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第六話
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街の中を暇そうにブラブラ歩いているラルズが筋肉質の大男に話しかけられた。ラルズはこの男に見覚えがあった。
「ガッハッハッ!いい天気だなにいちゃん!」
「あ、変態。」
「否定はしねえがよ。直接言われるとさすがに傷つくぜ。俺にはバンって名前があるからな。それよりいい服着てるじゃねえか!」
「だろ?さっき貰ったばっかなんだよ。ちょっと暑いけど動きやすくて良い。」
「ところでにいちゃん。ダンドル様から家を貰ったって本当なのか?」
「え?は?なんで知ってんの!?どこから聞いた!?」と驚くラルズ。
「フン!この街のことなら知らないことは無いぜ!にいちゃんの『ラルズ』って名前ももちろん知ってるぜ!」
「かっこよく言ってるけど気持ち悪いわ・・・。」
ドン引きしたラルズだが、街のことに詳しいなら聞きたいことがあった。せっかく今日は休むと決めたのにどう休めばいいか分からず暇していたのだ。
「そうだ。俺ゆっくりしたいんだけどいい場所ある?うるさいのは無しで。」
「それなら・・・図書館がいいんじゃねえか?」
「図書館?」
「本がいっぱい置いてあるんだ。俺は本なんて読まねえがよ、行ってみるのもいいと思うぜ!こっちに行くと赤い旗を立てたでっかい建物があるからそれだ!」
「ありがと。あんたの事誤解してたみたいだな。良い変態だ。」
「ガッハッハッ!褒めてるってことでいいんだよな?」
ラルズはバンと別れるとバンの教えてくれた道に行った。しばらくすると確かに赤い旗が壁に掲げられた大きめの建物があり、その旗には王国の紋章が描かれていた。
この図書館はギルド施設と同じく国が建てて管理しているもので、学の機会を平等に与える目的で作られたので利用は無料だった。
図書館に入ると棚一面にぎっしり敷き詰められた本の量に圧倒された。他にも利用客はいるようで中に設置された椅子に腰掛けて本を読んでいる。確かに静かな場所だったが、ラルズはうるさいのが嫌いなのであって静かなのは特に嬉しいわけではない。
(あんまり本なんて読まないけど・・・確かに静かでゆっくりできそうだな。)
ラルズは近くの本棚から本を眺めていく。多種多様な色と大きさと本のタイトル。どれを読めばいいか分からず本の背表紙を見ながらうろついていた。
(だけど・・・何から読めばいいんだ?多すぎて分からなくなってくる。じゃあ目についたやつを適当に・・・。)
ひとつの赤い本を手に取った。それは他の本に比べて厚く、タイトルも『罰のために。』という難しそうな本だった。
(これにするか?いや分厚いしタイトルも堅苦しいな。)
その本を戻してからまた別の本を手に取るが違う気がしてまた戻し、さらに別の本を手に取るがさらに戻して・・・という繰り返しになっていた。
すると隣にいた清掃員らしき人間が声をかけた。
「お悩みですね。」
「おわっ!ビビらせんなよ・・・。」
「失礼しました。お静かに願います。」
隣に急に現れるのはラルズが無意識にいつもやっている事なのだが自分がやられるとびっくりするものだった。
「そういう時は抵抗を脱ぎさって読み始めるのがよろしいですよ。あなたが最初に手にした『罰のために。』はページ量も多く、抵抗を感じてしまうのも無理はありません。ですが・・・運命の出会いを信じて読んでみるのもよろしいかと。」
と優しく声をかける清掃員。ラルズも『罰のために。』を再度取って(こんなんじゃいつまで経っても決まんないしな。)と考えた。
「そうするよ。ありがと。」
「いえいえ。ごゆっくり。」
清掃員はお辞儀をしてから清掃を再開する。ふと周りを見ると清掃員以外に図書館の従業員らしき人はいなかった。
おかしいと思いながらも近くの椅子に腰掛けて『罰のために。』の表紙を開けるラルズ。そして一行一行と読み進みページをめくっていく。
そこからラルズは日が暮れるまで読み込んでしまった。周りから人がいなくなって最後の1人になったがラルズはまだ読むのを止めようとしない。
