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八月
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夏休みの前半は学校で行われる夏期講習やら部活の大会やらで忙しく過ごした。やっとゆっくりできる時間ができたと思ったら宿題に追われる日々。さすが進学校なだけあり、量も多い。
自室でしばらく格闘していると、突然携帯電話が鳴った。流行りの音楽に設定するのが面倒で、初期設定のままの無機質な音が鳴る。ディスプレイに表示された名前を見て、息を吐いた。桐生だ。
「んだよ、今忙しいんだけど」
開口一番にそう言う。
「ちょっと、大事な話あるんだけど、今日いい?」
いつになく真剣な声。どうしたというのだろう。
「まぁ、いいけど」
「忙しいの?」
「いや課題がむずいだけ」
ちらりと課題に目を落とす。よく理解できない数式に、唇を噛んだ。
「僕でよければ教えるけど、今からファミレス来れる? 駅前の。話もそこでするから」
「あー、分かった」
そう答えて電話を切る。鞄に無造作に課題やら財布やらを詰め込み、身支度を整える。
家を出ると、駅までは徒歩で十分もかからない。人通りの少ない田舎の道を通り、目的地を目指す。
「月冴! 早かったね」
ファミレスに到着すると、桐生が近付いてくる。
「お前、早すぎだろ」
「予備校終わってから、そのまま待ってた」
そう言って、店のドアを開ける。夏休みではあるが、平日なだけあって、人はまばらだ。
席に案内され、とりあえずドリンクバーを注文した。
飲み物を取り、一息つく。
「で、なんだよ話って」
「……うん」
一呼吸置いてから、桐生は重い口を開いた。
「進路のこと、なんだけど。親が仕事で、来年からまたアメリカに戻るって。兄さんも心配だしって、言ってる。だから、アメリカの大学受けろって……」
下を向き、ため息をつく。
「本当は、この辺の学校がいいんだけど。反対されてて」
訴えるような目線を吉村に向ける。
吉村は少し考えて、口を開いた。
「えっと、別にこの辺じゃなくてもいいんじゃないか?」
家の事情なら仕方ない。なにもこの地域に拘る必要はないのではないかと思った。桐生はなにぶん勉強ができる。どこへ行ってもやっていけるだろう。
「なんでそういうこと言うの?」
怒りを含んだ声に、前方の桐生を見る。ちょっと困ったような、悲しいような、そんな表情に、口ごもってしまう。
「え、いや……それは――」
「月冴と離れるのは嫌だよ」
その言葉に、驚く。さすがに自分の進路くらいは自由に考えているのかと思っていたが、甘かったようだ。
「おま、そんなことで進路決めんのかよ」
あまりのことに、それ以上の言葉が出てこない。
自分が、桐生の可能性を潰してしまっているのではないかという気さえした。
「大事なことだよ」
真剣な目をして、言う。
「でもそれは、俺になんとかできる話じゃないし……」
「うん、頑張って説得する」
もう地元に残ることは決定しているかのような口振りだ。
「自分が行きたいところに行くのがいいと思うけど」
「行きたいところは、特にない。先生に指定校あるって言われたから、そこにするかも。近いし」
その言葉に、再び驚く。吉村達の通う高校は、地元でも有名な進学校なので、一般受験を主に勧めている。
桐生ほど勉強ができるのなら、教師もむやみに推薦を勧めないだろうと思っていたが……。しかし、生徒会長を勤めているわけだし、声がかかるのも頷けた。
「そんなに距離大事かよ」
「うん」
有無を言わせないそんな口調で、その話は終わった。
その後、勉強道具を広げ始め、課題を進めた。
「月冴」
夏休みになると、受験生は忙しくなる。そんな世間の様子を横目に桐生はゆっくりとくつろいでいた。
部屋に夕午が来た日から、桐生は吉村を頻繁に家に呼ぶようになっていた。
「なんだよ……」
近くに寄ってくる桐生から距離をとりつつ、眉間に皺を寄せる。
「お祭り、行こう」
「はぁ?」
よく考えれば今日は地元の祭りがある日だ。まさかそれに誘われるとは思っていなかったので、吉村は少し驚き逡巡した。
「いやお前、予備校とかあるだろ」
戸惑いを隠せないまま答えると、桐生は表情を変えずに口を開いた。
