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1~10話

魔法はありませんでした(真顔【上】

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 ダメージを受けた胸を擦りつつ、窓枠の下にしゃがみ込んでそっと目だけを覗かせる。
 きっとこの男が部屋のなのだろう。
 自分より幾分歳上の立派な成人男性。やはりここは、子供部屋ではなかったのだ。

 真っ直ぐソファへと向かっていたが、ふと何かに気付いたように足を止めた。

「…………ネズミか」

 鋭くこちらを向いた視線に、ギクリと心臓が強張る。

 バクバクと騒ぐ鼓動を感じながらもじっと息を潜めていれば、家主はそれ以上の興味を失ったかのように、ドサッとソファに寝そべって目を閉じた。

 び、びっくりしたぁ……。見つかったかと思った。

 もしも家主に見つかってしまった場合、この夢はどうなるのだろう?
 ゲームオーバーで目が覚める?
 それとも急に悪夢に変わって、散々追い回された挙げ句、猫の餌にでもされてしまうのだろうか?

 険しすぎる表情はさておき、今のところ家主からはそんな恐ろしげな雰囲気は感じないのだけれど。
 ぬいぐるみ抱いて寝てるし……。

 ついと視線を下げれば、鬼のような形相の家主に抱かれた愛らしい羊のぬいぐるみと目が合った。

 なんというか……そうしているとまるで、魔王が生贄いけにえさらってきたかのような……。

 そんな失礼なことを考えられているとも知らず、家主はすっかり夢の中にいる。

「…………ぅ……」

 不意に、微かなうめき声が聞こえた。
 よくよく見れば呼吸も浅く、ぐっと眉間のシワを深めて寝苦しそうな様子だ。

 もしかしたらこの家主も、悪夢にうなされる日々を送っているのかもしれない。
 勝手に妙な親近感を感じ、家主の身を案じる。

 私の夢なら、この人にも楽しい夢を見せてあげて――!
 ぎゅっと目を閉じて念じてみたけれど、目の前の光景が変わることはなかった。




 下手に身動きもとれず、ドールハウスの廊下に座り込んだまま二十分ほど経っただろうか。
 もぞもぞという物音に慌てて窓を覗けば、起きだした家主がソファの上で大きく伸びをしていた。

「っくぁ……」

 パキポキと肩を回しながら上体を起こし、抱いていたぬいぐるみを元通りきちんとソファに座らせる。

 険しい表情のまましばしぼんやりしたかと思うと、目の前のローテーブルに置かれたフルーツの盛り合わせから、瑞々しいブドウを一粒口に放り込んだ。
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