そんなラルズに清掃員が近づいた。
「お客様、もう閉館のお時間ですよ。お帰りください。」
「そんなこと言っても帰れないよ!魔王バファラガにカシレスが殺されそうだ!早く勇者サン・ギルデが駆けつけないと!四天王のムーをようやく倒した直後で傷が深いのに、いきなり出てきた魔王から逃げきれるわけがない!でもここで死んだら両親のいない故郷の妹が・・・!」
「すみません。閉館のお時間なのです。」と清掃員は冷静に遮る。
(くっそ!こうなったら行動速度上昇魔法をかけまくってこの場で一気見して・・・。)
「レンタルなさいますか?」
「え?レンタル?」
「はい。私が魔法をかけた後その本を貸すことができます。私のかける魔法は2日後に自動的に本が元の位置に転移する魔法で全くの無害です。このサービスは無料でやっておりますよ。」
「やるやる!頼むわ!」
「了解しました。」
清掃員は本をラルズから受け取り、本の表紙を上にして手をかざして深呼吸をする。そして表紙の上の空間に魔法陣が形成されると、その魔法陣は表紙に吸い付くようにくっ付いた。「終わりです。」と言うと本はラルズに返される。
「この図書館ってもしかしてあんた1人で全部やってるの?」
「はい。お気づきになられたようですね。」
1人で大変だな、と思うラルズだがそんなことより早く本が読みたかったので図書館を急ぎ足で出た。
ラルズは途中食堂に行って飯を急いで腹に入れると速攻で家に帰りベッドに腰掛けて本を一気読みする。読み終わる頃には気付けば夜遅くの寝る時間になっていた。だがラルズは感傷に浸っていたためまだ寝る気は無かった。
するとラルズの家のドアがドンドンと激しく音を立てる。何事かと思いながらドアのロックを外したら勢いよくドアが開く。そこにはボーアが汗をかきながら今にも泣きそうな目でそこにいた。
「ボーアさん。何?こんな時間に。」
「た、たたた大変なんです・・・!」
「大変なのはこっちだよ・・・。魔王を倒すためにサン・ギルテがあんな・・・。あの状況ならそうするしかないし、魔王も完全に倒せたから世界に平和が戻ったんだが・・・最後まで報われなかったサン・ギルテが悲しくなってくるよ。平和な世界で生きるサン・ギルテが見たかった。」
「は、はい?」
「でも『罰のために』って意味わからんタイトルが最後のあの場面に出た時は震えたね。」
「そ、それよりラルズさん・・・!大変なんです!私の妻と娘が・・・!!!」
「え?」
ボーアは慌てながら1枚の紙を見せてさっき起こった出来事を説明した。
いきなりボーアの店の裏口から屈強な男達が押し入り、声を出されないように家族全員の口を布で無理やり塞ぐとヨルカとエルクロを連れ去ったのだ。
取り残されたボーアはアジトの場所が書かれた紙を強制的に渡されると「いいか!ラルズを呼んでこい!先に誰かにチクったらあの女の命は無いと思え!」と脅された。急いでラルズの家に行き今に至る。ラルズの家は食堂にいる『バン』という男から聞いたらしい。
「そうか・・・。」
「申し訳ありません、私が不甲斐ないばっかりに・・・。」
「不甲斐ないのはあいつらだよ。汚い手使いやがって。来るなら正々堂々来いってんだ。」
ラルズは紙を見ながら外に出て走り出す。「どうかご無事で・・・!」という後ろから聞こえるボーアの声に振り向かず手を振った。
組織のアジト、大きな一部屋だけがある大きな建物には大勢の武装した男達と震えるエルクロとヨルカがいた。エルクロはヨルカを抱きしめている。武装した男達は今にも戦う気満々のようだ。
「来ますかね、ラルズってやつ。」
ラルズという名前はエルクロから半ば強制的に聞き出したので男達は知っていた。
「知るか。だが来ねえとこいつらがひでえ目に遭うんだからよ。来て欲しいよなあ?」と片目が見えないリーダー格らしき大男がエルクロとヨルカをいやらしそうに睨む。
その男は1人だけ机の椅子に座っていた。
「ラ、ラルズさんに何する気よ!」
と震えながらエルクロが言う言葉は建物内を反響する。それを聞いた男達は笑いだした。ヨルカはエルクロの腕の中でガタガタと震えていて、目には恐怖で涙を浮かべていた。