「あんなのもうやめたよ、いらない」
「はぁぁ?」
驚いて、思わず桐生を見る。桐生は無表情のまま、言葉を続けた。
「だって、あんなのいらないでしょ。推薦で行くし」
「いや、まだ決まったわけじゃないだろ」
そう言葉を挟むと、桐生はため息をついた。
「先生は、大丈夫だって言ってる」
「あぁそうかよ」
これ以上言っても無駄だ。そう悟った吉村は、目線を逸らした。
「じゃぁ、行ってくれるよね」
「お、おう」
断っても、しつこくしてくるのは分かっている。吉村はおとなしく、頷くことにした。
「じゃあ準備するから、一回帰るわ」
そう言いながら立ち上がる。玄関へ向かおうとしたときに、袖を掴まれた。
「必要ない」
「は?」
座っていた桐生も立ち上がり、吉村を引き寄せる。
背中に手を回して、軽く抱きしめると、耳元で呟いた。
「やだ、帰らないで」
泣きそうな声で言われると、もうダメだ。断るにもできない。
自分はどうしてこうも、甘くなってしまったのだろうと少しだけ自己嫌悪した。
「もう行こ……」
クーラーを切って、手を引く。
慌てて鞄を掴むと、促されるままに外へ出た。
「結構混んでるな」
まだ日も高いうちに外に出たというのに、屋台の前は人で溢れかえっていた。
花火の見える球場は、もう入れなくなっており、コンビニも人でいっぱいだった。
「とりあえず、何か食べる?」
「あ、俺はやきそば」
とりあえず好物を口に出すと、桐生はにっこりと笑った。
「了解、じゃあ月冴は場所取りしてて」
そう言って、笑顔のまま手を振った。
適当に見晴らしの良さそうな場所に腰を下ろす。地元の祭りということもあって、学校で見覚えのある人物もちらほらといる。
ぼんやりとしているうちに、辺りは薄暗くなり、周囲のざわつきも大きくなる。
「月冴!」
「おう」
やきそばといくつかの飲み物が入っているだろう袋を持って、桐生がやってきた。
オレンジジュースとやきそばをを受取、口にする。
大きな爆発音が始まると、カラフルな光が夜空を染める。
ふと、横に目をやると、隣に座る桐生が缶チューハイを開けていた。
「お前、未成年だろ? 飲むなよ」
よく買えたなと思ったが、考えてみれば、桐生はあまり年相応に見えない。どちらかというと大人びている方だ。
「大丈夫、僕十八歳だし」
そう言ってなに食わぬ顔で缶に口をつける。
「いや十八歳でもダメだからな」
「月冴も、飲む?」
吉村のツッコミは無視され、缶チューハイを差し出される。
「いや、俺はいい」
断ると、桐生は不満そうに唇を尖らせた。
「こういうのって、雰囲気が大事だよ。大丈夫、これくらいじゃ酔わないし」
「そうは言ってもだな……」
あまり乗り気ではない吉村の様子に、桐生は怪訝そうな顔をする。
「月冴、もしかして、飲んだことない?」
「……え」
図星を指され、言葉に詰まる。取り繕おうと、口を開いても、もう既に遅かった。
「そっか」
「は? ちがッ……、そんなんじゃねぇし!」
そう言うが早いが、吉村は缶チューハイを桐生から引ったくり、半分ほど残っていたそれを、一気にあおった。
「ちょっと月冴! そんなに一気に飲んじゃダメだよ」
遠くで花火の音が聞こえる。なんだか気分が高揚していた。
「月冴? 大丈夫? なんか顔、赤い」
桐生が何か言っている。口を動かしているのはわかるが、何を言っているのか……花火の音とガンガンする頭のせいで聞き取れなかった。
「わり、なんか俺……」
視界がふらりと揺れる。肩を掴まれてなんとか体勢を崩さずに済んだ。
「大丈夫……じゃないよね。帰ろうか」
支えられながら立ち上がる。ふらふらとした足取りで、花火の音がする中、二人は早すぎる帰路についた。
桐生の家に戻ると、倒れるようにしてベッドに横になる。
目を開けると風景が回り、気持ち悪い。
「悪いな、俺のせいで……花火」
「僕も悪いから。今お水、持ってくるね」
そう言って立ち上がろうとする桐生の腕を手探りで探して掴む。躊躇いがちに引き寄せると、小さく言葉を発した。
「ごめん」
自分でも、何に対して謝っているのかわからなかった。花火のことか、進路のことか、それとも夕午のことなのか。
「月冴は悪くないよ」
そんな吉村の気持ちを知っているのか、違うのか、桐生は優しい声で答えた。
