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31~40話

報告に行きましょう【中】

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 盛大に混乱しながらも、クロの手を借りて急いで身支度を整える。
 受け取ったばかりの服の山からクロが選んでくれたドレスは、『人形』に着せつけることを想定してか見た目よりも単純な構造になっていたので助かった。

「どこもおかしくないですか!? 大丈夫!?」

「大丈夫――ではないな」

「! やっぱり似合わ――」

「この世のものとは思えぬ可愛らしさだ。こんなにも愛らしく可憐な令嬢は見たことがない。一目見れば間違いなく誰もが心奪われるだろう……。父上の目に入れるのが不安になってきた」

「…………」

 見たことがないのはきっと、このサイズの令嬢が他にいないせいだ。

 的外れな心配をするクロをおざなりに宥めつつ、ドレスがシワにならないよう慎重にポケットに収まる。クロも渋々と指輪を収めた箱を手にして部屋を出た。





 クロの私室から執務室までの往復とは違う、長い長い道のり。目指しているのはきっと、この大きなお城の中心部。

 迷路のように入り組んだ回廊に、私は早くも道順を見失ってしまった。
 一人で執務室に戻れと言われたらたどり着けない自信がある。

 すれ違う使用人たちは皆一様に足を止め、壁沿いに立って深く礼をする。
 お城勤めの役人とおぼしき人たちとも軽く挨拶を交わしながら歩を進めていたクロが、不意に足を止めた。

「王国の光、クローヴェル王太子殿下にお目にかかります」

 凛とした鈴の音のような声。
 ポケットの縁からこっそりと覗き見れば、進行方向正面に従者を連れた一人の令嬢が立っていた。

 綺麗な笑顔を乗せた顔も、たおやかな所作も、精巧に作り上げられた陶器の人形のように美しい。

「久しいな、マリエラ。息災か?」

「ご高覧の通りに」

「そうか……。今日はどうした?」

「兄の遣いに参りました。せっかくの機会ですので、図書館へも訪れようかと」

「ふむ。最近、西方薬学に関する珍しい本が入ったと聞く。ゆっくりしていくといい」

「お心遣い痛み入ります」

 二人は軽く言葉を交わして別れる。
 会話にはどこもおかしな点なんてなかった。
 なかったけれど……。

 親しげな様子のクロとは反対に、やわらかな物腰のなかにもあえて壁をへだてたかのような令嬢の雰囲気が気になった。
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