するとアジトの大きな扉が開いてラルズが入ってきた。男達は笑うのをやめてラルズに敵意を向けて注目する。リーダー格の男が椅子から立ち上がって言った。
「ダハハハハ!来やがったな!ラルズ!」
周りの男たちも罵倒をぶつけたりして騒ぎ出す。
(うるさい・・・。)とラルズはしかめっ面をする。
「俺はゲスラダンってんだ!ラルズ!おめえは俺の部下3人を痛めつけたそうじゃねえか。俺の組織に楯突きやが・・・。」
「要件だけ言え。うるさいのは嫌いなんだ。早く終わらせろ。」とラルズは遮るように切り込んだ。
「ヒャハハハハハ!聞いたかよ!早くボコボコにされたいらしいぜ!」
組織の下っ端らしき1人の男がそう言うと他の男もいっせいに騒ぎ立てる。この騒音の中にいたらいつものラルズなら苦悶の表情を浮かべるのだが今回は違った。
「うるさいのは嫌いだ。特にうるさく褒められるのは。せっかく褒めてくれてるのを黙らせるのはやりたくないからな。」
ラルズがそう言った次の瞬間、ゲスラダンはありえない体験をした。ドゴン!という大量の打撃音が同時に発生したような音が聞こえる。部下達が全員同時に倒れこむのを見る。さらにゲスラダンが振り返れば目の前にラルズが平然と立っていたのだ。ラルズのいる建物は2秒前まで非常にうるさかったが今は静寂に包まれた。
「だけど、あんたらの汚い声なら黙らせられる。」
「て、てめえ何しやがった!?」
「知ったところで何か出来んのか?あんたがリーダーだろ。要件を言え。早く。」
ラルズは騒音に曝されたストレスで眉間にシワを寄せていて表情は険しく口調も高圧的になっている。
椅子から立ったゲスラタンは手元の巨大な鉄の棒を持つ
「うらああああっ!」
それを軽々と振ってラルズの頭にぶつけたが防御力上昇魔法のおかげでノーダメージ。ラルズの首が多少傾いただけだった。代わりに反動で鉄の棒が粉々に砕ける。それを目撃したゲスラダンはついに自分が何を相手にしているか分かったようで今までと違う目付きでラルズを見る。
「化け物が!だがな!俺は負ける訳には行かねえんだ!」
ゲスラタンは深呼吸すると「発火!」と叫んで拳に炎を帯びた。ゲスラタンの魔法で拳に炎を纏わせたのだ。ラルズに熱いエネルギーが伝わる。
「俺はな!産まれた時からクズだった!クズの人生を歩まなきゃ行けなかった!そんな俺を唯一受け入れてくれたのがAさんだ!Aさんのためにもおめえには死んでもらう!それが要件だぜ!」
「・・・へえ。」
「全力で行くぞ!」
とゲスラダンが言い終わると横に勢いよく吹き飛んで壁に激突した。ゲスラタンは壁にめり込んで気絶したようだ。
「クズの人生を歩まなきゃいけない?何言ってんだ。サン・ギルテを見習うことだな。」
とラルズは決めゼリフのように言ったがゲスラタンは気絶していて届かなかった。
ラルズはエルクロとヨルカに近寄ると2人は深深と頭を下げた。
「ありがとうございます!なんとお礼したらいいか!」
「ありがとうございます・・・。」
ヨルカはまだ恐怖で固まって震えていた。涙も今にも流れそうだ。
「いいよ別に。元は俺の撒いた種だしな。あと、俺のことはナイショにしてくれ。」とラルズは口元に人差し指を当てる。
「あの、さっきのサン・ギルテって架空の人ですよね・・・?それで説教するのはどうかと・・・。」
「雰囲気が伝わればいいんだよ。てかサン・ギルテ知ってるの?」
「はい、本を読むのは好きなので・・・。『罰のために。』の主人公ですよね?」
「そう!俺もさっき読み終わったばっかりなんだよ。特に四天王のガンハの幻覚攻撃にサン・ギルテが勝つところとかもう鳥肌もんだよ!」
嬉嬉として語るラルズにヨルカは俯いていた顔を少し上げる。
「・・・わ、私は、ポルク君が魔王に一矢報いるところが好きでした・・・。」
「ああ、そこも良かったよ!いつもビビりだったのに旅で成長して魔王に立ち向かうのかっこよかったな。」
「・・・・・・そうですよね。ふふふ・・・。」
(あら、ヨルカってば珍しく笑ってるわね。)
一件落着したので3人は帰路につく。エルクロはラルズとヨルカの会話を後ろから微笑ましそうに見守るのだった。
その様子を見ているのが1人。近くの物陰に潜んでいた。
「ラルズと言ったか・・・。余計なことをしやがって。A様の計画が台無しになってしまうではないか。A様に報告しなければ。」
