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【第三十七話】新田義貞の決意
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足利尊氏が足利直義と合流したのは三河国であった。
「直義、ずいぶん苦戦したようじゃの」
「はっ、兄上、申し訳ございません」
「よいよい、わしにとっては、まさに好機となったわ」
「?」
「軍を動かす口実になったということよ」
直義は、我が兄とはいえ、とてつもない巨大な人間を見ている気になり、足がすくむ自分がいることに気づいた。
「それで、反乱軍の首領は何と申したかの」
「北条‥」
「あ、よいよい。名を聞くまでも無いわ。実は何度も名は聞いておるのだが、一向に頭に入らなくての」
「左様でございましたか。反乱軍に味方しているのは、旧幕府の御内人出身者が多く含まれておるようで、千葉・宇都宮・三浦などの関東有力武家の庶流出身者が多いようです。逆に、すでに鎌倉将軍府に出仕していた旧幕府官僚や御内人の多くは反乱軍には味方せず我らに付き従っています。そのため、反乱軍は公式の幕府文書を発給することができず、得宗家の奉行人連署奉書で命令を下しているようですが、思うように味方を増やせないでいるようです」
「旧幕府の正当性は失われているということだな」
「左様にございます」
「であるならば、烏合の衆と同様か」
「御意」
「よし、では鎌倉目指して出陣いたすとするか」
尊氏は直義と馬を並べ、東海道筋を東国へ向けて進んでいった。
途中、遠江では、今川範国の弟の頼国が反乱軍の名越高邦を討ち取る手柄を上げた。
8月18日には、相模国相模川で激戦が展開された。
反乱軍側は川を挟んで重厚な陣を敷いており、なかなか手が出せなかったが、尊氏方の中村経長が突撃から突破口を開いた。
今川頼国・頼周兄弟もそれに続き、左右から包み込むように突撃を開始。敵勢の足並みが乱れた。
しかし敵勢も踏ん張り、今川兄弟は討ち取られてしまう。
「範国よ、弟たちがやられてしまったぞ」
「殿、某に仇討ちをお命じください!」
「わかった。範国ゆけ!」
「大高重成はおるか」
「はっ、こちらに控えてございます」
「範国を援護せよ」
「山名に畠山、足利高経はおるか」
「はっ!」
「時氏は右手から、国清は左手から、高経は敵後方に周りこめ。一気に包み込んで殲滅するぞ」
「はっ、かしこまりました」
「師直!そちは遊軍として、手薄なところを援護せよ」
「御意」
「土岐頼遠!」
「はっ」
「仕上げの突撃は其方に任せる。機を見て一気に突撃をしかけよ。一兵ものがすなよ」
「御意」
尊氏の矢継ぎ早の采配により、一気に敵方が崩れていくのが見えた。
「申し上げます」
「申せ!」
「敵方、辻堂まで引き上げたとのこと!」
「わかった。深追いせぬようみなに伝えよ」
「御意」
最大の激戦を制した尊氏軍はそのまま鎌倉まで突き進んだ。反乱軍の首領を捕えることはできなかったが、幕府再興の可能性は完全に消滅した。
鎌倉に落着いてからの尊氏は戦後処理に忙殺されていた。帝の新政下では恩賞を下すのは恩賞方の仕事であったがそれを無視して、戦功のあったものたちに恩賞を与えた。
帝からは何度も書簡が届いていた。
それらを尊氏はあれやこれや言い訳をしてかわしていた。
「尊氏め、朕の書簡を無視するとはいい度胸じゃ。目にもの見せてやるわ!」
「お上、落ち着いてください」
側近の千種忠顕が尊治を宥めた。
「こうなってしまっては、尊氏どのの独立の意思は明らかにございます。となれば、彼らの戦力を削いでいくしかございません」
「ほう、如何にするのじゃ」
「新田にございます。新田家は足利一門と同じ流れを汲む一族です。まずは、新田と足利を引き剥がしましょう‥」
尊治は新田義貞を呼び出した。
「義貞よ、大儀である」
「はっ、わざわざのお呼び出し、いかなるご用件にございましょうか」
「尊氏のことよ。其方は、尊氏が新田の所領を勝手に自分の配下に恩賞として分け与えておるのを承知しておるか?」
「!なんですと?尊氏どのがそのようなことをなさるはずがございませぬ。如何にお上のお言葉とは言えご冗談がすぎまするぞ」
「朕の言葉が信じられぬのか?こちらには尊氏が新田の所領を配下に分け与えるという書簡を手に入れておる。こちらを読んでみるがよい」
「拝見いたします‥」
義貞は、混乱した。あの尊氏が自分を裏切るとは受け入れ難い事実であった。
幼少期より共に過ごし、誰よりも自分を可愛がってくれた尊氏が、まさかこのような形で簡単に自分を裏切るとは‥。
「義貞よ。よくわかったであろう。其方に尊氏追討の院宣を遣わす。見事にこれを討ち果たして参れ」
義貞は沈黙していた。しばらくの沈黙のあと、小さな声で呟いた。
「‥‥かしこまりました」
