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11~20話

酒は飲んれも飲まれるら【中】

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「これで二十歳を越えて……。なるほど、妖精の歳というのは見た目ではわからないものだな」

 ん? なにやら失礼なことを言っているな?

 クロは空のゴブレットに赤ワインを注ぐと、ティースプーンで数滴ミニチュアゴブレットへと移して手渡してくれた。

「いただきます!」

 そういえば、ワインを飲むのは初めてだ。
 飲み会ではビールやサワーばかり頼んでいたし、一度だけおじいちゃんに貰って味見したのも日本酒だった。

 初めて口にするワインは、深い森のような香りがした。




「気付いたらここにいたらけれ、不法侵入するつもりなんてなかったんれす……。本当れす……。許してくらさい……」

「ああ、怒ってなどいない」

 がっくりと項垂れた頭を、パッと上げる。

「そうら! トイレのアレってなんれすか?」

「アレ?」

「なんかプルプルが入ってるんれすけろ」

「ああ、それは人工じんこうスライムだ。意思は持たず、ただ人の体液や排泄物を消化吸収するだけの物体だな」

「へぇー、便利れすねぇ……。あ、そのサララサラダくらさい。あーん」

 ナイフで小さく小さく切り分けられたレタスが、ピックに刺さって差し出される。

「あーん」

 ぱくっ、しゃぐしゃぐしゃぐ……

「他にも不便はないか? 困っていることや足りないものがあればなんでも言ってくれ」

「足りない……? んー、着替えとお風呂れすかねー? あ、ワインも足りないれす!」

 意気揚々と掲げたゴブレットを、ひょいと取り上げられた。

「一度水を飲んだほうがいい。ほら」

「えー、ワイン……」

 ティースプーンですくった水を差し出され、渋々と口をつける。

「しかし、そうか。着替えと風呂か……。服装に決まりなどはあるのか?」

「――っぷは! んーん、決まりはないれす。動きやすいのがいいけろ、フリフリも好き」

「ふむ……、承知した。風呂に関しては明日にしよう。大分酔いが回っているようだから、今日はやめておいたほうがいい」

「まら『一杯』も飲んれないのに……」

 ワインボトル近くに置かれた大きなゴブレットの中には、まだ半分以上ワインが残っているのが見える。

ゴブレットでは、だろう。ヒナのゴブレットではもう五杯も呑んでいる」

「んむむむ」

「膨れても可愛いだけだぞ」

 クロの指先が楽しそうに膨れた頬をつついた。
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