ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ～皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます！～

８１～９０話

８２a、私は話がもたらす影響をわかっていない

とん、とん、と鼓動に合わせて、温かな手の平が宥めるように優しく背中を叩く。

そうだ。
ガルだって、すべて話してくれたのだから。

不安を押し込めるように、離れていってしまわないように。ぎゅっとガルの服の胸元を握りしめて、言葉を続けた。

「っ……、両親にとって私は、『いないもの』だったんです……。私が何をしようと、目の前で話しかけようと、親の目には映らなかった。両親は共働きで、元々家にいる時間も少なくて……」

話しながら、これまでの記憶が蘇る。
目も合わず、返事もなく、食事は残り物や冷蔵庫を漁って一人で済ませる。まるで自分が幽霊か透明人間にでもなってしまったかのような日常。
世間体を気にしてか学校関連の手続きを放棄されることはなかったけれど、それさえもダイニングテーブルに書類を出しておくと、いつの間にか処理されているだけ。

「それでも……小さい頃は普通に育ててくれたはずなのに……。いつからか少しずつ、両親の期待も関心も、優秀な兄にだけ向けられるようになって……」

最初に返事が返ってこなかったのは、何歳の時だったろう？
最後に目を合わせたのは？

わからない。
何がきっかけだったのかさえも。
ただ、貰えない返事と交わらない視線が気のせいではないと確信した時にはもう、家族の中から私の存在なんて、すっかり消えてなくなっていたのだ。