新田義貞は尊良親王を奉じ東海道を下ることとなった。
島津貞久もその軍に従うこととなった。
「直義、ずいぶん苦戦したようじゃの」
「はっ、兄上、申し訳ございません」
「よいよい、わしにとっては、まさに好機となったわ」
「?」
「軍を動かす口実になったということよ」
直義は、我が兄とはいえ、とてつもない巨大な人間を見ている気になり、足がすくむ自分がいることに気づいた。
「それで、反乱軍の首領は何と申したかの」
「北条‥」
「あ、よいよい。名を聞くまでも無いわ。実は何度も名は聞いておるのだが、一向に頭に入らなくての」
「左様でございましたか。反乱軍に味方しているのは、旧幕府の御内人出身者が多く含まれておるようで、千葉・宇都宮・三浦などの関東有力武家の庶流出身者が多いようです。逆に、すでに鎌倉将軍府に出仕していた旧幕府官僚や御内人の多くは反乱軍には味方せず我らに付き従っています。そのため、反乱軍は公式の幕府文書を発給することができず、得宗家の奉行人連署奉書で命令を下しているようですが、思うように味方を増やせないでいるようです」
「旧幕府の正当性は失われているということだな」
「左様にございます」
「であるならば、烏合の衆と同様か」
「御意」
「よし、では鎌倉目指して出陣いたすとするか」
尊氏は直義と馬を並べ、東海道筋を東国へ向けて進んでいった。
途中、遠江では、今川範国の弟の頼国が反乱軍の名越高邦を討ち取る手柄を上げた。
8月18日には、相模国相模川で激戦が展開された。
反乱軍側は川を挟んで重厚な陣を敷いており、なかなか手が出せなかったが、尊氏方の中村経長が突撃から突破口を開いた。
今川頼国・頼周兄弟もそれに続き、左右から包み込むように突撃を開始。敵勢の足並みが乱れた。
しかし敵勢も踏ん張り、今川兄弟は討ち取られてしまう。
「範国よ、弟たちがやられてしまったぞ」
「殿、某に仇討ちをお命じください!」
「わかった。範国ゆけ!」
「大高重成はおるか」
「はっ、こちらに控えてございます」
「範国を援護せよ」
「山名に畠山、足利高経はおるか」
「はっ!」
「時氏は右手から、国清は左手から、高経は敵後方に周りこめ。一気に包み込んで殲滅するぞ」
「はっ、かしこまりました」
「師直!そちは遊軍として、手薄なところを援護せよ」
「御意」
「土岐頼遠!」
「はっ」
「仕上げの突撃は其方に任せる。機を見て一気に突撃をしかけよ。一兵ものがすなよ」
「御意」
尊氏の矢継ぎ早の采配により、一気に敵方が崩れていくのが見えた。
「申し上げます」
「申せ!」
「敵方、辻堂まで引き上げたとのこと!」
「わかった。深追いせぬようみなに伝えよ」
「御意」
最大の激戦を制した尊氏軍はそのまま鎌倉まで突き進んだ。反乱軍の首領を捕えることはできなかったが、幕府再興の可能性は完全に消滅した。
鎌倉に落着いてからの尊氏は戦後処理に忙殺されていた。帝の新政下では恩賞を下すのは恩賞方の仕事であったがそれを無視して、戦功のあったものたちに恩賞を与えた。
帝からは何度も書簡が届いていた。
それらを尊氏はあれやこれや言い訳をしてかわしていた。
「尊氏め、朕の書簡を無視するとはいい度胸じゃ。目にもの見せてやるわ!」
「お上、落ち着いてください」
側近の千種忠顕が尊治を宥めた。
「こうなってしまっては、尊氏どのの独立の意思は明らかにございます。となれば、彼らの戦力を削いでいくしかございません」
「ほう、如何にするのじゃ」
「新田にございます。新田家は足利一門と同じ流れを汲む一族です。まずは、新田と足利を引き剥がしましょう‥」
尊治は新田義貞を呼び出した。
「義貞よ、大儀である」
「はっ、わざわざのお呼び出し、いかなるご用件にございましょうか」
「尊氏のことよ。其方は、尊氏が新田の所領を勝手に自分の配下に恩賞として分け与えておるのを承知しておるか?」
「!なんですと?尊氏どのがそのようなことをなさるはずがございませぬ。如何にお上のお言葉とは言えご冗談がすぎまするぞ」
「朕の言葉が信じられぬのか?こちらには尊氏が新田の所領を配下に分け与えるという書簡を手に入れておる。こちらを読んでみるがよい」
「拝見いたします‥」
義貞は、混乱した。あの尊氏が自分を裏切るとは受け入れ難い事実であった。
幼少期より共に過ごし、誰よりも自分を可愛がってくれた尊氏が、まさかこのような形で簡単に自分を裏切るとは‥。
「義貞よ。よくわかったであろう。其方に尊氏追討の院宣を遣わす。見事にこれを討ち果たして参れ」
義貞は沈黙していた。しばらくの沈黙のあと、小さな声で呟いた。
「‥‥かしこまりました」
新田義貞は尊良親王を奉じ東海道を下ることとなった。
島津貞久もその軍に従うこととなった。
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