思いが重なるとき

やぼ

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新しい生活

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マヤが母の実家である新田の屋敷に
引っ越して来て、1ヶ月が経とうと
していた。

これまでの生活とは違う、全てが
管理されている生活だった。

6時に起床
身支度を整えたら
朝の散歩(ジョギング)に庭に出る。

体力を付けておくために
祖父の妹、範子が始めたことらしい。

それから、朝食までは自由時間で
シャワーを浴びて汗を流したりする。

朝食は7時と決められている。
マヤは通学する高校が遠くなったが
毎朝、祖父の会社の車で送迎して貰えた。

便利ではあったが、きっかり夕方5時に
学校へ迎えが来るので、前のように
友人とおしゃべりして帰宅することも
あの図書館へ行くことも出来なくなった。

友人達は、なんだ、どうした?
何が起こった?と大騒ぎになり
運転手の男がイケメンだとか、まるで
シンデレラストーリーよ、とか

「マヤったら、羨ましい~」と感嘆の
ため息を漏らした。

そんなんじゃないから
それじゃ交代してあげるわよ
自由のない生活がどんなものか
分かるわよ。

マヤは帰りの車の中で、流れていく
景色を見ながら呟いた。

お屋敷のような家には沢山の部屋が
あったが、母の春菜は、マヤと同じ部屋が
いいと叔母、範子に、懇願した。

これを承諾して貰えないなら
家には帰らないとまで、言ったそうだ。

母は分かっていたのだ。
これからの生活のことを。

今までも忙しく働いてはいたが
家に帰れば一緒に夕飯を食べ
蒲団を並べて寝ていた、そんな娘との
時間まで奪われたくはなかったのだろう。

マヤにとっても、知らないことだらけの
このお屋敷で、母といられることが
どれほど安心できるか、この母の思いが
嬉しかった。

初めは渋っていた範子だったが
この春菜の親心に負けた。

範子にとって、春菜は娘も同然であり
マヤは孫のように可愛い存在だった。
厳しく指導するように兄に言われても
出来ないこともある。

「あんな涙目でお願いされたらね。
大体、兄さんが無理矢理、婚約者だとか
厳しく躾ようとしたから、ママは
家出したのよ。
おじいちゃんのやり方は、間違ってたのよ。」

範子は、マヤには祖父や母のことを
よく話した。

祖母ほど年齢差があるのに
まるでクラスメートみたいな時もある
面白い人だ。


家に帰れば、先ず部屋の掃除から
始まる。いつもキチンと片付けられてるか
範子のチェックが入るからだ。

やれやれと思いながら、掃除、本棚などの
整理整頓をして、学校の宿題に取り掛かった。

7時には、祖父や範子、そして母も帰宅して
一緒に夕飯を食べる。
今までのような楽しい食事では
ないが、慣れれば不思議と機能的な
時間配分に思えてくるから不思議だった。

「まるで小学生の時の林間学校だよ。
朝の散歩とか、部屋の掃除の時間まで
決まってるって。」

母は仕事なのか、何かの資料を読んでいた。

「ママも大変だよね。あたしも勉強しよっと」
マヤが、隣の机にいて話しかけても反応しない
母に、そうぼやくと

「え?ごめん。聞いてなかった。何?」
と言ったので

わざと、あの日記の話をした。
「恐いでしょ。恐いよ~ママ、私達の
ご先祖さまかもしれませんよ~」

「それは、間違いないの?本当におばあちゃんが借りてたの?」

「え?う、うん。山中さんは、同性同名かな」
って言ってたけど。

母の反応が以外にも、マジだったので
マヤは驚いた。

その時、バサッと本が落ちる音がした。
振り返って見ると、あの日記だった。

背中が急に寒くなったが
母は、その日記を取りに行った。

「ママさ、この本、昔見たことあるかも」
「マジで?」

「それじゃやっぱり、借りてたのは
おばあちゃん?」

「でも変だよね。家の本がどうして図書館に
あったんだろう?」

「うん?でもさ、この本に押してある
図書館のハンコ、よく見て、新しいよね。
くっきり押されてるでしょ。」

「本当だ。
ってことは、最近、押されたのかな。」

「おばあちゃん、最後にアパートに来たの
いつだった?」

「え-っと、えっとね、確か、倒れる
1ヶ月前じゃなかったかな。」

「そっか」

「ママ、あたしね、この日記、
お寺で供養してあげようと
借りて来たんだけど、読んでもいい?」

「勿論。昔、ママも途中まで読んだ気がする
詳しく覚えてないけど、戦争で引き裂かれた
恋人を思う日記だったと思う。」

「誰なの、この人?」

そうマヤが聞いた瞬間

「こら、まだ起きてるの?」

範子がノックもせずに部屋へ
入って来た。

「ギャァ-!!」

不意を突かれた訪問者に二人は
抱き合って、絶叫した!!

「何よ、失礼ね。お化けでも見るみたいに
それよりもう寝なさい。睡眠は大事です。
規則正しい生活をしましょう!健康第一よ。」

「は-い。」
母が小さい子どものように返事する。

「ダメだよ、まだ課題終わってないもん」
「それじゃ、マヤは頑張って勉強してね。
ママは寝るわ。叔母ちゃまに叱られたく
ないもん。おやすみ。」

なんだかなあ、ママはこの家に帰ってから
どんどん子どもみたいになってるなあ。

それともこれがママの正体だったの?

呆れながら、マヤは机の課題に
取り掛かろうとしたが、ふと母の机に
置いた、あの日記が気になって
手に取ってみた。

そして、ページを捲った。












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