その人物は殺意を向けながらじっくりとラルズを睨み続けていた。
「ガッハッハッ!いい天気だなにいちゃん!」
「あ、変態。」
「否定はしねえがよ。直接言われるとさすがに傷つくぜ。俺にはバンって名前があるからな。それよりいい服着てるじゃねえか!」
「だろ?さっき貰ったばっかなんだよ。ちょっと暑いけど動きやすくて良い。」
「ところでにいちゃん。ダンドル様から家を貰ったって本当なのか?」
「え?は?なんで知ってんの!?どこから聞いた!?」と驚くラルズ。
「フン!この街のことなら知らないことは無いぜ!にいちゃんの『ラルズ』って名前ももちろん知ってるぜ!」
「かっこよく言ってるけど気持ち悪いわ・・・。」
ドン引きしたラルズだが、街のことに詳しいなら聞きたいことがあった。せっかく今日は休むと決めたのにどう休めばいいか分からず暇していたのだ。
「そうだ。俺ゆっくりしたいんだけどいい場所ある?うるさいのは無しで。」
「それなら・・・図書館がいいんじゃねえか?」
「図書館?」
「本がいっぱい置いてあるんだ。俺は本なんて読まねえがよ、行ってみるのもいいと思うぜ!こっちに行くと赤い旗を立てたでっかい建物があるからそれだ!」
「ありがと。あんたの事誤解してたみたいだな。良い変態だ。」
「ガッハッハッ!褒めてるってことでいいんだよな?」
ラルズはバンと別れるとバンの教えてくれた道に行った。しばらくすると確かに赤い旗が壁に掲げられた大きめの建物があり、その旗には王国の紋章が描かれていた。
この図書館はギルド施設と同じく国が建てて管理しているもので、学の機会を平等に与える目的で作られたので利用は無料だった。
図書館に入ると棚一面にぎっしり敷き詰められた本の量に圧倒された。他にも利用客はいるようで中に設置された椅子に腰掛けて本を読んでいる。確かに静かな場所だったが、ラルズはうるさいのが嫌いなのであって静かなのは特に嬉しいわけではない。
(あんまり本なんて読まないけど・・・確かに静かでゆっくりできそうだな。)
ラルズは近くの本棚から本を眺めていく。多種多様な色と大きさと本のタイトル。どれを読めばいいか分からず本の背表紙を見ながらうろついていた。
(だけど・・・何から読めばいいんだ?多すぎて分からなくなってくる。じゃあ目についたやつを適当に・・・。)
ひとつの赤い本を手に取った。それは他の本に比べて厚く、タイトルも『罰のために。』という難しそうな本だった。
(これにするか?いや分厚いしタイトルも堅苦しいな。)
その本を戻してからまた別の本を手に取るが違う気がしてまた戻し、さらに別の本を手に取るがさらに戻して・・・という繰り返しになっていた。
すると隣にいた清掃員らしき人間が声をかけた。
「お悩みですね。」
「おわっ!ビビらせんなよ・・・。」
「失礼しました。お静かに願います。」
隣に急に現れるのはラルズが無意識にいつもやっている事なのだが自分がやられるとびっくりするものだった。
「そういう時は抵抗を脱ぎさって読み始めるのがよろしいですよ。あなたが最初に手にした『罰のために。』はページ量も多く、抵抗を感じてしまうのも無理はありません。ですが・・・運命の出会いを信じて読んでみるのもよろしいかと。」
と優しく声をかける清掃員。ラルズも『罰のために。』を再度取って(こんなんじゃいつまで経っても決まんないしな。)と考えた。
「そうするよ。ありがと。」
「いえいえ。ごゆっくり。」
清掃員はお辞儀をしてから清掃を再開する。ふと周りを見ると清掃員以外に図書館の従業員らしき人はいなかった。
おかしいと思いながらも近くの椅子に腰掛けて『罰のために。』の表紙を開けるラルズ。そして一行一行と読み進みページをめくっていく。
そこからラルズは日が暮れるまで読み込んでしまった。周りから人がいなくなって最後の1人になったがラルズはまだ読むのを止めようとしない。
そんなラルズに清掃員が近づいた。
「お客様、もう閉館のお時間ですよ。お帰りください。」
「そんなこと言っても帰れないよ!魔王バファラガにカシレスが殺されそうだ!早く勇者サン・ギルデが駆けつけないと!四天王のムーをようやく倒した直後で傷が深いのに、いきなり出てきた魔王から逃げきれるわけがない!でもここで死んだら両親のいない故郷の妹が・・・!」
