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第2章 エルフの秘宝
ガザミ狩り
しおりを挟むギルド[トレミス]で[ショウグンガザミ]の討伐依頼を、ギルド[クリフォート]で[ガザミ]の仕入れ依頼を受けたアヴラムとビートは両方の依頼を達成すべく街の外に向かった。
そして街の外へ出る門の所まで来たのだが、見覚えのある人物に話しかけられる。
「やっと来たかアヴラム! ビート!」
何故かここでハンスが待ち構えていたのだ。
「えっハンスさん!? なんでここにいるんですか?」
「なんだよ水くさいな! お前らショウグンガザミを倒しに行くんだろ? なら一人でも多い方がいいだろ!」
話を聞くとネフィリムが、ガザミの身が大量に出回るから安く手に入ると喜んでいたことを、他の受付嬢が話していてそれがネフィリムのファンの冒険者の間で噂になったらしい。
なのでもしやと思い依頼を探すと[ショウグンガザミ]の討伐依頼が受注されていたので確認すると、『獣人を引き連れた人が受注していた』と言われたからアヴラム達だとあたりをつけたそうだ。
ネフィリムに気に入られる為に自分もガザミの身を手に入れたいのかもしれない。
「それでわざわざ追いかけてきたんですか?」
「ん? 何か勘違いしてないか? 確かにネフィリムには気に入られたいが、お前達だけじゃあDランクのショウグンガザミはキツイだろうから手助けに来てやったんだよ」
「そうなんですか? 確かにビートに教えながらなので人手が多い方が楽ではあるけど。どう思うビート?」
「ベツにいいとオモうよ、ハンスはいいヤツだし」
一緒に酒を飲んだからか、ハンスとビートは既に仲良くなったようだ。
「なら決まりだな! いろいろ手助けしてあげるから、アヴラム、ビートも宜しくな!」
ということでショウグンガザミの討伐にハンスが同行することになった。
■■■
ガザミは水辺の近くであれば、森のなかとか草原とかいろいろな場所にいる。
なので街の外に出て林のなかにある川へ向かっているのだが、ハンスの実力が分からないので聞いてみる。
「ハンスさんって、どれくらい強いんですか?」
「冒険者の評価が6星でランクCだ! お前らはまだ駆け出しのFなんだろ? 俺がしっかりと教えてやるからしっかりとついてきな!」
「そんなに凄い冒険者だったんですね。……なのになんでネフィリムさんに相手にされてないんですか?」
「ランクB以上じゃないと興味ないんだとよ。だからランクFなのに相手にされてるお前さんがおかしいんだよ」
「でも最初にトレミス訪れた時はむしろ向こうから声を掛けてきて貰えましたよ?」
「あー、あの時はギルド長が機嫌が悪かったから偶々表に出てたんだろうな。ネフィリムさんは気分屋だから、本当にお前達は幸運だったんだろうよ」
話を聞けば普段は表に出てくることはほとんど無くて、専属の冒険者もしくはBランク以上の高ランクしか基本的には相手にしてくれないらしい。
ギルドの受付嬢の給料は、受け付けた依頼の報酬の額に応じて出来高報酬として払われるらしく、ファンはネフィリムを指名して応援したいが、高ランカーからの人気もあるので低いランクの依頼の報酬ではなびいてくれないそうだ。
「でも後少しでBランクになれるので、相手にしてもらえるんじゃないんですか?」
「そうなんだよ、だから今のうちから少しでもネフィリムさんに気に入られる為にお前も協力してくれ!」
「わかりました。でもまずは依頼をしっかりと達成しましょう。あとビートを鍛えながらになるのでその間のフォローをお願いします」
ガザミは個別であれば問題ないが、集団に囲まれると苦労するので、周りから他のガザミが来ていないか確認をしておいて貰いたい。
アヴラムが[気配察知]のスキルで警戒していれば問題ないが、他の人に警戒しておいて貰う方が確実だ。
「ああ分かった。その間に俺がショウグンガザミを倒しちまっても文句いうなよ!」
「ええ、お願いします」
■■■
川辺に近づくと幾つか魔物の気配がある。
ゴブリンやオークの可能性もあるが、まずは近くにいて単独行動をしている魔物を倒しに行こう。
「ビートはこれまでに戦ったことはあるんだよな?」
「うん。ジュウジンはコドモのトキからタタカいカタをオソわるからケイケンしてる」
「なら最初は任せるから自由に戦ってみてくれ。危なかったら手助けはするから」
「ワかった」
■■■
最初に出会った魔物は、運良く狙いとしているガザミだった。
「ハサミの攻撃だけは気を付けろよ」
「うん」
アドバイスを送って、ビートが先行してガザミに近づく。
ガザミに気づかれる前に先制攻撃を行うが殻に弾かれて致命傷にはならない。
その後も相手の攻撃を避けながら手数を掛けて、少しずつ削っていき何とか倒すことには成功する。