ゆっくりと目を開けて桐生を見る。よく分からない不安に支配されていた。
「なぁ」
少し媚びるような声で誘う。
「……しよう?」
わざと少しだけ首を傾げる。押しつぶされそうな不安を、全てなかったことにしたかった。
「でも月冴の体調が……」
「そんなのいいって」
今なら、酔ったせいにできる。
「わかった」
桐生は優しく微笑むと、ベッドに上がってきた。
「さーくや」
ほろ酔いのせいにしようと決めた。
桐生の首に手を回し、唇を重ねる。舌を入れて、歯茎をなぞる。
「んっ……」
吐息が漏れるが、普段のように抑えようとしない。
ベッドから降りると、桐生のズボンを脱がせる。少し躊躇ったが、思い切って口に含んだ。
手と舌を上手く使って昂めさせていく。前より上達しただろうか。喉の奥まで無理に咥え込んだせいで、息が苦しく、吐き気がしたがそんなことは気にしない。
しばらくそれを続けたのちに、桐生をベッドに押し倒す。
困惑する様子の桐生を無視し、自分も服を脱ぐ。唾液で濡れただけのそれを自分であてがう。
「んっ……はっ」
意識的に息を吐いて力を抜くが、慣らされていないそこは柔軟にならない。焦りから、なかば無理矢理体重を落とした。
痛みからくる恐怖を、目を瞑ってやり過ごす。
「月冴!」
「……えへへ、大丈夫」
心配そうに見上げる桐生の制止を受け流し、さらに奥へと進める。一番太い部分が過ぎれば、比較的簡単に全てが収まった。
「朔夜、好きに動いて」
まだ馴染んでいないうちから促す。
「月冴……」
眉を寄せて困った様子の桐生は、おもむろに起き上がり、吉村を抱き寄せた。角度が変化し、震えた唇から小さな喘ぎが漏れる。
「月冴が心配することは何もないよ」
耳元で囁かれ、鼓動が早くなる。
「……うん」
返事をすると、視界が反転した。ベッドに押し倒される格好で、何度も突かれる。
「あぁっ……んんっ、は、んっ」
その度に声が漏れる。どういうわけか、いつもより大きな声が漏れる。我慢せずに、ただ喘ぐ。
何回かに一回は、完全に抜いてしまうので、もどかしい。
「さく、や……んん、それ、やだ」
そう言うと、突然に速度が早まる。さっきまでの緩慢な動きとは異なった。
前も同時に刺激され、我慢の限界がくる。
「はっ……んんあっ」
軽く痙攣して達すると、桐生も動きを止め、温かい液体を吐き出した。
自室でしばらく格闘していると、突然携帯電話が鳴った。流行りの音楽に設定するのが面倒で、初期設定のままの無機質な音が鳴る。ディスプレイに表示された名前を見て、息を吐いた。桐生だ。
「んだよ、今忙しいんだけど」
開口一番にそう言う。
「ちょっと、大事な話あるんだけど、今日いい?」
いつになく真剣な声。どうしたというのだろう。
「まぁ、いいけど」
「忙しいの?」
「いや課題がむずいだけ」
ちらりと課題に目を落とす。よく理解できない数式に、唇を噛んだ。
「僕でよければ教えるけど、今からファミレス来れる? 駅前の。話もそこでするから」
「あー、分かった」
そう答えて電話を切る。鞄に無造作に課題やら財布やらを詰め込み、身支度を整える。
家を出ると、駅までは徒歩で十分もかからない。人通りの少ない田舎の道を通り、目的地を目指す。
「月冴! 早かったね」
ファミレスに到着すると、桐生が近付いてくる。
「お前、早すぎだろ」
「予備校終わってから、そのまま待ってた」
そう言って、店のドアを開ける。夏休みではあるが、平日なだけあって、人はまばらだ。
席に案内され、とりあえずドリンクバーを注文した。
飲み物を取り、一息つく。
「で、なんだよ話って」
「……うん」
一呼吸置いてから、桐生は重い口を開いた。
「進路のこと、なんだけど。親が仕事で、来年からまたアメリカに戻るって。兄さんも心配だしって、言ってる。だから、アメリカの大学受けろって……」
下を向き、ため息をつく。
「本当は、この辺の学校がいいんだけど。反対されてて」
訴えるような目線を吉村に向ける。
吉村は少し考えて、口を開いた。
「えっと、別にこの辺じゃなくてもいいんじゃないか?」
家の事情なら仕方ない。なにもこの地域に拘る必要はないのではないかと思った。桐生はなにぶん勉強ができる。どこへ行ってもやっていけるだろう。
「なんでそういうこと言うの?」
