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31~40話

報告に行きましょう【上】

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 クロの手のひらの上でぐにゃんぐにゃんに脱力した私は、されるがままにふにふにと突つかれていた。

「ヒナが溶けてしまった」

「安心したら力が抜けちゃって……」

 指輪は壊れていなかった。
 私は大罪を犯したわけではなかったのだ。
 よかった。本当によかった。生きてるって素晴らしい。

「俺も運命の相手がヒナだとわかって安心した」

「安心?」

 コロリと仰向けに転がされ、逆さまにクロを見上げる。

「実のところ、指輪のとやらはもう必要ないと思っていたんだ。俺はヒナを愛しているのに、突然『運命の相手だ』などと言って別の人間が現れても厄介なだけだろう? ――偶然にもこうして判明した俺の『運命』が、愛するヒナでよかった」

 緊張を解いて緩みきった心の中は、あっという間にクロの想いで埋めつくされた。

 愛とか、運命とか、愛とか、愛とか……。

「えと……、あぅ……」

 そうだった。クロの推測を信じるならば、私はクロの『運命の相手』らしいのだ。

 ムズムズとくすぐったいような、どうしようもなく走りだしたいような、どこかに隠れてしまいたいような。
 心に入り込んだ想いがじりじりと全身を侵食し、顔までも熱く火照りだす。

「そんなに可愛い顔をしていると、食べてしまいたくなって困るな」

「〰〰んもーっ!」

 クロの容赦ない追い打ちに、たまらず両手で顔を覆った。

 クロのことは好きだ。間違いなく大好きだ。
 でも、おじいちゃんだって大好きだ。
 仲のいい友達も。
 可愛いぬいぐるみも。
 甘いお菓子も。
 走ることも。
 それならみんな、一体どうやってを恋愛感情だと判断しているのだろう?



 謁見時刻を告げて退出するヤシュームを見送りながら、私もそろそろドールハウスに戻っておくべきかと考えていると、クロがとんでもないことを言い出した。

「父上との話し合いにはヒナも同席してほしい」

「え゙っ!!」

 王子であるクロのお父さんといえば、それは王様になるわけで……実に遠慮したい。
 しかし壊れていなかったとはいえ、勝手に指輪をいじって変色させた負い目のある私に『断る』などという選択肢はあるはずもなく。
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