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11~20話

理想のあなた【上】

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 サクサクとクッキーを噛りながらソファの対面を見つめ、ちらりと左隣を見上げて、もう一度対面を見る。

「……シフォル副長って、ほんと『理想の騎士様』って感じよね」

 洗練された美貌にスマートな身のこなし。脚を組んで座り、クッキーを摘まむ姿さえ様になっている。
 歳はディノより若く、二十代半ば頃だろうか。伯爵家の次男だという彼は、女性たちが思い描く理想の騎士像そのものといった感じだ。

「ふふっ、ありがとうございます。でも僕からすれば、隊長のほうが『理想の騎士』ですよ」

「ディノが!? でもディノって、ガサツだしデリカシーもないし、どちらかというと――」

「なんだよ?」

「…………」

「おい、なんで黙る!」

 私は先人の教えにならって黙秘を決め込んだ。
 『どちらかというと騎士というより野盗のイメージに近い』だなんて、面と向かって言ってはいけないのだ。気遣いのできる私にはわかる。

「ああ、チェリアさんは知りませんでしたね。隊長の振る舞いは隊員たちに合わせたものなんですよ」

「おい、余計なこと言ってんな」

「隊員に合わせた……?」

 意味がわからず目を瞬く私に向かい、シフォルはディノの文句を気にすることなく続けた。

「平民出身者を束ねるトップが『貴族』であることは、あまりよく思われていませんから。貴族らしい言葉遣いや上品な振る舞いは反感を買ってしまうんです。なよなよしていて弱そうだとか、平民を馬鹿にしているんだろうだとか」

「なによそれ、言いがかりじゃない!」

「ま、平民ってのは基本的に貴族を嫌ってるもんだ」

 前のめりになっていきどおる私に、ディノはなんでもないことのように言う。
 いいや。きっとディノにとっては、本当になんでもない当たり前の『日常』なのだ。
 小さな敵意も、やっかみも、一々気にしていては活動がままならないほど日常的な。

 ――その一方で、第六部隊の人たちが常日頃、貴族からのさげすみの視線に晒されていることも私は知っている……。

「とはいえ隊の結束をないがしろにはできませんから。隊員の連帯意識を高めて協調するため、隊長は第六部隊に配属されると同時に彼らに合わせて振る舞いを改めたんです」

「ちっ、格好悪ぃ」

 なんということ……。
 ただのガサツな筋肉の塊だと思っていたディノに、そんな事情があっただなんて。
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