異世界転移モノの序盤でやられる悪役盗賊の頭、公爵令嬢を人質に転移勇者からトンズラかまして新天地を目指す!

ポンコツロボ太

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第11話 バンチの部屋

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 俺ぁ、二人に何をするのか指示を与えてすぐに一人バンチの部屋を目指した。
 名目上は千二百万メルクを支払うためだが、本当の目的は別にある。

 俺が欲するのはあの男がここの住人から巻き上げた金だ。
 俺は知っている、バンチの寝そべるあのばかでかいベッドの下に隠し金庫があるのを。

 あいつがどれほど溜め込んでいるのか楽しみに、俺は部屋の前へと到着する。

 扉の前にはバンチの用心棒オーガ族のイッカクが眠たげな顔で突っ立っていた。
 俺の事はバンチからイッカクに伝わっているらしく黙って扉を通してくれた。

 何度来ても悪趣味なほどに豪華な部屋だ。

 俺は悟られないよう部屋を見渡す。

 部屋のど真ん中に据えられた特大のベッドに珍しくバンチは起きて座っていた。
 その奥、日当たりの良い窓辺には編み物をするバンチ母。

 よしよしよしよし!
 部屋の中は無警戒にもバンチとバンチの母親の二人だけ。内心、笑いが止まらない。
 バンチがぶよぶよの下あごの肉を揺らすように喋りかけてきた。

「どこにも金が見えないけど、どうしたんだぁ?」

 いつも間抜けなくせして、金のことになると小賢しい。

「……金ならここに」

 俺は腰にぶら下げているマジックバッグをポンポンと叩いて見せる。

「なら、早く持って来ぉい」

 偉そうにベッドの上から俺を手招きする。

「そういうことなら……ちょいと失礼して」

 俺はマジックバッグから金を取り出すふりをしながらバンチに近づく。バンチが珍しく座っていると思ったら、何のことはない。飯を食っていたようだった。

 こいつは寝るか食うか金をせびるしかできないのかね……

 食い散らかされた残飯がベッドの端々に飛び散っているのが目端に映る。これなら豚の方がまだ上手に飯を食うってもんだと、内心バンチを小馬鹿にしながら距離を詰める。

 バンチママは、いまだ編み物に夢中の様だ。何を編んでいるかは分からないがサイズ的に間違いなくバンチのものだと見て取れる。

 俺はバンチの真ん前に立ち止まる。

「さっさとしろ!ここまで来て金が惜しくなったなんて言うなよ。僕はここで一番偉いんだからな。金を払わないなんて言ったらお前の命はないんだぞ」

 ネチネチネチ唾を垂らしながらよく動く口だ。いつもなら、イライラするバンチの言葉も今日だけはオペラ歌手が歌う子守歌かと思うほど耳に心地良い。
 しかし、どんな楽しいことも終わりがある。名残惜しくはあるがバンチの言葉を遮る。

「なーにを勘違いしてるか知らねえけどな、てめえはこれっっっ……ぽちも偉くねぇ!!!偉いのはここを作ったお前の親父さんじゃ。このド腐れドブブタがっ!!」

 俺が言い返すとは微塵も思っていなかったのか一瞬部屋の中が静寂に包まれる。が、それも束の間、母親譲りのヒステリーを起こしたバンチが何やら喚き散らすが最早バンチの言葉を聞いてやる義理もない。

 俺はマジックバッグに突っ込んだ手を取り出す。そこに握られるのは金貨ではなく大鉈。俺は振りかぶりバンチ目掛け鉈を振り下ろす。

「ひいいっ!」

 バンチは鉈を防ごうと腕で頭を守る。
 そんじょそこらの大木でも一刀で断つ俺の自慢の大鉈だ。そんな子豚のような腕で止められるかってんだ。

あめえ、あめえ」

 腕にブスリと食い込んだ鉈の刃……そのまま腕ごとバンチの汚え面ごと両断するはずだった。
 しかし、鉈の刃はバンチの腕の中ほどに達すると脂肪で滑り、骨を断つことなく抜け落ちた。