怒りを含んだ声に、前方の桐生を見る。ちょっと困ったような、悲しいような、そんな表情に、口ごもってしまう。
「え、いや……それは――」
「月冴と離れるのは嫌だよ」
その言葉に、驚く。さすがに自分の進路くらいは自由に考えているのかと思っていたが、甘かったようだ。
「おま、そんなことで進路決めんのかよ」
あまりのことに、それ以上の言葉が出てこない。
自分が、桐生の可能性を潰してしまっているのではないかという気さえした。
「大事なことだよ」
真剣な目をして、言う。
「でもそれは、俺になんとかできる話じゃないし……」
「うん、頑張って説得する」
もう地元に残ることは決定しているかのような口振りだ。
「自分が行きたいところに行くのがいいと思うけど」
「行きたいところは、特にない。先生に指定校あるって言われたから、そこにするかも。近いし」
その言葉に、再び驚く。吉村達の通う高校は、地元でも有名な進学校なので、一般受験を主に勧めている。
桐生ほど勉強ができるのなら、教師もむやみに推薦を勧めないだろうと思っていたが……。しかし、生徒会長を勤めているわけだし、声がかかるのも頷けた。
「そんなに距離大事かよ」
「うん」
有無を言わせないそんな口調で、その話は終わった。
その後、勉強道具を広げ始め、課題を進めた。
「月冴」
夏休みになると、受験生は忙しくなる。そんな世間の様子を横目に桐生はゆっくりとくつろいでいた。
部屋に夕午が来た日から、桐生は吉村を頻繁に家に呼ぶようになっていた。
「なんだよ……」
近くに寄ってくる桐生から距離をとりつつ、眉間に皺を寄せる。
「お祭り、行こう」
「はぁ?」
よく考えれば今日は地元の祭りがある日だ。まさかそれに誘われるとは思っていなかったので、吉村は少し驚き逡巡した。
「いやお前、予備校とかあるだろ」
戸惑いを隠せないまま答えると、桐生は表情を変えずに口を開いた。
「あんなのもうやめたよ、いらない」
「はぁぁ?」
驚いて、思わず桐生を見る。桐生は無表情のまま、言葉を続けた。
「だって、あんなのいらないでしょ。推薦で行くし」
「いや、まだ決まったわけじゃないだろ」
そう言葉を挟むと、桐生はため息をついた。
「先生は、大丈夫だって言ってる」
「あぁそうかよ」
これ以上言っても無駄だ。そう悟った吉村は、目線を逸らした。
「じゃぁ、行ってくれるよね」
「お、おう」
断っても、しつこくしてくるのは分かっている。吉村はおとなしく、頷くことにした。
「じゃあ準備するから、一回帰るわ」
そう言いながら立ち上がる。玄関へ向かおうとしたときに、袖を掴まれた。
「必要ない」
「は?」
座っていた桐生も立ち上がり、吉村を引き寄せる。
背中に手を回して、軽く抱きしめると、耳元で呟いた。
「やだ、帰らないで」
泣きそうな声で言われると、もうダメだ。断るにもできない。
自分はどうしてこうも、甘くなってしまったのだろうと少しだけ自己嫌悪した。
「もう行こ……」
クーラーを切って、手を引く。
慌てて鞄を掴むと、促されるままに外へ出た。
「結構混んでるな」
まだ日も高いうちに外に出たというのに、屋台の前は人で溢れかえっていた。
花火の見える球場は、もう入れなくなっており、コンビニも人でいっぱいだった。
「とりあえず、何か食べる?」
「あ、俺はやきそば」
とりあえず好物を口に出すと、桐生はにっこりと笑った。
「了解、じゃあ月冴は場所取りしてて」
そう言って、笑顔のまま手を振った。
適当に見晴らしの良さそうな場所に腰を下ろす。地元の祭りということもあって、学校で見覚えのある人物もちらほらといる。
ぼんやりとしているうちに、辺りは薄暗くなり、周囲のざわつきも大きくなる。
「月冴!」
「おう」
やきそばといくつかの飲み物が入っているだろう袋を持って、桐生がやってきた。
オレンジジュースとやきそばをを受取、口にする。
大きな爆発音が始まると、カラフルな光が夜空を染める。
ふと、横に目をやると、隣に座る桐生が缶チューハイを開けていた。
「お前、未成年だろ? 飲むなよ」
よく買えたなと思ったが、考えてみれば、桐生はあまり年相応に見えない。どちらかというと大人びている方だ。
「大丈夫、僕十八歳だし」
そう言ってなに食わぬ顔で缶に口をつける。
「いや十八歳でもダメだからな」
「月冴も、飲む?」
