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1~10話
公文書偽造【下】
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「……何を企んでんだか知らねぇが、これでもそこそこ重要な書類なんだ。妙なことはすんなよ?」
ディノは怪訝そうに言いながらも、書類をこちらに渡してくれる。一応の信用はあるようだ。
「サインがいるのよね?」
「ああ。っつってもチェリアのサインじゃ意味――っておい! 言ったそばから何書いて――!」
躊躇なくペンを走らせる私から慌てて書類をひったくったディノは、そこに書かれた文字を見てぽかんと口を開いた。
「………………は?」
「ふふん、どうかしら?」
ディノが手にした書類に書かれているのは、『ディノの』サインだ。
カーブの尖りも、最後が跳ねる癖も、すべてそっくりそのままの。
「……これをチェリアが書いたのか?」
「そうよ、見てたでしょう?」
「すげぇ……俺が書いたみてぇだ」
珍しく感心した様子のディノに、気分よく胸を張る。
そうでしょう、そうでしょう。私だってなかなかのものなんだから!
ディノの反応が気になったのか、シフォルもこちらへやって来て書類を覗き込んだ。
「このサインをチェリアさんが……?」
「まあね!」
「これはすごいですね。僕でも見分けがつきませんよ」
「俺自身、見分けられる気がしねぇな」
口々に褒められ、目一杯胸を張ってのけ反った私は、ディノに向けて高らかに宣言した。
「薬師だもの、決められたレシピに添って精密に再現するのはお手のものよ! ――だからほら、サインがいる書類は全部こっちに回すといいわ! 私に任せてちょうだい!」
「ああ、そいつぁ助かる」
私は暇をしている罪悪感から解放され、ディノの作業効率も格段に上がり、素晴らしい分担作業が確立された。
カリカリカリ……
「……ねえ、これってまだ終わらないの? いい加減手がつりそうなんだけど……」
「頑張ってくれ、チェリアの腕にかかってんだ」
差し出された紙に偽造サインをするだけの私の腕に、一体何がかかるというのか。絶対に自分がサインをしたくないだけだ。
あーあ、安易に『私に任せて』なんて言うんじゃなかった……。
「そろそろお茶にしましょうか。疲れたときにはちゃんと休憩を入れたほうが、その後の効率も上がりますから」
「シフォル副長……っ!」
歓喜に満ちてシフォルを見つめる。
黄昏色の髪にチョコレートブラウンの瞳。
婦女子の慕情をほしいままにする麗しの騎士様は、中身まで美しいときている。
まったく、誰かさんとは大違いだ。
「なんだその顔は」
「べっつにー!」
執務室のソファセットに腰を下ろし、シフォルが持ってきてくれた紅茶とお菓子でつかの間のティータイムとなった。
ディノは怪訝そうに言いながらも、書類をこちらに渡してくれる。一応の信用はあるようだ。
「サインがいるのよね?」
「ああ。っつってもチェリアのサインじゃ意味――っておい! 言ったそばから何書いて――!」
躊躇なくペンを走らせる私から慌てて書類をひったくったディノは、そこに書かれた文字を見てぽかんと口を開いた。
「………………は?」
「ふふん、どうかしら?」
ディノが手にした書類に書かれているのは、『ディノの』サインだ。
カーブの尖りも、最後が跳ねる癖も、すべてそっくりそのままの。
「……これをチェリアが書いたのか?」
「そうよ、見てたでしょう?」
「すげぇ……俺が書いたみてぇだ」
珍しく感心した様子のディノに、気分よく胸を張る。
そうでしょう、そうでしょう。私だってなかなかのものなんだから!
ディノの反応が気になったのか、シフォルもこちらへやって来て書類を覗き込んだ。
「このサインをチェリアさんが……?」
「まあね!」
「これはすごいですね。僕でも見分けがつきませんよ」
「俺自身、見分けられる気がしねぇな」
口々に褒められ、目一杯胸を張ってのけ反った私は、ディノに向けて高らかに宣言した。
「薬師だもの、決められたレシピに添って精密に再現するのはお手のものよ! ――だからほら、サインがいる書類は全部こっちに回すといいわ! 私に任せてちょうだい!」
「ああ、そいつぁ助かる」
私は暇をしている罪悪感から解放され、ディノの作業効率も格段に上がり、素晴らしい分担作業が確立された。
カリカリカリ……
「……ねえ、これってまだ終わらないの? いい加減手がつりそうなんだけど……」
「頑張ってくれ、チェリアの腕にかかってんだ」
差し出された紙に偽造サインをするだけの私の腕に、一体何がかかるというのか。絶対に自分がサインをしたくないだけだ。
あーあ、安易に『私に任せて』なんて言うんじゃなかった……。
「そろそろお茶にしましょうか。疲れたときにはちゃんと休憩を入れたほうが、その後の効率も上がりますから」
「シフォル副長……っ!」
歓喜に満ちてシフォルを見つめる。
黄昏色の髪にチョコレートブラウンの瞳。
婦女子の慕情をほしいままにする麗しの騎士様は、中身まで美しいときている。
まったく、誰かさんとは大違いだ。
「なんだその顔は」
「べっつにー!」
執務室のソファセットに腰を下ろし、シフォルが持ってきてくれた紅茶とお菓子でつかの間のティータイムとなった。
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