「すみません。閉館のお時間なのです。」と清掃員は冷静に遮る。
(くっそ!こうなったら行動速度上昇魔法をかけまくってこの場で一気見して・・・。)
「レンタルなさいますか?」
「え?レンタル?」
「はい。私が魔法をかけた後その本を貸すことができます。私のかける魔法は2日後に自動的に本が元の位置に転移する魔法で全くの無害です。このサービスは無料でやっておりますよ。」
「やるやる!頼むわ!」
「了解しました。」
清掃員は本をラルズから受け取り、本の表紙を上にして手をかざして深呼吸をする。そして表紙の上の空間に魔法陣が形成されると、その魔法陣は表紙に吸い付くようにくっ付いた。「終わりです。」と言うと本はラルズに返される。
「この図書館ってもしかしてあんた1人で全部やってるの?」
「はい。お気づきになられたようですね。」
1人で大変だな、と思うラルズだがそんなことより早く本が読みたかったので図書館を急ぎ足で出た。
ラルズは途中食堂に行って飯を急いで腹に入れると速攻で家に帰りベッドに腰掛けて本を一気読みする。読み終わる頃には気付けば夜遅くの寝る時間になっていた。だがラルズは感傷に浸っていたためまだ寝る気は無かった。
するとラルズの家のドアがドンドンと激しく音を立てる。何事かと思いながらドアのロックを外したら勢いよくドアが開く。そこにはボーアが汗をかきながら今にも泣きそうな目でそこにいた。
「ボーアさん。何?こんな時間に。」
「た、たたた大変なんです・・・!」
「大変なのはこっちだよ・・・。魔王を倒すためにサン・ギルテがあんな・・・。あの状況ならそうするしかないし、魔王も完全に倒せたから世界に平和が戻ったんだが・・・最後まで報われなかったサン・ギルテが悲しくなってくるよ。平和な世界で生きるサン・ギルテが見たかった。」
「は、はい?」
「でも『罰のために』って意味わからんタイトルが最後のあの場面に出た時は震えたね。」
「そ、それよりラルズさん・・・!大変なんです!私の妻と娘が・・・!!!」
「え?」
ボーアは慌てながら1枚の紙を見せてさっき起こった出来事を説明した。
いきなりボーアの店の裏口から屈強な男達が押し入り、声を出されないように家族全員の口を布で無理やり塞ぐとヨルカとエルクロを連れ去ったのだ。
取り残されたボーアはアジトの場所が書かれた紙を強制的に渡されると「いいか!ラルズを呼んでこい!先に誰かにチクったらあの女の命は無いと思え!」と脅された。急いでラルズの家に行き今に至る。ラルズの家は食堂にいる『バン』という男から聞いたらしい。
「そうか・・・。」
「申し訳ありません、私が不甲斐ないばっかりに・・・。」
「不甲斐ないのはあいつらだよ。汚い手使いやがって。来るなら正々堂々来いってんだ。」
ラルズは紙を見ながら外に出て走り出す。「どうかご無事で・・・!」という後ろから聞こえるボーアの声に振り向かず手を振った。
組織のアジト、大きな一部屋だけがある大きな建物には大勢の武装した男達と震えるエルクロとヨルカがいた。エルクロはヨルカを抱きしめている。武装した男達は今にも戦う気満々のようだ。
「来ますかね、ラルズってやつ。」
ラルズという名前はエルクロから半ば強制的に聞き出したので男達は知っていた。
「知るか。だが来ねえとこいつらがひでえ目に遭うんだからよ。来て欲しいよなあ?」と片目が見えないリーダー格らしき大男がエルクロとヨルカをいやらしそうに睨む。
その男は1人だけ机の椅子に座っていた。
「ラ、ラルズさんに何する気よ!」
と震えながらエルクロが言う言葉は建物内を反響する。それを聞いた男達は笑いだした。ヨルカはエルクロの腕の中でガタガタと震えていて、目には恐怖で涙を浮かべていた。
するとアジトの大きな扉が開いてラルズが入ってきた。男達は笑うのをやめてラルズに敵意を向けて注目する。リーダー格の男が椅子から立ち上がって言った。
「ダハハハハ!来やがったな!ラルズ!」
周りの男たちも罵倒をぶつけたりして騒ぎ出す。
(うるさい・・・。)とラルズはしかめっ面をする。
