上 下
85 / 165
31~40話

世界の始まりを迎える指輪【上】

しおりを挟む
 クロと共に休憩室から戻った私は、応接テーブルの中央に粛然しゅくぜんと正座していた。
 対面のソファに腰かけたクロとヤシュームが左右から覗き込むなか、往生際悪く巻きつけてきた風呂敷代わりのスカーフを、震える指で慎重に解いていく。

「これ……なんです、けど……」

 するりと落ちたスカーフの中から現れたのは、黒さの欠片もない無色透明な宝石の付いた指輪。

「…………」

「…………」

 ……………………。

「――っごめんなさい!!! わざとじゃないんです!!」

 息もできないほどの沈黙に耐えきれず、謝罪の口火を切った。
 二人の顔を見る勇気はなく、正座の膝に付きそうなほど深く頭を下げる。

「最初はちゃんと黒い宝石だったんです! たまたま見つけて、触ったら急に色が変わっちゃって……。きっと、魔力みたいに私が宝石の色まで吸い込んじゃったんだと思います」

 さっきクロは、これが『王家の秘宝』だと言っていた。
 となればもはや、弁償どころの騒ぎではない。

 下手をしたら――いや、もうのだから、私の首が物理的に飛ぶのも時間の問題だろう。
 髪の間からあらわになったにひやりと寒気が走る。

「どうにかして返せるものなら、今すぐにでも色をお返ししたいんですけど…………」

 そのうえそんなに大事なものを、今の今まで忘れ果てていたのだ。
 罪悪感がごりごりと胸をえぐり込む。

 クロは指輪を摘まみあげると、照明にかざしてためつすがめつ眺めた。

「――色は違うが、たしかに本物だ。どこでこれを?」

「ドールハウスの横に飾ってある、ぬいぐるみの下敷きになってました……」

 黙って話を聞いていたヤシュームが、咎めるような声で「殿下……」と呟く。

「本当に、ヒナが触れたことで色が変わったのか? 他に指輪に触れた者は?」

「はい……、私が触る前は、ちっちゃい光の粒が散った星空みたいな黒い宝石でした……。見つけてから今までずっとドールハウスに置きっぱなしにしてたので、他の人は触ってないはずです……」

 正座して項垂うなだれたまま、粛々と尋問に応じる。
 犯人は私だ。疑う余地もない。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:222

殿下、今日こそ帰ります!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:498

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:83,666pt お気に入り:650

ヒロインなんてなりたくないので、替え玉を用意しました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:31

【BL:R18】旦那さまのオトコ妻

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:52

鬼上司と秘密の同居

BL / 連載中 24h.ポイント:3,680pt お気に入り:597

処理中です...