アヴラムから見ればまだまだなのだが、ハンスは誉める。
「一人で倒しきるなんて凄いじゃねぇか! これならショウグンガザミ相手でも期待できるな!」
「……えっと、あれはハンスから見て凄い方なのか?」
「ああ、これならちょっと頑張ればランクDまでなら直ぐに行けるんじゃないか?」
「そうか、普通はそんな感じなんだな……」
アヴラムが思っている感覚と、普通の冒険者の感覚はかなりかけ離れているらしい。
これぐらいの相手で初擊を気付かれずに与えられるのであれば、そこで致命傷を与えたいしもっと早く仕留めなければ聖騎士団にいた頃では話にならない。
「ビートは戦ってみてどうだった?」
「コウラのあるマモノはハジめてだったからトマドったけど、ウゴきがオソいからなんとかタオせたのかなとオモう。まだまだこれじゃあダメだ」
ハンスの見立てよりビートの感想の方が冷静だし、アヴラムの見立てに近そうだ。
「そうだな、俺もまだまだだなと思う。でも動きは悪くないから、倒し方を知ればもっと楽に倒せると思うぞ」
「タオしカタ?」
「そうだ、魔物には弱点があるからそこを狙えれば楽に倒せるんだよ。慣れないと難しいけどな」
「おいおいちょっと待てよ、そんな高等技術はまだ難しいだろ? 弱点を狙えるなんて相手よりも遥かに強くなきゃ難しいぞ?」
疑問に思ったハンスが聞いてくるが、弱点を狙うことはアヴラムにとっては当たり前の事なので、逆に驚く。
「いや、でも弱点を狙った方が楽に倒せるからその方がいいだろ?」
「だからその狙うということが難しいんだよ。狙おうとしてたら逆に攻撃されて危ないんだって」
子供の頃からそれを行ってきたアヴラムにとっては当たり前なので何をいまさらとも思うのだが、それはそうではないのだろう。
アヴラムには他の人にはないユニークスキル[弱点把握EX]がある。
亜人には種族のユニークスキルを皆が持っているが、真人族でユニークスキルを持っている人はほとんどおらず相当珍しいので、一部の人にしか教えていない。
だがそれを抜きにしても、弱点を学んで狙うことは聖騎士団では当たり前のように行われていたので、ビートにもそこを目指して貰いたい。
「それでも知っているだけでもかなり効率は変わってくるからな。一度お手本をみせるから見ていてくれ」
ということでアヴラムが次のガザミを倒すことにした。
■■■
今回は教えながらということで、背後から一撃で倒すことはせずにあえて相対した状態で戦い始める。
「いろいろやり方はあると思うけど、基本的にはガザミの弱点は胴体にある足の付け根だ」
ハサミを振り落とされるので、とりあえずかわす。
「そして一番厄介な攻撃はこのハサミの攻撃だから、気を付けないといけないけど慣れたらこうだな」
振り下ろされたハサミをかわしたと同時に付け根から切り落とす。
「ほらこうすれば後は突進してくるしかないから、動きの遅い猪とかと変わらないぞ」
「「……」」
反応がないので、理解したものとして続ける。
「後は突っ込んできた所に剣を置くだけでも簡単に弱点に当てられるぞ?」
なので突っ込んできたガザミをあっさりと倒す。
「どうだ、簡単だろ?」
振り替えると、二人から突っ込まれる。
「「出来(デキ)るか!」」
「なんで!?」
「いやいや、まずハサミを切り落とすとか普通は無理だから。何を普通に切り落としちゃってるんだよ!」
「そんなものなのか?」
「ヒジョウシキ!」
ビートにまで言われてしまったのでちょっと傷つく。
(聖騎士団では皆やってたのに……)
■■■
同じようにガザミを倒すことは難しいということで、とりあえずはアヴラムがガザミのハサミを切り落とし、ビートが倒すという流れで戦いに慣れていくことにした。
まずは冷静に相手を見極め対処できるようになるまで訓練するためだ。
ハンスは『自分も負けてられない!』と言って何処かに行ってしまったが、とりあえずビートが一人で簡単に倒せるようになるまで、ガザミを見つけて、アヴラムがハサミを落とし、ビートが倒すという作業を続けていく。
たまに一人で戦ってみて貰うと、徐々に楽に倒せるようになってきた。
■■■
まだ一人でハサミを落とすことは出来ないが、難なく倒せるようにはなってきた所で日が暮れてきたので帰ることにする。
ショウグンガザミには出会わなかったし今日は探さなかったので、また明日倒しに行こう。
(ハンスは戻ってこないが、まぁいいか……)
呼び掛けてもどこからも返事がないし、さほどこの周辺に危険があるとは思えない。
実力が解離しているとはいえ、Cランクにまで上り詰めた冒険者なのだから一人で帰ってこれるだろう。
ということでビートと二人で帰路につくのであった。
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