「うぎゃああ!!痛い痛いいいい!!」

 腕から大量の血を流しながらバンチはベッドから転がり落ちた。

「バンチちゃん!!!」

 バンチの母親ルシラがベッドから転がり落ちたバンチに駆け寄る。

「うぐうう……痛いよう、ママぁ。僕死んじゃうよぉ」

「バンチちゃん!!ママが付いてるわ。ぜっっったいバンチちゃんは死なないわ」

 なぁんて馬鹿な親子がままごとしてる間に俺はバンチのベッドの下に潜り込む。
 そこには長さが俺の伸長とさほど変わらない横長の金庫が据えられていた。
 どう考えても俺一人で金庫を担ぐことは無理だ。それに今金庫をチマチマ開ける暇などない。

 ここは俺ご自慢のマジックバッグの出番。高い金はらって違法改造している俺のマジックバッグを金庫の角に押し当ててやる。

 これであら不思議。マジックバッグはバクリと蛇が卵を飲み込むように金庫を中にしまい込む。
 これはマジックバッグに対象物が一部でも入っていれば自動でそれを飲み込んでくれるという便利極まりない違法改造のたまもの。改造代、金額にして三十万メルクの技だ。

 これでここには用はない。俺はベッドの下からゴロゴロと転がり出る。
 俺と反対側のベッドサイドでは未だバンチがうめき声をあげているのが耳に入ってきた。

 俺は足取り軽く部屋の出口へと向かう。が、突如バチン!という破裂音と共に俺の背中に激痛が走る。

 何が起こったのかと振り返ればそこにはバンチの母ルシラがベッドの上に鬼の形相で立っていた。その手には革で出来た鞭を持っている。
 その後ろでは相変わらず「痛いよ~」と餓鬼のように喚くバンチ。

「いいんですかい?お宅の息子さん泣いてますよ?」

 俺は痛みを堪えながらルシラを見る。

「あんた、私の金持ち逃げしようたぁ、太い根性してるね」

 俺の質問には一切答えず、バンチを甘やかす時とはえらい変わりようで声にドスを効かすルシラ。

 いつもバンチをかわいがる姿ばかり見ていたせいで失念していた。
 この女は無法都市ここを一代で気づき上げた男の妻なのだ。つまりは只者ではない。

 俺を脅すように鞭を振るう。鞭の先が虚空を叩き空気を破裂させた。

「私を黒蛇こくだのルシラと知っての狼藉かい」

「いえいえすっかり忘れちまってたんでさ。あんたがだったことなんて。ここはどうでしょ、一旦見逃してもらうってことで?」

「はっ!笑わせるんじゃないよ。私の愛しいバンチちゃんを傷つけて……さらには金まで盗もうってヤツが五体満足でここから出られると思ってるのかい!イッカク!入ってきな!!」

 ルシラの声を聞いたイッカクがのそのそと扉から現れる。イッカクは俺とルシラを見比べ何か状況を察したのか俺に向けて殺気が放たれる。
 
 こりゃ、まずい。前門の蛇ババ後門の鬼とはこのこと。逃げ道をふさがれちまった。

「チィッ」

 俺は小さく舌打ちをする。

「知ってるかい?ある島国にはね、立つ鳥跡を濁さずって言葉があるんだよ?鳥ごときでさえ最後は綺麗に巣だつってのにお前と来たらっ!ケチな下級盗賊風情が欲目を見てないで、!!」

「はぁ!!!?」

 こちとら人の下に付くなんて真っ平御免の盗賊稼業。それを縛ってこき使おうなんてふざけた物言いに俺の我慢の緒が切れた。

「人が下手に出てりゃ、意味の分からん事をペラペラペラペラと抜かしてよぉ。俺は山猿マシラだぞ。どこぞの小せえ鳥畜生と一緒にするんじゃねぇ!!立つときゃションベン引っ掻けクソ投げつけて出ていくのが俺、マシラだ!!よおよお覚えとけ!!」

 ここまで言っちゃ引き返せないわな。俺は履いていたブーツを脱ぎ捨て裸足になる。
 大鉈はバンチの血と脂肪あぶらぬめっているのでズボンの裾で拭いてやる。
 これで準備万端。いつでもかかって来いってんだ。 
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