうか。
『セーフゾーン』の中でフレイムサーペントの皮を剥ぎ、肉を削ぐ。3層に来て1週間、ダンジョンに来て2週間以上になる。生活が迷宮に馴染んでいて、手際は随分と良くなった。時間だけは有り余っていて、だからこそ思う。俺は迷宮から出るべきなのだろうか。
外の人間は利益の為ならば何でもする。金や土地や名声の為に俺を利用しようとこんな所まで追いかけてくるほどに。だがダンジョンでは金も土地も名声も何の意味もなさない。あるのはただ生きる為の力だけだ。
外に出れば俺は陰謀や政略などつまらないものに巻き込まれるだろう。俺はただ平凡に生きたいだけなのに、[転生者の篝火]とかいう称号のせいで強制的に転生者と出会う運命を与えられ、かつ各勢力から身柄を狙われてしまう。全くろくなもんじゃない。
そもそも人間とは何か。人と関わることも無く、ただ事務的に魔物を狩り魔物食らう俺は人間というのだろうか。魔王と人間の戦いで負けたとしても、もっと言えば別に人間の存亡にも興味がさして湧かなかった。俺はずっとダンジョンで生きることだって出来るし、大切な人がいる訳でもないからだ。
── ダンジョンに毒されている、な。
やはり孤独はよくない。独りよがりで、自己満足的な考えしか生まれない。4層の入口をようやく見つけ、近くの『セーフゾーン』で眠りにつく。夢の中で俺は真っ暗な階段を降っていた。
ただ下層へ下層へと降り続ける。ダンジョンという名の大きな怪物の身の中を慎重に進む。表の迷宮ならば10階層までだが必ずしも裏もそうとは限らないし、魔王がこの下にいるというのだから、死地に向かっているとも言える。しかし活路はいつだって死地に見い出すものだ。
目が覚めた俺は、4層への下り坂を降りるのだった。
この層ぐらいの魔物なら<隠密>さえ発動していれば俺のことを認識できないようだ。スキルのクールタイムだけ気にかけていれば死ぬことは無いだろう。フレイムサーペントやヒートウルフの傍を横切りながらでも、この先のことを考える余裕がある。
── どうしてこうなった。
作業のようにスキル<クナイ>で無防備な魔物の急所をついて殺していると、過去の自分とかけ離れた自分に気づく。
ダンジョンの中で自らに課す命の価値は外のソレとは違う。力に応じた価値はもちろんそうだが、それだけでなく命にかかった命の数だけ価値は高くなる。だから俺は死ねない。
***
── 俺は本当に迷宮から出るべきなのだろうか。
『セーフゾーン』の中でフレイムサーペントの皮を剥ぎ、肉を削ぐ。3層に来て1週間、ダンジョンに来て2週間以上になる。生活が迷宮に馴染んでいて、手際は随分と良くなった。時間だけは有り余っていて、だからこそ思う。俺は迷宮から出るべきなのだろうか。
外の人間は利益の為ならば何でもする。金や土地や名声の為に俺を利用しようとこんな所まで追いかけてくるほどに。だがダンジョンでは金も土地も名声も何の意味もなさない。あるのはただ生きる為の力だけだ。
外に出れば俺は陰謀や政略などつまらないものに巻き込まれるだろう。俺はただ平凡に生きたいだけなのに、[転生者の篝火]とかいう称号のせいで強制的に転生者と出会う運命を与えられ、かつ各勢力から身柄を狙われてしまう。全くろくなもんじゃない。
そもそも人間とは何か。人と関わることも無く、ただ事務的に魔物を狩り魔物食らう俺は人間というのだろうか。魔王と人間の戦いで負けたとしても、もっと言えば別に人間の存亡にも興味がさして湧かなかった。俺はずっとダンジョンで生きることだって出来るし、大切な人がいる訳でもないからだ。
── ダンジョンに毒されている、な。
やはり孤独はよくない。独りよがりで、自己満足的な考えしか生まれない。4層の入口をようやく見つけ、近くの『セーフゾーン』で眠りにつく。夢の中で俺は真っ暗な階段を降っていた。
ただ下層へ下層へと降り続ける。ダンジョンという名の大きな怪物の身の中を慎重に進む。表の迷宮ならば10階層までだが必ずしも裏もそうとは限らないし、魔王がこの下にいるというのだから、死地に向かっているとも言える。しかし活路はいつだって死地に見い出すものだ。
目が覚めた俺は、4層への下り坂を降りるのだった。
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