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絶え間

経緯

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「当時の私は教国のごく一般的に英雄の一員だった。普通に訓練を受けて、普通に教育を受けて、普通に魔物を倒していた」

 ごく一般的に英雄の一員、少しおかしな表現だが実際にそうだったのだろう。沢山の転生者が英雄として魔物を討伐していることがその頃の日常だったのだから。

 それからシズクは懐かしむように目を細めながら、その頃の輝かしく楽しく、それでいて危険も孕む冒険の日常を語ってくれた。西のクラーケンを人魚の王と協力して倒したとか、氷のドラゴンを逆に氷漬けにしたとか、帝国の転生者と手柄の奪い合いになったが最終的に意気投合したとか。その話の中では、俺の知っている英雄であるラーン様やパータロル様がただの気さくな友人として登場していて、改めてシズクが百年前の人物であることを実感した。

「まぁ、そんなある日、ミラと教王に呼び出されてね」
「ミラって……聖女の?」
「……?」

 教国の転生者でミラと言えば聖女ミラだろう、と確信を持って聞いた質問だったが、シズクは首を傾げる。が、直ぐに何か思い当たることがあったようで、ぽん、と手を叩いた。

「あー!! そうか、そう言えばそんな風に呼ぶ人が何人かいたっけ!」
「あぁなるほど、その頃は聖女って呼び方は広まっていなかったのか」
「うん。彼女の転生者特典は確かに『聖なる盾』だったけど、本人も聖女は大袈裟だって恥ずかしがってたもん。あ、ミラとは同じ教国の転生者でしかも女の子同士ってことで、仲良かったんだ」

 嬉しそうにミラと友達だったことを宣言するシズクだったが、それも一瞬ですぐに暗い表情になって話を続けた。

「まぁ、そんなわけで彼女と私と、あと2,3人で教王に言われた通り、『不敗のユーラ』が居るっていう場所、『龍頭の迷宮』の裏の2層に向かったんだけどね」
「『不敗のユーラ』……」

 確か伝承通りでは、聖女ミラと『不敗のユーラ』は相討ちになったと。

  ──ん? ていうか、ココ?

「でもね、そこに居たのは『不敗のユーラ』だけじゃなかった。一面に広がる魔兎、魔人、デッドウルフその他把握出来ないほど多数の魔物」
「罠、か」
「そう。魔兎の変異種、明らかに人の手が加わっている魔人、高い知性を持つデッドウルフ、逆に知性の欠片も無い実験体のような四天王。流石に気付いたよ、魔物が人工的に作られているって、全部嘘だったんだって、これは私たちを処理するための罠だったんだって」

 少し想像してみる。あの青々とした草原を覆い尽くす真っ赤な目を光らせる魔兎が一斉に襲いかかってくる。さらにその合間合間に魔人が多様かつ捉えようのない攻撃を仕掛けてき、さらにデットウルフが死咆を無限に撃ち込んでくる。うん、分かりやすく絶望だ。

「まぁでも健闘はしたよ。私の転生者特典……はもう察しているかな? 『奪力ステータススティール』……制限と条件はあるものの相手から能力を奪えるもの。それとミラの盾があれば……」

 シズクの話の途中だが、俺はそこであることに気付いた。というか、その疑問を思い出したの方が近いか。

 ── のだ。

 『不敗のユーラ』は人のスキルとステータスを一部、一定時間奪うスキルを持っていたとされている。そして、さっきユミ相手にシズクが使った<奪力ステータススティール>。偶然とは思えない共通項だ。

「『不敗のユーラ』の力とシズクの力は、その……」

 言い淀んでしまう、なんと言っていいか分からないから。でも、シズクは俺の言いたいことが分かったらしく、頷いた。

「あぁ多分だけど、『不敗のユーラ』に学習させる予定だったんだろうね」
「予定だった……ってことは」
「うん、失敗させたよ。だって私が生きてるでしょ?」

 逆に言えば、シズクしか生き残られなかったということだ。その場で何があって、シズクが何を思って生きているのか。仲間を失ってここまで生き残ってきた俺には、痛いほど分かった。

「そうか……つらかっ」
「なにか来る! 伏せて!」
「……っ!?」

 シズクは、俺の頭を押さえつけ伏せさせる。と、同時に真っ白な光が俺とシズクを包み込んだ。そしてその中心に浮び上がる魔法陣。

 ── これは……。

 知っている。これは、こんな転移魔法を使えるのは、リカ・ローグワイスただ1人だ!
 光が発生して数秒後、やはり予想通り、ローブをぶかぶかに着た小柄な少女が出てくる。リカは出てくるなり俺を見て、少しほっとした様子で挨拶をしようとして、

「おー、リュー……っお前、まさか……?」

 だが、俺の後ろに居るシズクを見た途端、呆然と立ち尽くした。そして、それはシズクも同じだった。

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