吉村のツッコミは無視され、缶チューハイを差し出される。
「いや、俺はいい」
断ると、桐生は不満そうに唇を尖らせた。
「こういうのって、雰囲気が大事だよ。大丈夫、これくらいじゃ酔わないし」
「そうは言ってもだな……」
あまり乗り気ではない吉村の様子に、桐生は怪訝そうな顔をする。
「月冴、もしかして、飲んだことない?」
「……え」
図星を指され、言葉に詰まる。取り繕おうと、口を開いても、もう既に遅かった。
「そっか」
「は? ちがッ……、そんなんじゃねぇし!」
そう言うが早いが、吉村は缶チューハイを桐生から引ったくり、半分ほど残っていたそれを、一気にあおった。
「ちょっと月冴! そんなに一気に飲んじゃダメだよ」
遠くで花火の音が聞こえる。なんだか気分が高揚していた。
「月冴? 大丈夫? なんか顔、赤い」
桐生が何か言っている。口を動かしているのはわかるが、何を言っているのか……花火の音とガンガンする頭のせいで聞き取れなかった。
「わり、なんか俺……」
視界がふらりと揺れる。肩を掴まれてなんとか体勢を崩さずに済んだ。
「大丈夫……じゃないよね。帰ろうか」
支えられながら立ち上がる。ふらふらとした足取りで、花火の音がする中、二人は早すぎる帰路についた。
桐生の家に戻ると、倒れるようにしてベッドに横になる。
目を開けると風景が回り、気持ち悪い。
「悪いな、俺のせいで……花火」
「僕も悪いから。今お水、持ってくるね」
そう言って立ち上がろうとする桐生の腕を手探りで探して掴む。躊躇いがちに引き寄せると、小さく言葉を発した。
「ごめん」
自分でも、何に対して謝っているのかわからなかった。花火のことか、進路のことか、それとも夕午のことなのか。
「月冴は悪くないよ」
そんな吉村の気持ちを知っているのか、違うのか、桐生は優しい声で答えた。
ゆっくりと目を開けて桐生を見る。よく分からない不安に支配されていた。
「なぁ」
少し媚びるような声で誘う。
「……しよう?」
わざと少しだけ首を傾げる。押しつぶされそうな不安を、全てなかったことにしたかった。
「でも月冴の体調が……」
「そんなのいいって」
今なら、酔ったせいにできる。
「わかった」
桐生は優しく微笑むと、ベッドに上がってきた。
「さーくや」
ほろ酔いのせいにしようと決めた。
桐生の首に手を回し、唇を重ねる。舌を入れて、歯茎をなぞる。
「んっ……」
吐息が漏れるが、普段のように抑えようとしない。
ベッドから降りると、桐生のズボンを脱がせる。少し躊躇ったが、思い切って口に含んだ。
手と舌を上手く使って昂めさせていく。前より上達しただろうか。喉の奥まで無理に咥え込んだせいで、息が苦しく、吐き気がしたがそんなことは気にしない。
しばらくそれを続けたのちに、桐生をベッドに押し倒す。
困惑する様子の桐生を無視し、自分も服を脱ぐ。唾液で濡れただけのそれを自分であてがう。
「んっ……はっ」
意識的に息を吐いて力を抜くが、慣らされていないそこは柔軟にならない。焦りから、なかば無理矢理体重を落とした。
痛みからくる恐怖を、目を瞑ってやり過ごす。
「月冴!」
「……えへへ、大丈夫」
心配そうに見上げる桐生の制止を受け流し、さらに奥へと進める。一番太い部分が過ぎれば、比較的簡単に全てが収まった。
「朔夜、好きに動いて」
まだ馴染んでいないうちから促す。
「月冴……」
眉を寄せて困った様子の桐生は、おもむろに起き上がり、吉村を抱き寄せた。角度が変化し、震えた唇から小さな喘ぎが漏れる。
「月冴が心配することは何もないよ」
耳元で囁かれ、鼓動が早くなる。
「……うん」
返事をすると、視界が反転した。ベッドに押し倒される格好で、何度も突かれる。
「あぁっ……んんっ、は、んっ」
その度に声が漏れる。どういうわけか、いつもより大きな声が漏れる。我慢せずに、ただ喘ぐ。
何回かに一回は、完全に抜いてしまうので、もどかしい。
「さく、や……んん、それ、やだ」
そう言うと、突然に速度が早まる。さっきまでの緩慢な動きとは異なった。
前も同時に刺激され、我慢の限界がくる。
「はっ……んんあっ」
軽く痙攣して達すると、桐生も動きを止め、温かい液体を吐き出した。
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