「俺はゲスラダンってんだ!ラルズ!おめえは俺の部下3人を痛めつけたそうじゃねえか。俺の組織に楯突きやが・・・。」
「要件だけ言え。うるさいのは嫌いなんだ。早く終わらせろ。」とラルズは遮るように切り込んだ。
「ヒャハハハハハ!聞いたかよ!早くボコボコにされたいらしいぜ!」
組織の下っ端らしき1人の男がそう言うと他の男もいっせいに騒ぎ立てる。この騒音の中にいたらいつものラルズなら苦悶の表情を浮かべるのだが今回は違った。
「うるさいのは嫌いだ。特にうるさく褒められるのは。せっかく褒めてくれてるのを黙らせるのはやりたくないからな。」
ラルズがそう言った次の瞬間、ゲスラダンはありえない体験をした。ドゴン!という大量の打撃音が同時に発生したような音が聞こえる。部下達が全員同時に倒れこむのを見る。さらにゲスラダンが振り返れば目の前にラルズが平然と立っていたのだ。ラルズのいる建物は2秒前まで非常にうるさかったが今は静寂に包まれた。
「だけど、あんたらの汚い声なら黙らせられる。」
「て、てめえ何しやがった!?」
「知ったところで何か出来んのか?あんたがリーダーだろ。要件を言え。早く。」
ラルズは騒音に曝されたストレスで眉間にシワを寄せていて表情は険しく口調も高圧的になっている。
椅子から立ったゲスラタンは手元の巨大な鉄の棒を持つ
「うらああああっ!」
それを軽々と振ってラルズの頭にぶつけたが防御力上昇魔法のおかげでノーダメージ。ラルズの首が多少傾いただけだった。代わりに反動で鉄の棒が粉々に砕ける。それを目撃したゲスラダンはついに自分が何を相手にしているか分かったようで今までと違う目付きでラルズを見る。
「化け物が!だがな!俺は負ける訳には行かねえんだ!」
ゲスラタンは深呼吸すると「発火!」と叫んで拳に炎を帯びた。ゲスラタンの魔法で拳に炎を纏わせたのだ。ラルズに熱いエネルギーが伝わる。
「俺はな!産まれた時からクズだった!クズの人生を歩まなきゃ行けなかった!そんな俺を唯一受け入れてくれたのがAさんだ!Aさんのためにもおめえには死んでもらう!それが要件だぜ!」
「・・・へえ。」
「全力で行くぞ!」
とゲスラダンが言い終わると横に勢いよく吹き飛んで壁に激突した。ゲスラタンは壁にめり込んで気絶したようだ。
「クズの人生を歩まなきゃいけない?何言ってんだ。サン・ギルテを見習うことだな。」
とラルズは決めゼリフのように言ったがゲスラタンは気絶していて届かなかった。
ラルズはエルクロとヨルカに近寄ると2人は深深と頭を下げた。
「ありがとうございます!なんとお礼したらいいか!」
「ありがとうございます・・・。」
ヨルカはまだ恐怖で固まって震えていた。涙も今にも流れそうだ。
「いいよ別に。元は俺の撒いた種だしな。あと、俺のことはナイショにしてくれ。」とラルズは口元に人差し指を当てる。
「あの、さっきのサン・ギルテって架空の人ですよね・・・?それで説教するのはどうかと・・・。」
「雰囲気が伝わればいいんだよ。てかサン・ギルテ知ってるの?」
「はい、本を読むのは好きなので・・・。『罰のために。』の主人公ですよね?」
「そう!俺もさっき読み終わったばっかりなんだよ。特に四天王のガンハの幻覚攻撃にサン・ギルテが勝つところとかもう鳥肌もんだよ!」
嬉嬉として語るラルズにヨルカは俯いていた顔を少し上げる。
「・・・わ、私は、ポルク君が魔王に一矢報いるところが好きでした・・・。」
「ああ、そこも良かったよ!いつもビビりだったのに旅で成長して魔王に立ち向かうのかっこよかったな。」
「・・・・・・そうですよね。ふふふ・・・。」
(あら、ヨルカってば珍しく笑ってるわね。)
一件落着したので3人は帰路につく。エルクロはラルズとヨルカの会話を後ろから微笑ましそうに見守るのだった。
その様子を見ているのが1人。近くの物陰に潜んでいた。
「ラルズと言ったか・・・。余計なことをしやがって。A様の計画が台無しになってしまうではないか。A様に報告しなければ。」
その人物は殺意を向けながらじっくりとラルズを睨み続けていた。
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