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71~80話

77c、私は大事な日をわかっていない

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「ああ、前も言っただろう? この瞳の色は膨大な魔力を映す」

「はい……」

「色だけじゃなく、魔族は目を見ることで実際に魔力の強さをんだ。強すぎる力は脅威を与える」

「でも……っ」

「下手に目を見て怯えた顔をされるよりもいい」

ガルはそう言って、慰めるかのように私の頭を優しく撫でた。


視線が合わないことに慣れてしまっているガルを見ていると、家族に存在を無視されていた元の世界での自分と重なる。

異世界に飛ばされる前、あの頃はもう、家族の態度に何も感じなくなっていた。
テストでいい点をとれば、もっといい子にしていれば、きっと。小さな期待を抱いては落胆を繰り返す日々が、心を分厚い膜で覆っていく。
段々と自分の感情にも鈍くなり、そうしていないと生きていられなかった。

でも、この世界でガルと出会って。
しっかりと目を見て話を聞いて、「おかえりなさい」と言えば「ただいま」と返ってくる。
そんな毎日が、今まで我慢していたものを、本当はずっと欲しかったものを、与えて気付かせてくれた。

ガルは今、寂しさを感じていないだろうか?
私はガルに同じだけの幸せを与えられているだろうか?

「ガル様は……我慢してないですか? 大丈夫ですか?」

しっかりとガルの目を見つめて問う。

僅かに見開かれた両の目が、喜色を滲ませ緩やかに細められた。

「ああ、大丈夫だ。マヤさえ俺を受け入れてくれるなら、他人にどんな感情を向けられようと全く気にならない」

「本当に?」

強がってはいないかと、心まで覗き込むようにじっと瞳を見つめる。
ガルは楽しそうに笑みを深めた。

「本当に」

そう言ってもたらされた口付けは長く長く、ようやく口付けから解放されくったりと力尽きた時には、いつの間にか場所を移しソファに押し倒されていたのだった。
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